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第百三十五話 これもある意味、確変モード。


 桐生とハグ……っていうのか、アレ? ともかく、そんな事があった翌日。俺は朝一で校舎裏に立っていた。なんでかって?

「……その……」

「……ああ」

 そう言ってもじもじと足で絵を描く目の前の女の子。言わずとも誰か、分かるだろ?

「あ、あのね、あのね? こう……前から思ってたんですけど……」

「……」

 少しだけ潤んだ瞳でこちらを見る。はっと息を呑みそうなほど、色っぽい視線が俺を射貫く。



「その……い、いいなって」



「……なにが?」

 全体的に『ふわっ』としてるな、おい。なんだよ、良いなって。

「だ、だから! その……付き合ってるんですか?」

「……誰と?」

「だ、誰って……そんなの、一人しかいないじゃないですか!」



 ――桐生先輩と、と。



「……いや……まだ付き合ってはいない」


 俺の言葉に、顔に喜色を浮かべる……見知らぬ後輩の女の子。



「そ、そうなんですか! そ、それじゃ東九条先輩! そ、その、私と仲良くして貰えませんか!!」



 ――前、言った事あったの覚えてるか? ウチの学校はそこそこの進学校で……まあ、校舎裏は不良の溜り場っつうよりは、告白のメッカだって話。


「お友達からでいいです! よろしくお願いします!!」


 ――東九条浩之、十七歳。


「……ええっと……」


 人生初のモテ期、到来。


◇◆◇


「……んで? 朝から後輩女子に告白された浩之君はどうしたんだよ?」

「……どうもしねーよ。『お友達から』って言われたけど……まあ、お友達以上に発展はしないし、普通に俺はお前と付き合う気はないって言ったら帰って行ったよ」

「……」

「……なんだよ?」

「いや……別にそれで結果としては間違いないんだろうけど……なんかバッサリいったな、って」

 コンビニで買ったパンをモグモグと齧りながらそういう藤田。なんでも今日は有森、昼に用事があるらしく男二人で寂しく昼食と相成った。まあ、別に良いんだけどな。

「……その……まあ、好意を寄せてくれてるのは嬉しかったけど……発展しない事に時間を使わせるのも申し訳ないだろ?」

「そっから発展するかも知れないじゃん。可愛らしい子だったんだろ?」

「……まあ」

「それでも鈴木とか賀茂、或いは桐生の方が可愛いってか?」

「……それも、まあ。でも、別に顔がどうのこうのも……まあ、ゼロじゃないけど、それだけで断ったワケじゃねーぞ?」

「分かる。お前はそういう所はしっかりしてるヤツだと思うし」

「……そういう所はって」

 んじゃどういう所がしっかりしてないんだよ?

「気が多い所かな? 鈴木、賀茂、桐生と二年の三大美少女侍らせて……いつか刺されるぞ、お前」

「別に侍らせているワケじゃないんだが……」

 っていうかだな、藤田?

「……お前、なんで知ってるの?」

 昼休み早々、俺の机まで来て『俺になんか言う事無いか?』だもんな。『具体的には今朝の校舎裏』って……なんだ? 見てたのか?

「見てはいない。見てはいないが……まあ、想像が付いてはいた」

「……想像が付いた?」

「……怒る?」

「事と次第によるが……言ってみろ」

 俺のジト目に肩を竦めて見せる藤田。

「その……有森がな?」

「有森?」

「ほれ、こないだの試合、あっただろ? それに同級生を結構呼んでたんだって」

「同級生を呼んだって……」

 ああ、自分の試合を観に来いってか?

「……違う」

「違うの?」

「……その……有森って結構、『ガサツ』じゃん?」

「……自分の彼女にガサツってどうよ」

「いや、俺はその辺も含めて好きだから良いんだけど……まあ、有森のクラスメイト的には『乙女回路が死滅してる雫に、好きな男が出来た!』って……結構、盛り上がったらしい。だからまあ、正確には『呼んだ』っていうか、勝手に来たが正しいらしいが……」

「……愛されてんな、有森」

「……なんで?」

「だって普通、同級生のホレた男を観にわざわざ休みの日まで観に来ないだろ。それだけ、有森は学校で人気者って事だろ?」

「……さんきゅな」

「おう」

 彼女の高評価は嬉しいのか、藤田が『もにょ』とした顔を浮かべて見せる。と、それも一瞬、少しばかり真面目な表情を藤田は浮かべて見せた。

「それで……まあ、一年生の女子の間では浩之、お前今、結構人気者なんだって」

「……はい?」

 は? 俺?

