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エピローグ 許嫁が出来たと思ったら、その許嫁が学校で有名な『悪役令嬢』だったんだけど、どうすればいい?

五か月間、ありがとうございました!! 完結です!! わーい!!


 ちゅんちゅん、と雀の鳴く声で目を開ける。今ではすっかり見慣れた天井を見るとは無しに見つめていると、キッチンの方からみそ汁の良い匂いが漂って来た。ぐー、っと腹の虫が餌を欲する音が聞こえる。もう朝か。

「……寝すぎた?」

 今日は土曜日。まあ、別に大して用事もある訳ではないので良いのは良いんだが

「……ふわぁ……今日は和食かな? 珍しいな、桐生にしては」

 そう言いながら同居人で――そして、恋人の桐生の朝飯に想いを馳せる。



 ――あれからの事を少し話そうと思う。



 桐生の宣言に『いや、彩音ちゃん、本当に最高だね!』と馬鹿ウケした親父と、『結局、根本的な所はなにも変わってない……浩之君、くれぐれも宜しく頼む』と肩を落とす豪之介さんの二人により、俺と桐生の許嫁関係は解消した。まあ、許嫁関係解消したのに、なんでまだ一緒に住んでるんだって話だが……その、なんだ。



 ……桐生がごねたんだよ。



 いや、俺だって別に桐生と一緒に暮らしたくなかったワケじゃない、むしろ一緒に暮らしたかったんだが……ほれ、許嫁でも無い、ただの恋人の高校生が同棲っておかしいじゃん? だから、『せめて大学生になるまでは別々に暮らしなさい』と言う豪之介さんの言葉に俺も頷いたんだが。




『……その……もう、は、離れたくない……もん』




 ……俺の服の袖をぎゅって握って、泣きながら俺を見上げる桐生の可愛い事。泣く子と地頭には勝てんというが、泣く子が好きな子ならもう、完全敗北だよね? 必死に親父と豪之介さんに頼み込んだんだよ、俺からも。

『……分かった。それじゃ、此処に住みなさい。桐生さんも良いでしょ? 可哀想な事もしたし、罪滅ぼし代わりに』

『……仕方ないですな』

『……でも、浩之? お互い高校生、節度あるお付き合い、するんだよ?』

 ……と、まあこういう経緯で同棲継続と相成った訳だ。まあ……『浩之、本当に節度を持ってよ? じゃないと桐生さんに本当に樹海に連れて行かれるからね? イヤだよ、僕。身内から行方不明者出すの』って言われたのもあるし……何より、桐生の事は大事にしたいから……その、まあ、なんだ。察してくれ。

「……んー……そろそろ起きるか」

無駄な回想はお終い、そろそろ起きるか。そう思い、俺は自室から外に出てキッチンに向かって。




「……なんで居るの?」




「あ、おはようございます、浩之さん!! 今日の朝食は和食にしましたよ!!」

 キッチンの扉を開けた先に、ほっかむりをした明美の姿がそこにあった。いや……なんで居るの? お前、京都に居るんじゃなかったっけ?

「……始発で来たらしいわよ、明美様。呼んでも無いのに。ちなみにこの後、涼子さんと智美さんも来るらしいわ。昼からはリハビリ終わった瑞穂さんも来るらしいし……ねえ、東九条君? 我が家は何時からたまり場になったのかしら? 私、許可した覚えはないんだけど?」

「許可した覚えって」

 いや、俺にも無いんだけど。

「もう、彩音様。そんなイケずな事を言わないで下さい。良いじゃないですか、京都から来ているんですから、旧交を温めに来ても」

「……別に私、頼んでないんですけど?」

「そんなつれない事を仰られず。ねえ、浩之さん?」

 ね? とにっこりと微笑む明美。おお……桐生の額に青筋が浮かんでいる。

「……いや、お前さ? 別に来るなとは言わんけど――」

「はい、言質頂きました!」

「――流石にって、おい! なんだよ、言質って!」

「ちょっと、明美様!! 何勝手な事言っているんですか!」



 ――明美は今まで通り、土曜日から日曜日に掛けてこうやって我が家の向かいの家に……なんだ? 遊びに? 遊びに来ている。大変だろうと思うのだが……彼女曰く、『愛ゆえに!』との事。いや、ちゃんと桐生が好きだという事は伝えているし、振り向くつもりは無いと言っているのだが……『私の勝手です。私は友達の彩音様に『会い』に来て、ついでに彩音様の彼氏である浩之さんに『逢って』いるだけです。そのついでに、アピールをしているので!』との事だ。桐生は桐生で、『……好きにしてくれれば良いわ』と言っているので、もう俺が口を出す余地はなかったりする。ちなみに、『空き部屋にすると傷みが早くなりますので、勝手にお使い下さい』と涼子と智美、それに瑞穂に合鍵を渡しているので、平日の大部分は誰かしら向かいのお宅に居たりする。いや、そんな直ぐに痛まんだろうとか、なんか監視されてるみたいでちょっとヤダとか色々言いたい事はあるんだが……まあ、明美の部屋だし、こちらも明美と同様の理論で、『友達の彩音に会いに来ている!』というので……まあ実際、俺が居ない日でも普通に遊びに来ているし、桐生が良いなら文句も言えない。

