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第九話 東九条浩之君のお料理教室! 選ばれたのは、トマト缶でした。

日間9位になりました。皆様のおかげです、ありがとうございます。目標は高く持とうという事で、日間で五位に入るのを目標に頑張りますので、今後ともよろしくお願いいたします。


「……いや……料理出来ないの?」

「そうね。必要なかったもの。家には家政婦も居るし、私が料理をするよりも、プロに任せた方が美味しいじゃない? だったら無理に私が作る必要は無いと思わない?」

 いや、『思わない?』って。まあ確かに、その言葉には一理ある気もせんでもないが……

「……って、ちょっと待て。あのさ? 俺ら、これから二人で暮らすんだよな?」

「そうね」

「食事、どうするつもりだったんだ?」

「食事?」

 そう言って少しばかり考え込んだ後、桐生ははっとした様な表情を見せる。

「……まさか貴方、私に作らせようと思ってたの?」

「いや、別にお前一人に任せる気はさらさら無かったんだが……」

 大して考えては無かったが……それでもやっぱり、当番制が良いんじゃないかとはちょっと思ってたんだよな。だが、今の言葉を聞く限り、料理は壊滅的、と。

「……なによ。別にいいでしょ? 店屋物も美味しいじゃない!」

「否定はせん。否定はせんが……ちなみに洗濯は?」

「洗濯機に突っ込んだら綺麗になるのは知ってる」

「掃除は?」

「別に毎日しなくても死ぬこと無いでしょ?」

「風呂を入れたりとか……」

「……マニュアルを見れば、なんとか出来るんじゃないかしら? やった事無いけど」

「……買い物は?」

「……それぐらいは出来るわよ。じゃないとデリバリー頼めないじゃない」

 ま、それはそうか。それはそうなんだろうけど……

「……お前さ? さっき、『配偶者の義務は果たす』とかなんとか言って無かったっけ?」

「……別に家事をやるのが配偶者の義務ってワケじゃないでしょ?」

 そう言いながらも……気まずそうに視線を逸らす桐生。まあ、今までやった事無い事をするのは難しいけどな。

「……にしても、食生活はヤバいな」

「そうかしら? 美味しいもの、たくさんあるわよ?」

「お嬢様っぽくない発言だな。ジャンクだぞ?」

「美味しいものは美味しいわよ? それに、別にジャンクだからってバカにする必要は無いわ」

「俺も別に馬鹿にはしてないが……でもな? 流石に毎日デリバリーじゃ体にもお財布にも悪いぞ?」

「お財布事情は気にしなくても大丈夫だけど……ほら、今は健康食宅配弁当とかあるじゃない?」

「……いや、あるけどさ」

 それで栄養管理は完璧かも知れんが……ま、仕方ない。

「……台所、借りるぞ」

「……は?」

「だから、台所借りるぞ。作るぞ、晩御飯」

「いや、別に此処は貴方も住む家だから、借りるとかじゃ……っていうか、つ、作る? 晩御飯を作るの?」

 呆気にとられている桐生を置いて、俺は再び冷蔵庫のドアを開ける。中には『お? ようやく俺らの出番かい?』と言わんばかりに並んだ食材達が。

「……良いシンクだよな、コレ」

 続いて目にしたピカピカに磨かれたシンク。優に三人が調理をしても余りそうなスペース。おいおい、これでデリバリーなんか頼んでたらもったいないオバケが出るぞ。

「しかし……これだけ材料有れば、凄い豪華な晩御飯出来るな、これ」

「そ、そうなの? 私、分からないから……」

 桐生の言葉に大きな溜息が漏れる。してやれよ、料理。食材が可哀相だ!

