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第百三十話 幕間。或いは藤田くんと有森さん。その7

これにて藤田くんと有森さん、完結!!


『発見しました!』と藤原&桐生ペアからの連絡が入ったのは捜索開始およそ十分。瑞穂、俺、秀明の幼馴染トリオはその連絡を受けて発見報告を受けた公園に向かった。

「……東九条君! こっちよ!」

「……桐生。藤原も、お疲れ。良く分かったな」

「……雫が落ち込んだ時とかに良くこの公園に来るんで。だから、分かったんですよ」

「そっか」

「……ふふふ……有森さんの事を良く知る藤原さんについて行けば間違いなく一番に出逢えると考えた私のカンがずばり当たったわ! これから良い所よ、東九条君!」

「……」

 ……お前……ちょっと恋愛に飢え過ぎじゃない? ホントにポンコツ令嬢なんじゃないか、コイツ。

「……藤田は?」

「まだ……と、来たみたいよ」

 ブランコに座って俯く有森の後ろから、藤田の姿が見えた。ちょっと遠いけど……

「……探したぞ、有森」

「……ふじた……せんぱい」

 ……声は聞こえるな。今更なんだけど、良いのか、これ?

「……なんで来たんですか」

「……なんでって……そりゃ、いきなり店飛び出したら心配するだろ? そりゃ、探すよ」

「……」

「……なんだよ?」

「心配、してくれたんですか?」

「そりゃするだろう、普通」

 何言ってんだ、と言わんばかりに肩を竦める藤田。そんな藤田に、有森はクスリと笑って。



「……それって、瑞穂でもですか?」



「なに?」

「理沙ならどうです? 智美先輩なら? 桐生先輩なら? 藤田先輩、探しませんか?」

「……それは……」

 一息。



「……探すな、多分」



 ……馬鹿野郎。そこは……ああ、でも、無理か。藤田の性格知られている以上、絶対に誰でも探すのは分かるよな。

「……ですよね。藤田先輩はお優しいですから」

「……」

「……『私』じゃなくても……きっと、探してくれますよね」

 そう言って、ブランコから降りて泣き笑いの表情を浮かべる有森。

「……最初はなんだ、この人って思いました。私の事デカいって言うし……ムカつくから、散々『カニ』させたのに、体力お化けだから淡々とこなして……気持ち悪いって」

「……悪かったよ。でも、気持ち悪いは酷くないか?」

「お互い様ですよ。でも……それでも、毎日黙々と、文句も言わずに練習してる姿を見て、悔しくなって……この人、なんで此処まで出来るんだろう? なんで、こんな事してもこの人にメリットが無いのにこんなに練習できるんだろう? って……気になって。それで聞いたんですよ」

「……あん時か?」

「はい。もうね? あんなの、ズルいですよ。ハート、ズキューンですよ」

「……表現が昭和」

「そこは良いんです! ともかく……ああ、この人は凄い人なんだって。優しい人なんだって。自分のメリットだけじゃなくて、誰かの為に動ける人なんだって」

「……あの時も言ったけど、ツレが喜んでくれるのがメリットだぞ?」

「それだけじゃ人間、動けないものなんですよ」

「……」

「……こんなに優しい藤田先輩が、もし私にだけ優しくしてくれたらどんなに幸せだろうって。私だけを見てくれたら、どれだけ嬉しいだろうって。本当に、そう思いました。だから、藤田先輩?」

 ぎゅっと、瞳を瞑って。



「――わ、私! 藤田先輩が――」



「――それ以上、言うな」



 そんな有森を制する様、藤田が言葉を放つ。その言葉に、少しだけ驚いた表情を浮かべた後、有森は瞳に涙を浮かべて――


 ――笑った。



「……は、ははは~。そ、そうですよね? 藤田先輩、好きな人が居るんですものね。そ、そりゃ、私から今、告白されたら迷惑ですよね?」

 そんな有森に。



「……ああ。迷惑だ」



 藤田は首を縦に振る。

「――っ! す、済みません」

 しゅんとして下を向く有森。そんな有森を見つめながら、俺は左手で自分の右手を掴む腕に二度、タップ。

「……桐生、痛い」

「……滅すわ」

「滅す!?」

 聞いた事ない単語が出たんですけど! なんだよ、滅すって!?



