えくすとら! その五十四 やってきました、京都!!
きーつね。
新幹線内で美味しそうに桐生が食べるお弁当を少し分けて貰いながら、新幹線は一路京都を目指して走る。新幹線の中、三時間ぐらいの旅路に退屈が来るかな? と思ってはいたが、そんな事は全然なかった。まあ、会話がなくなってもニコニコしながら弁当を食べる桐生とか、新幹線の中から見える景色に目をキラキラさせる桐生を見ているだけで飽きなかったしな。
「……さて。着いたか。降りるぞ、桐生」
「うん!」
網棚から荷物を二人分降ろす。所詮、二泊三日の旅路だ。女の子の桐生はともかく、俺の荷物はリュックに入る程度しかない。キャリーバッグを引こうとすると、桐生が抱える様にキャリーバッグを俺から奪った。
「……一応言っておくけど、盗るつもりはねーぞ?」
「そんな事分かってるわよ! そ、そうじゃなくて……朝も言ったけど、キャリーバッグだもん。自分で引いて歩くわよ。私、嫌なのよね? 自分の荷物を男に持たせる女」
「そうなの?」
「前も言ったと思うけど……別に私、誰かに守って貰いたい訳じゃないわ。貴方の隣で一緒に歩いて行きたいんだもん」
「そんなオーバーな話じゃねーだろ、コレ」
「それでもよ。だからまあ、気持ちだけ貰っておくわ。それにこの荷物、必要なモノ以外はコインロッカーに放り込んで置くだけだし」
「コインロッカー?」
「チェックイン、確か十六時からじゃなかったかしら? 後、六時間以上あるし……流石に観光にキャリーバッグを転がして行くのもどうかと思うしね」
「まあ、そう言われればそうだよな。んじゃ駅のコインロッカーに預けて、観光に行くか」
「うん!」
駅内を歩き、桐生のキャリーバッグが入る程度の大きさのコインロッカーにバッグを放り込む。俺のリュックは……さして荷物にならんが、スペースがあるし入れておくか。バッグの中から財布とスマホだけを取り出して、桐生のキャリーバッグの上にリュックを置く。
「……それじゃ、何処に行きたい?」
「東九条君、京都詳しいんでしょ?」
「あー……まあ、詳しいって程じゃないけど……それなりに」
小さい頃は年に何度かは京都に来ていたし、少なくとも路線で迷う様な事は無い……はず。
「お勧めの観光スポットとか、ある?」
「……それを京都で聞くか?」
「……お勧め以外、無い気もするわね」
お勧め以外無いとまでは言わんが……まあ、見る所は一杯あるな。逆に多すぎて、言いたい何処を見たいか聞いておかないとガチで悩むことになったりするからな、京都。
「此処だけは見たい! みたいな所は?」
「んー……特に希望は無いかな? どうでもいいって訳じゃないんだけど……絞れないって云うか……」
まさに俺の思った通りの事態に陥っている桐生。まあ、いきなりの京都旅行だし……うし、それじゃ。
「……お稲荷さん、行くか」
「お稲荷さん? 神社?」
「ああ。聞いた事無いか? 伏見稲荷大社って。千本鳥居で有名な所なんだけど……」
「知ってる!! 凄い数の鳥居が立っている所よね!!」
「そうだ。鳥居のトンネルみたいになってる場所で、観光スポットだな。本当は夕方とかの方が良いんだけど……昼間に見ても充分楽しめる……と思う」
まあ、正直男子向けスポットでは無いのだが……女の子は好きだろうし、こういう所。そんな俺の気持ちの答え合わせの様、桐生の目がキラキラと光る。
「行きたい!! テレビで見て、ちょっと気になってたんだ!」
「そりゃよかった」
行先も決まった所で電車を乗り換えて一路、最寄り駅を目指す。
「伏見のお稲荷さんって、確か全国のお稲荷さんの総本山的な神社よね?」
「そうだよ」
「だから、千本も鳥居があるの? 総本山らしさ! みたいな」
「あれは寄進だな。鳥居を寄進すると願いが叶うらしいぞ?」
「そうなの? そんな言い伝え、あるの?」
「まあ、江戸時代くらいからだけどな、その言い伝えも。東九条の本家も何本か寄進してるしな」
「見れるの? 探すの大変かな?」
「千本鳥居って言われてるけど、あれ、実際は千本どころじゃないしな~。見つけるのは結構難しいと思うぞ? まあ、そんな事気にせず千本鳥居楽しめよ」
「うん!」
程なくして電車は伏見稲荷大社の最寄り駅に到着。駅を降りて数分歩くと……見えてきました、伏見稲荷大社!
「……想像していたのと違う」
「何が?」
「イメージ、千本の鳥居をくぐって行ったら本殿にたどり着いてお参りするのかと思ってたんだけど……違うのね?」
「流石に壮大過ぎるだろう、それ。さっきも言ったけど、江戸時代からだし、千本鳥居の伝承って云うか、伝説って云うか……そういうのって。伏見稲荷大社自体は千三百年ぐらいの歴史ある神社だからな。そう考えると、最近の伝承なんだよ」
「……江戸時代からでも古いな~って思うけど、最近扱いなんだね? 流石、京都」
「まあ、京都特有じゃないかと思うな、そういう発想。嘘か本当か知らないけど、六十年とか七十年くらい続いたお店が、老舗って名乗ったら、『百年も経ってない新参者の癖に』って言われたらしいしな?」
「……私の家なんて本当の新参者じゃない」
「まあ、それは冗談だろうけど……他の街に比べれば『内』と『外』がしっかり分けられている感じはするな。なんていうか……親父曰く、『住みにくいけど、慣れたらいい街』らしい」
巧くは言えんが……まあ、仲間意識が他の街に比べて強い気がする。そのくせ、割合新しいモノ受け入れるのに寛容な所もあるし……よくわからん街ではある。
「ま、そんな事より早く行こうぜ? 本殿参拝してから、千本鳥居」
「うん!」
にこやかに笑ってスキップしながら歩く桐生の後ろ姿を見ながら、俺もその後に続いた。