「……はぁ……」

「……ふふふ」

 ため息を吐く俺に、楽しそうに笑った後、明美はこちらに顔を近づけて耳元で囁く。




「――ああ言ってますけど、彩音様。私たちが来ると絶対、部屋に上げてくださるんですよ?」




「……知ってる」

 ……知ってるよ。なんなら昨日、『明日も明美様、来るのかしら? ちょっとお買い物にいかない、東九条君?』なんて言って色々茶菓子とか準備してたしな。しかも、ちょっと嬉しそうに。なんだかんだですっかり友達だよ、こいつらも。

「……それなのに、浩之さんは彩音様がいらっしゃらないと絶対に家に上げてくれないって言ってましたよ、智美さんが。幼馴染が可哀想だとは思わないのですか?」

「……そりゃそうだろう?」

 彼女が居るのに、他の女と二人っきりは不味いだろうし。その代わり桐生が帰って来たら入れてやるぞ?

「……意外に身持ちが固いのですね、浩之さん」

「身持ちが固いってワケじゃないんだが……」

 なんだろう?


「それで桐生が傷ついたりしたらイヤだからな。だからまあ、桐生が嫌がるような事は――って、なんだよ、その顔?」


『うへ』みたいな顔すんなよ。なんだよ?

「いえ……惚気に少し、当てられてしまいましたので」

 詰まらなそうにそう言いながら……それでも笑顔を浮かべる明美。



「……良かったですね、浩之さん」



「……さんきゅ」

「はい……でーも! 私だって負けませんので!! それじゃ浩之さん、また後で!」

「あれ? 帰るのか? 飯は?」

「勝手にお邪魔した身ですからね。彩音様と浩之さんの分はありますので食べておいて下さいな」

 そう言ってほっかむりを脱ぐと、『それでは』と我が家を後にする明美。なんだったんだ?

「……気を遣って下さっているのよ」

「……あれで?」

「まあ……ああいう急な来訪は控えて下さると嬉しいけど……でも、『浩之さんに挨拶したら帰りますので……一旦。イチャイチャして下さいな』って」

「……二人の時間も大切にってか?」

「そういうこと……だと思う。『アピールはしますが、邪魔をするつもりはありませんので!』って言ってたし」

 ……やれやれ。

「……まあ、それじゃ折角だし冷める前に頂くか?」

「そうしましょうか」

 食卓から香る香りにもう我慢出来ん。かき込む様にご飯を食べていると、桐生が黙ってお茶を出してくれた。

「さんきゅ」

「いいえ。それにしても……明美様、料理上手よね?」

「和食は一日の長があるかな~。京都の本家、和食ばっかりだし」

「ううん……私もこれぐらい上手くなりたいわ」

「……焦らんでも良いだろ」

 その……時間はたっぷりあるんだし。

「……ふふふ」

「どうした?」

「ううん……まさか数か月前までこんな事になるなんて思いも寄らなかったな、って」

「……だな」

 朝起きたらいきなり『浩之、来週の土曜日から家出てていってね』だもんな。そっから色々あったが……ほんの数か月の事って思うとなんだかあっという間の気もする。

「……色々あったわね」

「……ああ。つうか……悪かったよ」

「? なにが?」

「その……お前を泣かせて」

 結局、転校云々と言われてコイツが泣いたのだって、はっきりしなかった俺のせいだしな。

「ああ……そうね、凄くショックだったんだから」

「う……わ、悪い」

「ふふふ。じょーだん。でも……貴方と一緒に居れる事、私本当に幸せだと思ってるわ。だから」



 これからは――いっぱい、笑顔にしてね? と。



「泣くのは嬉し泣きだけが良いな~、私」

「……善処する」

「絶対って言わない所が東九条君っぽいわよね?」

「う……や、約束する」

「ふふふ。じゃあ、期待してます。でも、言葉だけじゃあれだから……その……あ、明美様も、ああ言って下さったことだし……」




『浩之』、と。




 ――それは、俺らの中で決まったルール。


「……なんだ、『彩音』?」



『い、いきなり名前呼びは恥ずかしいから……そ、その……こ、『恋人っぽい』事をする時限定から始めて……じょ、徐々に慣れていく方向で……だ、だめかな? そ、その……ひ、『浩之』……』

 


 ……涙目上目遣いで、頬を上気させてそう言った桐生――『彩音』、ヤバいくらい可愛かった。最初こそ若干、残念だなとは思ったが……今では良かったとも思っている。マジで俺、豪之介さんに樹海に送られかねん。『恋人モード』の桐生の甘え方、マジで半端ないからな。逆にスイッチのオンオフみたいに切り替えが出来る提案をしてくれて心底良かったと感謝していたりする。


