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えくすとら! その五 喫茶店『エリタージュ』

※今回はアレです。悪ふざけ回です。昔から私の作品知って下さってる方は楽しめるかも知れませんが……それ以外の方はもしかしたら『ん?』って思うかも知れませんが……アレです。今はこんな時期なんで、ちょっとお祭り騒ぎ書きたかったんです……ちなみに喫茶店の名前と内容で『あ!』と思った方はきっと、同世代。


 俺らの通う天英館高校から電車で二駅の所にあるのが、藤田のバイト先であり、俺の面接先でもある喫茶店『エリタージュ』。実家方面に向かう駅であり、俺も何度か利用した場所だが。

「……こんな所に喫茶店なんか有ったっけ?」

「出来たの一年ぐらい前だからな。ほれ、この辺りって結構シャッター商店街だろ? オーナーが家賃が安いって事で借り上げたんだよ」

「老舗喫茶店とかじゃないんだな」

「昼も言ったけど、オーナーが趣味でやってる店だからな」

「趣味、ね~。なに? 引退した高齢のマスターがやってるとか?」

 俺の言葉に藤田が遠い目線で車窓に視線を飛ばす。

「……オーナー、女子大生だ」

「……は?」

「いや、二年休学してパリかどっかに行ったから年齢的にはもう、社会人でもおかしく無いけど……まあ、一応学籍は大学にあるらしい」

「……どっかのお嬢様とかか、その人?」

「金持ちは金持ちらしいが……でもまあ、彼女の資金はそっから出て無い。なんか大学一年の時、趣味が高じて株式投資してぼろ儲けしたらしいんだよ」

「……」

「元金は実家から借りたらしいが……『利子百パーセントで返した』ってのが自慢らしい。オーナーのお父さんも良い投資先だったって笑ってたって。ああ、『良い投資先』ってのはオーナーが投資した会社じゃねーぞ? オーナー自身にな」

「……とんでもねーな」

「絵も抜群に上手くて……同人誌の即売会とかあるだろう? あそこで……なんか、有名サークルらしいわ。『壁』だっけ? だから安定的な収入もあるんだって。俺らの知ってる雑誌にも漫画載った事があるらしいぞ?」

「……なんでそんな人が喫茶店のオーナーなんてしてるんだよ?」

「いや……その理由は不明。一応、聞いた話じゃ高校時代の仲間と過ごせる場所が作りたかったらしいけど……あ、ちなみにオーナーは天英館のOGで美術部だから」

「マジか」

 俺らの先輩にそんなとんでもない人が居たのか。まあ、大学を二年留年……留年? ともかく今が大学六年生なら、俺より七つぐらい上になるのか? そりゃ知らなくても当然だろうけど。

「……なんかちょっと緊張して来たんだが」

「まあ、緊張するような人じゃない。つうか、緊張したら馬鹿見るから、緊張するな」

「……そうなの?」

「……まあ、先に言っておこう。結衣さん……ああ、オーナー、北川結衣さんは十人が居たら八人は振り向く美女だ。その上、頭良くて、良い所のお嬢様で、運動神経も抜群で、絵も上手い」

「……アニメのキャラ?」

「そう思う気持ちは分かるが……でもな?」

 そう言って藤田はそっと目を逸らし。



「――その全ての美点を差し引いてもお釣りがくるぐらい……残念な人なんだ」



「……」

「……」

「……」

「……同じバイト先に康介さんって云う結衣さんの彼氏がいる。こっちも結衣さんに負けず劣らずのハイスペックな人なんだが……『女の趣味だけは壊滅的に悪い』との噂だ」

「……」

「ちなみにあだ名は『聖人』な。あの人の彼氏を高校時代から務められるなんて、聖人かドの付くMかどっちかだろうってのが俺らの中での評価だから」

「……なあ、俺、面接行くの止めて良い?」

 これ、絶対良い事にならんと思うんだが!

「……まあ、一応面接だけ受けて見ろよ? もしかしたら奇跡的な確率でウマが合うかも知れんし」

「……」

「それに……もう『連れて行く』って言ってるしな。断るにしろどっちにしろ、一度は逢ってみろ。良い人生勉強にはなる。大丈夫。取って喰われたりはしないから」

 そう言って藤田は俺から目を逸らし。



「…………たぶん」



「もうちょっと大きい声で否定してくれない!?」

 不安になって来たんだけど、マジで!!


◇◆◇


「……あれ?」

「……ああ、藤田君。お久しぶりです」

「え? もしかして浩太さんですか? うわ、こんにちは! どうしたんですか、こんな所で? なんか久しぶりじゃないですか?」

 俺と藤田が到着した喫茶店、エリタージュの前。社会人だろうか? 一組のカップルがそこに立っていた。知り合い?

