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えくすとら! その五十九 狂犬妹、現る現る!

ご存じの方もおられると思いますが、私は金融業界に勤めていますが、同時にライトノベルを出版した小説家でもあります。

何が言いたいかというと……『半沢』シリーズの最新刊、マジ最高。めっちゃ面白かった!!


 同じベッドで女の子と、しかも彼女と寝る――


 男子高校生的には爆発しても可笑しくないイベント、一般的な感性だったら『ね、寝れん……!!』とか緊張しまくるものなのだろうが……その、はい、すみません。しっかり爆睡してしまいました。

 ああ、いや、緊張して無かったわけじゃないぞ? 桐生は普通に美少女だし、しかも好きな女の子だ。俺だって最初は物凄くドキドキしてたんだよ? してたんだけど……こう、ね? あんまりにも疲れたからさ? こう、ころっと寝てしまった訳でして。

「……随分、ぐっすり寝れたようね?」

 ……んでまあ、それがちょっと気に入らないのか、ルームサービスで頼んだパンとコーヒーを食しながら桐生がこちらをジト目で睨んで来る。ご、ごめんって……

「……悪い」

「……まあ、緊張しすぎて寝られない、とか言われても困るけど……でもね、でもね? 流石にぎゅってして貰って、ものの数分で寝息を立てられると……」

「……その、魅力が無かったとかじゃないぞ? ただ」

 ……そう。

「その……ちょっと恥ずかしいんだけど……こう、なんかお前の匂いってさ? 落ち着くと言うか、なんというか……」

「……それは分からないでは無いわね」

 そうなのだ。既に同居して数か月も立つと、こう、色々と『匂い』が移って来るものである。あるだろ、ホレ? ツレの家と自分の家じゃ『生活臭』というかなんというか、ちょっと違うだろ? んで、自分の家の匂いって落ち着かねーか? あの感じだ、あの感じ。

「……そうね。確かに私も東九条君の匂いは……その、あ、安心するし」

「……長旅、観光、おんぶと……まあ、疲れていたのもあるし」

「……ごめんね?」

「おんぶか? いや、それは良いんだけど……」

 なので、機嫌を直してくれませんかね? そう思い、目だけで問いかける俺に桐生は小さくため息。

「……分かったわ。今の話じゃ、私にも悪い所もあるんでしょうし……ま、まあ、安心して貰ったって言われるなら、それも良いかも……」

 そう言ってにっこり笑って見せる桐生。うし、機嫌が直ったか。

「……それで? 今日はどうするの? 六時からよね、パーティー? 日中は何処かに観光にでも行く?」

「あー……そう思っていたんだが……ちょっと、相談というか、なんというか……」

「……なに? あんまりいい予感がしないんだけど」

「……ほれ。俺、今日携帯の着信で起きただろ?」

 泥の様に眠っていた俺だったが、起きた原因は枕元に置いてあった携帯のメッセの着信音だった。こんな朝早く――と言っても八時を過ぎていたが、起こして来た人間に恨み言を心の中で唱えながら、画面を見て。

