えくすとら! その五十二 そうだ、京都に行こう!!
どうでも良い話ですが本日私、疎陀の誕生日です。
「絶好の旅行日和ね!」
「そうだな。良かったよ、天気良くて。京都も快晴らしいから、ゆっくり見て回るか」
「うん! 楽しみ……」
「そうだな。俺も――と、荷物出せ。持って行くから」
「え? い、良いわよ! キャリーバッグだし、引きずるだけだから!」
「そっか?」
「うん……でも、アリガト」
そう言ってにこやかな笑みを浮かべる桐生と二人、俺は駅までの道を歩く。
「学校に行くためにほぼ毎日歩いてる道だけど、旅行に行くとなるとちょっと違った風景に見えるわね。キラキラしている気がするわ」
「……」
「……なに?」
「あ、いや……それって始発だから、人の流れがいつもと違うだけじゃないか? 朝で天気も良いし、キラキラして見えるってだけで」
「……」
「……」
「……なんでそういう事、言うかな? いいじゃないの、楽しいんだから!」
「す、すまん!」
「もう!」
ぷくーっと頬を膨らます桐生に頭を下げる。そ、そうだな! やっぱり旅行に行くからだよな、これって!
「……私、物凄く楽しみにしていたんだからね? そう云う事言うの、禁止!」
「……ハイ」
申し訳ありませんでした。
「……仕方ないから許してあげる。折角の旅行だし、楽しまないと勿体ないから」
「……わりぃな。でも、俺だって楽しみにしてたんだぞ? それは本当だから」
なんせ、あの豪之介さんのプレッシャーを交わし続けてまで二人での旅行を選んだんだからな!
……まあ、あの後、豪之介さんから鬼の様にメッセが飛んできたが。あんまりに怖すぎて、全部未読でスルーしているんだが。俺、京都で富士の樹海に送られたりしないよね?
「……そう言えば豪之介さん、俺のパートナーが明美って知ってるのかな?」
よく考えれば、その話を豪之介さんに言って無いぞ? あ、あれ? パーティー会場で桐生じゃなくて明美をエスコートしてるところなんか見られたら、俺、冗談抜きで豪之介さんに樹海に送られるんじゃねーの?
「心配しなくても、ちゃんとお父様には言っています」
「……なんて?」
「『婚約者ならともかく、今の状態で東九条主催のパーティーなら仕方ないだろう』って。一応、フォローもしておいたから心配しないで?」
「……すまん。助かる」
「……まあ、面白くないのは面白く無いわよ? お父様もだけど、私だってそうだし」
「……マジですまん」
「まあ、今回は仕方ないかな~って思う所もあるから……でも、次はダメだからね? 私以外、エスコートしたらダメだからね?」
「……正直、俺は今回もあんまりエスコートしたくは無かったんだがな」
「それは……知っているけど」
「……まあ、お仕事と割り切って頑張るかな」
「……」
「桐生?」
「……そう言ってくれるのは嬉しいんだけど……それはそれで、なんだか明美さんに申し訳ない気がして……」
「……んじゃ目一杯楽しめば良いのか?」
「そ、それはイヤ!」
「だろ? 俺もだよ」
別に明美の事が嫌いなワケじゃない。まあ、子供の頃から一緒に育った訳だしな。だからまあ、邪険にするつもりは毛頭ないんだが……にしても、なあ?
「……まあ、そこは我慢するか」
「……ごめんね」
「いいさ。それよりホラ、楽しんで行こうぜ!」
申し訳無さそうに瞳を伏せる桐生を促し、一路駅へ。最寄りの新幹線の発着する駅までの切符を買って、いつもとは違う線の電車に乗り込む。
「新幹線の泊まる駅までは……三十分くらいかしら?」
「だな」
「京都まではどれくらいで着くの? 私、新幹線初めてだから……」
「そっから三時間弱ぐらいかな? 十時前には着くぞ、京都」
乗り換えがスムーズに行けば、の話ではあるが。そんな俺の言葉に、桐生が少しだけ肩を落とした。
「ん? どうした?」
「いえ……そんなに早く着くんだ、って思って」
「ダメなのか?」
早く着く方が良いじゃん。沢山観光も出来るし……なんて思っていると、少しだけ照れ臭そうに桐生がそっぽを向いた。
「そ、その……ちょ、ちょっと楽しみにしてたのよ……」
「何を?」
「…………駅弁」
「……はい?」
「だ、だから! 折角新幹線に乗るんだったら……た、食べて見たかったのよ、駅弁。でもお昼に食べるには時間的にはちょっと早いでしょう? 朝ごはん、食べちゃったし……」
「……あー……腹、減って無いのか?」
「食べて食べれない事は無いけど……そしたらお昼が食べられないじゃない? 京都の料理も楽しみだし……」
「……」
「べ、別に食いしん坊じゃないからね! で、でも……」
「まあ、気持ちは分かるよ、うん」
駅弁ってなんであんなに美味いんだろうな? たまにスーパーとかで『駅弁フェア』みたいなのがあるが……あそこで買う駅弁と、旅行の移動中に食べる駅弁では味が全然違う気がするんだよな。きっと、雰囲気補正なんだろうが……
「……んじゃ、駅弁買うか?」
「でも……そしたら京都でのお料理が……」
「一個のお弁当を買って、半分こにしようぜ? それなら量もそんなに多く無いし」
「……良いの?」
「良いぞ? 俺だってちょっと食べたいしな」
まあ、一個食っても昼飯は入るだろうが……今回は良いさ。
「……」
「ダメか?」
「だ、駄目じゃないけど……き、きっと箸は一個なんだろうな~って」
「まあ、そりゃそうだろう。二人で食べる事を前提にしてないし」
「そ、そしたら……その……な、なっちゃうじゃない? か、間接キス……」
頬を赤く染めてそんな事をのたまう桐生。いや、間接キスって……
「……流石に今更感、無いか?」
「そ、そうだけど!! お、お外ではなんか……恥ずかしいし……」
「……んじゃ止めとくか?」
「や、やめないけど……」
もじもじしながらそう言った後、それでも嬉しそうに桐生は笑う。
「……うん、やめない。一緒にお弁当、食べる」
「そんなに喰いたかったのか、弁当?」
「そうじゃなくて……こう、一個の食べ物をシェアするって」
恋人っぽくない?、と。
「……さよけ」
「左様です。ふふふ! 楽しみ!! ありがとう、東九条君!!」
もう一度、にっこり笑う桐生に俺は苦笑を返した。弁当一つでこの笑顔がみれるなら、まあ安いもんだ。




