えくすとら! その十三 ひがしくじょーくんにメイドさんのご褒美を!
コロナ疲れ、出てませんか? でも頑張って自粛しましょう。夏ぐらいに『こんな事あったね~』って笑って話せる様に。
駅前のゲーセンから電車に乗り、一路エリタージュを目指す。まあ、目指すと言ってもただ電車に乗って行くだけだが……
「……なんかちょっと不安になった来たんだが。騙されてないよな、俺ら?」
「……まあ、しょうもない嘘つく人でも無いし……大丈夫なんじゃね、多分?」
「お前はまだしも、一日しか働いてない俺に臨時ボーナスって……」
「……まあ、ネタ料じゃね? こないだお前が店で働いた日、お前らが帰った後の結衣さんつやつやしてたし。『良いネタ、仕込んだ!』って……うん、嬉しそうだったから」
「……」
……あれも漫画のネタになるのか。まあ、プライベートを切り売りする様な事にはならんだろうが……実名は控えてくれるらしいし。そんな事を話しながら、俺らはエリタージュの最寄駅に降りてエリタージュを目指す。
「……閉まってね?」
「鍵は開いてるから、普通に入って来いって言ってた」
そう言いながら藤田がエリタージュのドアを押し開ける。上に付いていたカウベルがからんからん、と音を立てて鳴って。
「「――お帰りなさいませ、ご主人様」」
――メイドさんに出迎えられました。はい?
「……へ?」
「……は?」
「お、お帰りなさいませ、ご主人様。ど、どうぞこちらへ」
そう言って俺の手を引くメイドさん――って!
「き、桐生? な、何してんだよ、お前!?」
桐生さんだった。
ミニスカメイド姿の……桐生さんだった。
「……な、なにをしているか、ですか? そ、それは……」
ホワイトブリムの下の顔を真っ赤に染めて、うるうるとした瞳でこちらを見やり。
「――ご……ご奉仕、です」
……あかんって。これはあかんやつやって。
「ははは。どうだ? 彩音ちゃんのメイド服姿は。良いモノだろう?」
口をあんぐりと空ける俺に掛かる声。オーナーの北川さんだ。不意の登場に、俺は――って!
「……なんで貴方もメイド服なんですか?」
桐生とは違うタイプのメイド服を着こんだ北川さんが立っていた。というか、あれ、メイド服か? なんか青いんだけど……って、そうじゃなくて!!
「き、北川さん……こ、これ!! ど、どう言う事ですか、これ!!」
「藤田は此処で雫ちゃんが来るとご奉仕しているからな。彩音ちゃんにも聞いたが、君も彩音ちゃんに執事服姿でご奉仕したんだろう?」
「ご、ご奉仕って! あ、あれはそうじゃなくて!!」
「まあ良いさ。ともかく! そんな二人の『ご奉仕』に恩返しをしたいと二人が言い出してな? それならば折角だ。この執事喫茶『エリタージュ』、一日だけ『メイド喫茶エリタージュ』として、疲れ切った我が従業員を労わろうと思っただけだ」
「……」
……言葉もないんですが。っていうか。
「……臨時ボーナスって……これ?」
俺の言葉に北川さんはぐいっと親指を上げて。
「――どうだ! 素敵なボーナスだろう?」
……何処がやねん。
◆◇◆
「ご、ご主人様……あ、あーん、して下さい」
そう言って俺の口元にスプーンに乗ったオムライスを持ってくる桐生。羞恥からか、耳まで真っ赤に染めたままの姿で、潤んだ瞳をこちらに向ける。
「お、おう。あ、ありがとう」
なんか断るのも申し訳ないと思い、俺は思いっきり口を開ける。その口にオムライスを入れるとこくん、と首を傾げて見せる桐生。
「お、美味しいですか?」
「……味がわかんねぇ」
いや、マジで。つうか、視界の端に見える有森、藤田に膝枕してね? どんだけ引き攣った顔してんだよ、藤田。
「……つうか……なんでこんな事してるんだよ、お前?」
「……結衣さんに言われたのです。ひが――ご主人様は、私の為に色々して下さっているって。なのに、私は何も恩返し出来ていないのでは無いか、と」
「……執事しただけで?」
あれだけでこんなスーパーご褒美あんの?
