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第九十九話 マネージャー、賀茂涼子 ~男子編~


 食事も終わり、腹八分となった我が家のリビングで涼子はセッティングを始めた。

「なにそれ?」

「これは動画サイトの動画をテレビに映せる様にする機械だよ」

「……あんの、そんなの?」

「うん。テレビ側も対応していないと出来ないけど、良かったよ。浩之ちゃんの家のテレビは対応していて」

「……浩之ちゃんのっていうか桐生家の財力の賜物だけど」

「どうせ何時かは貴方のモノにもなるのよ? いいじゃない、どっちでも」

 そんな桐生の言葉に頬をぷくーっと膨らます涼子。すわ、バトルか!? と、一瞬焦るも、すぐに涼子はその顔を苦笑に変えた。

「……まあ、今はそういう事にしといてあげるよ、桐生さん」

「……今だけとは限らないけどね?」

「ふふふ。そうだね~。そうなると良いね~」

 ニコニコ笑顔の涼子に、少しばかり眉を吊り上げる桐生。そんな二人を見やり、藤田がポンっと俺の肩に手を置いた。

「……大変だな、お前も」

「……うるせー」

 いらんことを言うな。

「……と、準備できたよ~。それじゃ、見よっか。一応、メンバーに入りそうな子の中学時代の動画を漁ってみたんだ。まずは……この子」

 そう言って涼子が携帯を操作して映し出したのは背の高い男子。センターか?

「三次中学の小林君。ポジションはセンターね」

「俺のマッチアップっすね。背は高いっすけど、ひょろいですね?」

「中学時代だから、今はもうちょっとサイズアップしてるかもだけど……でもたぶん、この子はあんまり変わって無いんじゃないかな? プレイスタイルもガンガン体を当ててリバウンドを取りに行くって言うよりも、手足の長さを活かしてするっとボールを奪う感じだし」

「……ある意味、俺と対極っすね」

「まあね。一応、動画サイトのURL送るよ。また見て頂戴」

「うっす」

「それじゃ、次の子ね。次は――」

「ちょ、ちょっと!! い、良いかしら?」

「――と、なに、桐生さん?」

「その、あまりにも説明が短い気がして……もうちょっとプレイを見るかと思ったんだけど……これだけじゃ、私、分からないわ」

 眉をへの字にして見せる桐生。そんな桐生に、涼子は苦笑を浮かべて見せた。

「説明が足りなかったね、ごめん。秀明君は自分で分析できるから。他の人とマッチアップ変わったら、とか考えたら見た方が良いんだけど……でもね? そもそも浩之ちゃんでも止められないだろうし、身長差とかで。ならこの子の説明は要らないかなって」

 たしかに。俺より全然高いからな、コイツ。

「分かったわ。ごめんなさいね、話の腰を折って」

「ううん。それじゃ次。男子を纏めて行くから。次はパワーフォワードの中西君。隣の県の中学校出身で、全中にも出てる。パワーフォワードなんだけど、外からも中からも打てる、結構隙の無いプレイヤーだね」

「……藤田のマッチアップか」

「え? コイツ、俺とマッチアップするの? っていうか俺、パワーフォワードなんだ?」

「藤田先輩、パワーフォワードってこないだ教えたでしょ! なんで覚えて無いんですか!」

 有森の言葉に頭を掻く藤田。まあまあ有森。バスケの初心者に『パワーフォワードね?』って言ってもわかんねーよ、そりゃ。

「……っていうか、無理じゃね?」

「やる前から弱気でどうするんですか! 藤田先輩、守備は出来る様になって来たんですから、守備くらいは頑張りましょうよ!!」

「お、おう……っていうか、アツいな、お前?」

「私が一生懸命教えたんです! 負けないで下さい、藤田先輩!」

 ふんすと鼻息荒くそういう有森に若干引き気味の藤田。

「まあまあ。それに、この子も弱点があるんだ。ちょっと熱くなりすぎるっていうか……精神面で弱い所があるって言うか」

「そうなのか?」

「全中の予選、決勝でファイブファールして退場してるんだ、この子。その時もディフェンスにしっかりマークされてイライラしてファール、だからね。初心者のディフェンスで止められたりした日には……」

