第十一話 アレだよ、アレ。ミ〇キーはママの味的な。
(ジャンル別)に、日間六位……目標まで、あ、あと一歩……!
『おにい、聞いた。麻婆豆腐イタリアンの件。アレ、他の女に食べさせたって? 明美ちゃんもブチ切れてるから、今度の長期休みは覚悟しておいてね? もちろん、私もブチ切れてる。泣くまで殴り飛ばすから』
「……げ」
今日は一日、涼子と智美のご機嫌取りで疲れた。そう思い、ゆっくり風呂に入っていた俺だが風呂上り、頭を拭きながらスマホをチェックすると、そこには妹である茜からのメールが入っていた。古風……というか、時代遅れな彼女はメールオンリー、『バスケに浮ついたものは要らぬ!』というスタンスからか、流行のモノを入れようとはしない。当然、メッセージアプリの類は入れちゃいない。つうかガラケーだしな、あいつ。
「……これ、怒ってるヤツだよな」
そもそもメールは『了解』とか『承知』とか、短文ばっかりの茜の珍しい長文メールだ。詳細は不明なんだが……なんで怒ってるんだよ、こいつもあいつらも。
「……仕方ねーな」
小さくため息を吐いて、俺はスマホをタップ。茜の電話番号を呼び出すと、電話を掛ける。ほどなくして、聞きなれた声が聞こえて来た。
『もしもし、浮気者?』
……聞きなれない言葉だったけど。
「斬新な電話の出方だな、おい」
『だってそうでしょ? 涼子ちゃんも智美ちゃんも凄い怒ってたよ? 『なんでヒロはあの麻婆豆腐イタリアンを食べさせちゃうの!』って』
「いや、それには深い事情もあるんだが……でもさ? あの二人、なんであんなに怒ってたんだ? 茜は理由、分かるか?」
『え? マジで言ってんの、おにい。ちょっと衝撃的なんだけど』
「いや……マジはマジだけど」
『マジか~……うん、おにい。それじゃ私はおにいが泣くまで殴るのを止めないね?』
「ヴァイオレンス!? なんで!?」
『流石に涼子ちゃんと智美ちゃんが可哀想になって来たから、かな?』
「いや、だからさ? それがなんで?」
電話口で『はー』っと息が漏れる音が聞こえる。コイツ、ため息吐きやがった。
『んじゃ鈍いおにいにも分かる様に教えてあげる。いい? 涼子ちゃんも智美ちゃんもおにいの麻婆豆腐イタリアンを食べて育ったじゃん?』
「いや、別に食べて育ったワケじゃないんじゃね?」
『黙って聞く! あのね? 私も感謝してるよ? どの家も共働きで忙しくて、そんな中で当時はしっかりしてたおにいが料理作ってくれてたでしょ?』
「当時はって。悪意ないか、その言い方?」
まるで今ではしっかりしてないみたいジャマイカ!
『今もしっかりしてる、と?』
「……済みません」
してませんね、ハイ。
『話の腰を折らないの。そんな中で、あの時一番皆が大好きで美味しかったメニューは麻婆豆腐イタリアンなの。だから、皆あの味が忘れられない、いわば『幼馴染の味』なの』
「……ミ〇キーはママの味的な?」
『殴るよ、マジで?』
「……スンマセン」
『はあ。ともかく! あの明美ちゃんが頭を下げて『私にも食べさせてください』って涼子ちゃんと智美ちゃんに言ったんだよ? それぐらい、皆の中では大事な味なの! それこそ、どこの馬の骨か分からない子に食べさせても良いものじゃないの!』
「……あの明美が頭を下げただと?」
明美は東九条の本家の一人娘だ。今となっては分からんでもないが、彼女は所謂『名家』意識の高い女の子だし、気位も高い。だからこそ、『頭を下げる』という行為を極端に嫌ってたんだが……そんな明美が頭を下げただと? 麻婆豆腐イタリアンの為に?
『……おっと、今の話は内緒ね? 私が明美ちゃんに折檻されるから』
「……妹の命の為にも聞かなかった事にする。するけどさ? ちょっと大げさ過ぎねーか?」
だって俺の作った料理だぞ? そこまでおおごとになるか?
『人にはいろんな感じ方があるからね。っていうかさ? いつもあの料理出すとき、二人以上居たでしょ?』
「あー……そうだっけ?」
『智美ちゃんと涼子ちゃんか、私と明美ちゃん。もしくは四人ともとかあったけど……誰かと二人きりで食べた事は無いはずだよ? だって、協定もあったし』
協定? でも、まあ……言われて見れば……そうだっけ? まあ確かに、誰かに手料理振舞う時って必ず複数人いた気もするけど……
「……でもさ? そんなの、言ってくれなくちゃ分かんなくね? 作ってから、『アレは大事なものだったのに!』とか言われてもさ?」
流石に理不尽過ぎやしないですかね?
『……まあね。だから怒ってるって言っても拗ねてるみたいなモンだから、ちょっと小言言われるぐらいは我慢しなさい。私だって面白く無いんだもん。涼子ちゃんや智美ちゃん、明美ちゃんの怒りはいかばかりか』
「……怖すぎるんだけど」
『まあ、モテる男はつらいね、おにい』
「やかましい」
嫌味か、おい。人生この方、モテた事なんかねーよ。彼女居ない歴、即年齢ですが、なにか?
『ま、おにいがそれで良いなら良いけど。それで? そんな事よりその『桐生彩音』って誰なの? おにいの彼女かなんかなの? そんなポッと出の新キャラ、流石に私もお義姉ちゃんって呼べないんだけど? おにい、私の許可ちゃんと取った? 記憶にないんだけどさ?』
「いや、なんで俺が付き合うのにお前の許可が居るんだよ。つうか、彼女じゃないし」
『彼女じゃないの? じゃあ余計意味が分かんないんだけど? どんなシチュエーションでおにいが手料理なんか振舞うのよ? 意味が分かんないんだけど?』
「あー……だよな。俺だって意味がわかんねーし」
『は? どういう意味?』
「いやな? その桐生彩音ってのは」
きっとびっくりするだろうな~と思いながら。
「――許嫁なんだ、俺の」
『……は? ……って、え、ええええぇぇぇぇーーーーーーーー!?!?!?!?』
あらかじめ受話口から耳を離していた俺でさえ耳が痛くなるほどの絶叫が、電話口の向こうから聞こえて来た。良かった、あらかじめ離しておいて。
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