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えくすとら! その三十七 デート前夜の語らい。或いは格好悪いけど、嫌いとは言ってない!

まだ……デートに出発出来ない……



 明日のデートは最高なモノにしよう。今までの彩音の苦労……まあ、苦労もだけど、心労に報いる為に。



 そう思った俺は、食後に風呂に入った彩音を自室に招いた。風呂上がりで火照った顔がなんだか色っぽいが……まあ、そこは意思の力でぐっと我慢。

「ど、どうしたの、浩之? お、お風呂上りに『部屋に来て』って……そ、その、は、初めてじゃない?」

「そうか? ……ああ、そうかもな。確かに、呼んだこと無いかも」

 そう言われればそうかも。風呂上がりに話をすることはあれども、大体リビングだし、あんまり部屋に呼んだことは無いかな?

「ま、いいじゃんか」

「え、ええ! 良いわよ!? べ、別にリビングが部屋になっただけだもんね!? た、他意は無いんでしょ!?」

「? 他意はないって……いや、まあ他意はあるからリビングじゃなくて部屋に来て貰ったんだが」

「他意があるの!?」

 いや、なに驚いてんだよ。俺の部屋でしたい事があるから、部屋に来て貰ったんだろうが。此処じゃなくて良かったら、リビングで話するわ。

「え、えっと……そ、その……そ、そうなの!? そう言う事なの!?」

 顔を――風呂上りの火照り以外の理由からか、真っ赤にする彩音。いや、なにさ? 何をそんなに顔を赤くしてんだよ? そう思い、俺は口を開き掛けて。



「――そ、その! は、初めてなので……お、お手柔らかに……お、おねがいします……」



「……はい?」

 初めて? 初めてって、何が……

 ……。

 ………。

 …………!!??

「ち、違う!! そ、そうじゃない! そ、そう云う意味で呼んだわけじゃねーよ!!」

「……へ? ち、違うの?」

「ち、違うって! そ、その、別にお前に『そういう事』したいなんて思って無いから!!」

「……思って無いの? 私、魅力ない?」

 心持、拗ねた様な表情を浮かべる彩音。あー、もう!!

「……あんな? お前、自分の魅力を再確認してから言え。もうぶっちゃけるとな? 今すぐ手、出したいに決まってんだろうが」

「……はぅ」

「……照れないでくれるか、俺も恥ずかしいし。だからまあ……その、なんだ? お前が魅力的なのは充分知ってるし、今だって結構我慢してるの。なんか間違いがあって、お前を不幸にするのはイヤだし」

「……魅力が無いんじゃなくて、大事にしてくれてるって事?」

「……まあ」

 勿論、豪之介さんに樹海に送られかねん、という危機意識もゼロではないが……だって、なあ? なんか間違いが有ったら嫌じゃん。彩音を傷つける事はしたくないし。

「……良かった」

「……なにが?」

「そ、その……浩之、私に全然……なんて言うんだろ? その……手、出さないから。魅力が無いのかと思って」

「……無い訳ないし……そもそも、お前、手を出して貰いたいのか?」

 なにそれ? もしかして彩音さん、むっつり?

「……」

「……え?」

「……ぜ、全然興味が無いって言うと……う、嘘になるけど……」

「……」

「……」

「……マジかよ」

 呆然と漏れた俺の言葉に、彩音がキッとした表情を向けて捲し立てる。

「な、なによ!? 貴方は興味ないの! その、そ、『そういう事』に!!」

「あ、いや、そ、そりゃ……あ、あるけど……」

 俺だって健全な男子高校生だし、あるに決まってるけど……で、でも!

「……彩音はそんな事に興味無いのかと思ってた」

「……私の事、なんだと思ってるのよ。私だって健全な女子高生です。人を好きにもなるし、好きな人なら触れたいとも……その、ふ、触れられたいとも思います。当たり前でしょ! そ、そりゃ、ちょっとは怖いけど……」

「……」

「……」

「……ま、まあ!」

「う、うん!!」

「……その……その話は、おいおい、という事で」

 ……分かってるよ。ヘタレだって言いたいんだろ? だから彩音? そんな目で見ないでくれるかな?