「――なあ、有森」

「――っ! は、はい」

「……俺の好きなヤツな? 一生懸命なヤツなんだよ」

「――っ! 聞きたくないっ!」

「黙って聞け。凄く努力家で……一生懸命やってる癖に、全然自分じゃ一生懸命やってないって思う様な、変なヤツでな」

「なんで! なんでそんな事私に言うんですか! 私、私は――」




「――毎朝毎朝、『さ、藤田先輩! 今日もシュート二百本、行きますよ!』って動画まで取って一緒に見直してくれてさ? それで此処が違う、あそこが違うって色々アドバイスしてくれて。二人で考えた作戦、成功したらものすごく喜んでくれてな?」




「――わたしは……って……え?」



「……あんだけ一生懸命、俺と一緒に練習してくれて……俺が失敗したら一緒に落ち込んでくれて、俺が成功したら一緒に喜んでくれる……そんな女、ホレない訳、なくね?」

「え? ……え? そ、それって……」

「有森? お前はもうちょっと男心を勉強しろ」

 そう言って有森へ、一歩距離をつめて。




「――こういうのは、男から言うもんなの」




 有森に、優しい笑顔を向けて。





「――有森雫さん。俺は、貴方の事が好きです。俺と、付き合って下さい」





 ――有森の瞳に、涙が一杯に溜まった。

「わ、わたし……わたし……!」

「……どうだ? 無理か?」

「で、でも! わ、私、ガサツだし!」

「それは俺もかな?」

「そ、それに……りょ、料理も出来ないし!」

「いいじゃん、別に。俺、結構料理得意だぜ? バイト先でやってるし、今度教えてやるよ」

「ぜ、全然女の子っぽくないし! 男勝りですよ、私! ファッションとかより、ゲームとかのが好きですよ!」

「お、奇遇じゃん。今度一緒にゲーセン行こうぜ!」

「こ、言葉遣いも……き、綺麗じゃないし」

「そっか? 敬語もきちんと使えるし、年上を敬える。そんな事、思った事ないぞ?」

「さっきの見たら分かると思いますけど……け、結構喧嘩っぱやいし」

「……あー、うん。そこは治して行こう。つうかダメだぞ? 人の頭からコーラぶっ掛けるのは。目に入ったら炭酸は特に危ないし……そもそも、食べ物とか飲み物を粗末にしちゃダメだ」

「う……は、はい……じゃ、じゃなくて! そ、それに、それに……バスケ馬鹿で――」

 そんな有森を手で制し。



「バスケ馬鹿で、身長が高くて、ちょっぴり意地悪な所もある、そんなお前が良いんだよ、有森。大好きだ」



 どうだ、と?




「俺の彼女に……なってくれるか?」




「――ううう!! 藤田先輩のバカ! 何が男から言うものですか! 私、どれだけ傷ついたと思うんですか!」

 泣きながら。

 それでも、藤田の胸に顔を埋める有森を藤田が優しく包み込むように抱きしめる。

「ははは。わりぃ、わりぃ。でもさ? ケジメってあるじゃんか? こう、さっきワクドでお前の気持ち聞かせて貰ったからさ? つうかな? あんな不意打ち、ズルくない? 俺から言おうと思ったのに」

「だ、だって! あの子が藤田先輩の悪口言うから!!」

「悪口、かな? 結構、的を射てたと思うんだが……活躍はしてなかったし」

「どこがですか! 藤田先輩の良い所、全然見て無いじゃないですか! あの子、結局藤田先輩利用してただけだったし! それに腹が立って……つ、つい」

「腹が立ってって……」

「だ、だって! わ、私、自分の大好きな人が……だ、大事な人が利用されているを見て我慢できるほど、人間出来てませんもん! 藤田先輩とは違うんです!」

「……いや、俺も自分の大事な人が利用されたらそりゃ、怒るぞ?」

「そうじゃなくて! あんな子でも……自分を利用する為に近付いた様な子でも……」



 ――そんな人にでも優しくできる、素敵な人、と。



「私は無理ですもん、そんなの」

「……そうだな。それはちょっと考えなくちゃいけないかな」

「え?」

「大事な人が利用されたら怒るってのはともかく……さっき、お前も聞いたじゃん? 川北とか藤原でも探すかって。きっと、こういう時に探すのは……どういうんだろ? 優しく? いや、別に優しくしてるつもりも特には無いが……ともかく、そういう……なんていうの? 大事に……うん、大事に、だな。大事にするのは、お前だけじゃないとダメなんだろうな、って」

