えくすとら! その十四 ふじたくんにもメイドさんのご褒美を!
今回、ギリギリです。
「……き、気持ちいいですか? そ、その……ふ、藤田せん――じゃなくて、ご主人様」
有森に膝枕をされながら頭を撫でられている俺はなんとなくもにょっとした気分を抱えながら口を開く。
「……うん。気持ち良いよ」
うん。気持ちいいよ? 気持ち良いのは気持ち良いんだけど……なんだろう? 物凄く、イカガワシイお店に来てる気分になる。いや、行ったこと無いけどさ?
「……い、いつもご主人様にはお世話になっていますし……そ、その……たまには私がお返しをしたいなって」
「……結衣さんか」
「い、言い出したのは結衣さんですけど……そ、その……わ、私も、思っていましたから」
そう言ってもじもじし出す有森、マジカワユス。いや、可愛いんだけどさ。
「……にしてもメイド服って」
「ご、『ご奉仕』するならこれだって……」
「……その『ご奉仕』って単語、ちょっとやめてくれない?」
いや、マジで。すげー変な気分になるから。俺だって男だぞ? 分かってんのか、有森?
「……に、似合ってませんかね?」
「ご奉仕が? メイド服が?」
「め、メイド服です。結衣さんが、『雫ちゃんは姿勢も良いからこっちだな』って渡されたんですが……」
「……いや……正直に言うとヤバいくらい似合ってる」
こいつ、女子の中でも身長高めだし、バスケしてるから程よく体も締まってる。そんな有森がクラシカルなメイド服ってチョイスはやっぱり良いセンスしてるな、結衣さん。悔しいけど、グッジョブと言おう。
「……まあ、ミニスカメイドも良いけどね」
チラリと視線を浩之に送ると、ベッタリ桐生にくっつかれた浩之がオムライスをあーんとされていた。ニーハイソックスから覗く太ももが眩しい。
「……余所見しちゃ、ヤです、ご主人様」
俺の首をグイっと自身の顔に向けてふくれっ面を見せる有森。
「す、すまん。そういう意味で見ていた訳じゃなくて!」
「……じゃあ、どういう意味ですか?」
「……」
「……」
「……言わないとダメ?」
「……余所見してたんですし……理由が知りたいです。そりゃ、彩音先輩は美人ですし、あんな扇情的な恰好していたら目が行くのは分かるんですけど……」
少しだけすんっと鼻を鳴らしてそっぽを向く有森。ああ、いや……そうじゃなくて。
「……桐生が美人なのは認めるけどさ……別にそう言う意味で見ていた訳じゃなくて」
「……じゃあ、なんですか?」
「……いや……その、お前のあのミニスカメイド姿も可愛いだろうな~って……」
顔が熱い。たぶん、有森もなんだろう。そっぽを向いた耳まで赤く染まるのが見えた。
「な、な、な……」
「……いや、もう正直に言う。相当変態っぽいが……この膝枕、無茶苦茶気持ち良いんだわ。でもさ? これってロングスカートじゃん? あのミニスカメイド姿だったらまあ……こう、直に太ももの感触味わえるなって」
「……」
「……引いた?」
引くよな~、そりゃ。言ってる事、マジで変態だもん。
「い、いえ……ひ、引いてません」
「無理すんな。声、震えてるぞ?」
「む、無理じゃなくて! そ、その……」
何かを決意する様にぎゅっと目を瞑ると、有森がこちらに視線を向ける。
「そ、その……ご、ご主人様がそこまで仰ってくれたので私も言いますけど」
「おう」
「その……私ってこう、結構ガサツじゃないですか?」
「ガサツ、とまでは思わんが」
「が、ガサツなんですよ。それこそ、『男っぽい』とか良く言われますし、バレンタインではチョコレートとか中学の女バスの後輩から貰ったりしますし……か、格好いいって言われる事はあるけど、可愛いなんて言われた事無いし」
「……自慢?」
特にチョコのくだり。俺の彼女がハンサムな件について。
「そ、そうじゃなくて! だから……こう、お、女の子扱いって言うのに、漠然とした憧れがあると言いましょうか……」
「……なるほど」