「そ、その……」

 頬まで真っ赤に染めて、目をぎゅっと瞑る彩音。そのまま、少しだけ顎を上げるその仕草に苦笑と――そして、愛しさが溢れ、俺は席を立ちあがって彩音の肩にそっと手を置いて。




 ――ピーンポーン、と。




「ひろゆきくーん! あそっびましょー!」

 ピンポンピンポンピンポン……

「……」

「……」

「……ああ、もう! うるさいわね、智美さん!! っていうか、明美様! 邪魔しないって言ってた癖に!! 罠!? あれは罠なの!?」

 ドアホンから見えるのはちびっ子よろしくピンポンピンポンとチャイムを連打する智美と、必死にそれを止めようとする涼子、そして『何をしようとしてたか、まるっとお見通しです』と言わんばかりにあっかんべーをする明美の姿が映って。

「……あ」

 今まさに、怒り顔を浮かべた『桐生』が玄関に出て来た。『ごめんごめん』と頭を下げる智美に、申し訳なさそうに声を掛ける涼子、尚もこちらにあっかんべーを継続する明美とカオスな状況が繰り広げられている。

「……何やってんだか」

 近所迷惑……にはならんだろうが、それでも何時までもあんなみっともない光景は見たくない。


「さて……それじゃ、愛しの彼女を止めに行きますか」


 数か月前には想像できないその光景を見やり、俺は苦笑を浮かべて席を立つ。



 ――そりゃ、最初は思ったよ?



『許嫁が出来たと思ったら、その許嫁が学校で有名な『悪役令嬢』だったんだけど、どうすればいい?』って。



「……簡単だよな」


 そんなの。




「――ただ、愛すれば良いんだよ」




 もう、『許嫁』ではないけど……それでも、『愛しい彼女』だから。



「……はっず」



我ながら臭い事を言ったと思い――それでも、その言葉に嘘が無い事を確かめて、俺はキッチンを後にした。



くぅー、疲れました! 本編、これにて完結です!! いや、マジで疲れた……


思い起こせば丁度五か月前の10月20日に投稿して丸五か月、この日を迎えるために書いて来たと言っても過言ではありません。殆ど書き溜めなしで、ほぼ日刊で書いていたので……正直、ちょっと疲れた感はありますw 自分で言うのはなんですが、凄くね? クオリティは横に置いて、五か月で六十万字弱、ラノベ約六冊分をほぼ日刊で書いたって。平日普通に仕事してんのに。そんなんできひんやん、普通。


さて、冗談はともかく、これで本編は終了です。浩之君と桐生さんの物語は如何だったでしょうか? 『面白かった』『楽しかった』『桐生さん、ラブ』などのコメントが頂ければ幸いです。


今後のこの作品ですが……第一部、【二人は修羅場を乗り越えて恋人になった編】が終了したので、今後は第二部【付き合った後も実は待っていた修羅場編】がスタートします。具体的には『文化祭編』とか『修学旅行編』とか『進級編』とか桐生さんと浩之君のイチャラブライフが色々待ち構えています。


……ごめんなさい、嘘です。番外編は幾つか書くかと思いますが……取り敢えず、此処で一旦完結です。個人的に綺麗に終わらせてあげる事が出来たと思うので。


でも絶対に書こうと思っているのは結局本編に登場しなかったラストヒロインです。流石に報われなさすぎるし……供養も込めて。たぶん、『藤田君と有森さん』ぐらいの長さになるかな~、と。ちょっと今は新作書きたい(今度は書き溜めして!)のでちょっと休憩した後、まったりペースで初めて行こうかと。


最後になりましたが、読んで下さった皆様、本当にありがとうございました。ジャンル別で日間・週間・月間一位頂いたのも皆様のお陰です! 総合でも最高順位日間五位らしいので……重ねて感謝です。感想欄での沢山の感想も、本当にありがとうございました。面白かったという感想も、此処はこうじゃね? という感想も、作者マジふざけんな! という感想もどれも凄く嬉しかったです、マジで。反応が無いのが一番寂しいので。その上、レビューまで頂いて……感無量です。あ、完結ご褒美で感想とか書いて頂けたら嬉しいです。ついでにブクマした後に、こう、☆のボタンを押して頂いたらもっと喜びますw


さて、五か月間という長い間、お付き合い頂き本当にありがとうございました。今後とも『なろう』の片隅でひっそりと活動していきますので、何処かで再びお逢いできる日を楽しみにしております。ではでは~


令和二年三月二十日 疎陀陽


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― 新着の感想 ―
[一言] あとがきの『番外編は幾つか書くと思いますが』って、話数3桁行ってるんですが、それは
[良い点] まあ最後の方思うところはあったけど終わりよければ全てよし!
[良い点] 疎陀陽さん「完結」本当にお疲れ様です! 今、僕は大学生ですが、2000文字のレポート書くのにヒーヒー言いながら書いていますが、60万文字って…神でしょ… ラブコメ結構気に入って読んでいます…
2020/03/29 16:35 退会済み
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