2巻発売記念! なろう特典SS『ウチの又従姉妹がヤバすぎる件』
本日、第二巻発売です!! 前回同様、田舎者で特典付き書店様が近場に無い疎陀がお送りします。全国一億人の田舎在住の方、お待たせ致しました!w 『なろう』だけの特典SSです!! 時間軸は二巻のラストで、茜ちゃん視点。本編で登場しないラスボス、明美ちゃんのお話になります! 二巻読了後の方が楽しんでいただけると思うので、二巻の方も是非よろしくお願いします! それでは楽しんで頂ければ!!
『……と、いう訳だ』
「……そっか。頑張ったじゃん、秀明」
『おう! ま、智美さんも涼子さんも巧くは行かなかったみたいだけど……でもまあ、これで皆、前に進めるんじゃね? 俺もしっかりフラれたしさ?』
「……落ち込んでない?」
『落ち込んでは……ああ、まあな。ずっと好きだったし、多少はキツイとこもあるけど――』
長い付き合いだ。電話越しで苦笑している姿が、なんだか手に取るように分かる。
『……これで良かったんだろ、多分。まあ、いいさ! どうせ脈は無いって思ってたしな!』
「……そっか」
なんだか、胸が痛い。秀明が、智美ちゃんの事がずっと大好きだったのは昔から――本当に、子供のころから知ってるんだ。そんな秀明の見るからなカラ元気に、私はなんて声を掛けようかと口を開きかけて。
『ま、今度は俺ももうちょっと前向きな恋愛でもすっかな! 横恋慕じゃなくてさ! あ、そうだ! 俺、こないだ大会で他所の学校の女バスの子に『連絡待ってます!』って紙貰ったんだよ! 連絡でもしてみようかな? どう思う?』
――……あん?
「……ふーん」
『……あれ? なに、『ふーん』って。なんかお前、怒ってね?』
「べっつにー! それにそれ、絶対騙されてるよ? 『うわ、マジで送ってきやがった。きもー』か、もしくは嘘アドだから!」
『は!? マジかよ……怖すぎんだろ、女子高生……』
「当たり前でしょ!! アンタ、自分がモテるキャラだとでも思ってんの? んな訳ないじゃん、バーカ!! そんな事してたら、折角聖上でベンチ入り出来たのに直ぐに落ちるわよ! 女遊びに精を出しすぎないようにねっ!! それじゃ、お休み!!」
『ちょ、おい! 唐突すぎじゃね?』
「今、何時だと思ってるのよ! 乙女は寝る時間なの!!」
『お前から電話してきて、それは理不尽すぎじゃね? それにまだ七時――』
「お休みっ!!」
まだ何か言いかける秀明の電話をぶちぎって、私――東九条茜は手に持った携帯電話を睨みつける。スマホではない、ガラケーの、その待ち受け画面に映るのは私、瑞穂、それに秀明の幼馴染三人で撮った写メールだ。
「……ふんだ! なーにが、可愛い子だ、何が!」
携帯電話を折りたたみ、枕にぽふっと投げるとそのままベッドの上に置いてあったクマのぬいぐるみを抱きしめる――抱きしめるというか、ベア相手にベアハッグに近いんだけど……ともかく!
「……なーにが可愛い子だ、なにが!」
本当に、腹立たしい! 折角、こっちが積年の片思いに決着をつけた幼馴染を慰めてやろうと思ったのに、フラれたその日に別の女の子の連絡先に連絡だとー!?
「ふんだ、ふんだ、ふんだ!! バカ秀明!!」
お前の智美ちゃんに対する愛は何だったんだと問い詰めたい。小一時間、問い詰めたい。お前、あんだけ智美ちゃんが好きだったじゃないんかと!
「……バカ」
それに――いいじゃないか、別に。そんな何処の誰かも分からない女の子じゃなくても。アンタには、可愛い可愛い幼馴染が――
「――あら、茜さん? 起きていたのですか?」
「――どわぁ!!」
不意にかかってきた声にびっくりしすぎてベッドから転がり落ちる。い、いてて……おしり、うっちゃった。
「あ、明美ちゃん!! 急にドア、開けないでよ! びっくりするじゃん!」
睨みつけた視線の先、そこには又従姉妹である東九条明美――明美ちゃんが困った様な顔をして立っていた。
「それは申し訳ございませんでした。ですが、ノックをしても全然出てこられなかったので……寝ているのかと」
「……へ?」
の、ノック? そんなのしてた?
「……ノックにも気づかなかったのですか? 一体、何を――」
そこで明美ちゃんの言葉が止まる。その視線はそのまま、私の胸元に……って、なに?
「……あらあらあら。クマのぬいぐるみ、ですか」
その視線が一点に止まる。明美ちゃんの『にこにこ』とした顔に、私の頬に熱が籠った。
「こ、これは!!」
「いえ、良いのですよ? そのクマのぬいぐるみ、中学生の時に秀明さんにゲームセンターで取って貰ったものでしたか? ええ、ええ、構いませんよ」
「ち、ちがっ!!」
「違わないでしょう? 『買った方が安かったって秀明が嘆いてた』と瑞穂さんも言っていましたし……大事にされているのですね? 瑞穂さんはともかく、秀明さんは最近あって無いですし……どうですか? 幼いころは可愛い男の子ですが、今は格好いい殿方になりましたか?」
明美ちゃんは小さいころからよく私の実家に遊びに来ていた縁もあり、智美ちゃんや涼子ちゃんは勿論、秀明や瑞穂とも見知った中で……まあ、幼馴染の括りで間違いはない。間違いはないが、そうやってにこにこと笑われるとなんだか居た堪れないのでやめて欲しいのですが!
