えくすとら! その二 朝からアツいお二人さん。
温かいお言葉ばかりで良かった! これから堂々と続けることにします。さんきゅー!!
更新ペースはたぶん、週に二回とか三回ぐらいになるかな~、と。遅いけどゆっくり書き進めます。
「そう言えば」
「ん?」
翌日、桐生お手製の朝食を食べながら俺は桐生に声を掛ける。フォークを咥えたまま『ん?』と首を傾げる桐生に『お行儀が悪い』と言いながら、俺は言葉を続けた。
「学校、どうする?」
「どうするって……行くけど」
「そうじゃなくて……その、付き合ったとか、そう云うのって……」
「……ああ」
俺の言葉に合点がいったのか、桐生が悩まし気に眉根を寄せる。
「そうね……どうしようかしら。涼子さんとか智美さん、瑞穂さんには言うだろうけど……」
「後は藤田と有森ぐらいか?」
「藤原さんもでしょう?」
「……そうだな。それぐらいの所か」
「そうね……色々、バレたら困るし」
そうだよな。現在、俺と桐生は同棲している訳だし……あんまりこう、『付き合ってる!』と言い触らしたらいい事にならん気はする。いや、そこまで下世話なヤツも居ないだろうがどっかで同棲がバレたら困るしな。
「……そうだな」
「……」
「どうした?」
「……でも、その……積極的に言い触らしたりはしないけど、聞かれたら答えるのは良いでしょ? 付き合ってるか、って言われたら……『うん』って答えても良いんでしょ?」
「そりゃ構わんが……なんだ? 聞かれる予定があるのか?」
さっき挙げたヤツ以外でお前、友達いたっけ?
「……なにか失礼な事を考えられてる気がするけど……違うわよ。私じゃなくて問題は貴方の方よ」
「俺?」
「貴方は私と違って友達、多いでしょ?」
「いや、別に多くは無いが……」
まあ、学校で喋るヤツぐらいはいるよ。遊びにってなるとそんなに数は多くは無いが……まあ、数人ぐらいはいる。
「なら、その友達に聞かれた時には正直に答えて欲しいの」
「いいけど……なんで?」
そんな俺の言葉に、桐生は少しだけ頬を染めて、ツンっとそっぽを向いて。
「だって……貴方の口から『桐生? 付き合ってないよ』って聞くの……辛いもん。たぶん、泣いちゃう」
「……」
「私だって……もし聞かれた時に、嘘でも『東九条君? ただのお友達です』なんて言いたくないわ」
「……そうかい」
「ええ。『自慢の彼氏よ! むしろ殆ど婚約者よ! 良いでしょう!!』って凄く自慢して回りたいもの」
「……自慢の彼氏って」
自分で言うのもなんだけど……俺、そこまで自慢できる彼氏では無いと思うんだが……
「何言ってるのよ!! 自慢の彼氏よ!!」
「……ウチの彼女の贔屓目が凄い」
贔屓の引き倒しじゃねーか、それ。ジト目を向ける俺に、桐生は更にヒートアップする。
「そんな訳無いわよ! 貴方ね? 前から言おうと思ってたけど、もう少し自己評価高くても良いと思うわよ? 充分、貴方は立派なんだから。っていうか、少しぐらいは自信を持って貰わないと困ります!」
「そうか? そんな事は無いと思うが……むしろ、お前の方が立派だろ?」
そもそもコイツ、『悪役令嬢』なんて評判こそあるも、顔良し、頭良し、運動神経良し、だしな。最近、性格の方もちょっとずつ丸くなってきてるから……あれ? やっぱり俺、釣り合わない? なんか若干不安になって来た俺に、桐生はイライラした様に口を開き。
「そんな事あるの! だって貴方、今私のクラスで――」
そこまで喋り、はっと何かに気付いたかのように桐生が慌てて口を塞ぐ。おい。なんだよ? 『私のクラスで』なんだよ?
「……桐生?」
「な、なんでもない!」
「なんでもないって……」
イヤ、明らかに嘘だろうが。そんな俺のジト目に、『うっ』とした表情を見せながらそれでも観念したのか、桐生が口を開いた。
「……その……ウチのクラスにもバスケ部の女の子がいるのね」
「おう」
「それで……その、分かるでしょ? こないだの試合で……貴方のプレイを見たらしいのよ。格好良かったって」
「……おう」
なんだ? 物凄く照れ臭いが……まあ、格好悪いよりは格好良い方が良いか。
「……んでもそれ、一か月くらい前の話だろ?」
「……」
「……あれ?」
違った?
