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第四話 あらやだ。ウチのクラスは煽り好きな人間多すぎるわ……っていうか、殆ど智美だけど。


「じょ、上等だ! ちょっとバスケ上手いからって調子に乗るなよ!」

「ふふん。そういう事は勝ってから言いなさい!」

 よせば良いのに、智美も煽る煽る。段々、佐島くんの顔色が変わっていくのが手に取るように分かる。

「あー……智美、その辺で止めとけ。藤田、佐島くん。さっさと始めよう」

 誰も仕切る人がいないので、しょうがなく俺がこの場を仕切ることに。正直、あんまり目立つことはしたくないが、面倒くさいことは早く終わらせるに限る。

「あ、ああ! それじゃはじめるぞ!」

 そう言ってコートの半分に三組の面々、もう半分に四組の面々が散らばる。ジャンプボールは佐島くんと田中。ここは当然と言うべきか佐島くんが勝って、ボールは四組ボール。

「ソッコー!」

 バスケ部仕込の大声でソッコーと叫びながら佐島くんがパスを受ける。一回戦負けとは言ってもバスケ部はバスケ部。ドリブルをしながら我らが三組の面々を抜き去り、軽々とレイアップシュートなんぞを決めてみせる。

「どうだ!」

 藤田に向けて、これ見よがしにガッツポーズ。その姿に、藤田が悔しそうに顔を歪めた。

「くそ!」 

「焦るな焦るな。それでも、智美にボールを集めれば勝てるだろ?」

「そ、そっか! よし、鈴木にボールを集めるぞ!」

 俺の言葉に元気付く藤田。相変わらず現金な奴だ。ちらっと智美を見てみれば、佐島くんも心得たもの。ぴったり智美に張り付いている。

「ひ、浩之! 鈴木にぴったりマークしてるぞ!」

「だから焦るなって。取り合えずドリブルで向こうのコートまで持っていけよ」

 俺の言葉に一つ頷くと、藤田が不安な足取り(手取り?)でボールをダムダムついていく。

「こら! ヒロ! アンタ、サボらずにしっかり働きなさい!」

 ぴったりマークされながらも、しっかりこっちを見て文句をブーブー垂れる智美。

「ほっとけ! お前はさっさとマークを振り切れ! バスケ部だろ?」

「なにを!」

「って言うか、仲間内で喧嘩しないでくれ!」

 俺らの口論を聞いて藤田が泣きそうな声を上げる。藤田にとってここは正念場。恋愛は先着順じゃないと思うけど、相手よりも先にという感覚は分からんでもない。

「藤田。ボール貸せ」

 藤田が覚束無い手つきでこちらにパスを送る。ドリブルをしながら周りを見渡してみるも、智美には佐島くんがぴったりマークについてるし、なかなかパスは出せそうに無い。

「……しょうがない」

 スリーポイントラインに足を揃え、ゴールを見据える。垂直に落ちて、ネットを揺らすイメージ。そして足を踏み切り、ボールから手を離す。


 スポッと言う音を立て、ゴールネットにボールが吸い込まれた。


「……」

「……」

 両軍、唖然。無理も無い。打った俺もびっくりしたよ。結構入るもんだな、スリーポイント。

「お、おおおおお!」

 ついで怒号。両軍最高潮に盛り上がってくれているようだ。しかし、これだけ盛り上がられると逆に照れる。

「やるじゃん! ヒロ!」

 嬉しそうに智美がバシバシと俺の背中を叩く。加減しろ、痛いって。

「ただのラッキーだよ」

「見てよ、佐島の悔しそうな顔。ざまあみろだわ!」

「……嫌いなのか? 佐島くん」

「ん? 別に嫌いじゃないよ。嫌いじゃないけど……でもさ? やっぱり勝負事はマジにならないと! 面白くないじゃん!」

「……へえへえ」

 智美の言葉を軽く聞き流し、俺はゴール下へ。流石に何回も速攻を決めさせるわけには行かない。周りが素人ばかりの集団である為に、結局佐島くんが一人でボールを持ってシュートの展開ばかり。勿論それはこちらにも言えること。智美頼りになりがちで、あちらと対して変わりない。

「二十一対二十二か」

 試合も終盤。何時の間にか審判役を買って出ていた体育教師の、『ラスト一分!』の声が体育館に響く。

「……ヒロ」

「何だ?」

「私、結構勝ちたいんだけど?」

「そうか。悪いが俺はそうでもない」

「と、いう事で後は宜しく。負けたら許さないから」

「な、何? 人の話を聞け!」

 俺の話なんか聞いちゃいねえ。ボールを持っている佐島くんに一直線に走って行き、マンツーマン。

「佐島!」

「なんだ?」

「ボール頂戴?」

「やるか!」

「あ」

「今度はなんだ!」

「チャック開いてる」

「何!」

「うそぴょん」

 思わず腰が砕けそうなほどあっけないやりとりで、佐島くんからボールをスチールする智美。って言うか佐島くん、メンタル弱すぎ! ジャージにチャックは無いだろうが! なんかトラウマでもあんの?

