えくすとら! その五十五 京都観光と、最後の爆弾
伏見稲荷大社を参拝し、千本鳥居を堪能した俺達。実は千本鳥居って微妙な坂道というか階段になっているので、最後まで見ようと思うと結構な体力勝負になるのだが、藤田ほどでは無いにしろ体力には自信のある俺と桐生、なんなくてっぺんまで到着して京都の街並みを一望した後、下山した。
「良い景色だったわね」
「だな」
「千本鳥居も幻想的で素敵だったわ……なんか、別世界に連れて行かれそうな感じがして……とってもロマンチックよ」
「夕方とかに来ればもうちょっと幻想的だったかも知れないけどな」
なんとなく、夕日と神社って親和性が高い気がするんだが。日本の原風景と云うか、なんというか……
「にしても、別世界に連れて行かれるって」
「子供っぽいかしら?」
「そうじゃなくて……読書家の桐生らしい感想だな、と」
千本鳥居を抜けると、そこは異世界でした、みたいな。
「そうかしら? でもまあ……うん、凄く感動したわ。ありがとう、東九条君! 連れて来てくれて!」
「楽しんでくれたら良かったよ」
「うん! 次は何処に行くの?」
「行きたい所、無いか?」
「さっきも言ったけど、東九条君にお任せでお願いします!!」
そう言って微笑む桐生に俺も笑顔を返す。所要時間としては一時間くらい、今は十一時前だから、昼飯には少し早い気もするし……それじゃ。
「……んじゃ、次はあそこに行こうかな?」
「『あそこ?』」
「さっき、別世界みたいって言ってただろ? だから、行ってみようぜ?」
ニヤリと笑って見せて。
「――別世界ってやつを」
◆◇◆
桐生を連れてやってきた『場所』で俺は一人、ぼーっと街並みを眺めていた。一応言っておくが、別に桐生とはぐれた訳でも、逃げられた訳でもない。
「……お、お待たせ……ひ、東九条君……」
歩く人々を見るとはなしに見ていた俺の背中から掛かる声。その声に振り返り――息を呑む。
「……マジモンのお姫様じゃねーか」
「あうぅ……は、恥ずかしいケド……に、似合うかしら?」
「……」
「ひ、東九条君?」
不安そうな表情でこちらを見やる桐生に、俺は親指をぐっと上げて。
「――さいっこう!」
……まあ、大体わかんだろ? 京都と言えば此処、太秦にある某時代劇テーマパークに来ています。俺が一人で待ちぼうけしていたのは、桐生の着付けと化粧を待っていたからだ。
「そ、そう?」
俺の言葉に恥ずかしそうに頬を赤らめる桐生が抜群に可愛い件。そんな桐生の今の格好は……なんていうんだ? アレだよ、アレ。時代劇でよく見るお姫様の恰好だ。元々、大和撫子がタイプな俺のどストライクな衣装、それをその……彼女が着てくれているんだぞ? テンションがるだろ、マジで!
……あ、ちなみに俺は若侍の衣装です。興味ない? 俺もねーよ。
「……すげー似合ってるぞ、桐生」
「ほ、ほんと?」
「勿論!」
「い、何時になくテンションが高い気がするんだけど……ああ、そう言えば貴方、大和撫子タイプって言ってたわね?」
「まあ、それもあるけど……」
「あるけど?」
「……ちょっと気持ち悪い事言っても良い?」
「……あまり聞きたくない気もするけど……どうぞ」
「その……」
少しだけ言い淀み。
「――なんか、着物って……ぐっと来る」
「……」
「ま、待て! 別に俺が変態なワケじゃねーぞ? その、浴衣とか晴れ着とか……和服ってちょっと『ぐっ』と来るんだよ!」
この意見に関しては声を大にして主張したい! 好きな人、きっと多い筈や!
「……まあ、確かに恋愛漫画とかでも見た事はあるけど……そんなに良い物なの?」
「こう……普段見ない恰好だからってのは当然あるんだけど……特別感があって、良い気がする。自分で言ってて気持ち悪い自覚はあるが」
「気持ち悪いとは思わないけど……そう、それじゃ」
そう言って妖艶に微笑んで。
「――惚れなおしてくれたかしら?」
「当たり前だ」
「……あう。ちょ、ちょっとは照れなさいよね!! な、何よ、当たり前って!!」
妖艶に微笑んで、失敗。俺の言葉に顔を真っ赤に染める桐生。うん、可愛い。
「自分の好きな子が、自分の好きな恰好してるんだぞ? 惚れなおすに決まってんだろうが」
「ストップ! もういい! 嬉しいけど、恥ずかしすぎて死んじゃう!!」
顔の前で手をわちゃわちゃ振ってそういう桐生。照れなくても良いと思うんだが……本当に可愛いし。
「……はぁ。貴方、本当に女性の事褒めるの、『てらい』が無いわよね?」
「凛さんの教えの賜物だな」
「……喜んでいいのか、怒ればいいのか、判断に苦しむわね」
そう言って苦笑を浮かべた後、こちらにそっと手を出す桐生。
「……それじゃ、この街を案内してくれますか、お侍様?」
「……喜んで、姫」
その手を優しく取り、二人で映画のセットの街並みを歩き出そうとして。
「……去年、ちょっと良い振袖を買って貰ったの。そ、その……東九条君が喜んでくれるんだったら……き、着ようかなって思うんだけど……」
……是非、お願いします。やば、顏のニヤニヤが止まらんのだが。
◆◇◆
「楽しかったわね!!」
「そうだな。眼福だったし」
「もう! でも、本当に楽しかったわ~」
にこにこ笑顔でそういう桐生に俺も笑顔を返す。いや、マジで。本当に今日の桐生、可愛かったしな。
「……と、時間も良い時間だし、そろそろチェックインだけ済ましておくか? 晩飯はその後で良いだろ?」
「そうね……お昼は京都らしく懐石頂いたし……晩御飯は何にする?」
「なんでも良いけど……京都名物ってなんかあったっけ?」
「なんでもありそうだけど、逆に『これ!』っていう料理が思い浮かばないわね」
「だな~」
一応、某有名ラーメンチェーン店の本店があったりするが……流石に無しだろうな。京都にまで来てラーメンって。
「何か食べたいものがあるか?」
「んー……懐石料理ってちょっと美味しいけど、こう……『食べた!』って感じはしないじゃない?」
「まあな」
「だから……そうね、『がっつり』食べたい気分かも」
「京都関係なしに?」
「京都関係なしに!」
およそ淑女らしからぬ桐生の言葉に苦笑が漏れる。まあ、こいつこう見えて結構食うの好きだしな。それじゃ、肉でも食うか、肉でも。
「と、到着したな」
やがて、本日泊まるホテルの前に到着。『超高級ホテル!』という訳ではないが、そこそこお値段の張るホテルだ。ちなみに此処の支払いは本家持ちだ。『好きな所を予約して下さって構いません』と明美に言われたので、ちょっと豪勢に行かせて貰った。
「……済みません。予約した東九条ですが」
「いらっしゃいませ。ご予約いただいた東九条様ですね。少々お待ちくださいませ……はい、ご確認出来ました。お待ちしておりました」
フロントのホテルマンが笑顔を浮かべながらカウンターにカギを置いて――
「――え?」
……一つ。え?
「本日はご来館、誠にありがとうございます。ご予約通り、『ダブル』を一室お取りしております、東九条様、お待ちしておりました。どうぞ、ごゆっくり」
頑張れ、浩之ちゃん!!




