えくすとら! その四 開催された女子会は祝福の宴
俺、閃いた! 不要不急の外出を避ける為に『なろう』の作家は皆今日、執筆して投稿しようぜ! 書き手は執筆捗るし、読み手は好きな作品読めて幸せ!! 『なろう』が日本を救うって凄くないです?w
昼休みの屋上は我が校でもトップを誇る人気スポットだ。沢山の生徒が集まり過ごす、そんな憩いの場で私――桐生彩音を見ながら、智美さんがため息を吐いた。
「……本当に凄いね、彩音の御威光は。皆、彩音の顔を見て帰って行っちゃったわよ」
「……私のせいかしら?」
なんせ、智美さん、涼子さん、川北さん、有森さん、藤原さん、私の六人も居るのだ。そっちが原因じゃなくて?
「そんな訳ないでしょ? 主に彩音の悪評が原因よ。悪役令嬢のね?」
「……ぐぅ」
からかう様な口調でそういう智美さんを軽く睨む。と、それを取りなす様に川北さんが声を上げた。
「ま、まあまあ! 智美先輩も桐生先輩も落ち着いて! ともかく、座りましょう! 私、シート引きますね!」
リハビリも順調に進んでいるのか、せわしなく動き回る川北さんに藤原さんと有森さんも手伝いを申し出る。そんな後輩たちを見つめて、涼子さんはニコニコとお弁当の箱を開けながら私達二人に視線を飛ばした。
「さあ、智美ちゃん、彩音ちゃん? 座って座って~。今日は奮発して作って来たから!」
後輩たちが働いているのにただ座っているだけというのも少し抵抗があるが……まあ、特段手伝えることも無いので黙って座る。そんな私の前に、いそいそと涼子さんが配膳をしてくれた。
「……流石、お嬢様。お世話のされ方も堂に入っているわね」
「……智美さんほどじゃないと思うけど? ナチュラルに接待されているじゃない。それ、ウーロン茶でしょ? なんで貴方だけ別の水筒用意してるのよ、涼子さん」
「まあ、付き合い長いからね、私と涼子は。私の好みを知り尽くした女、それが涼子!」
「もう! なに言ってるのよ、智美ちゃん。少しはお手伝いしてよね!」
「えー……だって私が手伝ったら、邪魔するのが関の山じゃない」
「……邪魔じゃない様に努力する方向は無いんだね」
そう言って肩を落とす涼子さん。なんというか……本当に苦労人だと思う、この人は。
「……ま、いいじゃない。それじゃ皆用意も出来たし、食べようか?」
「全然準備してない智美ちゃんが言う事じゃないけど……まあ、そうね。それじゃ食べようか」
そう言ってパチンと手を合わせる涼子さん。それに倣うように智美さん、川北さんと続き私も手を合わせて。
「……それじゃ、彩音」
来たか。そう思い――それでも、目を逸らす事は出来ない現実に立ち向かう為に、私はぐっと唇を噛んで。
「……何かしら?」
そんな私に、智美さんはにっこりと笑い。
「彩音の彼氏誕生記念、昼食会をしましょうか~」
……はい?
◇◆◇
「……それにしても、びっくりしたわ」
「びっくり?」
「ええ。だって、急に智美さんから『明日、屋上で一緒にお弁当食べよ。ヒロとの事も聞きたいし』ってメッセが届いたじゃない?」
そう。
今日のこの『女子会』は、智美さんからのメッセージが送られて来ての開催だった。『明美から聞いた』という文言がある事から、きっとこの女子会は私にとって厳しいモノになるだろうという予想があり……それでも、目を逸らしても居られないと勇んで来たら、これだ。きょとんともしてしまう。
「そうだね~……あ、もしかしてしめられるとでも思った? 『私のヒロ、盗ったな! この泥棒猫!』って」
「そこまでは思って無いけど……」
……まあ、恨み言くらいは言われるだろうとは思っていたけど。だって、貴方達にとって、東九条君は大事な人、でしょう?
