第十五話 今、明かされる東九条浩之の秘密! ……っていうほど大した秘密じゃないけどね?
『はっ?』って思った方。次回で回収しますので勘弁して下さい。
「いや~、今日はお昼ご飯持ってくるのすっかり忘れちゃって! お腹空いたな、ひもじいなって思った時、『ピン』と来たんですよ~。『そうだ、浩之先輩がいる!』って。それでまあ、先輩の教室行ったら智美先輩と涼子先輩と一緒に屋上行ったって聞きまして! これはきっと涼子先輩の手料理だと思ったんですよね~。いやー、正解でした!」
聞かれもしないのにズンズンと自分語りをするちびっ子。そのまま、歩みを進めるとこちらも勧められてもいないのに勝手にレジャーシートに腰を降ろす。
「と、いう事で私もご相伴に与らせて頂いても良いですよね、涼子先輩!」
そんなちびっ子の姿に苦笑を浮かべつつ、涼子は小さく頷いて見せる。そんな涼子に、智美が呆れた様に首を左右に振って見せた。
「涼子? あんまり甘やかしちゃダメよ? すーぐ調子に乗るんだから、この子は」
「ぶぅー。智美先輩に言われたありませんよ~。智美先輩だって涼子先輩のお弁当食べてるじゃないですか」
「私は働いたもん。このお弁当を此処まで運んだのは私だ!」
「それぐらいだったら私だってできますよ~だ」
「まったく……可愛げのない子ね」
「可愛げは智美先輩だって無いじゃないですか~」
「私は――」
「……あの」
言い合いを始めた二人に、おずおずといった感じで桐生が手を挙げる。
「なに? 桐生さん。どうしたの?」
「いえ、どうしたのって……」
そう言って桐生は視線をちびっ子に向けて困ったように眉根を寄せて見せた。
「……どちら様?」
「……ああ、そっか。ごめんごめん。初対面だもんね。ほら! アンタも自己紹介しなさい!」
「あ、済みません~。私、川北瑞穂って言います。一年一組、女子バスケ部です! 智美先輩の後輩ですね~。以後、よろしくお願いします!」
ビシッと敬礼までして見せるちびっ子――瑞穂。その姿に小さく微笑み、桐生も挨拶を交わす。
「ご丁寧にどうも。私は桐生彩音よ。クラスは二年一組ね。以後、よろしく」
「はい! 桐生先輩! 以後よろしく――」
あ、フリーズした。
「――ってえぇええええええーーーーーーーーーーー!!」
にこやかに挨拶、後、絶叫。口をパクパクさせて、俺の服の袖をぐいぐいと引っ張る。
「なんだよ? つうか、伸びるから離せ」
「あ、すみま――じゃなくて! な、なんでですか! なんで桐生先輩が一緒にお弁当食べてるんですか!! 桐生先輩って『あの』桐生先輩でしょ!?」
「『あの』が何を指しているかは大体分からんでもないが、間違っても本人の前で言うなよ?」
「言いませんよ! 私だって命は惜しいんです!」
さよか。賢明な判断だ。
「そんな事より! なんで!? なんでですかっ!」
「……なんか懐かしい反応ね。最近、こういう反応する子、久しぶりに見た気がするわ」
桐生は桐生であわあわしている瑞穂を見てなんだかほっこりした顔をしてる。あれ? 実は結構、『悪役令嬢』気に入っていたりするの?
「なんでって……そういえばなんでだ?」
「さあ? 私は誘われたから来たけど……なんでかしら?」
「うん? それは桐生さんと話して見たかったからだよ? ね、涼子」
「うん。そうだよ」
「だ、そうだ」
「そんなんで分かるワケないじゃないですか! え? ええ? ど、どういう関係なんですか!」
「一緒に弁当を食う関係だな」
「嘘だぁ!」
やかましいヤツだな。
「……私としては三人と川北さんの関係が気になるんだけど?」
「ああ、川北瑞穂――瑞穂は俺の妹の茜と同級生でな。ほら、俺に一個下の妹がいるって言ったろ?」
「ええ。京都にいらっしゃるのよね?」
「そうそう。その妹とミニバス時代からつるんでる仲だ。最近はそうでもないけど、小、中学校の頃は良くウチにも遊びに来てたから」
「幼馴染、という訳?」
「まあ……そうなるのか?」
茜がミニバスを始めたのは小学校一年からで、瑞穂との付き合いはそれからだし、なんとなく『幼馴染』感はない。幼馴染ってやっぱ、保育園とか幼稚園ぐらいからの付き合いじゃね? 実際、涼子も智美もそうだし。涼子に至っては家まで隣同士だ。
「まあ、そんな訳で小さい頃は良く五人で遊んでたってワケ。うち、集合場所だったし」
「たまり場?」
「別に家で遊んで~……みたいな事は無かったかな? 遊ぶのは主に外だったし」
「年齢はともかく、女の子ばかりの中で貴方、よく一人で居られたわね?」
「まあ……そう言われて見ればそうか」
今考えたらハーレム状態じゃん、俺。当時はそんな事微塵も感じなかったが……あれ? もしかしてあの時が人生最大のモテ期だったりする、俺?