「……へたれ」

「……声に出して言うなよ。その……もうちょっと、我慢しようぜ? お互い。俺、頑張ってマシな男になるから。その時は、その……」

「……そうね。時間は沢山あるんですもの。でも……が、我慢出来なくなったら、言ってね?」

「……そういう煽る事言うの、止めて貰って良いですか?」

 男子高校生の理性なんて紙装備なんで。

「でも……それじゃ、なんで? なんで今日、私を部屋に呼んだの?」

「なんかすっかり話が逸れたな。いや、その……今からちょっと情けない話をするんだが……いいか?」

「いいけど……」

 何? といった表情でこちらを見る彩音。そんな彩音に、俺は言葉を続ける。

「いや……明日、どんな格好するのかなって」

「……どんな格好とは?」

「パンツルックにするか、スカートにするか、それともワンピースかって話。スニーカー履くかとか、ヒール履くかとか」

「……それは場所を決めてからじゃないかしら? それによって、服装は変えるわよ? アクティブに動くなら、スニーカーも充分選択肢だし」

「……確かに」

「ええっと……どうしたのよ、急に?」

 どうしたのよ、か。まあ、そうだよな。

「……その……なんだ。俺らが遊びに行く時って、お前はともかく……俺、結構服装適当だったろ?」

「適当、とは言わないけど……確かにデニムとシャツが多かった気がするわね」

「んで……まあ、明日はちょっと……その、『頑張りたい』感じなんだ」

「……」

「……その、なんだ? お前がかっちり決めて来て、俺がデニムとシャツじゃ……その、つり合いが取れないと云うか……なんというか」

「……」

「だからまあ……ホントはお前に聞かずにさりげなく察すれば良いんだろうけど……その、俺もそんなに経験値ないし。だから、恥を忍んで明日の服装を聞いている訳で……こう、もうちょっとぶっちゃけるとだな? 部屋に来て貰ったのは、お前が明日着る服装に合いそうな服を着てみるんで、ちょっと採点なんかして貰えたらって思って……ハイ」

 ……顔から火が出そうだ。いや、マジで、こんなの聞くってすっげーださいとは思うんだよ。でも……なんだ、折角のデートだし、彩音が可愛い格好するんだったら、俺もそれに合わせたいんだ。

「……浩之」

「……言うな。分かってる。自分でもすげー格好悪い事言ってるの」

 少しだけ照れ臭くそっぽを向く俺に、彩音が嬉しそうに微笑んで言葉を継ぐ。

「何が格好悪いのよ? 私、今凄く嬉しいのよ? だって、私の為に服装まで一生懸命考えて……気合を入れてデートに臨んでくれてるって事でしょ?」

「……まあ」

「確かにスマートなやり方じゃないかも知れないけど……それでも、恥を忍んでまでデートを良いものにしようとしてくれるその気持ちが堪らなく嬉しいわ、私」

 そう言って俺の側に近寄ってぐりぐりと頭を擦りつけてくる彩音。

「もう……好き。大好き!」

「……あ、ありがとう」

「ありがとうじゃない! 浩之は?」

「……俺もだよ」

「俺もじゃわかんないもん」

「……好きだよ」

「……えへへ~」

「……だらしない顔になってんぞ?」

 蕩ける様な笑みを浮かべる彩音が可愛くて、なんだか照れ臭くなってそういう俺に、尚も頬を緩ましたまま彩音は再びぐりぐりと俺の腕に頭を擦りつける。猫かよ。

「……んで? どんな格好にするんだ?」

「……そうね。さっきも言ったけど、何処に行くかに寄るわね。何処に連れて行ってくれるの、浩之?」

「……そこまで全部喋ったら、なんかサプライズ感なく無いか?」

「確かにそういうのを大事にする子もいるらしいけど……」

「お前は違うの?」

「……もしかしたらこれは貴方のプライドを傷つけるかも知れないんだけど」

「今更、プライドもへったくれも無いんだが」

「そ、そう? その……ほら、よくサプライズで! とか、デートプランは男が! とか言うじゃない?」

「まあな」

「あれも悪くは無いんだけど……で、でもね? 私は折角なら、浩之とあそこに行こうか、此処に行こうかって、そう云う時間も含めて一緒に楽しめたら……その、嬉しいかなって思うの」

「……なるほど」

「で、でも、サプライズが嫌ってワケじゃないのよ? それも特別感というか……スペシャルな感じがして、嬉しいし! だ、だから、今日、デートに誘ってくれたのも凄く嬉しかったし……」

「踊りたいくらいに?」

「ええ。今なら白鳥の湖でも踊れるわ」

 苦笑を浮かべる俺に、彩音は綺麗な微笑みを浮かべて。


「だから……出来れば、一緒に考えたいかな、って。浩之が頑張ってくれるのも嬉しいけど……一緒に楽しみたいなって。こ、恋人同士だし! その……浩之だけに負担っていうか……無理をさせたくないの」


「……無理ではないんだけどな。つうか、仮に無理でも、お前の為にする無理は全然嫌じゃないし。むしろどんと来いだ」

「……私はイヤなの。前も言ったでしょ? 支えて貰いたいんじゃないの。一緒に歩きたいの」

「……負けず嫌いさんめ」

「そうね。知ってるでしょ?」

「まあな」

 今度は彩音も微笑みを苦笑に変え、そのまま俺の胸にぽふっと頭を乗せた。

「……でも……さっきの嬉しかった」

「どれ?」

「お前の為にする無理は全然嫌じゃない、っていうの。なんか……愛されてる感があって個人的にグッドです」

「そいつは良かった」

「ええ……ねえ、浩之? これ以上私を貴方に惚れさせてどうするつもり? もう結構、メーター振り切ってるわよ、私」

「良い事じゃねーか」

「良く無いわよ。これ以上振り切ったら暴走するかも知れないわよ?」

「んじゃそうならない様に」

 そう言って俺の胸に顔を埋める彩音をゆっくりと抱きしめて。

「こうやって、俺が掴まえて置く」

「……ばか。本当に暴走しても知らないんだからね?」

 不満そうに、それでいて嬉しそうに顔を上げて……再び、しっかりと俺の胸に顔を埋めなおす彩音を力いっぱい、抱きしめた。


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[気になる点] 理性が紙装備…? [一言] 風呂上りのかわいい彼女とこんだけくっついて何も起こさない理性が 紙…? どんだけ強固やねん。
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