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第八話 桐生彩音の本気……と、悪役はともかくやっぱり令嬢なのね?


 おっかなびっくりエントランスを潜る。と、俺と桐生を出迎えてくれたのはピカピカに磨かれた大理石の床だった。

「……豪奢の限りを尽くしました、って感じなんだけど」

「……同感。っていうか此処、ジムとプールがあるらしいわよ」

「マジか」

「あそこの案内板に書いてあるから……きっとマジよ」

 なんていうか、常識を疑う。っていうか、スゲーな、おい。

「金持ちだ金持ちだとは思っていたけど……お前の親父、なんなの? なに? なにか悪い事でもしてのし上がってる?」

「失礼な事言わないでくれる? ただの会社経営者よ。IT系の。まあ、ちょっとやり方は強引だけど……それでも、真っ当な仕事で此処までのし上がったって言ってたわ。『塀の上を歩いているのは認めるけど、落ちない自信はある』って」

「それ、真っ当じゃないヤツ」

「冗談よ。っていうか、冗談って言ってたし。目はマジだったけど」

……もはや何も言うまい。そう思い、桐生と連れ立って二人でエレベーターホールに。『あれ? 象でも乗っけるんですかね?』と言わんばかりのバカでかいエレベーターに乗って一路、最上階へ。

「……スゲーな」

 何がスゲーってこの最上階、二部屋しかないんだよ。つまり、俺と桐生の住む部屋ともう一世帯が住む分しか無い。

「一々気にしてもしょうがないけど、同じ階層に変な人が居てもイヤでしょ? ホントはもう一部屋も押さえようとしたらしいけど……無理だったって」

「……マジかよ」

 いや、そこまでするんだったらもうちょっと小さくても良いんで一戸建ての方が安上がりだったんじゃないのか?

「うん、私もそう思うんだけど……なぜか、お父様、このマンションに拘ってたんだよね。ま、良いじゃない。広くて困ることはないし」

 そう言って桐生はマンションのカードキーで玄関を開ける。流石5LDK、広々とした室内はなんだかパーティーでも出来そうだ。

「……絶景だな、コレは」

 窓際に寄ってみれば流石高層階なだけあって眺めは最高だった。

「良い所は良い所よね、此処。まあ、値段も高いし、良くて当然と言えば当然なんだけど」

「……そんなに高いの、此処?」

「まあね。聞く? ドン引きすると思うけど」

「……聞かない」

 なんか聞いたら俺が今まで築いて来た価値観とか吹き飛びそうだし。

「……っていうかさ? 一個聞いても良いか?」

「どうぞ。私に答えられる事だったら」

「あ、ちょっと微妙かも」

「なによ?」

「いや……あのさ? お前って兄弟いるの?」

「一人娘だけど?」

 それが答えられるか微妙な質問? と首を傾げる桐生に、黙って俺は左右に首を振る。

「いやな? 一応、俺とお前って許嫁な訳じゃん?」

「そうね」

「んで、お前が一人娘って事は……いつか俺はお前と結婚してお前の会社を継ぐワケ……だよな?」

「違うわ」

「……へ? 違うの?」

「会社を継ぐのは私。貴方は婿養子って事で、桐生の姓を名乗って貰い……まあ、ウチの会社に入社する事にはなるでしょうけど、でも、別に事業に携われなんていうつもりは無いわよ? っていうか出来るの、経営?」

「無理だと思うから聞いたんだよ」

「言い方は悪いと思うけど、貴方に求めるのは『東九条』の……『名家の血』よ。貴方はお金の心配なんかせずに、役員として過ごして貰えば良いわ」

「……ヒモみたいだな、俺」

「当たらずとも遠からず、かしら。だから申し訳ないけど、本当に飼い殺しみたいな状態になるわよ? 生活自体は座敷牢での生活みたいなモンだし」

「……マジか」

「……とはいえ、流石にそこまで縛るつもりはないわ。ある程度自由にして貰ったら良いし……そうね、この際だから言っておきましょう」

「なにを?」

 俺の質問に、桐生はなんでも無いようにノータイムで。



「――別に、他所に女を囲っても構わないわよ?」



 トンデモねー事を言った。

「ぶふぅ! お、女って!? なに言ってるの、お前!?」

「さっきも言ったけど、私は貴方を愛する自信は無いわ。無論、『配偶者』としての義務は果たすつもりだけど、『恋人』として振舞って上げれるかどうかはちょっと微妙なライン」