「さっきも言ったけど、有森の同級生は有森の好きな男……まあ、俺を観に来たワケだろ? そうなったら必然的にお前の事が目に入るじゃん」

「……まあ」

「普段はそんなに目立つ方じゃないだろ、お前? なのにあの試合でのお前って……こう、ちょっと凄かったろ?」

「……」

 否定はせんよ、うん。スリーだって二桁決めてるし、ブザービートも決めたしな。確かに、『どこの主人公だよ!』って言われる程度は活躍した自負はある。あるが。

「……でもあれ、まぐれだぞ?」

 ぶっちゃけ、もう一回やれと言われても出来る気は全然しない。つうか、あの試合だけ異常に神懸ってただけで、普段の俺は……まあ、下手くそとは思わんが、あんなプレイは出来んぞ?

「別に普段のプレイなんて女の子は興味ねーの。単純に、スリーポイントバンバン決めて、最後はブザービートも決めた格好いい先輩がいる、って評判らしい」

「……」

「……まあ、確かに一緒にプレイをした俺からしても、あの日の浩之は無茶苦茶格好良かったからな。そりゃ、女子がキャーキャー言うのも分からんではない」

「……そうか?」

 嬉しい様な、嬉しくない様な……いや、嬉しいのは嬉しいんだが……

「……んで? それでなんで俺が怒るんだよ?」

「さっき言ったろ? この事態の発端はウチの彼女な訳だし……お前、正直迷惑してるだろ?」

「……エスパーかよ」

「エスパーじゃなくても分かるさ。俺は経験無いけど、人から寄せられた好意を断るのも結構、労力使うんだろ?」

「……まあな」

 初めての経験だけど。遠回しに『無理』って伝えたら、泣き出しそうな顔をして心が痛んだし。

「だから、その原因を作った彼女の代わりに俺が謝ってるの」

「……いいヤツか」

 いや、良い奴なのは知ってるけど。

「……まあ、別に怒りはしないぞ? だって有森のせいじゃ無く無いか?」

 発端は確かに有森かも知れんが……話を聞く限り、有森に非はねーだろ? 友達たちが勝手に見に来て騒いでるっぽいしな。

「ま、人の噂も七十五日って言うしな。それならその内、飽きられるんじゃねーの」

 そもそも俺、別にイケメンでもなんでもないし。ならまあ、直ぐに飽きられて別の話題になんだろ。ちょっとだけ、モテモテ気分を味わうのも……その、なんとなく、イヤな気分はしないし。

「……」

「……なんだよ?」

「……非常に残念なお知らせがあります」

「残念?」

「実は……今日、有森の昼の用事と言うのは『女子会』です」

「『女子会』? 残念なの、それ?」

「……正確には川北による『弾劾裁判』です。議題は……『浩之先輩に女の影を作らせるなんてどういう了見でやがりますか!』らしいです」

「……」

「……ちなみに傍聴席には賀茂、鈴木、藤原……そして、桐生が居ます」

「……マジか。って、ちょっと待て? んじゃもしかして今日、お前が予想が付いてったってのは……」

「……ご名答。有森から聞いた。『今日あたり、アタックを掛けにいくらしい』って」

「……」

「……『東九条先輩に、ごめんなさいしておいてください。そして、重ねて謝ります。追及されたら……答えないわけにはいかないと思います……体育会系ですし、先輩の言う事は絶対なんです……』との事だ。鈴木が居る時点でアウトらしい」

 ……え? それって、アレ? 今日、俺が告白っぽいされた事も涼子や智美や。

「……」


 ――桐生の耳に入る、って……こと?


「……マジで?」

 茫然とする俺。いや、別に悪い事した訳じゃないよ? した訳じゃないけど……


「……怒られ、る?」


 ……イヤな予感しかしないんだが。

「ま、まあ、別に浩之が悪い訳じゃないし! だ、大丈夫だって! ほれ、パン食え、パン!」

 そう言って菓子パンをひとつ差し出してくる藤田。そ、そうだよな! 大丈夫だよな! 気を強くもて、俺!

「そ、そうだよな! だ、大丈夫だよな! べ、別に俺が何かをした訳じゃないし!」

「そ、そうだよ! 大丈夫、大丈夫!」

 そう言って二人で乾いた笑いを浮かべる。そのまま、味気ない食事を終え、午後の授業を終え、藤田の言葉を信じて家路に着いて家の扉を開けて。



「――あら? お帰りなさい。『モテモテ』の東九条君?」



 背中に夜叉を背負い、仁王立ちで立つ桐生の姿に、俺の冒険が此処で終わったのを悟った。




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― 新着の感想 ―
[一言] おお浩之 しんでしまうとは なさけない
[一言] いや、あの試合で一番カッコよかったのは小林君では?
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