「……知らない。私だって最近、逢ってないもん。そんな事より!! なにか用事が有ったんじゃないの、明美ちゃん!!」
何時までもこの話をされても困る。そう思う私の声に、明美ちゃんが少しだけ残念そうに肩を落とす。
「……まあ、そうですね。そのお話は夕食後に『ゆっくり』お聞きしましょうか。ご飯が出来ましたよ、茜さん。今日は腕によりを掛けて作りましたので、冷める前に食べて下さい」
一転、にこやかに笑ってそういう明美ちゃん。あれ? 今日は明美ちゃんのご飯なの?
「今日、明美ちゃんが作ったの、晩御飯?」
「そうですが……ご不満ですか?」
「まさか」
明美ちゃんのご飯は本当に美味しいし。ただ、最近生徒会の執行部に入ったとかなんとかで忙しくしてるって聞いたし、そんな時間は無いと思っていたんだけど……
「大丈夫なの? 忙しいんじゃないの?」
「ご心配、ありがとうございます。そうですね、忙しいのは忙しいですが……ですが、今日はなんとなく良い事があった気がして」
「良い事? しかもあった気がするって……」
なに、そのふわっとした感じ? 良い事が有ったなら分かるけど、良い事が有った気がしたって――
「――なんとなくですが、『ライバル』が減った気がしたので」
――背中に冷や汗が走る。いや、ら、ライバルが減った気がするって何さ!?
「いえ、この言い方は正確ではありませんか。ライバルが減ったというか、私にとって都合の良い展開になった気がするというか……やはり、幼馴染は負けフラグというか」
「スパイかなんかなの、明美ちゃん!?」
なんでわかんの!? え? 瑞穂辺りがリークしてんの、これ!?
「すぱい? 何を言っているのですか、茜さん。女子高生ですよ、私は。ただ、『ピン』と来たのです。ムシの知らせというか……女のカン、と言いますか」
「シックスセンス!? なんで分かるの!?」
「分かる? それは何がでしょうか?」
「うぐぅ……」
い、言えない。流石に『涼子ちゃんと智美ちゃん、おにぃにフラれたって!』なんて言えないし……そもそも『許嫁がいるから、別に明美ちゃんの都合の良い展開にはなってないよ!』とか、もっと言えない。主に、私の平和の為に。
「……うん、それじゃまあ、それで良いよ」
「はい。それでは行きましょうか、茜さん」
そう言って『ほら、何時までもベッドの下で蹲っていないで』と手を差し出してくれる明美ちゃんの手を取って。
「ああ、そうでした。浩之さんのスーツを作ったので今度、受け取りがてら京都に遊びに来るように言って貰えませんか? 私が言っても浩之さん、『今度な』としかいいませんので。まったく! 幾ら私がメッセージを送っても『ああ』とか『わかった』とか短文しか返してこないのですよ! 茜さんからも言って下さい!」
ぷくーっと頬を膨らませる明美ちゃんに苦笑。
「ん、りょーかい。まあ、おにぃも折角スーツを作って貰ったんだったら――」
……。
………。
…………ん?
「……スーツを……作った? え? 既製品のスーツを買ったとかではなくて?」
「……別に吊るしのスーツを馬鹿にするつもりはありませんが、社交界で着るには少し見栄えが悪いですしね。浩之さんも東九条の分家の跡取り、高校生ともなれば社交界に参加していただきたいので。来年は浩之さんも受験でしょうし、無理は言えませんので今のうちに参加して――」
「す、ストップ! え? 作った? あれ? あれって仮縫いとかあるんじゃないの!? おにぃ、いつの間に仮縫いとかしたの!?」
そんな記憶は寡聞にして無いのだが! っていうか、何処で? 実家でしたの!? そんな私の疑問に、明美ちゃんは楽しそうにコロコロと笑う。
「仮縫いですか? そんな事を浩之さんに頼むと思います? 絶対面倒くさがってしないに決まってるじゃないですか」
「た、確かに……で、でも! じゃあ、どうやって!? サイズとか大丈夫なの!?」
仮縫いもしてないスーツじゃ、おにぃの体型にあうかどうかも分からないんじゃない? 幾ら東九条がお金持ちだっていっても、流石にそれは無駄なお金じゃないの?
「サイズに関しては問題ないでしょう。私が型紙を作って、信頼できるテーラーに任せましたから」
「私が型紙を作った!?」
「はい」
「か、型紙って服作る時に使うやつでしょ? そんなの、明美ちゃん作れるの!?」
いや、それよりも!
「明美ちゃん、いつおにぃにあって採寸したのさ! え? ウチの実家、行ったの?」
「いえ、行っていませんよ? 行っていませんが、芽衣子さんにお願いして浩之さんの全身写真を一枚送ってもらいました。まあ、高校入学した時の写真ですので少しばかり古いですが……充分でしょう」
「充分でしょうって……いや、それで充分って事は無いんじゃないの!? だっておにぃだって成長してるんだよ? サイズが――」
「過去の浩之さんの成長の度合いと、涼子さんや智美さん、瑞穂さんとの浩之さんとの会話の流れで推測が付きますので。それに合わせて型紙を作れば……まあ、難しくはないですよ」
「いや、難しいよ!! っていうか、それで間違ってたらどうすんのさ! いや、東九条がお金持ちなのは知ってるけど、流石に無駄使い――」
「茜さん」
言い募る私の言葉を遮るように。
「――私が浩之さんの事で……間違えると思いますか?」
――いや、怖いんですけど!! にっこり笑ってるのに物凄い圧があるんですけど!!