「……違わない。違わないんだけど……貴方、今回のテストで良い順位、取ったじゃない?」
「……まあ……過去最高順位だしな」
「それで、山根さん……ああ、バスケ部の女子ね。その子が教室で騒いでたのよ。『東九条って冴えないヤツかと思ってたけど、バスケの時は格好良かったし、その上勉強も出来るんだ! 智美、それを知ってたからずっと東九条ベッタリだったのかー! 不思議だったけど、納得した!』って……忌々しい事に」
「……お、おう?」
……桐生さん? その、目が物凄く座ってますが……
「……しかもまあ、それをクラス内で大声で話すものだから、女子たちの耳に入ってね? 今、貴方、私のクラスでプチバブル状態よ。ストップ高になりかかってるわ」
「……桐生、目が怖い」
「……私だって貴方の評価が高いのは嬉しいし、誇らしいのよ? 頑張って勉強してたのも知ってるし、その努力が認められるのも嬉しい。それに……」
「……それに?」
「……それに、その『頑張った』のが……『私の為』って言うのも……自分でも醜い感情だなって思うけど……こう……ゆ、優越感というか……」
「……別に醜いとは思わんが……」
自分の為に頑張ってくれたってのが嬉しい気持ちは分かるし。皆藤田じゃないしな、うん。
「……だから、ちょっと心配でもあるのよ。貴方が魅力的だと知って貰ったのは嬉しいけど、それ以上にこう……不安で」
心持肩を落としてしょんぼりする桐生。そんな桐生に苦笑を浮かべて、俺は席を立って桐生の傍まで歩く。
「……彩音」
両手を広げて見せると、『あ、朝から!?』と少しだけ躊躇した後、おずおずと彩音は俺の腕の中に納まった。
「……その……大丈夫だ」
「……何がよ」
「どうせ一過性のモノだろ? 直ぐに飽きられるって」
「そう……かも知れないけど……前科、あるもん」
「……前科って」
「こないだ、告白されてたじゃない。一年生の後輩に」
「……まあ」
あるけど……前科って。
「……その……浩之が浮気するとか、そんな事は全然思ってないんだけど……なんとなく、『もやっ』とするのよ。浩之が正当に評価されて嬉しい癖に……こう、貴方が評価されたら、なんとなく不安というか、不満というか……」
「……独占欲か?」
「……そう、なのでしょうね」
そう言って俺の胸から顔を上げて不安そうにこちらを見やる桐生。
「その……やっぱりこんな子、イヤかな、浩之? 重い?」
縋るような桐生の視線に苦笑を浮かべて首を左右に振る。
「……まさか。嬉しいに決まってんだろ? そこまで想って貰えてるんだって、幸せな気分になる」
それに。
「……俺もちょっと思ったからな。今の彩音はホレ、昔より丸くなっただろ?」
「……太った?」
「ベタなボケを……性格だよ、性格」
「……そうかな?」
「そうだよ。彩音はそもそも顔も頭も良いし、これで性格良かったらすげー人気になると思うんだよな」
「……そんなの、いらないもん。浩之だけに人気があれば、それでいいもん」
「……また嬉しい事を」
思わず頬が緩む。
「……ともかく、そんなに心配するな」
「……うん」
ポンポンと頭を撫でて、優しく肩を押して抱きしめていた腕をゆっくり離す。少しだけ不満そうに頬を膨らました後、桐生はにっこりと微笑んで見せた。
「……あとね?」
「うん?」
「……その、付き合ってる事を隠したら……その、学校帰りとかもコソコソしないといけないじゃない?」
「……まあ」
そこまで考えていた訳では無いが。なんだかんだでちょくちょく出かけてたしな。
「その……私、してみたかったの」
制服デート、と。
「だ、だめぇ?」
懇願するように上目遣いでこくんと首を傾げる可愛い桐生を前に、俺にダメなんて選択肢は最初から無かった。
『えくすとら』はたぶん、ずっとこんな感じ。たまにスパイス的な話が入るかと。