「……わかった。作るぞ、料理」

「な、なんでよ!? わ、私は別にデリバリーでも!」

「ダメだ。取りあえず……」

 冷蔵庫の中をぐるりと見回す。ふむ……豪華な食材はあるが、此処は作りなれた『あれ』にしようか。

「取りあえず、これを切れ」

「だ、だから……って、と、豆腐?」

「その豆腐、マジでうまいから。こういう使い方はしたくないけど……ま、しょうがない。ああ、それを三分の二丁使って二センチ角に切るんだ」

「……」

「やってみろよ?」

「う、うん」

 おっかなびっくり豆腐の蓋を開ける。そんな桐生に、俺は流し台の下にあった包丁を一本取り出して柄の方を桐生に向ける。桐生はその包丁を逆手で握ると、そのまま豆腐に向かって――

「――って、ちょっと待てー!」

「な、なによ!」

「包丁をこっちに向けるな! おまえ、何考えてるんだ!」

「だ、だから、なにがよ!?」

「これから猟奇殺人を犯す殺人犯か! 包丁の持ち方はそうじゃねぇ! っていうか、流石に包丁の持ち方ぐらいは分かんだろうが! 無かったのかよ、調理実習ぐらいは!」

 包丁を逆手で握りこんで料理しようとする奴、初めて見たぞ俺は。チャ〇キーかよ。

「お前は刃物を使うな! 取りあえず、米でも洗っとけ!」

「わ、分かったわ!」

「……ちなみに言っておくけどな? 洗うといっても洗剤で洗おうとするなんて昭和レトロなベタなボケはするなよ?」

「馬鹿にしないでくれるかしら! それぐらいは分かるわよ!!」

「本当か?」

「当たり前よ!」

 そう言って、胸を張って。


「洗濯機で洗うわ!」


「……」

「……」

「……」

「……取りあえず、座っとけ。な?」

「……はい」

 心持、しょんぼりした様子を見せる桐生。そんな桐生を孫を見るお爺ちゃんの様な目で見守っていると、肩を落として椅子に座った。うし、調理再開だ!

 まず、豆腐を二センチ角に切り、電子レンジに二分ほど掛ける。こうしておいて水気を切ると早いからな。

 冷蔵庫の中から取り出しておいた豚肉とベーコン、玉葱を切り、バターを敷いて置いた鍋にぶち込む。その間に米をとぎ、炊飯器の中へ。色が変わってきたのを確認して、醤油を少々振る。

「……ねえ?」

「なんだ? 料理が出来ないお嬢様」

「……今までの人生で煽られた中で一番『いらっ』としたけど……ううう……屈辱だわ……」

「なに? 恨み言言いに来たのか?」

「ち、違うわよ! その……何を作るつもり?」

「出来てからのお楽しみ、かな?」

「出来てからのって……ちょ、あ、貴方、それ!?」

「心配するなって。と、忘れてた。嫌いなもの、あるか?」

「な、ないけど……」

 そう言いながら、俺の手の中に握られた物体に桐生が不安そうな声を上げる。選ばれたのは、トマトのホール缶でした。

「……よし」

 トマト缶とスープの素を入れ、豆板醤、塩、胡椒で味を整え、最後に片栗粉でとろみをつければ……はい、出来上がり。ちょうど御飯も炊けたようだ。

「皿借りるぞ」

「う、うん」

 大皿にどばっと盛り付け、桐生の前に差し出す。男の料理はこれぐらいでないと!

「……なに? なんなの、これ?」

「麻婆豆腐イタリアンだ」

「……麻婆豆腐イタリアン?」

「ああ。材料も手間もそんなに掛からんから直ぐ出来る。冷めないうちに食え」

 よそった御飯を桐生の前に置く。箸をつけるのを躊躇っていた(なに? 失礼じゃないか?)桐生だが、やがて意を決したように麻婆豆腐イタリアンを口に運んだ。

「……っ!? なにこれ、ヤバ! 美味しいじゃん!」

「……だろ?」

 笑顔になった桐生に、俺も笑顔を浮かべる。この麻婆豆腐イタリアン、作り方が簡単な割には味もそこそこいい。是非お試しあれ。

「……でも、驚いたわね。貴方、料理出来るの?」

「こんなもん、出来るって程じゃねえよ」

「そう? 充分美味しいと思うけど……」

「知っての通り、俺の家は中小零細企業だからな。親父が社長で、母さんが経理担当役員の……まあ、共働きだからな。時間の都合はそこそこ付くけど、それでも母親が居ない事なんてよくあったから。そん時はよく俺が妹の分も一緒に作ったんだ。自分で作らなければ飯が無かったからな」