「……これ、どうしようかって」

 そう言って画面を画面を桐生に向ける。訝し気に首を傾げながら画面を見つめた桐生の体が『カチン』と固まった。

「……どうしようって……」

「……断ると色々面倒くさいし……かといって、その……」

「……」

「……うまい理由付けて断るか? どうせ、夜には逢うし、その時でも良いっちゃ良いとは思うが……」

 俺の言葉に視線を中空に彷徨わせる桐生。それも数瞬、決意の籠ったまなざしをこちらに向ける。

「……いえ。ええ、『いいえ』よ。いつかはお話しなくちゃいけないと思ってたし……それなら、いい機会だわ」

 ぐっと拳を握って。



「――逢いましょう。貴方の『妹』に」



 画面の中、『やっほー。おにい、今日は暇? たまには兄弟デートと洒落こもうぜ~。あ、お義姉ちゃんも連れて来て~』との文字が躍っていた。


◆◇◆


「……そんなに緊張するなよ?」

「……無理言わないで。緊張するに決まってるでしょ? 貴方、お父様に逢った時に緊張しなかったの?」

「……あー……初めて逢った時はアレだ。お互い喧嘩腰って言うか……でもまあ、気持ちは分かる」

 誤解――というか、親父の一芝居ではあったが、あの時はこっちも必死だったからな。緊張している暇は無かったが……まあ、『恋人の身内』っていうと気を遣うわな。

「……それに……貴方の妹さんって……『狂犬』って呼ばれているんでしょう?」

「……」

「涼子さん曰く、『お兄さん大好きっ子』って事だし……個人的には私、香織さんの上位互換なイメージなんだけど……」

「香織さんって……ああ、藤田の妹の? いや、あそこまでブラコンじゃねーよ」

「なんで?」

「なんでって……いや、だってそんな素振りは……」

「じゃあ聞くけど、藤田君、香織さんのブラコンっぷりに気付いていた?」

「……」

 そ、そう言われると……まあ、確かに。いや、でも……

「……まあ、此処でどれだけ話してもしょうがないわね。京都駅で十時だったかしら? そろそろ出ましょうか」

「……若干、釈然としないものがあるが……分かった」

 壁に掛かった時計を見ると時刻は九時五十分を指していた。此処から駅まで五分程度だが、まあ早めについても問題は無いだろう。

「んじゃ、行くか」

 これから使う分だけを手軽に纏め、俺と桐生は連れ立ってホテルを出る。今日もこちらに一泊の予定、荷物はそのままだ。

「……なんか、本当にちょっと気持ち悪くなって来たわ」

「……止めとくか?」

「……いえ。嫌な事、というと失礼でしょうけど……気が重くなることは早めに済ませておくに限るわ」

「……だな」

 胸の前でむん、っと両手を握る桐生の頭を軽く撫でる。猫の様に目を細めた桐生の頭を続けて二、三度ポンポンと撫でて、京都駅を目指して歩く。駅前の横断歩道を渡り駅に着き、きょろきょろと辺りを見回して。



「――あ、おにい!! 待ってたよ~」



 不意に、聞きなれた懐かしい声が響いてきた。そちらに視線を向けると、白いパーカーを頭から被ったハーフパンツ姿、という動き易そうな格好で佇む見慣れた姿があった。唯一の動きにくそうな要素としては首元にある大きなヘッドフォンくらいのモノか。

「茜!」

「おにい、久しぶり!!」

 こちらに駆け寄って来ようと満面の笑みでブンブンと手を振る茜。



「――ねえ、東九条君……本当に貴方の実の妹なの?」



 そんな茜の姿に、桐生が驚いた様に声を掛けて来る。は?

「……どういう意味だよ?」

「え……だって、あの子……遠目でも分かるぐらい、滅茶苦茶可愛いじゃない!! 東九条君に似て無いもん!!」

「……失礼な奴だ」

 まあ、俺は親父似だが、アイツは母さん似だしな。

「……違う意味で緊張して来たんだけど」

「オーバーな」

 そんな桐生に苦笑を浮かべて、視線を茜に向けると。



「――ちょ、待ってーな! 姉ちゃん、遊びにいこーや」



 そんな茜の肩を掴む男の姿があった。金髪の、明らかに柄の悪そうな男に、茜が面倒くさそうに振り向いて。

「だから~。さっきから言ってるじゃん。私、待ち合わせしてるって。見て分かんない? 待ち合わせ相手が来たの」

「そやかて、『お兄ちゃん』言うてたやん。お兄ちゃんと遊ぶより、俺と遊んだほうがおもろいって! な? いこーや!」

「行かないって。お兄さん、格好いいし直ぐに相手見つかると思うんで、余所当たってくださーい。じゃあね~」

 そう言って男に手をひらひらとさせて、こちらに歩いてくる茜。

「……ナンパ、かしら? 断り方もスマートね」

「……スマートか、あれ?」

「喧嘩にならない様にしてるじゃない」

 ……そうか?


「――黙って聞いてる思っていい気になってんちゃうぞ、こら!!」


「……スマート?」

「あ、あれ?」

 困惑する桐生――と、それどころじゃない。助けに行かないと。そう思い、一歩足を進めて。



「――は?」


「――え?」



 茜の肩に手を置いていた男が突然、宙を舞う。そのまま、くるりと一回転しアスファルトの上に叩きつけられた。は?


「……何処が黙って聞いてたんだ、何処が。つうかさっきから私の肩に許可なく触れるな、気持ち悪い」


 パンパン、と肩を振り払って、何事も無かった様に歩みを進める茜。そうして、俺たちの前にたどり着いて。




「――久しぶり、おにい! お義姉さんも、初めまして~」




「「――いや、スルーは無理だから!!」

 取り敢えず、ダッシュだ、ダッシュ!! こっから逃げるぞ!!



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[良い点] >……その、はい、すみません。しっかり爆睡してしまいました。   ……焼肉って、同衾食って呼ばれてるんだが……分かってんのか、アイツ?  とか色々意識していたのに浩之と彩音らしいオチと言…
[一言] メンタル鋼でワロタ
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