えくすとら! その九 精一杯の、独占欲
皆さん、自宅待機してますか~。今日はガンガン投稿していきますぜ!!
やっぱ『えくすとら!』はこうじゃないとね~って感じのお話です。番外編はアレです。お遊びです。今回書きやすかったわ~。
「……お先にお風呂頂きました」
「おう。お帰り~」
デパートから帰ってきたら……まあ、予想通りというか、なんというか……明美が来てた。『京都土産、お持ちしました~』という明美に呆れながらも、それでもお礼を言って家に上げてみれば結局夜まで居やがった。いや、桐生も楽しそうに二人で料理してたから良いっちゃ良いんだが……
「東九条君もお風呂、入ったら? 早く入らないと冷めるわよ?」
そう言っていつもの定位置、俺の前に座ってコップに入ったお茶を飲む桐生。艶めかしく動く喉に思わず視線が惹きつけられながら……俺は隣の椅子に隠すように置いてあった紙袋を掴む。
「? どうしたの? 入らないの?」
「あ、ああ。入る。入るけど……」
……いかん。緊張して来た。いや、藤堂さんからは『絶対、大丈夫だから! 彩音ちゃん、喜ぶから!!』と言われてはいるが……
「……本当にどうしたの? 具合でも悪い? それとも……なにかやましい事でもあるのかしら?」
極度の緊張をしてみせる俺に、桐生がじとーっとした目を向けて見せる。ええい! 男は度胸!!
「……その……あ、彩音?」
「……へ? あ、彩音? え、ちょ、ちょっと?」
名前で呼ぶときは『恋人っぽい』事をする時。俺らのルールで決めたそれに、彩音の顔に動揺が浮かぶ。
「……その……こ、これ! プレゼント!」
椅子に隠しておいた紙袋を彩音に差し出す。最初、きょとんとしていた彩音だったが、『プレゼント』という言葉に喜色と……それ以上の困惑が浮かんだ。
「え? ぷ、プレゼント? な、なんで? 別に誕生日でもないし……」
「その……付き合った記念って事で。ほら、俺がこう……ふらふらしていたせいで、お前には迷惑掛けただろう? だからまあ、その……お詫びって言うか……上手く言えんのだが」
言ってみれば決意表明みたいなモンだ。そう思い、『ん』とばかりに紙袋を差し出す俺に、動揺そのまま紙袋を受け取る彩音。
「その……開けても良い?」
「……ああ」
「……それじゃ……」
紙袋から出された細長い箱。綺麗に包装されたそれを丁寧に解きながら、出て来た箱を開けて。
「……あ……ネックレス……可愛い……」
ペンダントトップに何もついていない、シンプルなネックレス。細いシルバーチェーンのそれを持ち上げて下から見たり、手を下げて上から見たりと忙しい彩音。その顔に、徐々に笑みが浮かび上がって来た。
「……どうしてこれを? 私の好みにぴったりなんだけど……言ったかしら? 浩之に?」
「あー……いや、実はデパートで藤堂さんに逢ったんだよ」
「藤堂さんって……香澄さん? 図書館の?」
「そう。いや、俺も色々と悩んだんだけど……その、藤堂さんがな? 『初めて贈るんなら、絶対コレ!』って……」
「……」
「その……ぶっちゃけ、お前お嬢様だろ? だから、アクセサリーの類なんかそれこそ売る程持ってる気もしたんだが……」
最初、俺は反対したんだがな。でも藤堂さんがあんまりにも強く『絶対、ネックレスが良い!』って。『責任は取るから、ネックレスにしなさい! デザインは自分で選びなよ!』って。
「……そう。シンプルなのを選んだのは?」
「……完全にイメージ。こう、なんていうか……お前ってジャラジャラ派手なモノより、こういうシンプルな方が好きかなって。後、カモリンの服着てたろ? あれに合いそうかな~って」
俺の言葉を瞳閉じて黙って聞いていた彩音。その姿に、先ほどの緊張が蘇る。
「……その……もし、要らなかったら捨ててくれても……」
「……そうね」
俺の言葉に閉じていた瞳を開けてゆっくり微笑むと彩音は俺にネックレスを差し出した。
「……え? やっぱり要らない?」
……マジかよ。そんな俺の絶望の表情を見て、彩音がくすりと微笑む。
「……馬鹿ね。嬉しいに決まってるし……悪いけど、返せって言われても返す気はないわ。そうじゃなくて……その……」