「……だから……その、わ、私のふ、太ももで……ご、ご主人様が……その、こ、興奮してくれるのは……普通に……う、嬉しいです」
「……可愛過ぎね? お前」
「うぐぅ! だ、ダメです! 今はそんな事言われたら……と、止まらなくなっちゃうから……」
両手で顔を覆ってやんやんと首を振って見せる有森。あー、やば。マジでこいつ可愛いわ。
「……もうね?」
「おう」
「もうね……私も正直に言います」
「おう」
「……さっきから『ご奉仕』って言ってるじゃないですか?」
「……俺がヤバくなるヤツね」
「……」
「……どうした?」
「……その……実は、ちょっと『ヤバく』なって欲しくて言ってる所もあってですね?」
「……なんだと?」
「こ、こう……藤田先輩って紳士じゃないですか? 何時も優しくて、大事にして貰ってる感じも、凄く好きなんです。好きなんですけど……た、たまには……こう……理性を飛ばして、む、無茶苦茶激しく求められたいって気分もあってですね?」
「……お前」
「……メイドとご主人様って、こう……主従というか、ご主人様の命令ならなんでも聞かないといけないというか……そういう背徳感があって……こ、こう……なんて言うんでしょうか……無理矢理こう……藤田先輩のモノにされたいと言うか……ああ! そうです! 言ってみればアレですよ」
――貴方色に、染められたい、と。
「……エロい」
「っ! だ、だって……せ、先輩、『そういう』事はしないじゃないですか! わ、私だって女子高生ですし……きょ、興味ぐらいはあるんです……」
「……」
「……藤田先輩が、言ったから、私も言ったんですよ? べ、別に変な事じゃないです!」
だから、と。
「……今日は……良いです。先輩のしたい様にしてくれて……」
良いんですよ、と。
――この辺りが限界だった。
「――っ! きゃ!」
有森の膝枕から頭を上げると俺はそのまま立ち上がり、有森の腕を掴んで店内を横切り個室へ向かう。なんでか分からない――というか、主に結衣さんが使う仮眠室のベッドに向かうと少しだけ乱暴に有森をベッドに投げる。
「いた! ちょ、せんぱ――」
有森が息を呑んだのが分かった。
「――お前、あんまり俺の事買いかぶるんじゃねーぞ? 俺は別に聖人君子じゃねーし、好いた女に此処までされて、我慢できるほど人間出来てねーんだよ?」
「――ぅ!」
声にならない声が有森の――雫の喉から漏れた。
「――貴方色に染めて? 上等だ。俺色に染めてやるよ、雫。もう後戻りできねーぐらい、ずぶずぶに染め上げてやるよ」
上から覆い被さるように雫の上に乗り、顎を持ち上げて暴力的なキスを落とす。抵抗するかと思ったが、意外にもすんなりそれを受け入れる雫。ならばと、俺も興が乗り唇を離して舌なめずりを一つ。
「覚悟しろよ?」
そう言ってニヤリと笑い、俺は雫に視線を落として――
……。
………。
…………え~…………
「……気絶って」
……ぐるぐる目を回してベッドの上で『きゅぅ』なんて言いながら倒れている雫の姿がそこにあった。
「……はぁ」
その姿を見て、俺も急速に冷静さを取り戻す。跨っていた雫から体を降ろし黙って布団を掛けると、そのまま目に手を当ててベッドを背にずるずると座り込む。
「……ヤバかった……」
……本当、不味かった。こんな所で勢いで……なんて、絶対雫に――有森に失礼だ。
「……でも、コイツも悪いんだよな」
チラリとベッドに視線を向けると先ほどとは違い、幸せそうな寝顔を見せる有森の姿があった。
「……俺の気も知らねーで」
ぺチンと額を軽く叩く。一瞬、眉を顰めた後、『えへへ~。もう、ダメですよ~藤田せんぱーい』なんて寝言を言う有森にもう一度ため息を吐いて。
「――修行足りないよな~、俺も」
今度写経でもしようかな、なんて真剣に考えつつ、幸せそうに眠る愛しい彼女の寝顔を見つめ続けた。
これって藤田君と有森さん、どっちが悪いと思います?w