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(38)オレは死霊と戦う-中編-

「ここは私が……」

「いいえリズ様。これではキリがありません」


 マリュウが鋭くリズを制止する。


「アスカもダメよ。ちゃんとペース配分考えないと」

「まだオレ何も言ってないけど」

「でも考えてたでしょ」

「まぁ、そうだけど……」


 さすがジュリア。

 オレの考えはお見通しってヤツか。


 このトンネルがどこまで続いているのか。

 死霊種の足止めがあと何ウェイブ控えているのか。

 

 何の手掛かりもない現状では作戦の立てようがない。

 

「師匠、私が道を切り拓きますから、みんなで先へ進んでください」

「でもそれじゃピンピンが……」

「この死骨相手が、今のところ私が一番活躍できる戦場のようですので、気にしないでください」

「ダメよ、ピンピン」


 ジュリアがキッパリと却下する。


「誰かを置いていくなんて選択肢、あるわけないじゃない」

「でもジュリア、このままじゃ時間が……」

「それでもダメ!」

「ジュリアの言う通りよ、ピンピン。この先どれだけ死骨が出るかわからないのに、その度に誰かを置いていくって言うの?」


 リズの反対理由はジュリアより明白で説得力がある。


「それは……」


 ピンピンもさすがに反論出来ずに口ごもる。


「うおおおッ! ヤッ! ハッ!」


 誰かがスケルトンと戦い始めた。

 誰だよ、と思ったらシンだった。

 

 あ、そっか。

 シンもプンクルを習っているんだった。

 

 まだ入門して日の浅いシンだったが、セイラン自ら稽古をつけるだけあって筋がいいらしく、スケルトンが弾け飛んでいる。

 

 いっそシンをここに置いてオレたちだけ先へ進もうかという悪魔の考えが一瞬頭を過ったが、さすがにオレにも良心というものが存在しているのでそっと心の底にしまっておく事にする。

 

 おかげでひとつ策を思い付いた。


「とにかく全員揃って突破するのを最優先するなら、ひとつ提案がある」

「なに、アスカ」

「そんな方法があるの、アスカ」


 ジュリアは期待に満ちた目で、リズは疑問に満ちた目でオレを見る。


「リズの光魔法でマリュウの武器に属性を付与して、マリュウがロビィと先頭に立ってとにかく前方の敵だけを集中攻撃しながら移動するってのはどう?」

「それいい!」


 ジュリア、今何も考えずに賛成したろ。

 一方のリズは少しだけ考えた後、マリュウに何か確認した上で発言した。


「確かにそれならマリュウの武器でも死骨を倒せそうね。投擲主体なら足も鈍らないと思う」

「ただ、前方の敵全てを確実に排除できる保証はありません。そこを誰かが補完していただけるなら何とかなると思います」


 マリュウもそれなりに自信を覗かせつつ、不安点を明確にしてくれた。


「それならオレが超足で撃ち漏らした分を処理するよ」

「決まりね!」


 オレの発言に間髪入れずジュリアが宣言する。

 有無を言わせずこのまま押し切ろうとしてるな。


「それと、念のためピンピンとシンは隊列の左右について側面の敵に対応してもらう」


 プンクルが使える者には最大限働いてもらうべく、オレも付け加える。

 

「わかりました、師匠!」

「ボ、ボクも頑張りますッ!」


 まだ死骨どもとやり合ってるシンにも、一応聞こえているらしい。

 返事をする余裕まであるとはなかなか頼もしいじゃないか。


「では行きましょう。時間がありません」


 駈け出したロビィに5人が続く。

 少し遅れてシンも追いついてきたので、そのまま右側面へ当たってもらう。

 

 シュルルルルル――。

 

 マリュウの2枚の円月輪(チャクラム)がロビィの前を緩いカーブを描きながら飛んで行く。

 

 ゴツゴツと死骨に当たる音に続いてガチャガチャと骨が崩れる音が聞こえる。

 

 必ずしも全て倒す必要はないのだ。

 あくまでオレたちが通り抜けるまでスペースがあればいい、という割り切り。

 幸い死骨どもはお世辞にも足が早いとは言えない。

 

