えくすとら! その二十五 幼馴染は負けフラグ
ネット小説大賞に応募してます拙作ですが、お陰様で二次選考通過しました~。凄い嬉しい!
……此処まで来たら欲が出て来た。書籍化したいな~。
さて、今回は涼子編です。ちょっと本編で涼子ちゃん薄かったので……頑張れ、涼子ちゃん!!
「おはよー、浩之ちゃん」
「よっす。おはよ」
土曜日の八時。家の前で待っていると隣の家のドアが開いて中から涼子が顔を出した。青色のワンピースに白い帽子を被ったその姿はなんだかどこぞのお嬢様の様にも見える、いわゆる清楚系の服装だ。
「……どう?」
「ん。良く似合ってると思う。お前らしい服装だよな、それ。おろしたてか?」
「うん! いつかデートに向けて買って……は無いんだけど、取っておいたの」
「カモリン?」
「お母さん、私みたいな童顔向けの服は作らないからな~。そうじゃなくて、お母さんの会社の後輩のデザイナーさんの服なんだって。新進気鋭の若手で、お母さんも目を掛けているらしいよ」
「カモリンからティーン向け、って事?」
「ううん。その辺、お母さん拘りあるし。たぶん独立するんじゃないかな~って」
そう言って俺の前でくるっと一回転してみせる涼子。
「……可愛い?」
「……まあな」
「ふふふ! 浩之ちゃんって可愛い格好したら絶対褒めてくれるよね?」
「凜さんの教育の賜物だな」
『女の子がオシャレした時は誰かに褒めて貰いたい時だ。狙う、狙わないはともかく絶対褒めろ。それが礼儀だ』とは涼子のお母さんである凜さんのお言葉だ。まあ、努力した結果に対して賞賛を贈るのは当然と言えば当然で、そこに照れる、という要素は俺の中ではあんまり無かったりする。
「うん! お母さんは家ではぐーたらだけど、それを浩之ちゃんに教えたのは良い事だね!」
「凜さん、カワイソス」
「事実だからね~。それじゃ浩之ちゃん、行こ!」
そう言って楽しそうに前を歩き出す涼子に追いつく様に少しだけ小走りして隣に並ぶ。駅までは徒歩で十分程度、そのまま遊園地までは電車で四十分程度だ。
「今更だけどさ? 遊園地前で合流で良くね?」
「えー。折角のデートだよ? 遊園地前で合流とか味気なくない?」
「まあ……そう言われればそうかも知れんが」
「今後は中々こんな機会も無いだろうしね~。それなら想い出になりそうな事はしておきたくない? 浩之ちゃんには申し訳ないけどさ」
「……返答に困る事を」
「でしょ? 浩之ちゃんは優しいから、『迷惑』とは言わないって分かってるもん。ズルい女でしょ、私?」
そう言ってペロリと舌を出して見せる涼子。ズルいというか……なんだろう? 強か?
「……別にズルいとは思ってねーけど……」
「彩音ちゃんに悪い事した、って思ってる?」
「あー……まあ、流石にその、彼女が居るのに他の子と遊びに――」
「デート」
「――デートに行くのはどうかと思う」
「まあ、付き合う前からしてた約束じゃん? 彩音ちゃんも許してくれたし」
「……本当にな。俺が悪いのもあるが……正直、ブチ切れられても仕方無かっただろうし」
「彩音ちゃんはきっと、怒らないんじゃないかな~とは思ってたけどね。私とデートに行っても」
「……なんで?」
普通、彼氏が他の女とデートに行ったら怒るんじゃないの? そう思い、首を捻る俺に、涼子は苦笑を浮かべて。
「……まあ、どっちにしろ私じゃ無かったかな~って云うのはあるんだよ」
「……」
「彩音ちゃんと付き合って無かったとしても、きっと浩之ちゃんは私以外の女の子を選んでいたと思うんだよね」
「……これまた、返答に困る事を。その……感じ悪い言い方かも知れんし、何様かと思われるだろうが……その、お前だって可能性は全然あったというか……」
「……」
「……」
「……ジゴロの人みたい」
「……言うな。つうか、言葉のチョイス」
ジゴロって。
「まあ、でもさ? 多分そうなんだよね。だって浩之ちゃんが最初に好きになったのは……まあ、お母さんか。でも、ちゃんと『恋愛』を理解して好きになったのは智美ちゃんでしょ?」
「……まあ」
「一番可愛がってたのは瑞穂ちゃんだし、家の事情とかを考慮したら明美ちゃんが一番候補になる訳じゃない?」
「……」
……まあ、否定はせん。否定はせんが……
「……そう考えると彩音ちゃんって凄いね? 並みいる強敵を蹴散らして、浩之ちゃんの心を奪った訳だから。ちょっと尊敬しちゃうかも」
「……並みいる強敵は間違いないが、それで得るものが俺って……コスパ悪く無いか? 努力の割に賞品がショボいというか」
「照れ隠しか、謙遜か知らないけどその言い方は感じ悪いよ? なにより、浩之ちゃんの事を好きな私達に失礼だ」
「……わりぃ」
「宜しい。まあさ? そういう訳で、私的には結構厳しい戦いだっただろうな、ってのは予想が付いてたんだよね」
「……」
「……だから多分、智美ちゃんや明美ちゃん、それに瑞穂ちゃんとデートに行くってなるともっと反対すると思うんだよね。まあ、彩音ちゃんは賢いからさ? 私なら、そんなに反対しないだろうと予想が付いたっていうか……まあ、そんな感じ」
「……」
「あ、これは別に私が皆より劣ってるから、みたいな自虐で慰めて貰おうと思って言ってる訳じゃないよ? 私だって自分が他の人にどう見られてるか客観的に分かるし……女子高校生の甘目判定で見て、そこそこ可愛いと主観的にも思ってる。言っちゃなんだけど、彼氏の一人や二人、作ろうと思えば余裕で出来るって事も理解している」
「一人や二人って」
でもまあ……そうだよな。智美や桐生とはタイプが違えど、涼子だって充分以上に美少女な訳だし……そりゃ、そうだろう。
「ただ、浩之ちゃんの好みじゃ無かっただけで」
「……」
「……なんだろう? やっぱりアレかな?」
幼馴染は負けフラグなのかな~、と。
「……」
「……暗い話しちゃったね。ま、ともかく今日は楽しもう!」
そう言って一転、明るい顔をした涼子に、俺はなんとも言えない感情を抱えたまま曖昧に頷いて見せた。