「……まあ、完全に納得行ったかって言われたら……正直、腹立たしい事もあるわよ」
「……ごめんなさい」
「……へ? ああ、違う違う! 別に彩音を責めているワケじゃなくて……なんだろう? 彩音を前に言うのもなんだけど……ほら、私って一遍、ヒロに告白されかけてる訳じゃん?」
「……そうね」
「……怖い顔しないの。過去の事だから。だからまあ……チャンス逃したのは自分だしね。そりゃ、仕方ないかなって」
そう言って照れ臭そうに笑う智美さん。その智美さんの言葉を、涼子さんが引き継いだ。
「前も言ったけど、私は別に浩之ちゃんが誰を選んでも文句は無いんだよね~。最終的に私の所に帰ってくればそれで良いかな~って感じだし」
「……それは、私と東九条君が直ぐに別れるって事かしら?」
「そこまでは言わないけど……まあ、その可能性はゼロでは無いでしょ?」
「ゼロよ……と、言い切りたいけど……そうね。少なくとも、私からは『ゼロ』よ」
「浩之ちゃんに『別れよう』って言われたら?」
東九条君に別れようって言われたら? そうね……
「足元に縋りついて『捨てないで』って泣き叫ぶわね。恥も外聞も捨てて」
「……重くない、彩音ちゃん?」
「……一度、離れ離れにされそうになれば分かるわよ」
あれは本当につらかったから。まあ、雨降って地固まるでは無いが、そのお陰で良い方向に転換されたと言えば転換されたので不満も言えないのだけど……ううん、やっぱりちょっと不満だ。
「……ともかく、私から言えるのは東九条君から離れるつもりはないし、東九条君から別れたいって言われても別れるつもりはない、それぐらい大好きよ」
「……照れも無くなって来た?」
「照れてる場合じゃないでしょ? 智美さんも涼子さんも、まだ東九条君の事を諦めてないなら……失いたくないなら、照れてる暇なんて無いわ」
「……ひゅー。格好いいね、彩音。それでこそ、倒し甲斐があるわ!」
「そうだね~。簡単に白旗上げる人よりはいいね~。じゃないと、なんだか浩之ちゃんを馬鹿にされた気がするし。その程度の人に一時的にでも浩之ちゃんを渡したのかって気分になっちゃうもん」
「……」
……きっと、『敢えて』だろう。私に罪悪感を抱かせない様に、きっと悔しいし、妬ましいだろうに……それでいておちゃらけた風を装ってくれるこの二人に、涙が出そうな程に感動する。
「……ええ、奪えるものなら奪ってみなさい!」
だから、私は胸を張って宣言しよう。『悪役令嬢』らしく。
「ほら! 瑞穂も宣言しないと!」
「そうだよ! そうじゃないと東九条先輩、瑞穂の所に来てくれないよ!」
有森さんと藤原さんがそう言って川北さんを肘で突く。唐揚げを頬張っていた川北さんは、面倒くさそうにポツリと。
「……まあ、私の場合はどっちにしろ先輩方と明美ちゃんの誰かと浩之先輩は一度はくっつくと思ってたから……ショックはそこまで大きくはないの。涼子先輩と同じ考えですね~」
そう言ってニカっと人好きのする笑顔を浮かべて。
「そもそも私、明美ちゃんと並ぶ浩之先輩ガチ勢ですし。一回や二回フラれたぐらいで諦めて上げられる程度の軽~い気持ちなら、こんなに初恋拗らせてるワケ、ないじゃないですか~」
「……そう」
「ええ。だから桐生先輩? 今だけ精々、浩之先輩を独り占めしておいてくださいな。一年後ぐらいには多分、浩之先輩の隣には私が居るし~」
タコさんウインナーをパクっと一口で食べて綺麗な笑みを浮かべる川北さん。この子もやっぱり、良い子だ。
「……ありがとう」
「お礼を言われる事じゃないですけど……じゃあ、一個だけ、お願いしても良いですか?」
「……東九条君は上げないわよ」
「要りませんよ、お下がりなんか。私は自分で勝ち取るんですから。そうじゃなくて……その、桐生先輩、お二人の先輩方名前で呼んでるじゃないですか?」
「そうね」
「だから私も名前で……『瑞穂』って呼んで欲しいかな~って」
「あ、瑞穂ずるい! 私も! 雫って呼んで欲しいです!」
「その……私も理沙で。ええっと……その、桐生先輩も彩音先輩って呼んで良いですか?」
……本当に、良い子達だ。
「……ええ。瑞穂さん、雫さん、理沙さん」
私の言葉に嬉しそうに顔を綻ばす三人。そんな三人を楽しそうに見つめ、智美さんが口を開いた。
「よし! それじゃ、交友を深めるって事で放課後何処か遊びに行こうよ! 折角だし!」
「いいね~。何処行く? カラオケ?」
「カラオケも良いけど、それってあんまり喋れないじゃん? 今はがっつり喋りたい気分!」
「まあね~。ボックスで喋るだけってのもアリだけど……絶対、歌いたくなっちゃうよね、智美ちゃんが」
「涼子もでしょ。でもまあ……あ! そう言えば雫、藤田がバイトしてる喫茶店があるって言って無かった?」
「……あー……まあ、はい」
智美さんの言葉にありも――雫さんが微妙な表情を浮かべて見せる。なに?
「働いている恋人の姿を見られるのは恥ずかしいかしら?」
「いえ、そうじゃないんですけど……その、藤田先輩が働いている喫茶店って、ちょっと特殊というか……」
「特殊? 値段設定が高いとか?」
「いえ、そうでは無い……事も無いですが、その……執事喫茶なんですよ、藤田先輩のバイト先って」
――執事喫茶? なにそれ?