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第七話 桐生パパの本気。


 桐生に手を引かれ(手は引かれてない)、のこのこと付いて来た俺は電車に乗る事二駅、おおよそ二十分ほど揺られて降り立った駅に目を丸くする。

「……新津じゃねーか」

『新津』とは俺たちの住んでいる街でも有名な場所で、通称『田園調布』と言われる高級住宅街だ。盛り場の類も無い為、この街に十七年住んでる俺でも訪れた事は精々一度か二度程度。それも、親父の仕事のお使いぐらいだ。

「……え? まさかお前の親父さんが買ったマンションって……此処にあんの?」

「そうよ」

「……お前、学校から近いって言って無かった?」

「電車で二十分なら近いでしょ? 私の家、車で一時間掛かるもん」

「そんな遠い所から通ってたのかよ?」

 知らなかった。っていうか、車通学なんだ。なんだろう? 本当にお嬢様ってカンジがするが……

「……あれ? でも、車通学だったらもうちょっと噂になりそうなんだけど」

 校門に黒塗りの高級車とか止まってた記憶が無いんだが。

「徒歩十分ぐらいの所で降ろして貰ってるからね」

「なんで? 面倒くさくない?」

 俺なら校門前まで送って貰うが。

「なんでって……天英館高校は普通の私立高校でしょ? そんな高校で黒塗り高級車が校門の前に止まってたらどう思う?」

「……間違いなく、やっかみの対象だな」

「でしょ? 別に人の悪意に晒されるのは慣れてるけど、別に敢えて晒されたいワケじゃないし。それなら、十分歩く方が楽で良いわ」

「しかし……新津か」

「なに? 不満?」

「不満って言うか……なんだろう? ちょっとビビってる」

 なんていうか、街全体からそこはかとない『高級』があふれている気がする。それこそ、その辺をランニングしてるダンディなおっさんとか、犬の散歩してるマダムとかすら気品を感じる様な。

「まあ、この辺に住んでいる人ってお金も持ってるし、社会的地位も高い人が多いからね」

「場違い感が半端無いんだけど」

「何言ってるのよ。そうは言っても新津なんて新興の住宅街よ? 貴方だって世が世なら華族の御曹司じゃない。格は負けて無いわよ」

「俺、その事実を土曜日まで知らなかったからな~」

「……そうなの?」

「本家が無茶苦茶でかい家ってのは知ってたし、親戚は皆羽振りが良いからそこそこ金持ってるんだろうな、とは思ってた。だからこそ、土曜日の親父の借金発言には思わずドン引いたんだが」

 本当に。冷静に考えれば、なんで親父は桐生の親父に金借りたんだろ? 嫌われてるのかな、俺んちって。

「そう……まあ、それが教育方針なのかしら、東九条の」

「どうかな? まあ、今考えれば親戚の明美なんかは普通にお嬢様みたいな言葉喋ってたな。気持ち悪いと思っていたが……」

「明美? ああ、東九条明美様?」

「知ってんの?」

「パーティーで何度か。華やかな方よね」

「まあな」

「……」

「……なに?」

「いえ……本当に親戚なの?」

「……いや、俺もちょっと疑った事はあるけど……一応、又従姉妹のハズだ」

 明美はすらっとした美人だし、確かに地味顔の俺とは全然似てはいない。いないけど、又従姉妹なんて似て無くてもおかしくないだろ?

「確かにね。でも、東九条程の家柄なら、親戚似て来るものよ?」

「そうなの?」

「何百年とその『血』を一族の中で回せば、特徴も出て来るってものよ。後、古い家系は美形が多い印象ね。個人的な意見だけど」

「二回目だけど……そうなの?」

「そうよ。よく、お話とかで美男美女の王子様お姫様出て来るでしょ? あんなの当たり前じゃん。国の権力者なら、どんな美人だってイケメンだって選びたい放題だし」

「……なるほど」

 なんかあったな、そういうの。どっかの王子様だかなんだかが、銀幕女優に恋して結婚するって話。そりゃ、美人女優の子供なら遺伝子的に美形が多いか。

「話が逸れたわね。新津を選んだのは丁度良い物件があったっていうのもあったけど、風評被害を減らす為ね」

「風評被害?」

「常識的に考えて、男女の高校生が一つ屋根の下で暮らすって、外聞悪いでしょ?」

「ま、そりゃそうだな」

「こう言ってはアレだけど……天英館高校に子弟を通わせる人間の多くは、新津に家を持つほどの財力は無いわ。一応、括りは高級住宅街だし、わざわざ高校生が遊びに来るようなスポットも無い」

「確かに」

 俺も親父のお使いじゃなけりゃ、二度と来たいとは思わんからな。

「じゃ、同級生に逢わないって事か?」

「全く逢わないって事は無いでしょうけど……それでも、学校の近くにアパート借りるよりは全然確率は低いと思うわよ? 私だってイヤだし、一々詮索されるの」

 貴方はイヤじゃないの? と問いかけれ、頷いて見せる。確かに、厄介ごとをわざわざ自分で引き連れて――

「……あ」

「……なによ、『あ』って。不安しかないんだけど?」

「いや……それじゃ、あんまり喋らない方が良いよな?」

「当たり前じゃない。って、まさか、貴方……」

「わりぃ。涼子と智美に喋った」

 ……おお、絶対零度の視線。特殊の筋ならご褒美なんだろうが、俺に取っちゃ気が気じゃねー視線なんだけど。

「……はあ。まあ、良いでしょう。鈴木さんと賀茂さんなら、遅かれ早かれバレるでしょうし。貴方たち、いつも三人で学校に来てるんでしょ?」

「まあな」

「それがいきなり来なくなれば『おかしい』とも思われるだろうし……そうね、その二人なら良いわ」

「悪いな」

「最初に釘を刺して無かった私も悪いから。気にしないで頂戴。ただし、これ以上の拡散は禁止よ! 絶対、面倒な事になるから!」

「分かった。ちなみにお前は?」

 俺の言葉に、コクンと首を傾げて。

「私にそんな話をする友達、居ると思う?」

「……なんか、ごめん」

「良いわよ。言ったでしょ? 別に要らないって」

 さあ、そろそろ付くわよと言う桐生の後ろを黙って歩く。新津は高級住宅街と言ったが、そんな新津の中でも更に高級さを増す――具体的にはどっから何処までが敷地か分かんない様な日本家屋とか、ハリウッド俳優でも住んでんじゃね? と言った感じの高い塀のある洋館とか、そんなちょっと値段の想像が付かない様な家々を見渡しながら。

「…………此処ね」

「…………マジか」

 目の前に聳え立つ、高い高いマンション。階数は……目算で、三十階程度か? なんというか、高級ホテルの様な風格を漂わすソレに、思わず目を点にする俺……と、桐生。

「……お前も初めて?」

「……初めてよ」

「……何階?」

「……三十二階。最上階よ。ちなみに部屋は5LDKらしいわ」

「……」

「……」

「……エレベーター壊れたら大変そうだな」

「……そうね。そんな感想しか出てこないわね」

 余りにも規格外なソレに思わずため息を吐き。



「「――高校生二人にどんな新居!?」」



 俺と桐生の声が、閑静な住宅街に相応しく無い声量で響いた。


『面白い!』『面白そう!』『続きが気になる!』『っていうか続きはよ』と思って頂ければ評価などを何卒お願いします。

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