「……確かに。さっきも言ってたな」

「でも、それじゃ貴方に我慢させっぱなしでしょ? 流石にそれは申し訳ないから……あ、ただ避妊だけはちゃんとしてね? 隠し子なんて騒動の元だから」

「避妊とか女子高生が言うなっ! いや……でも、それは……流石にどうよ?」

「別に良いんじゃない? っていうか貴方はもうちょっと主張しても良いわよ? 今回はこっちのワガママな部分が大きい訳だし」

「いや、そりゃまあそうかも知れんが……でも、それを言うならお前だってそうじゃないか? お互い様じゃん」

「いえ、違うわよ? 東九条の血が欲しいのは我が家の我儘ですもの」

「いや、だから俺んちだってお金がいるからさ?」

「それは『貴方の家』の話でしょ? 貴方自身はどうなの? もし、貴方のお宅に借金が無かったら、私との許嫁なんて受けてないんじゃないの?」

「それは……まあ。でも、それを言ったらお前だって――」

 俺の言葉を遮る様に、桐生は右手を出して『ストップ』を掛ける。



「――私は違うわ。私自身が、『東九条』の血を欲したの」



「――……」

「さっきも言ったけど、私自身、『成り上がり』って随分馬鹿にされたわ。『あの方はお金だけ』と言われるのが悔しかったから、勉強も、運動も、美容にだって気を使った。でも、頑張れば頑張るほど、『成り上がり』と馬鹿にされる。私は私の子供に、そんな惨めな思いはさせたくないの。だから、私の子供には古い――『高貴な血』を入れてあげたいの」

「……『高貴な血』って」

「貴方自身は興味ないかも知れないし、信じられないかもしれないけど、未だにあるのよ、そういう社会も。まあ、もっと言えば別に『東九条』である意味も無いけどね。『そういう』家系なら、誰でも良いのよ」

 そう言って、ふうと息を吐く。

「……ね? 我が家は私もお父様も要求してる。でも、貴方の家は貴方のお父様だけが要求してる。なら、貴方自身もなにかしら要求しないと公平じゃないでしょ?」

 それは……そうかも知れない。

 そうかも知れないのだが、なんだろう? 引っ掛かるものがある。言語化しろ、と言われると中々に難しいのだが、それでもこう……

「……浮気は、違うんじゃね?」

「そもそもこっちに『気』が無いんだったら、別に『浮』気でも何でもないと思うけど?」

「いや、そういう言葉遊びじゃなくて!」

「ま、別に浮気じゃなくても良いわよ。もちろん、聞けない事もあるけど……それでも、貴方の願いはなるだけ聞いてあげるわ」

「浮気許されてそれ以上に許されないものとかあんの? 夫婦生活において」

「さあ? まあ、その時になったら考えましょうか」

 そう言うと、桐生は窓の外に視線を向ける。

「暗くなって来たわね。そろそろ帰ったら?」

「そうだな……お前は?」

「此処から家に帰るのは遠いし、今日は泊まっていくわ。寝具もあるし、電気も水道もガスも通ってるから」

「飯は?」

「食材が冷蔵庫にある筈だけど……」

 そう言って、冷蔵庫に向かって歩く桐生。なんとはなしにその背中を追うと、アイランドキッチンの隣に置かれた冷蔵庫の扉を桐生が空けた。

「……スゲーな」

 冷蔵庫の中にはまるで宝石の様に並べられた数々の食材が、まるでその時を今か今かと待ちわびる様に鎮座ましましていた。

「……良い食材じゃねーか」

「分かるの?」

「あれって京都で有名な豆腐屋の豆腐のパッケージだし……あそこに置いてある段ボールのマークも本家で見た事あるぞ」

「東九条の本家で使われてるなら間違いないわね」

 そう言って満足そうに頷くと、桐生は冷蔵庫の扉をパタンと閉めた。

「ま、使わないんだけど」

「…………ゑ?」

「お父様の事だから……ああ、あったわ。流石、お父様。私の事、よく分かってるわね」

 そう言って台所の引き出しを開けてごそごそしていた桐生は引き出しの中から何かを取り出した。

「……なにそれ?」

「……そうね。折角だし、貴方に決めて貰いましょうか」

 そう言って並べられるのはピザ、お寿司、ラーメン、そばのチラシ達……って。

「って、これ全部デリバリーじゃねえか!」

「そうよ?」

「『そうよ?』じゃねえよ! 晩飯はどうした、晩飯は!」

「だからこれじゃない」

「だからコレって……ああ、あれか? お嬢様もたまにはジャンクな食べ物を食べてみたいとか、そういう感じか?」

 家では栄養管理バッチリな食べ物食べてるだろうし、ジャンクな品は食べなれて無いのかも知れない。食材は若干勿体ないが、早々腐るものでもないし、まあたまには良いかとそう思い、問いかける俺に。



「――違うわ。単純に料理出来ないのよ、私」



 可愛らしく、首を傾げながらそう宣った。


 ……マジかよ。


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