第九十二話 お調子者の藤田君
「……あれ? あんまり歓迎されてない感じ?」
「いや、別にそんな事は無いが……」
『よっ!』って感じで手を挙げた藤田だったが、俺含めて全員無反応。秀明と……『悪役令嬢』と罵られた? っていうのか、あれ? まあ、桐生はともかく、涼子と智美は反応ぐらいしてやれ。特に智美。クラスメイトだろうが、一応。
「ええっと……浩之さんのお友達っすか?」
「同じ高校の藤田だ。藤田、こっちは俺の中学校の時の後輩で古川秀明」
「どうもっす」
「おお、こんにちは。つうかでけーな。え? 俺よりもマジで年下?」
「お前と俺が本当に同級生ならな。まあ、コイツ、バスケ部だし」
「バスケ……そう言えばお前、バスケ上手かったよな~。なに? 中学校の時バスケ部だったの?」
「……一応な」
「だからこないだあんなに上手かったのか! 納得したぜ」
「ええっと……藤田も座る? 一人でワクドも寂しいでしょ?」
立ったまま喋る藤田に智美が席を勧める。一瞬、きょとんとした後、藤田は口を開いた。
「え? 俺? 良いの? でも……」
そう言ってちらっと視線を秀明と桐生に向ける。
「俺は全然問題無いっすよ!」
「私も良いわよ? 藤田君、だったかしら? 貴方が良いのなら、ね?」
「……ソノセツハスミマセンデシタ」
「良いわよ。言われる私にも原因があるから」
そう言ってふんわりと笑う桐生。その笑顔に呆気にとられた様にポカンと口を開けた後、藤田は俺に視線を向けた。
「……おい、浩之。どんな魔法を使ったんだ? あの桐生さんを――」
「……楽しくワクド食いたいなら、それ以上の発言は凶だぞ?」
何を言わんとしているか察し、先に釘を刺しておく。俺の言葉に気付いてくれたか、コクコクと首を縦に振りながら藤田は俺の隣の席に着くと、ビッグワクドの箱を開く。
「……んで? これ、なんの集まりだ? なんか雰囲気、和気藹々と楽しんでいる様には見えなかったけど……困りごとか?」
「……まあな」
「……俺で良かったら話を聞くけど……」
「あー……」
……気持ちは非常にありがたい。有り難いが……
「まあ、ちょっと……バスケの話をな」
「バスケ? お前、帰宅部だろ? なに? バスケ部にでも入るのか?」
……まあ、そうなるよな。と、智美が何かに気付いたかのようにぽんと手を打って見せた。
「あ! そう言えば藤田、中学校の時とか部活してたの?」
「俺? 俺は陸上部だったぞ? 自慢じゃないが、県大会まで行った!」
「自慢だろうが、それ。つうかお前、陸上部だったの?」
体育の時にそんな話をした記憶はないんだが……つうかお前、そんなに足、速かったっけ?
「県大会に行くほど速いイメージは無いが……」
「……失礼な奴だな、お前は。まあ、専門は長距離だしな、俺。短距離はそんなに速くないんだよ」
「……長距離」
「……まあ、言わんとしている事は分かる。短距離とか跳躍系に比べてどっちかって言ったら地味な方だしな、長距離。やると結構面白いんだが……いかんせん、速い奴はマジで速いからな。レベルが段違いなんだよ。だから高校では止めたんだ」
「……なのに県大会まで行ったのか?」
「長距離って競技は走り方とかも大事だけど……なにより大事なのはスタミナと根性だからな。『もう無理!』ってなっても、とにかく足を前に出すことが重要なんだよ。中学校……つうか、県大会ぐらいまでならそれでなんとかなる。まあ、全国レベルになると話は別だけど」
「……昭和のスポ根みたいな話だな?」
「それに近いかもな。なもんで、さして才能の無い俺でも県大会に行けたってワケ。競技人口も少なかったしな、ウチの地区」
そう言ってカラカラと笑いながらワクドに齧りつく藤田。なるほど、確かに体力があれば何とかなる競技なのかもな、長距離って。
「……ねえ、藤田君?」
「ん? どうした、賀茂さん?」
「藤田君、体力と根性には自信があるんだよね?」
「そりゃ、現役に比べれば全然だけど……まあ、ある程度は自信あるかな」
藤田の言葉に一つ頷くと、涼子は視線を俺に向ける。なんだよ?