「ご飯が無ければ、頼めばいいのに」

「……ついでに金も無かったんだよ」

 どこのアントワネット様だ。ああ、そっか。桐生家の彩音お嬢様か。

「っていうか貴方、妹が居たの?」

「一個下のな。茜って云うんだ」

「そうなんだ。高校生?」

「ああ。東九条の本家に下宿して、京都の方の高校に行ってる」

「……もしかして複雑なご事情?」

 少しだけ『もやっ』とした顔を浮かべる桐生に俺は『違う違う』と笑って手を振って見せる。

「そうじゃねーよ。あいつ、バスケの選手なんだけどな? 『強い高校の方が成長出来るから』って、京都にバスケ留学だ」

「留学って云うの、それ?」

「さあ。ま、茜の話は良いよ。それより早く食え。冷めるぞ?」

 そう言われて、箸を進める桐生。ある程度食べた所でポツリと言葉を漏らした。

「うん……でも、本当に美味しい」

「ま、子供の時から作ってる自信作だ。涼子と智美も好きだしな」

「そうなの?」

「智美はバスケ部だし、運動量多いからな。未だに『ヒロ~。お腹すいた~』って学校帰りに俺んちに寄ってコレ作れってうるせーんだよ」

「賀茂さんも?」

「そん時は大体、涼子も一緒に来るんだよな。『たまに食べたくなる味』らしい」

「意外……賀茂さん、料理上手そうなのに」

「今は涼子の方が上手いぞ? でもアイツ、どんくさいから」

「……失礼かもしれないけど、分かる気がするわ。器用な方では無さそうだもんね」

「そうそう。涼子んちも智美んちも共働きだったから、都合四人分、俺が料理してたってワケ。小学校の高学年までだけど」

 そっから先は愚直な努力を続けた涼子に一気に抜かれて、今でもちょくちょく手料理をご馳走になる。智美? あいつはダメだ。あいつの料理は食材への冒涜としか思えん。

「そっか……じゃあ、これは貴方の幼馴染の愛した味、ってわけね」

「愛したかどうかはともかく……まあ、好きな味なんだろうな。お前は?」

「ええ。とっても美味しい」

「だろ? そりゃプロが作るもんだから店屋物も旨いけどよ? 温かさが違うだろうが、出来立ては」

「……そうね。レンジでチン、では味わえない味ね、コレは」

「だからこれからはお前も作れよな、料理」

「……貴方が作ってくれないの?」

「そんなレパートリーは無いよ。大体、その年で料理の一つも出来ないのは寂しすぎるだろうが」

「……それは男女差別? 女は料理を学ぶべきだと?」

「アホか。なんでもそうだが……出来ないよりは出来た方がいいだろうが。それには、男も女も関係ねえ。お前、勉強だって運動だって努力して来たんだろうが? なら、料理も努力してみれば?」

 俺の言葉に桐生が目を丸くする。なんだよ?

「いえ……そうね。確かに貴方の言った通りだわ」

「うん、わかって貰えて何よりだ」

「確かに、私の人生において必要はないかも知れないけど……そうね、出来ないよりは出来た方が良いものね。ふふふ、ありがとう! それじゃ、料理は当番制ね!」

 そう言って箸を持ったまま、軽くオーっと手を挙げて見せて。

「……で、でも」

 その後、気まずそうにチラリとこちらに視線を向けた。

「……そ、その……最初はやっぱり失敗するかもしれないから」

 ちゃんと、教えてね? と。

「……お、おう」

 頬を染めて恥ずかしそうにしながら、そういう桐生は……まあ、端的に言ってクッソ可愛かったワケで。



「ふふふ! ありがとう、東九条君!」



 そう言えば、初めて名前呼ばれたな、なんて。

 先ほどの表情から一転、花の咲いた様な笑顔に見惚れて働かない頭で、俺はそんな事を考えていた。


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[気になる点] 現代設定でハーレムは違和感しか感じません。 なんていうか、所詮子供の恋愛ごっこなんだーくらいにしか思えないというか。
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