――貴方に、付けて欲しい、と。
「……下手くそだぞ、俺?」
「逆に上手かったら引くわ、色んな意味で」
「……だな」
クスクス笑う彩音に両手を挙げて降参の意を示し、俺は彩音の後ろに回る。
「髪、上げてくれ」
「はい」
然程不器用な方では無いと思っているが……だがまあ、はじめて付けるネックレスだ。しかも、若干緊張して手も震えてるので余計に時間が掛かる。が、どうにかこうにかネックレスを付け終えた俺に、彩音はくるりと椅子ごと振り返って見せる。
「……どう? 似合うかしら?」
「……うん。めっちゃ似合う。自画自賛だけど」
「ふふふ……ありがとう、浩之。その……凄く、嬉しい」
「……まあ、その……なんだ。気に入ってくれたなら嬉しい」
なんだか少しだけ照れ臭い。そう思い、そっぽを向いてポリポリと頬を掻く。そんな俺を少しだけ眩しそうに見つめて、彩音が口を開いた。
「……ねえ? 覚えてる?」
「……なにを?」
「前にバラの花言葉の話したでしょ?」
「……あったな、そんな事も」
「それと同じように、プレゼントにも意味があるの」
「……ほう。アレか? 入院先に持って行くのは鉢植えの花はダメとかみたいなモンか?」
「まあ、当たらずとも遠からずだけど……そういうマナー的な意味じゃなくて。例えば時計、あるでしょ? 時計はね? 『貴方と同じ時を刻みたい』って意味があるの」
「……ほう」
「ネクタイは『貴方に首ったけ』、財布とか小銭入れ、キーケースなんかは『いつもそばにいたい』みたいな意味があるのよ。反対に靴なんかは『貴方を踏みつける』って意味があるから、あんまりお勧めしないわ」
「そんなに色々あるんだな。良かったよ、靴にしないで」
まあそもそも選択肢にもなかったが。
「ええ。それでね? 女性にネックレスを贈る意味は」
――貴方を、独占したい。
「……? ……っ!! い、いや、そういう意味で送ったワケじゃないぞ!?」
「あら? 貴方は私を独占したくないの?」
「うぐ……そりゃ……」
したいけど。言葉に詰まる俺に、彩音はクスクスと笑って。
「冗談よ。きっと、貴方はプレゼントの意味なんて知らなかったと思うし」
「……くそ。藤堂さんに嵌められた……」
流石に恥ずかしい。いや、独占はしたいよ? 独占はしたいけど……その……なんだ、うん。
「……でもね、浩之? 私はその意味を知っていたの」
「……そうだな。お前、博識だし……知っててもおかしくないよな」
「鈍いわね、浩之は。良い? 私は贈り物の意味を知っていた。その上で、貴方にネックレスを付けて貰ったのよ? 『独占したい』って意味を持つネックレスを、貴方の手で」
「……っ!」
それって……
「……ふふふ。一杯、束縛してね? もう、離れられなくなるぐらいに……私を、独占して?」
甘える様に俺に抱き着き、胸元に頭を擦りつける彩音。きっと、俺の顔は真っ赤だろう、それでも優しく彩音の背中に手を回す。
「……嬉しかった。本当に、本当に嬉しかった。一生の宝物にするわ」
「……そりゃ、良かった。贈った甲斐もあったってもんだ」
「でも……ちょっと不満」
「え?」
「私だけ貰ってばっかりじゃイヤじゃない。私だって、浩之を喜ばしたいもん」
「喜ばしたいもんって……いや、充分だぞ、俺は。お前が傍に居てくれたらそれで」
「それは私もだけど……でも!」
少しだけ拗ねたような表情を見せる彩音に思わず苦笑を浮かべながら、頭を撫でる。
「はいはい。それじゃ、今度なんか俺にも買ってくれ。期待しながら待ってるわ」
「そうね。サプライズじゃなくなったけど……貴方にプレゼント、買うわ」
「ちなみに何を贈ってくれるつもり?」
「聞いたらダメじゃない。でも……そうね? 今の私の気持ちを代弁するなら、口紅でも贈りたい気分ね」
「……女装しろと?」
「……そうじゃなくて」
俺の胸から顔を上げて、つま先立ち。自身の唇を、俺のそれに押し当てる。
「――口紅にはこういう意味があるの」
「……俺が贈るわ、それ」
「ふふふ。贈ってくれなくても良いわよ? いつでもオッケーだもの」
そう言ってねだる様に頭を一度擦りつけた後、目を閉じて上を向く彩音の唇に、今度は俺から口付けを落とした。