えくすとら! その十八 法律上等コンビ、爆誕! ……せず!
にっこりと笑って見せる藤田妹……なんだが、顏こそ笑顔なものの目の奥が全く笑っちゃ居なかった。ええっと……
「……その……有森がどういう子かって……聞いて無いのか、藤田に?」
「聞いてますよ? お兄ちゃん、有森さんが彼女になってからずっと有森さんの話ばっかりですし。良い所は耳にタコが出来るんじゃないかってくらいに聞いています」
そう言って詰まらなそうにポテトを摘まむ藤田妹。
「その……良いかしら?」
「なんですか、彩音さん」
「その……香織さんは、アレなの? お兄ちゃんっ子というか……家族愛が強いというか……」
「ああ、私ですか? ブラコンですよ?」
「……」
……桐生も言葉を選んだのに、あっさり言いやがったぞ、コイツ。まあ、デート云々言ってた時から薄々分かってたけどな。茜じゃ絶対、あんな事せんし。
「そ、そう」
「……まあ、この年でって云うのも分かりますが……ウチ、両親共働きなんですよ。知りません? 駅前にあるフレンチレストラン。あそこのオーナーシェフなんですよ、ウチの父って。ちなみに母親は経理してます」
「……マジか」
だからアイツ、料理上手かったのか。
「小さい頃からお兄ちゃんがお昼ご飯とか晩御飯、作ってくれてましたしね。一人で寝るとき怖くて一緒に寝たのはお兄ちゃんでしたし、夜にトイレに付いて行って貰うのもお兄ちゃん、遊園地や動物園、水族館に連れて行ってくれるのもお兄ちゃんでしたし。そりゃ懐きますよ、お兄ちゃんに」
「……なにか、何処かで聞いた様な話ね。貴方も作ってたんでしょ、料理」
「……まあ」
言っても俺の作った料理なんて知れてるが。しかも、藤田程茜の面倒を見ていた記憶はない。まあ、俺らはお互いにバスケを始めたからと云うのもあるが。
「ああ、それ、お兄ちゃんも言っていました。お兄ちゃん、浩之先輩の事大好きみたいなんで、なんでそんなに気に入ってるの? って聞いたら、『あいつからはそこはかとなく『お兄ちゃん』の匂いがする。なんか仲間意識感じるんだよな~』って」
「……」
お兄ちゃんかどうかはともかく……まあ、お互いに世話焼き体質ではあるのだろう。なるほど、だから藤田とウマが合うのか。
「……なるほど。東九条君と藤田君にはそんな共通点が有ったのね。それで? 貴方は雫さんにお兄さんを盗られる……盗られる、という表現で良いのかしら? それが気に入らない、と?」
桐生の言葉に藤田妹は首を振る。
「――いいえ」
横に。
「確かに私はブラコンですが、そこまで嫉妬に目が眩む様な事をしようとは思いません。物語の世界では無いですし、実妹エンドなんかもあり得ないと思いますし……まあ、お兄ちゃんが私の魅力に我慢できなくなって押し倒してくるような事があればウェルカムですが!」
「……」
……ブラコン、拗らせてますやん。
「……そういう意味では浩之先輩には少し期待してたんですが」
「……俺?」
期待? 何が?
「だって彩音さんって浩之先輩の彼女さんなんでしょう? こんなに綺麗な彼女が居るのに、幼馴染の犬系と猫系の美女とか、可愛い後輩とか、遠縁のお嬢様とかが周りに居るって聞きましたよ? 私と一緒で法律の壁を越えて行きたい人なのかと思いましたが……重婚エンドとかで」
「思ってねーよ!!」
なんだ、このアツい風評被害は! つうか藤田!! 適当な事喋るんじゃねーよ!!
「そうなんですか? 少しだけ、親近感を覚えていたんですが……残念です」
「そんな親近感の覚えられ方はイヤすぎる!」
マジで! 兄妹婚と重婚を望むコンビってある意味レベル高すぎだろう。
「え、ええっと……なんだか話が逸れたけど……結局、貴方は有森さんが気に入らないと、そう言う事かしら?」
「いえ、別に有森さんがどうか、と云うのはさして問題ではなくて……」
少しだけ言い難そうに言い淀む藤田妹。その後、少し照れ臭そうに言葉を継いだ。
「……実の兄を褒めるってちょっと恥ずかしいんですけど……その……お兄ちゃんって『良い人』なんですよね?」
おそるおそる、恥ずかしそうにそう言う藤田妹に。
「「――めっちゃ、分かる」」
俺と桐生は揃って頷く。藤田が良い人じゃ無かったらこの世界に良い人はいねーんじゃねーかと思うぞ。
「そ、そう思ってくれますか? うわぁ、凄く嬉しいです! 身内贔屓かと思ってたんで!」
顔を綻ばす藤田妹。いやいや、全然身内贔屓でもなんでもねえよ。
「そうね。本当に彼は人間が出来ている……という訳ではないだろうけど、器が大きいわよね」
「だな。それは俺も思う」
「そうなんですよね~。ウチのお兄ちゃん、凄く人が良いって云うか……誰かが困ってたら自分の事放っておいて助けちゃう様な人なんですよ。そこが良い所とはいえ……なんとなく、心配なんですよね。悪い女にころっと騙されちゃいそうで」
「……そんな心配はいらないと思うけど?」
桐生の言葉に、俺も頷いて見せる。昔の藤田ならともかく、今の藤田が有森以外に目を向けるとはちょっと考えづらいが……
「……」
「香織さん?」
桐生の問いかけに藤田妹は気まずそうに眼を伏せた後、チラリと視線を上目遣いで上にあげた。
「その……お話を聞く限り、有森さんって云う人はお二人のお友達なんですよね?」
「……まあ」
「……そうね」
「その、お二人の御友人をこう云うのはなんですが……その有森さんが『悪い女』かも知れないじゃないですか? 悪い女と云うのは語弊がありますけど……でも、例え悪意はなくても……お兄ちゃんの優しさが心地よくて、それを利用しているだけかも知れないなら、それは私にとっては立派な『悪い女』ですよ」
「……」
「……」
「お、怒りましたか? す、すみません!」
「いや……別に怒っては無いが」
他の誰とも知らないヤツに言われたらそりゃ腹も立つが……藤田妹は当事者と言えば当事者だしな。心配になる気持ちもわからんでも無いし……
「……まあ、藤田の優しさつうか、器の大きさに有森が惚れたのは間違い無いしな」
「東九条君!?」
「なんだよ? 事実だろう?」
「そ、それは……そう、だけど……で、でもね、香織さん? 別に雫さんは藤田君を利用しようとか、そう思っている訳じゃ無いわ! 友人の私が言っても説得力無いかもしれないけど……」
言い淀む桐生。そんな桐生にため息を吐いて、俺は言葉を継いだ。
「でもな、藤田妹? 俺は藤田の優しさ、良い所だと思うぞ? 言い方はあんまりだけど、アイツが男女交際する時の立派な武器だと思うし。顔が良いとか、頭が良いとか、運動神経が良いとか同じだろ? そこに対して好意を持った相手を全否定するのか?」
「そうじゃないんですが……なんというか……上手く言えないんですけどね。やっぱりもやっとはするんですよ」
そう言ってコーラーをずずっと啜る藤田妹。まあ、気持ちは分からないでは無いが――
「――あれ? 彩音先輩と東九条先輩? こんな所で何してるんですか~」
――グッドタイミングというか、バッドタイミングというか。
「……え? なんで私達、そんな微妙な視線を向けられてるんですか?」
部活帰りなのか、そこにはジャージ姿の有森と藤原の姿があった。