「……私に知らない世界を教えてくれた。私の為に、頑張って勉強もしてくれた。先日の執事もそうだし……何より」
私に、愛を教えてくれた、と。
「……私はまだまだ恩を返せてませんから」
「……恩なんか売ったつもりはないけどな。でもなんで、メイド?」
「……結衣さんが、『東九条君はきっとムッツリだ。っていうか、メイド服が嫌いな男性なんて居ない』と……きっと、ご主人様が喜んでくれるって」
「……なんつう偏見を」
「……嫌いでした?」
「……」
……。
「……大好きです」
……うん。大好きです。
「……良かったです」
そう言って桐生はその場で立ち上がっり、くるっと一回転。上はシックな黒のワンピースに、白のエプロンドレス。頭の上には同様に真っ白なブリムを乗せているその姿は……まあ、なんだ。非常に似合ってた。
「……どうですか、ご主人様。似合いますか?」
「物凄く似合ってるけど……なんでミニスカート?」
有森は普通の……というのか? なんだかクラシカルな感じのメイド服なのに。
「雫さんはその……上背があるでしょう? だから、ああいうシックなメイド服の方が似合うと結衣さんが。私は小さいので……その、こういう『可愛い』系のメイド服が似合うと」
そう言ってスカートの端をちょっと摘まんで見せる。ニーハイソックスを止めるガーターベルトが眩しいんですけど。いや、光源的な意味じゃなくて。
「ど、どうですか、ご主人様? ご主人様だけの彩音メイドですよ?」
羞恥に頬を染めたまま、それでもにっこりと笑って見せる桐生……彩音メイドさん。はい、控えめに言って最高です!
「ふふふ……言葉にしなくても分かります。でも……私以外のメイドに鼻の下を伸ばしたら許しませんよ?」
そう言って俺にしな垂れかかって来る桐生。ちょ、おい!
「……その……あんまり密着されると」
行っちゃう! 目線が眩しい太ももに行っちゃうから!!
「……み、見ても良いですよ? 他の男には絶対に、死んでも見せませんが……」
浩之ご主人様は、特別ですよ? と。
「――っ!! 良い! しなくて良い!?」
止めて! スカートの端をちらっと持ち上げないで!! つうか桐生!? お前、今日マジでどうしたよ!!
「……べ、別に痴女という訳ではないです。た、ただ……ご主人様が喜んでくれるって聞いたから」
喜ぶよ!? そりゃ、喜ぶけどさ!! でもダメだって、コレ! 絶対、辛抱溜まらんくなるヤツじゃん!!
「……ともかく、大丈夫。ありがとう。うん、もう充分! 堪能させて貰いました! 北川さーん。お会計!!」
「臨時ボーナスと言っただろう? 遠慮せずにもっと堪能しろ」
「無理だって! これ以上はマジで無理!!」
本当に! これ以上は勘弁してくれない!?
「なに、別に此処でおっぱじめてくれても全然構わないぞ? なんなら個室もあるし、そちらに移動するか?」
「しません!!」
言うて、まだ人目があるから我慢できるの! これで人目が――って、あれ?
「……藤田は?」
「別室。大人の階段、昇ってるんじゃないか?」
……藤田ぁーーー!!
「……ご、ご主人様?」
「もう一部屋あるぞ? 使うか?」
「使わねーよ!!」
何考えてんだ、この人! 使う訳――
「――ご、ご主人様? あ、彩音も……ご主人様と二人きりに……な、なりたいですぅ……」
……いや……だから……あかんって……