「たまたま出張でこちらの方に来たので、久しぶりに結衣さんの顔でも見ようかと思って寄ってみたのですが……今日はバイトですか、藤田君?」

「そうです! っていうか、結衣さん、店開けて無いんですか!? あっちゃー……何やってるんだろう、あの人!!」

『悪い、浩之! ちょっと待っててくれ!』という声と共に裏口から店内に入っていく藤田。っていうか、おい! お前、こんな所で俺を置いて行くな。

「ええっと……君は?」

「え? あ、俺……じゃなくて、僕は東九条浩之です。藤田君とは高校の同級生で……その……今日はバイトの面接に」

「藤田君の同級生?」

「はい」

「それでは私の後輩ですね。私は松代浩太と申します。今は東京で金融業界の方に勤務していますが……今日は出張でこちらの方に来たので。久しぶりに実家の近辺でお茶でもしようかと」

「……ええっと……もしかして、お隣の方も天英館の方、ですか?」

「違うわ。私は大川綾乃。浩太の……まあ、銀行の同僚よ。今回の出張、二人で来たの。それで、仕事も終わったしちょっと休憩して帰ろうかって思ったら、浩太の高校の時の後輩が経営しているカフェがあるって聞いたから、ちょっとどろぼ――コホン、まあ来てみたんだけど……どうする、浩太? もう結構時間、ヤバいよ?」

「あー……だな。残念だけど、もう帰るか?」

 そう言って腕時計を見る松代さん。なんか、出来る男っぽくて格好いい。

「……仕方ないか。それじゃ、帰ろう。ええっと……東九条君? 申し訳ないけど結衣……オーナーに帰ると伝えて置いてくれないかな? これ、東京土産だから、渡しておいてくれると嬉しいかな?」

 少しだけ困った様な、それでいて申し訳無さそうな顔をして俺に紙袋を差し出す松代さん。俺はその紙袋を両手で受け取った。

「分かりました。必ず、お渡しします」

「面接って事は初対面でしょ? そんな子に頼むは忍びないんだけど……新幹線の時間があるから」

「いいですよ、渡すぐらい」

 本当に。

「悪いね? それじゃ、よろしく。おい、綾乃。帰るぞ」

「浩太の段取りが悪いせいで無駄な時間を過ごした~。これは事案ね、事案!」

「……悪かったよ。東京帰ったらなんか奢る」

「らっきー! それじゃ、お酒飲みに行こ!」

「……明日も仕事だぞ?」

「いいじゃん。そんなに遅くはならないし……あ、泊まってく?」

「アホか。エリカさんもエミリさんもソニアさんも待ってるんだし、んなこと出来る訳ねーだろう? それに……あの家にはシオンさんがいるから、あんまり近寄りたくない。残念が移りそうで」

「可哀想に……っていうか、エリカやエミリばっかりズルいよね~。一緒に住んでるの」

「……一応言っておくけど、隣の部屋だからな? 毎日通って来るだけで」

「良いな~。私も浩太の隣の部屋に引っ越そうかな~」

「……勘弁してくれ」

 そんな事を喋りながら歩き出す二人。その背中を見ながら、思う。

「……絶対リア充だろ、あの人」

 なに? ハーレムでも抱えてるのか、あの人? 主なの? ハーレムの主なの? そう思いながら、彼らの背中を見送って電柱の角を曲がった所で。



「――浩太先輩!!」



 バーンっと喫茶店のドアが開く。その音に慌てて俺は後ろを振り返り。


「……ああ」


 まず、藤田の言葉が間違っていない事に気付く。顔は完全に美女だ。整った目鼻立ちに、大きな瞳。十人が見れば八人が振り返るのは頷ける、そんな美貌。美貌だが。


「……今は十人が見たら十人が振り返るぞ」


 完全に頭が爆発した寝ぐせに、ぶかぶかのスウェット。目の下にはすさまじいクマを作っており、口元には涎のあとが付いている。うん、『美女』の全てを無駄にする、百年の恋も覚める、そんな美貌のまま。

「藤田!! いない! 浩太先輩、いない!」

「知りませんよ! ってか結衣さん! そんな恰好で表に出ないで下さい!! 恥ずかしいんで!!」

「なぜだーーー!!」


 往来で絶叫を上げるそんな美女……美女? の姿を見て。


「……ああ、これ、ダメなヤツだ」


 俺は来る場所を間違えたのを悟った。


みなさん、自粛疲れもあると思いますが、少しでも楽しみになって下されば!!

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