「……ま、いいじゃん。ともかくそんな仲ってワケ」
「ふーん。それじゃ、私はお邪魔かしら?」
「こっちが招待したんだぞ? 邪魔なのは瑞穂だ」
「ひどいです、浩之先輩! 邪魔ってなんですか、邪魔って!」
「呼ばれても無いのに飯の匂いに誘われて来た時点で邪魔者扱いされても仕方ねーだろうが。それが嫌なら桐生にビビらず、黙って喰え」
俺の言葉に『うぐぅ』と言葉を詰まらせ、その後でチラリと桐生の顔色をうかがう。視線に気付いた桐生がにこりと微笑むと、慌てて視線を逸らした。
「……浩之先輩、浩之先輩」
「なんだ?」
「ヤバいっすね、あの笑顔。普段『むすっ』……とはしてないですけど、クールな桐生先輩があんな可愛らしい笑顔浮かべると……」
「……浮かべると?」
「……ヤバい扉、開きそうです」
「……開いて向こう側に行って、そのまま帰って来るな」
何馬鹿な事言ってんだ、コイツは。
「アホな事言ってないでさっさと食え」
「わ! 待ってくださいよ! あんまり早食いしたら消化に悪いんですよ! 太りやすくなっちゃいますし!」
「お前、バスケ部で犬みたいに走り回ってるじゃねーか。カロリー付けろ、カロリー」
「女子高生に悪魔の誘惑を……それに、今日はダメです! 部活休みなのでカロリー消化できないんですよ」
「犬は否定しないのな。っていうか、こないだも休みじゃなかったか?」
月曜日だっけ? なんかあの日も休みって言ってた気がするんだが……
「土日でちょっと遠征したんだよね、ウチの部活。大会があったから。それに向けてちょっとハードな練習してたから、今週はこんな日程なんだ」
智美の説明に合点がいく。まあ、ハードワーク続いていたんだったらゆっくり休むのも練習の内だわな。
「そうなんですよ……なんか私、元気が有り余ってまして」
「お前は疲れて無いのか?」
「そりゃ、疲れてますよ? でも、練習しないとなーんか体が鈍っていく気がするんですよね~。それに、茜はきっと練習してますし」
「茜基準なのか?」
「そうです! 私達は友達で、ライバルなんです! 全国大会の決勝で出逢う為に、別々の高校で頑張るんです!」
ググっと拳を握ってそう宣言する瑞穂。そんな瑞穂を横目で見ながら、桐生が俺の袖をちょんちょんと引っ張った。
「どうした?」
「いえ……ウチのバスケ部ってそんなに強かったかしら?」
「弱いな」
「……」
「……言わんとしている事は分かる。分かるがまあ、目標を高く持つことは良い事だ。それに、瑞穂は普通に上手いし、智美も上手いからな。今年はともかく、来年は良い所まで行くかも知れん。智美は上背もあるし」
無論、世界と戦えますって訳では無いが、少なくとも俺と同じくらいの身長があれば女子高校生としては高い方だろ。まあ、俺が低いという説もあるが……普通だよな? 百七十センチって。
「川北さんは? 見る限り……決して大きくは無いけど」
「その分、運動量が凄いんだよ、瑞穂は。やり過ぎなぐらい練習するし」
「そうなのよ! っていうか、ヒロもちゃんと言ってよね? 休むことも練習って! 聞かないんだから、この子」
「だ、そうだ」
「うー……分かりました。それじゃ今日は浩之先輩とワン・オン・ワンにしておきます」
「待て。なんで俺がお前の練習に付き合わなくちゃいけないんだよ?」
「練習じゃないです。遊びですよ、遊び。良いでしょ?」
「ダメよ、瑞穂。アンタそんな事言っていっつも最後はマジになるじゃない」
「今日は大丈夫ですよ! ねえ、浩之先輩?」
「お前がそう言って大丈夫だったことは無いが?」
いっつもヘロヘロになるまで付き合わせるくせに。お前と違って運動不足気味なの、俺は。
「……ねえ」
「なんだ?」
「鈴木さんや川北さんが女子バスケ部なのは知ってるけど……貴方もバスケ部だったかしら?」
「いや、帰宅部だ」
「だったわよね? それじゃなんで川北さんは貴方なんかと練習したがるのよ?」
「なんでって……」
「へ? 私が浩之先輩と練習したがる理由ですか?」
「そうよ。それこそ、鈴木さんと練習した方が為になるんじゃない? まあ……鈴木さんはイヤそうだけど」
目の前で大きくバッテンを作って見せる智美にチラリと視線を向け、その後瑞穂にその視線を向ける。と、そこにはきょとんとした顔を見せる瑞穂の姿があった。
「智美先輩との練習も為になるんですけど……でもやっぱり浩之先輩との練習の方が役に立ちますから。ポジションも一緒ですし」
「……あるの? 帰宅部にポジションとか」
「ギャグで言ってるんだったら零点だな」
「いえ、別にギャグじゃなくて……ちょっと理解が追い付かないだけよ」
心底、不思議そうな表情を浮かべる桐生。そんな桐生に満面の笑みを浮かべて瑞穂は口を開いた。
「だって浩之先輩、男子バスケの国体選抜ですよ? 学ぶことは多いですよ!!」
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