「……」

「……有森?」

「……いえ、藤田先輩は今まで通りで良いです」

「良いのか?」

「ええ。自分の大事な人の為に、優しく出来る、動くことが出来る、そんな藤田先輩だから」



 ――私は、大好きになったんですよ? と。



「だから……無理に我慢して助けるのを止めなくても良いですよ。助けるのを我慢っておかしな単語ですけど……私の為に、それを止めなくても良いです。他の人を『大事』にしてあげても、良いんです」


 でも、と。




「――一番大事にするのは、私にしてくれますか?」




 先ほどよりも力を込めてぎゅっと藤田を抱きしめる有森。そんな有森に少しだけ動揺しながら、それでも藤田も有森を抱きしめ返す。

「――勿論だ。まあ、俺だし……どこまで出来るか分からんが。ああ、無論、精一杯大事にするつもりではあるんだぞ! あるんだが、どこまで満足して貰えるかは……」

「……ふふふ」

「有森?」

「舐めないでくれます? 私がどれだけ藤田先輩の事好きだと思ってるんですか?」

「……へ?」

「悪いですけど、私、その辺りは全然心配して無いです。さっきのもちょっと甘えてみただけですし」

「……なんでさ?」

「分かりませんか?」

 胸に埋めていた顔を上げ、にっこりと笑顔を浮かべて。





「――だって、藤田先輩ですもん。これ以上ないぐらい、優しくしてくれて、いっぱい、愛してくれて、たくさん、甘やかしてくれて……大事にしてくれるに、決まってるじゃないですかっ!」





 ……だよな、有森。だって藤田だもんな。そりゃ、大事にしてくれるに決まってるさ。ツレの俺はともかく……フラれた女にアレだけ出来るアイツが、そりゃ自分の一番大事な女の子、大事にしない訳ないもんな。

「……良かったわね、有森さん」

「……だな」

「……藤田君も『迷惑』って言った時にはどうしてやろうかと思ったけど……まあ、男の甲斐性って事で見逃してあげるわ」

「……さっきからちょいちょい思ってたけど……どの立場から言ってんだよ、お前は」

「勿論、ラブ警察の立場よ」

「独裁国家かよ」

 少しだけ呆れた表情で桐生を見た後、幸せそうに抱き合う二人に視線を送る。



「……良かったな、二人とも。お幸せにな」



 夕日に照らされて長く伸びる寄り添う二つの影からすら立ち上りそうな幸せの気配に苦笑を浮かべて、俺は『親友』の恋路を祝した……んだけど。




「……さて……問題はどうやってバレない様に此処から撤退するかだな……」











 …………まあ、別に隠密スキルなんてものもない上に怪我持ちの瑞穂を抱えた俺らは手を繋いで公園を出ようとする二人に見つかり、『のぞき見って有り得なくないですか!!』と憤る有森に公園の砂場で正座で一時間、説教されました。怒り以上に有森の顔が赤く見えたのは……まあ、夕日のせいという事にしておこうか。


な、長くなった。おかしい、三話ぐらいで終わる筈だったのに……気付けば中編ぐらいになっちゃった。

本編読みたかった方、ごめんなさい。代わりに日曜日中に終わらせようとちょっぱやで書いたから許して下され。でも……『本編読みたかったけど、これはこれで面白かったよ!』って言って貰えたら嬉しいんで、遠慮せずに感想欄で『面白かった』って言ってくれて良いですよ?(要求 

あと、ブクマとか評価ポイントが入ったら嬉しいです(切実


さて、明日から本編第四章、最終章のスタートになります。ちょっと前にも書きましたが、最終章なんで丁寧に書きたい気持ちもあるので更新ペースは比較的ゆっくりになるかもです。流石に毎週更新みたいな事にはならんと思いますが……二日に一回とか、三日に二回とかになるかも。エンディングは決まってるんですが、間のエピソード増やしたくなったんで、ちょっとインプットもしたいですし。

こんなお話ですが、引き続きご愛顧いただければ幸いです。ではでは~。

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[良い点] すげー面白かった 満足です読んでてよかった
[良い点] こんなん尊いのオーバーキルやん
[良い点] 藤田おめぇ......出てきた当初ネタ枠だと思ってごめんな、すげぇかっこよかったわ。 [一言] 悪役令嬢モノ(?)はタイトルだけで毛嫌いしてたんで、ランキングの誘惑に負けて何の気なしに読み…
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