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第百七十一話 お守り代わり


 発熱日、その翌日と大事を取って学校を休んだ俺はその後の水曜日から元気に学校に登校することが出来た。

「お? おはよう。風邪治ったのか、浩之?」

「うっす。まあ、なんとかな」

 カバンを机のフックに掛けながら椅子を引く俺に藤田が声を掛けて来る。そんな藤田に軽く手を挙げて席に着くと、同時に智美も駆け寄って来た。

「おはよ、ヒロ。元気になった?」

「おう。つっても唯の風邪だからな。そら直ぐに良くなる。大事を取って昨日は休んだだけだしな」

「そっか。まあ、もうすぐテストだもんね~。どんなカンジ? 勉強の進捗の方は」

「二日殆ど勉強出来て無いからな。少しばかり不安だが……」

 でもまあ、もうやるしかないよな。今更そんな事言っても仕方ないし、こっから頑張るしかねーわな。

「それじゃ頑張らないとね! でも良かったじゃん。テスト期間中に熱が出なくて」

「……それは思う」

 三十八度越えた状態でテスト本番とか無理ゲー過ぎるからな。そこだけは本当に助かったぞ、うん。

「んでもなんで熱なんか出したんだ、浩之? アレか? 勉強のし過ぎで知恵熱でも出たか?」

「知恵熱って」

 子供か、俺は。

「ちげーよ。言っただろ? 俺の又従姉妹が週末こっちに来てるんだけどよ? そいつが熱出したの。んで、看病してたら熱がうつったって感じだな」

「あれま。ちなみに又従姉妹ちゃんは元気にな

ったのか?」

「昨日京都に帰って行った。あいつも今日から学校行ってるんじゃね?」

 まあ、大事を取って今週はこっちに来るなとは言ってあるが。不満そうだったけどな、アイツ。

「それは良かったな。つうかお前も人が良いというか、なんというか……又従姉妹の看病で風邪うつされるって」

「こっちに知り合いなんて殆どいないからな。一人暮らしの風邪はしんどいんだろ? 知らんけど」

 今回は本当に桐生に助けられた。学校に行け、とは言ったが、一人だったらどうなっていたかと思うと薄ら寒いぞ、おい。

「家も隣だし、そら助けるだろう。まあ、最後は殆ど桐生のお陰だが」

「桐生の? なんだ? 手作り料理で『あーん』とかして貰ったのか?」

「いや、流石にそこまでは」

 ……まあ、食事中にチラチラとこっちを見てはいたが。たぶん、『あーん』をしたいんだろうなと想像は付いたが……流石に、恥ずかしすぎるから気付かないフリをしていた。

「お前……憧れのシチュエーションの一つじゃね? 女子に『あーん』とか。なんだよ、折角の看病イベント発生なのに何も無かったのかよ」

「看病イベントって」

 イベントじゃねーよ、看病は。労力だ。

「いいや、イベントだね! 可愛い彼女から『あーん』をして貰えるなんて、最高じゃねーか!」

「……んじゃやって貰えよ、可愛い彼女に」

「……」

「……なんだよ?」

「……俺、風邪引かないんだよな」

「……馬鹿だからか?」

「お前だって似たようなモノ……と言いたいけど、最近そうでもないもんな、お前」

「……まだ結果出てねーけどな」

「結果が全てじゃねーと言いたいところだが……まあ、今回は結果が全てか? とりま、頑張れよ。応援してる」

「さんきゅ」

 俺の肩をポンと叩いてニカっと笑う藤田。その人好きのする笑顔に、俺も笑顔を返して――


「……ねえ」


 今まで黙っていた智美が口を開いた。



「私こないだ熱出したけど……やっぱり私はバカじゃないって事だよね!」



「「……」」

 ……その発言がバカっぽいと思います、はい。


◇◆◇


 光陰矢の如し、と昔の人は良く言ったもので、テストまでの期間はあっという間に過ぎて行った。その間、結構な勉強をしたお陰でいつもより不安が少ない。ぶっちゃけ、一生で一番勉強したと言っても過言では無いからな。

「……だ、大丈夫? 忘れてない?」

「……なにを?」

「い、色々。今日は……国語と数学よね?」

「いや、一緒の時間割だろうが」

 俺はな。学校までの通学路、隣にいる桐生はなんだか物凄くオロオロしてやがる。どうしたよ、お前?

「い、いや……し、心配で」

「……心配って」

「だ、だって! この一か月、貴方は頑張って来たじゃない! そ、その努力の結果が今日出る訳だし……ちょ、ちょっと緊張するの!」

「……結果が出るのはもっと先だけどな」

 試験受けるだけで、試験結果が出るのは一週間後くらいだし。

「そうじゃないの!」

「分かってるって。アレだろ? 要は頑張れって話だろ?」

「……そうだけど……なんかその言い方だとおざなりな気がしてちょっとイヤだわ」

「おざなりって訳でもねーんだが……」

 まあ、とにもかくにも頑張るしかねーよな、うん。

「……それでね? その……これ、持って行って」

 そう言って桐生は鞄の中からごそごそと何かを取り出すと俺の手にそれを握らせる。桐生の柔らかい手の感触に一瞬どきっとするも、真剣な桐生の表情に俺も顔を引き締める。

「……これは?」

「その……け、消しゴム」

「消しゴム? それなら筆箱にあるけど……」

 持ってるぞ、俺? なんだ? 忘れ物の心配か?

「ち、違うわよ! その……こう、貴方今までで一番、勉強したんでしょ?」

「……まあな」

「バスケ経験者の貴方ならなんとなく分かると思うけど……こう、一生懸命練習したからといって試合で必ずしも結果が出せるとは限らないじゃない」

「……確かに」

 緊張とか、他の要因もあって中々思ったような結果が出せないって事はまあ、ままあるな。

「だ、だから……こう、もしね? 試験前に頭が真っ白になったら……この、消しゴムを見て……その……」

 もじもじと言い淀み。



「……わ、私が付いているから! だ、だから……! が、頑張って!!」



「……」

「……貴方は一人じゃないから。私が付いていると思って……頑張って」

「……お守り代わりって事か」

 手のひらに乗った消しゴムをぎゅっと握りしめて。



「――任せろ。望む結果、もぎ取ってやる」




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― 新着の感想 ―
[一言] 女の子から(消し)ゴムを手渡しされたら、男の子たるもの本番に挑まざるを得ない…!
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