第百二十六話 幕間。或いは藤田くんと有森さん。その3
興が乗ったので本日二回目の投稿です。次の話も書けたので、明日朝起きて見直したら直ぐに投稿します。問題は何時に起きれるか、だが……ちなみにこの藤田君と有森さんシリーズは6か7で終わります。きっと、皆納得してくれる筈です。あまり大口叩くのは好きではないですが……このシリーズ、結構自信満々です。
「有り得ないわ! 藤田君、あんな人だとは思わなかった!」
屋上から降りて、尚もぷりぷりと怒る桐生を宥めつつ、俺たちは駅前のワクドに入って二人掛けのボックス席に腰を降ろした。てりやきワクドに被りつきながら、不満も露わにそう言う桐生に苦笑を浮かべて俺は口を開く。
「そんなに怒るなよ、桐生」
「怒るわよ! だって……」
「だって?」
「……だ、だって」
もぐもぐと口を動かしながら言葉が小さくなっていく桐生。
「……別に、藤田は悪くないよな? 藤田と有森が付き合ってて、その上で浮気してた、って言うならそりゃ問題だろうけどよ?」
「……うん」
「さっき藤田も言ってたけど……元々藤田、あの一年の子の事好きで告白してんだよな。そりゃ、一遍フラれてるけどよ」
まあ、あの時の藤田の告白も大概勢いみたいなモンだし。だって一言しか喋ってねーのに特攻するとか、正気の沙汰とは思えんぞ、マジで。
「……そんな藤田に春が来るかも知れないって言うなら……俺的にはまあ、尊重というか……なんというか」
上手くは言えんが……少なくとも、『有森はどうするんだよ、この不義理モノ!』と罵る気はない。確かに有森の胸を触った罪……罪? はあるのだろうが……それだって、事故だしな。
「……分かる、けど……でも、それじゃ……有森さん、可哀想じゃない?」
「……まあな」
……かといって、桐生の気持ちも分からんではない。つうか、心情的には有森とくっ付いて欲しい気持ちもある。もっと言えばあの一年の子にしたって、一遍藤田を振っておいて、ちょっと格好いい姿見ただけで何勝手な事言ってやがんだ! って気持ちもそりゃ無い訳じゃない。無い訳じゃないが、しかし、だ。
「……にしても藤田がそれで満足なら……俺らが口を出す事じゃないだろ?」
「……うん」
「……恋愛沙汰は色々あるし……まあ、俺らに出来る事は有森が傷ついたら上手くケアしてあげる事ぐらいしかないんじゃないか?」
「……そうね。その時は精一杯、有森さんを慰めてあげるわ!」
そう言って拳を胸の前で小さく握り込んで『むん』と可愛らしく力を入れて見せる桐生。その姿を苦笑で見守りながら、俺は言葉を継いだ。
「にしても……お前も変わったな?」
「私? そう?」
「昔の……あー……その、なんだ? 『悪役令嬢』って呼ばれてたお前なら、そんな事考えもしなかったんじゃないか?」
「……」
「……怒った?」
「怒ってはいないわ。でも……そうね。確かにその通りって思っただけよ」
「……」
「貴方に出逢って、色んな人と関わる様になって……そうね、私は『守りたい』モノが増えたのかも知れないわ」
「守りたいモノ、ね」
「賀茂さんや鈴木さんも大事な……その……お、お友達だし? それに、有森さんや藤原さん、古川君……それに川北さんは可愛い後輩よ。出来ればその……傷ついて欲しくないのよね」
そこまで喋って桐生がテーブルに突っ伏す。
「……そう考えれば、藤田君だって友人の一人なんだし……あの言い方は無かったかも知れないわ。ちょっと、自己嫌悪」
「……ホントに変わったな、お前」
『あの』桐生が人付き合い……つうか、人との対話で反省してんだぞ? 昔、自分に絡んで来た相手をコテンパンにした、あの桐生が、だ。まあ、あいつらと比べるのもどうかという説もあるんだが。
「……まあ、藤田には明日にでも謝って置け」
多分、気にして無いけどな、アイツ。
「……そうする」
尚も突っ伏したままそう答える桐生の頭をポンポンと撫でる。と、ちらりと上目遣いでこちらを見やりながら、桐生が両手で頭を撫でている俺の手を優しく包んだ。
「その……ね?」
「ん?」
「あ、貴方も……だから」
「なにが?」
「う、ううん! あ、貴方が、一番だから」
「……だから、何が?」
首を傾げる俺に。
「だ、だから……わ、私が『守りたいモノ』の……い、一番は、貴方との関係だから」
……顔真っ赤だぞ、俺。
「……そうかい。そりゃ……さんきゅー、な」
「うん。だ、だからね? あのね、あのね? は、離れて行ったら」
ヤダよ、と。
「……離れてなんて行かねーよ」
「……うん。嬉しい」
華の咲いた様な笑顔を見せる桐生にそっぽを向いて頬を掻く。あ、ああ! 暑いな、この店! ちゃんと――
「……あれ?」
照れ隠しにそっぽを向いて入口付近を見つめていた俺の視界に見慣れたシルエットの四人組が映る。見慣れたシルエット、なんだが……
「……瑞穂と秀明と……有森と、藤原?」
その『並び』は見慣れないモノで……っていうか。
「……ねえ、東九条君?」
「……なんだ?」
「……私の見間違えじゃなければ……有森さん、泣いてない?」
「……泣いてるな」
藤原と瑞穂に支えられながら、目を真っ赤にした有森と、その後ろで困った様に頭を掻く秀明の姿がそこにはあった。あ、秀明と目があった。やめて、秀明。『助かった!』みたいに目を輝かせるの。
「浩之さん! 桐生先輩も!」
「……おう、秀明」
「え? 浩之先輩に桐生先輩?」
「瑞穂……藤原も、久しぶり……でも無いか。その……なんだ」
少しだけ気まずい。そう思い、視線を有森に向ける俺。その視線に気付いたのか、藤原が『あ、あはは』と頬を掻いて見せる。
「そ、その……あの、ですね? 今日は丁度部活も休みだったんで、瑞穂のリハビリに付き合いに病院に行ってたんですよ。雫は経験者ですし、私も枯れ木も山の賑わいと言いましょうか……」
「……秀明は?」
「俺も似たような理由っすね。今日は部活オフ日だったし、瑞穂のリハビリ兼ねてちょっと遊びに行ってたんですけど……んで、たまたま二人に会ったんで」
「理沙と雫、それに秀明は知らない仲じゃないんでしょ? それじゃ、四人でちょっと遊びに行こうかって話になって……」
「……遊びに行こうかって話で、なんで有森が涙目なの?」
「浩之先輩。雫のこれは涙目じゃないんです。泣いてるんです」
「……デリカシーが無いのか、お前には」
俺がオブラートに包んだと言うのに。
「正確に事態を理解して貰おうと思いまして……と言うより、もう私達ではどうしようも無くて」
そう言って一転、困り顔を浮かべる瑞穂。あれ? なんかイヤな予感がするんですが。そんな俺の考えむなしく、瑞穂は口を開く。
「――もう、回りくどいのなしで、単刀直入に聞きますね? 浩之先輩、藤田先輩の親友ですよね? その……藤田先輩って」
彼女、居るんですか? と。
余りにもタイムリーなその話に、桐生と目を見合わせた後、俺は天を仰いだ。