「浩之ちゃん、藤田君、誘ってみない?」
「……は?」
藤田を? おいおい! ド素人だぞ、藤田!
「なになに? なんの話?」
「なんの話って……まあ、アレだ。ちょっとバスケットの大会に出て見ようかって話になっててだな? んで、俺と智美と桐生と秀明の四人までメンバーは決まってるんだけど、あと一人がいないって話で……」
「おお! そのラストメンバーとして俺に白羽の矢が立ったって訳だな!」
「いや、そうじゃなくて……」
「みなまで言うな、浩之! 任せろ! 俺がそのラストメンバーになってやる!」
「人の話を聞け! 立ってねーよ。言っとくけど、ガチで優勝狙うんだぞ? お前、バスケの経験あるのか?」
「ない!」
「じゃあ……」
「だが、安心しろ! 俺はバスケ経験は無いが漫画は読んだ! あの、ヤンキー漫画!」
「……ヤンキー漫画?」
「スポーツマン高校生らしからぬ真っ赤に髪を染めたヤンキーに、ドアホが口癖の手の早いヤンキー、チビの癖に喧嘩っぱやいヤンキーに、純粋な元ヤンキーが出て来る例のアレだ!」
「……いや、お前……アレ、バスケ漫画の金字塔だぞ?」
気持ちは分からんでもないし、真面目な顔したセンターのゴリラも実は隠れヤンキーじゃないかって俺もにらんではいるけどさ!
「……そもそも、バスケ漫画読んだからって上手くなれるワケじゃねーだろうが」
「だが浩之。俺には根性があるぞ? 基本、根性があれば乗り切れるんだよ!」
「……」
なんだよ、その脳筋なセリフ。そう思い、やれやれと首を振る俺の視線の端で手が上がった。秀明だ。
「……どうした?」
「その……藤田先輩、根性はあるんですよね? あと、体力も」
「そうだな。まあ、そこそこだけど体力はある方だと思う」
「なら、参加して貰ったら良いんじゃないですか?」
「……秀明」
「いや、体力あるって結構重要ですよ? 俊敏さはどうかわかんないっすけど……喰らいついていくディフェンスが出来るんなら、それだけでも結構な武器です」
「お! 分かってんじゃん、後輩君! そうそう、浩之! 俺も混ぜろよ! 楽しそうだし! 親友だろう~。仲間外れ、イケない!」
「楽しそうって……あのな、藤田? 遊びじゃないんだぞ?」
「知ってる。ガチなんだろ?」
「じゃあ」
そんな俺の言葉を手で制し。
「ばっか、お前。こういう事こそ、ガチでやんないと楽しく無いだろ?」
そう言って藤田はニカっと笑った。いや、だからって……
「……いいんじゃない?」
「智美?」
「藤田、ドリブルはあんまりだったけど、自分で根性あるって言ってるんだし。桐生さんだって素人だけど運動神経良いからスカウトしたんでしょ? なら、藤田にお願いしようよ。暇そうだしね、藤田。練習、参加出来るんでしょ?」
「暇そうって……まあ、暇だけどさ? 練習も参加するぞ、普通に」
「普通じゃダメ! 一生懸命参加しなさいよ!」
「おう! 一生懸命参加する!」
「……ね? 藤田、お調子者だけど悪いヤツじゃないし……どうかな?」
「そうだそうだ! 俺、調子は良いけどやる時はやるぞ?」
「……自分で言うなよ、そんな事」
そう言ってため息をひとつ。でもまあ、確かにそんなに選択肢も、加えて時間もない。これだけやる気になってくれるんなら……
「……お願い、出来るか?」
「おう! 任せろ!」
そう言ってもう一度、藤田はニカっと笑って見せた。




