えくすとら! その四十九 社交界でびゅー、しちゃう?
「……全く。あなた方の仲が良いのは……まあ、個人的には気に喰わない所もありますが良いです。良いですが、流石に人が訪ねてきている時に二人の世界を作るのはどうなのですか? 失礼でしょう!!」
「……勝手に来た癖に」
「何か言いましたか、浩之さん!」
「……イイエ、ナニモ」
明美がちょっと怖い。そう思いながらちょっとだけビクビクしていると、明美がため息を吐いて口を開いた。
「先ほど彩音様が申された通り、このパーティーはパートナー同伴になります。そして今回、私にパートナーがいないのですよ」
「パートナーが居ないって……」
いや、今までどうしてたんだよ? 今回、誰も居ないのか?
「今まではお父様が私のパートナーとして参加していましたので。お母様はおじい様がエスコートしておりました」
「……なるほど」
「ちなみに小学生の頃は浩之さんがパートナーとして参加して下さってましたわ」
「……まじ?」
え? そんな記憶ないんだけど。そりゃ、何度かパーティーには参加したけど……ああ、あれってコレの事なのか。
「……なによ、浩之。私にあんな事言っといて、自分は明美様をパートナーにしてパーティーに出ているんじゃない」
そう言って拗ねた表情を見せる彩音。や、やべ!
「……大丈夫ですよ、彩音様。浩之さんには『パートナー』として参加している意識は全くありませんから。エスコートもして頂いた事が御座いませんし」
そう言ってジト目を向けて来る明美。い、いや! だって……その……
「……すみません」
「……もう、良いです。中学生になれば少しは……と期待していたのですが、中学生になってからはバスケ、バスケで本家に寄りつきもしませんでしたし」
「……重ね重ね、申し訳ありません」
「……一応、言っておきますけど、浩之さん。東九条本家は先日の借金の件も含めて、分家の皆様の援助を陰に日向にさせて頂いているのですよ? 恩に着ろ、とまで言うつもりはありませんが、もう少し協力的でも良く無いですか? 私、頼りにされるのは好きですけど、あてにされるのは好ましいと思ってませんよ?」
「……はい」
言われて見れば、まあ、確かに。親父の借金、輝久おじさんが肩代わりしてくれたんだろ? 今は茜もお世話になっているし、少しは恩返しもしなくちゃいけないのかも知れん。いや、まあ、『それって俺じゃなくて親父の仕事じゃね?』とも思わんでも無いが……
「……にしてもパートナーは……ちょっと」
俺だって彩音が俺以外の誰かとパートナーとしてパーティーに出るってなったら気が気じゃねーしな。ちらっと視線を彩音に向けると、彩音も頷いて見せた。
「そうです。私も、その……あまり、好ましいとは言いかねます」
「……そう、ですよね……」
「……ちなみに参加しないって選択肢はねーのか?」
「本家の一人娘にその様な選択肢はありません」
「……その……輝久おじさん、都合悪いのか? 中学校入ってからは輝久おじさんがパートナーだったんだろ?」
こう、どんな用事があるか知らんが……少なくとも、娘の参加が掛かったパーティーなら参加必須な気がするんだが。そんな俺の声に、小さく明美がため息を吐いた。
「お父様には既にパートナーがいますので」
「おばさん?」
「いいえ」
そう言って明美は首を左右に振って。
「茜さんですよ。今年から茜さん、京都に来られているでしょう? 分家でも血筋の濃い、十五の娘が流石に不参加は難しいだろうと……お父様がエスコートします」
「……おうふ」
……マジか。
「茜さんもあまりいい顔はしていませんが、『まあ、一宿一飯の恩義もあるし……出るよ』との事です」
「……」
「……」
「……その……」
沈黙が続く俺ら二人の間で、遠慮がちに彩音が手を上げる。
「はい? どうされましたか、彩音様?」
「その……茜さん……浩之の妹さんのパートナーを浩之が務める、ではいけないのですか?」
「父が亡くなり、私に子がなく亡くなれば、浩之さんのお父様が東九条本家を相続します。茜さんだって、世が世なら充分お姫様です。引く手あまたなんですよ。そんな中、社交界慣れをしていない茜さんと浩之さんのパーティーなんて……」
「……ああ」
「粗相でもされたら困りますし。東九条は分家に何を教えているのか、と……なにより、何かあった時に浩之さんでは茜さんを守り切れませんので」
そう言って明美がしょんぼりと肩を落とす。
「……私が一人でパーティーに参加する、なんて云うのは論外です。そうなったらパートナーを見繕わないと行けなくなりますが……これでも東九条本家の一人娘です。下手なパートナーを連れて行く訳には行けませんし……これを機に婚約を、なんてことになっても困ります」
んなオーバーな、と思わんでも無いが……俺と彩音の出逢いもトンデモナイ感じだったし、その可能性はゼロでは無いのか。思わず彩音と顔を見合わせると、彩音も困り顔を浮かべていた。そんな俺ら二人に、ガバっと明美は頭を下げて。
「――本当に困っているんです。お願いします、彩音様。パーティーには勿論、桐生家もご招待させて頂きます。ご不安だと思いますので、勿論、監視をして頂いて下さっても構いません。なので……どうか」
一日だけ、浩之さんを『パートナー』として貸して下さい、と。
「――お願い、します」
深々と頭を下げる明美に、俺ら二人は顔を見合わせてため息を吐いた。