「ヒロ!」

 智美からボールが回ってくる。さっきの智美の言葉を聞く限り、負けたら本当に許されそうに無い。仕方ないか。

 ドリブルをしながら一人目。眼鏡をかけたガリベン君なんだろう。おろおろしながら道を開けてくれる。

「……どうも」

 ついついお礼なんぞ言ってみたりしながら二人、三人と抜き去る。四人目は確かサッカー部でディフェンダーをやってたやつだ。バスケとサッカーじゃ全然違うが、基礎体力や反射神経って所じゃ共通する部分が多いし、何より勝負なれもしてるだろ。事実、俺じゃなくて、きちんとボール見てるし。

「もらった!」

 大声を張り上げながら、サッカー部の奴はボールに向かって一直線に手を伸ばす。その手からボールを庇うように守り、一回転して抜き去る。

 ゴール下までたどり着いた所でラスボス、佐島くん登場。流石に今までのような簡単なフェイントじゃ抜けそうに無い。

「がんばれ~! ヒロ! 抜けー」

 うん。後ろから智美の声が聞こえる所をみると、あいつこっちに来る気ないな? 最後まで俺にまかせっきりのつもりだな?

「仕方ねえな」

 ボールをまたぐようにドリブル。つられる事は無いが、驚いた顔になっている。ど素人と思っていた人間にいきなりこんな事されたら流石にびびるわな。折角出来た隙だ。有効に活用させてもらおう。一気に右から抜きに掛かれば、慌てたように右に着いてくる。そこで一旦ストップ。思わずたたらを踏む佐島くん。チェンジオブペースで一気に左から抜き去る。そのままレイアップシュート。

「さ、させるか!」

 後ろから佐島くんの声が聞こえる。ファール覚悟で後ろから止めに来ているようだ。俺の右手のボールに佐島くんの手が伸びている。ファールを貰ってフリースローでも良いけど、興も乗ってきた。ファールなんかさせるか。

 佐島くんの手が俺のボールに触れるその瞬間に右手のボールを左手に持ち替え、そのままレイアップシュート。ダブルクラッチってやつだ。宙を舞ったボールは、そのまま吸い込まれるようにリングの中へ。

「……」

「……」

 両軍、再び唖然。ちらりと、智美の方を見れば、満足げに頷いている。

「……先生?」

 心ここに在らずの顔をしている先生の下へ。恐らくファールを宣告するためだろう、笛を加えたまま固まっている先生は、俺の声を聞いてはっと気付いたかのように視線を俺に戻す。

「な、なんだ?」

「時間、来ましたよね? 三組の勝ちで良いですか?」

 慌てたように時計を見、ホイッスルを高らかと鳴らす。二十三対二十二、三組チームの逆転勝利であり、同時に藤田の先着告白権が確定した。おめでとう、巧くいきゃいいな。

「ひ、浩之! お前すげーなー!」

 当の藤田、ニコニコ顔でこちらに駆け寄ってくる。勝負に勝ったのが嬉しいのか、先に告白できるのが嬉しいのか、それともその両方か? 一緒のクラスだが今まで一番良い笑顔かも知れん。

「なーに。漫画で見たとおりにやってみたら出来た」

「そっか! まあ何にせよありがとう! 今日のMVPはお前に決定だよ!」

「智美は良いのか?」

「大丈夫! ペアチケットだ! 鈴木と行って来い!」

 そう言いながら、がははとジャイ○ンみたいな笑い声を上げながら佐島くんの方へ。何か一言言って帰るつもりか? 止めときゃ良いのに、煽るの。なにこのクラス? 好戦的すぎやしないか?

「よ、お疲れ」

 ポンと肩を叩かれ、振り向くとそこに智美の笑顔。元々整った顔立ちの智美の少し上気した顔は、なんだか色っぽい。

「お前……最後、手を抜いただろ?」

「ん? 流石に一人でコートの中走り回ったら疲れるもん。それよりもヒロ、最後格好良かったじゃん! 涼子、がっかりするだろうな~。自慢しちゃおう!」

「煽るの禁止な? まあ、ただのラッキーだって。取り合えずMVPは俺が貰ったらしいぞ。商品は智美と二人で行けってさ」

「マジ? んじゃ今日行こうよ、今日! 部活、休みだし!」

「そうだな、それじゃ――」



『……まあ、そういう訳で放課後は予定、空けときなさい。迎えに行くから、クラスに。言っておくけど拒否権、無いわよ?』



「あー……今日は無理だ」

「無理? なんで?」

「なんでって……」


 残念ながら、俺、今日『悪役令嬢』とデートだわ。なにこの字面、最悪なんだけど?


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