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第百十三話 試合での活躍度と、藤田君の想いは正比例


 一回戦の大野木建設有志チームとの試合は五十六対二十五という大差で俺ら『瑞穂と愉快な仲間たち』チームの勝利となった。結構な点差が付いたが、これはウチと同様に交代メンバーのいない大野木建設有志チームの『お姉さま』方がバテバテになったため、殆ど試合にならなかったからだ。

「お疲れさん」

「ああ、東九条君。お疲れ様。勝ったわね」

「まあ、此処には勝つと思ってたしな。どうだ? 少しは休めたか?」

「前半は少し頑張ったけど……後半は殆ど何にもしてないから。むしろ体がなまりそうよ?」

 そう言って笑う桐生にスポーツドリンクを手渡す。コイツ、こうは言ってるが第一、第二クオーターだけで一人で二十点取ってるからな。よくやってくれたよ、ホント。

「ありがとう、東九条君。それで? 次の試合はどうかしら?」

「相手はシードだから実力は未知数だが……藤田が心配なだけかな?」

 正直、涼子の情報から考えるに実力はさして高くない。この次、つまり決勝の相手は正南と東桜女子の連合チームになる可能性が高い中で、俺が懸念するのは実は次の試合だったりする。

「……相手の実力はそうでも無いのでしょう?」

「まあな。だが、次の試合はレクリエーション色の強いチームだろ? 大学のサークルだし」

「……そうね」

「つうことは、そこまで勝ちに拘ったチーム構成じゃないだろうし……要は、パワーフォワードに女性が配置される可能性もある」

「さっきのチームだってパワーフォワード女性だったじゃない」

「いや……さっきのは例外だろ?」

 確かに女性だったが……自分の親ぐらいの、しかもその……ちょっと太ましい方だったし。藤田も流石に緊張はしてなかったが。

「次、もしパワーフォワードが女性なら藤田のマッチアップは女子大生だろ?」

「……ああ、なるほど」

 男女比が三対二になるんなら、桐生か智美のマッチアップは男性になる可能性が高い。藤田が使い物にならなくて、その上で智美か桐生まで抑えられると厳しい戦いになる可能性は高いのだ。

「高校でのバスケ経験者はいなくても中学校まではいるんだろ? なら、完全な初心者じゃないだろうしな」

 まあ、こればっかりはやってみなくちゃ分からないんだが。

「……まあ、考えても仕方ないか。それよりそろそろ試合だ。次も頼むぞ、桐生?」

「任せて頂戴。次も活躍してみせるわ!」

 そう言って笑顔を浮かべる桐生に、俺も笑顔を返した。


◆◇◆


「……ふう」

 第二試合も既に第一、第二の前半が終了。スコアは三十六対十五とダブルスコア以上の数字を残して折り返した。まだ試合は終わってはいないが、この試合のMVPは。

「……お疲れ、藤田」

「おう、浩之」

 藤田だ。得点十五点、リバウンド五。初心者とは思えない立派な数字を残している。しかも。

「……お前、女子相手でも全然イケるじゃん」

 藤田のマッチアップ相手は女性だった。すらっと背の高い美女で、『今日はよろしくね~』なんて声を掛けられて『は、はい!』なんて上ずった声を上げていた時はどうなるかと思ったのだが……蓋を開けてみればこれだ。

「……だな」

 実際、藤田のマッチアップが女性だった事もあってゴール下は藤田と秀明の独壇場だった。秀明が相手センターを完璧に抑え込み、藤田がリバウンドを取るという完璧な布陣だ。

「お疲れ様です! 藤田先輩、やればできるじゃないですか!」

 藤田をねぎらっていると、自分の試合が終わったのか有森がこちらに駆けて来た。

「お疲れ。どうだった?」

「勝ちましたよ! それより藤田先輩、凄かったですね! 相手は可愛い女子大生のお姉さまでどうなるかと思いましたが……やればできるじゃないですか! 最初からやって下さいよね!」

 少しだけ不満そうで、それでいて嬉しそうに藤田の肩をバシバシ叩く有森。そんな有森に、藤田は苦笑を浮かべながら言葉を返した。

「いてーよ、叩くな! まあ、俺も最初は緊張するかなって思ったんだが……試合が始まったら全然そんな事無くてな? むしろ相手の動きが鈍いからやりやすいっつうか……ともかく、シュートもリバウンドもガンガン取れたよ」