「……藤田が初心者ってわかるか? プレイを見て、ってこと?」

「……口撃って便利な言葉、あるよね~、浩之ちゃん?」

「……腹黒いだろ、おい」

 ニヤリと笑ってそう言って見せる涼子。まあ、戦略として無しでは無いが……

「勝ちたいんでしょ? 地力じゃあっちのが上だし、出来る事はなんでもしないとね~」

 そう言って一転、ニコニコ笑顔を浮かべる涼子に、俺の隣で藤田がブルリと体を震わせる。どうした?

「……俺、賀茂さんってもっと天使みたいな優しい子かと思ってた」

「策士だぞ、アイツ。たぶん、幼馴染ズの中で一番腹黒い」

「私は浩之ちゃんとか智美ちゃんみたいに運動できないからね~。頭を使うって話だよ」

「……パワーバランスが分かった気がする。以外に苦労人だな、浩之」

「……そうかい」

 良いんだよ、俺らはこれで。

「……まあ、ともかく藤田の相手は巧いが短気って事だな? それなら俺とダブルチームとかで揺さぶり掛ければ……」

 上手くすりゃ、さっさと退場してくれるかも知れん。そう思った俺に、涼子は暗い顔を浮かべる。あれ?

「……違うの?」

「浩之ちゃんがそこまで動けるかな~って」

「……現役引退してるからか?」

 そりゃ、確かに体力は落ちてるだろうが……それでも、一試合ぐらいなら――


「ううん、そうじゃなくて」


 俺の言葉を遮る様に涼子は言葉を発する。

「浩之ちゃんの相手……東京の大手町中の水杉君なんだよ」

「……大手町中の水杉?」

 誰だよ、そいつ?

「……大手町中ってどっかで聞いた事ある気がするんっすけど……」

「秀明君、正解。去年の全中ベスト8の中学校だよ。そこの司令塔だった子なんだ、水杉君って。普通の公立中だった大手町中を全国大会出場、ベスト8まで導いた立役者だよ。技術面でも精神面でも凄く強い選手なんだ」

「ああ! なんか雑誌で見ました!」

「……マジか」

 流石、正南というべきか……あれ? でも、待てよ?

「……そんな凄いヤツが三軍扱いの男女混成のチームに出るのか?」

 一軍……は無理でも、二軍くらいに出そうなモンだが……

「まあ、言っても市民大会だし。それに、正南は良いガードが揃ってるしね。加えて、正南の戦略的なものもあるんだ」

「戦略?」

「今の私たちの同級生である二年生は正南の中でも不作の年みたいでね? だから二年チームに上手い子混ぜても旨味が無いかな~って判断らしいんだ。それなら、来年からレギュラー張れそうな子達に実戦経験豊富につませて、チームプレイ磨いてほしいってカンジらしいよ? 先輩相手じゃどうしたって気も遣うしね」

「……なるほど」

 確かに、同級生の中の方が伸び伸びプレイは出来るだろうし、チームワークも良くなるかもな。まあ、正南みたいなガチガチのチームじゃ逆効果になりそうでもあるが……そこは巧い事、ポジションばらけさせたか。

「そういう訳で……浩之ちゃんはこの子のマッチアップで手一杯になりそうなんだよね。流石に藤田君のフォローまでは無理かも」

「……そうか」

「だから……藤田君に掛かる負荷は大きいかな?」

「……俺に掛かる負荷は?」

 全中ベスト8だろ? 負荷、大き過ぎね?

「そうかな? 私個人の意見だけど……」

 一息。



「全盛期の浩之ちゃんなら、きっとこの子に負けないよ?」




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