えくすとら! その四十一 からかわれ上手の彩音ちゃん。もしくは単純令嬢彩音様
先日、なろうコンの最終選考通過発表がありました。本作も応募しており、二次選考通過していましたが、残念ながら最終選考は通過出来ませんでした。応援して下さった皆様、ありがとうございました&申し訳ございませんでした。正直、すげー悔しいし残念ですが、言っても仕方ないので今後とも精進します。あー……マジで残念!! 書籍化して可愛い彩音ちゃんとか見たかったのに!!w
「……なんで居るの、お前ら?」
アラウンド・ワンの前に居た涼子と明美の二人。少しだけ驚きながら、そんな声を掛ける俺に、明美と涼子は顔をくっ付けてひそひそ話を始める。おい、それ、感じ悪いぞ?
「……本当に来ましたね、涼子さん」
「だって浩之ちゃんと彩音ちゃんだもん。直ぐにデートに誘いたい浩之ちゃんと、どうせ乙女チックなデートに憧れてる彩音ちゃんだよ? 『ゆうえんちとか、いこうぜー』『ろまんちっくなでーとが、したーい。いくばしょとか、いっしょにかんがえたーい』『そっか……でも、おれはいますぐでーとにいきたーい』『ひろゆき……』『……それじゃ、あらうんどわんでも、いこうぜ~』みたいな会話が有ったに決まってるじゃん。行動パターンなんてすぐ分かるよ~」
「……流石、涼子さん……! 貴方に付いて来て正解です! 浩之さん検定一級を差し上げます!」
「ごめん、明美ちゃん。私、多分試験を作る方の人だよ~」
「……」
「……」
話は終わったのか、明美と涼子がこちらに向き直り。
「……コホン。偶然ですね、浩之さん」
「……誤魔化し方が雑じゃね!?」
「っていうか、さっきの会話の流れはなんなの、涼子さん!? なに? どっかで聞いてたの!?」
衝撃を覚える俺と彩音。そんな彩音に、涼子はにっこりと微笑み。
「まあ、大体分かるよ~彩音ちゃん。何年の付き合いだと思ってるの、浩之ちゃんと私」
「ひ、浩之はともかく……わ、私の考えは分からないでしょう!!」
「……」
「……な、なによ……」
「その……彩音ちゃんは……」
少しだけ気まずそうに眼を逸らし。
「……結構、単純だから」
「あぅ」
彩音が膝から崩れ落ちた。衛生兵! えいせいへーい!
「……生まれてから初めての評価よ、私の評価で……」
「ご、ごめんって! その、馬鹿にしてるわけじゃなくて……いい意味! いい意味で!」
「……それ、無理が無いか?」
つうかさっき、『どうせ乙女チックなデートに憧れる』とか言ってたじゃん。まあ、それはともかく。
「……なんでいるんだよ、お前まで。京都じゃねーのか?」
「昨日の晩、おじ様から電話が掛かって来ましたので」
「親父から?」
「はい。『浩之、明日彩音ちゃんデートに行くと思う』と」
「……親父」
「ちなみに伝言です。『べ、別にへそくり取られて拗ねてる訳じゃないからね! お母さんに意趣返ししたい訳でも無いからね! た、ただ……障害があった方が良いと思っただけだから!』との事です」
「……色々言いたい事はあるが……取り敢えず、なんだそのセリフ回し」
「一字一句、違わずに伝えて欲しい、と」
「……分かった。知ってたけど、ウチの親父はバカだ」
高校生の息子と娘がいるおっさんがツンデレキャラとか誰得だよ、おい。
「……んで?」
「それを聞いては居ても経っても居られませんしね。直ぐに涼子さんに電話をしました。それで」
「始発で来た明美ちゃんと駅で待ち合わせして此処まで直行したんだよ~」
明美の言葉を引き取る様に、言葉を継ぐ涼子。マジかよ。すげーな、その行動力。
「……それで? なんだ?」
少しだけ瞳の険を増して、俺は隣にいる彩音の肩を抱き寄せる。『ひ、浩之!?』なんて彩音が言いながら、頬を朱に染める。そんな彩音に笑みを浮かべて再び視線を涼子と明美、二人に戻して。
「悪いが、デートなんだよ。邪魔、しないでくれるか?」
今日は彩音を大事にするって決めたんだ。絶対、邪魔なんかさせない。
「……」
「……」
「……はぁ。まあ、分かってはいましたけど……此処まで言い切られると少しばかり悲しい気持ちになりますね」
「……そだね~。ちょっと辛いよね」
心持悲しそうな顔をする二人。そんな二人に心が痛むが……此処は、譲れない。
「……悪いな」
「いえ……まあ、仕方ないですし」
「そうだね。仕方ないよね」
そう言って二人で顔を見合わせて揃って肩を落とす。申し訳ないが……でもな? 俺だって今回は結構、真剣に――
「――まあ、仕方ないよ、明美ちゃん。私たちが居たら浩之ちゃん、目移りしちゃうもんね。それは彩音ちゃんに可哀想だし」
「――そうですね。『女性』としての魅力に乏しい彩音様と私達、一緒に居たら浩之さんも目移りしてしまいますしね。此処は『譲って』差し上げましょうか」
――……はい?
「……どういう意味かしら?」
「おや? 聞こえてしまいましたか~? いえいえ、彩音様。別に深い意味は無いですよ? 私達と一緒だったら浩之さんもこちらを気に掛けてしまうでしょう? それでは彩音様もお辛い思いをするでしょうから……可哀想な彩音様に、譲って差し上げようかと」
「私の何処を見て可哀想って言ってるんですか!!」
明美の視線は彩音の胸に固定されていた。いや、明美……それは流石に酷いだろう。
「『お可哀想』なことで」
「明美様!!」
いや、マジで煽るな、明美。
「そうだよ、明美ちゃん。そんなに言ってあげたら可哀想だよ~。どうせ彩音ちゃん、二人っきりの時にしか甘えられない、『へたれ』だし。私たちが邪魔したら可哀想でしょう?」
「そうですね。私たちが浩之さんを盗ってしまったら可哀想ですしね。今日ぐらいは譲って差し上げましょう。良かったですね、彩音様?」
……あかん。これ、あかん流れのヤツや。
「……上等よ」
「あら? 何が上等なのですか?」
「別に誰が一緒でも浩之は目移りなんかしないもん! だから、誰が一緒でも平気よ!」
「あらあら。無理はしなくて良いですよ?」
「無理なんかしていません! 余裕です!」
「それでは、一緒にカラオケをしても?」
「望むところよ!!」
そう言ってずんずんとアラウンドワンに入っていく彩音と――そんな彩音の後ろでこちらを振り返りながら親指をぐっと上げる明美。その視線の先、俺の隣にいる涼子が同様に親指を上げる。
「……」
「煽り耐性低いよね~、彩音ちゃん」
「……ぐうの音もでねー」
「言ったでしょ?」
そう言って涼子はにっこりと笑って。
「――彩音ちゃん、単純だって」