「ですね~。私が見たのは第二クオーター終了間際ですけど、動きが段違いでしたもん! 凄いです!」

「あんがとよ。これもお前の練習のお陰かな?」

「そうですかね~? 私の練習の時は全然、力が発揮できて無かったみたいですけど?」

 一転、ジト目を向ける有森。その視線に藤田が頭を掻く。

「悪かったって。なんだろうな? お前と練習した時はすげー緊張したんだけど……今は全然緊張しない」

「そうなんですか? アレですか? 試合の高揚感とか?」

「んー……どうなんだろ? 俺、試合も練習も一生懸命やってる気がするんだが……」

 そう言って首を捻る藤田。そんな藤田にきょとんとした表情を向けたのは一瞬、有森はにこやかに笑顔を作る。

「まあ、良いじゃないですか! 悪い事なら理由を探るの大事ですけど、良い事は理由探らなくても! 『良かった!』で良いんですよ!」

「……良いのか? 良くも悪くも理由探すの大事な気がするんだが……」

「今探しても見つからないでしょうし! ともかく、藤田先輩! 後半も頑張って下さいね! 私、これから次の試合のミーティングあるんで! あ、東九条先輩!」

「どうした?」

「さっき理沙から連絡ありました! 今、こっちに向かってるけど渋滞に巻き込まれたらしくて……決勝戦の第二クオーターまでには間に合いそうだから、絶対に途中で負けないで下さいって伝言です!」

「おっけ。それじゃ、決勝戦まで負けずに戦うか」

「はい! それじゃ、失礼します!」

 そう言ってペコリと一礼すると有森は女子バスケ部の元まで走る。その後ろ姿を見ながら、藤田が言葉を漏らした。

「……元気なヤツだよな~、アイツ」

「……だな。良いヤツだよ」

「だよな~。あれだけ俺の練習にも付き合ってくれたしさ。あいつ、俺に『藤田先輩も自分の時間、大事にしなくて良いんですか?』みたいなこと言ってたけどさ? あいつも大概じゃねーか?」

「自分の時間って……ああ、メリット云々のヤツか?」

 恋に落ちた時ね、有森が。

「アイツだって人の事言えねーよな? もっと自分の時間大事にすりゃ良いのに」

「……」

 いや……有森は有森で自分の時間大事にしてたんじゃねーか? 好きなヤツと二人でバスケ出来たら幸せだろ、多分。

「……それより、後半も頼むぞ藤田」

「任せろ。今の俺は誰にも負ける気がしねーぜ!」

 そう言って親指をサムズアップする藤田。後半もその調子で頼む――

「……おい、藤田」

「あん? どうした?」

「お前、今は緊張して無いんだよな? 接触プレイしても」

「おう。まあ、ちょっとドキっとはするんだが……あんまり気になんねー」

「……ちなみに有森と接触プレイした時は?」

「『うわ、やべ! 触っちまった!』って思う。全然集中出来なくて、さっきの練習でも怒られたしな」

 そう言って情けない表情で笑った後、藤田は『ちょっと秀明とコンビネーションの確認をしてくる』と席を立つ。そんな藤田の後ろ姿を見送りながら。



「……これはいい方向に転ぶかしら?」



「……いつからいたの、桐生?」

 不意に背中から掛けられた声に振り返る。桐生だ。

「なんとなく、ラブコメの波動を感じたから、駆け付けたのよ。このラブ警察二十四時の彩音が、きゅんきゅんするシチュエーションを見逃すはず無いでしょう?」

「……なんだよ、ラブコメの波動って」

 あと、ラブ警察二十四時って。

「冗談よ。藤田君の活躍が凄かったから賞賛しに来たんだけど、なんとなく入り辛い雰囲気だったから後ろで聞いてたのよ」

「入りづらいって」

「だってあれでしょ? 藤田君のは完全に、『俺、女子を意識しているワケじゃねーんだ。有森だから意識してるんだ!』ってシーンでしょ?」

「……お前もそう思う?」

「ええ。鈍感な感じが良い味出してると思うわ。相変わらず、あの二人はきゅんきゅんさせてくれるわね」

 そう言って『はぅ』となまめかしい吐息を漏らす桐生。なんか色っぽいんだが。

「……まあ、藤田には色々世話になったしな。もし相談が来たら全力でフォローはしようと思う」

「……その際は私もぜひ、参加させて」

「お前の場合、野次馬根性丸出しな感じもするが……」

『そ、そういうつもりじゃないわよ!』と手をわちゃわちゃ振って見せる桐生に苦笑を返していると、後半開始の笛が鳴った。

「……ま、取り敢えず目の前の問題を片付けようぜ? さっさと倒して……それで、目指すは優勝だ!」


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― 新着の感想 ―
[良い点] ラブコメの波動を察知しつつ、自身も東九条君とラブコメの波動を出すことを怠らない、まさにラブ警察二十四時の彩音様である。 [一言] さっき雫から連絡ありました! 今、こっちに向かってるけど渋…
[良い点] 面白いです。頑張って下さい。
[良い点] 「なんとなく、ラブコメの波動を感じたから、駆け付けたのよ。このラブ警察二十四時の彩音が、きゅんきゅんするシチュエーションを見逃すはず無いでしょう?」 こんなセリフを恥ずかしげもなく言っての…
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