 そういう視点で、マリュウの取りこぼしを枝打ちしていく。

 やってみればまるっきり簡単な作業だった。

 ホント超足って便利だなぁ。

 

 ピンピンとシンもしっかり仕事をこなしながら遅れずについて来ている。

 

 よし、これなら行ける。

 

 よほどの大軍が前方に展開しない限りは――――。



 ひと通り前方が拓けた所でマリュウが申し訳なさそうに声を掛けてきた。


「すみませんアスカさん。色々ご面倒をおかけしてしまって……」

「何言ってんの。マリュウさんのおかげで進めてるんだから気にしないで」

「それにしても何だか楽しそうね、アスカ。そんなに死骨が気に入ったのかしら」

「ねーよ。ただ爽快感があるのは否定しない」

「それを楽しんでるって言うのよ」


 リズのこういうひねくれた表現も慣れればなんてことはない。

 これも彼女なりのコミュニケーションなのだ。


 むしろ、オレの話し方の方が問題っちゃ問題なのかもしれない。

 あまり突っ込まれないから今まで気にしてなかったけれども。

 

「次が来ます」


 ロビィが静かに伝えてくると、少しだけ和らいでいた空気が一瞬で引き締まる。


 さて、また頑張りますか。



*****



 第5波を突破した後、トンネル内の空間がだんだんと狭くなっていくのがわかった。

 もしかすると出口が近いのかもしれない。

 

 さっき通った部屋状のスペースから出た後、若干だが上りになっているのも出口が近いからだと思われる。


「行き止まりです」


 ロビィの声がするのとほぼ同時にオレたちも状況を理解した。

 

 目の前に岩で覆われた壁が立ち塞がっている。

 

「これって、岩崩れじゃない?」

「まぁこのタイミングでこの場所なんだからヤツらが崩したんだろ」


 ジュリアの疑問にオレが返答する。

 根拠はないが、たぶん当たってる。

 

「どれくらい奥まで崩れているのかしら。マリュウ、何かわかる?」

「お待ちください、リズ様」


 そう言うとマリュウは壁の前まで行き、壁に直接耳を当てて様子を伺う。

 

 暫くそうしていたかと思うと、やがて壁から耳を離し、こちらを向いて首を横に振った。


「マリュウでもわからないとなると……厄介ね」

「あまり時間がないわ。後ろから死骨も追いついてくるかもしれないし」


 ジュリアの懸念は正しい。

 第3波以降は倒した数などたかが知れてるのだから、そいつらが合流して大挙して押し寄せたらさすがにヤバイ。 

 第一ここには逃げ場がない。

 

 正直、死骨を倒すだけなら何とかなるのだが、その後の事を考えると力を温存する加減が難しいというのが本音だ。


「シャイア教徒は自分たちが反対側に抜けてからここを崩したって事なのかな」


 誰とは言わず思わず口に出てしまったのだが、ジュリアが反応してくれた。


「たぶんそうね。ホント性格悪い」

「他に抜け道があったりはしないよね」

「少なくとも昨日の2人がここを通ったのは確実です」


 ロビィが断言する。

 匂いという証拠があるわけだから信用性は高い。


「とにかくここを塞いでいる岩をどかす以外方法はないんでしょ? それなら私がやってみるわ」


 ピンピンが壁の前まで行くと、構えをとって力を溜め出す。

 あ、もしかしてドSモード?

 

「ハアァァァァァァッ!!!」


 やっぱり!

 

 ドォーーーン。

 大きな音と共に岩が飛び散り、壁がガラガラと崩れる。

 ドSピンピン渾身の突きが壁に穴を開けたのだ。

 

 だが、1mほど壁の中央が抉れただけ。

 シャイア教徒どもの高笑いが聞こえた気がして腹が立つ。

 

「ハッ!」


 ドォーーーン。


「ハッ!」


 ドォーーーン。

 

「ハッ!」


 ドォーーーン。

 

 不屈のピンピンの3連打を浴びても、壁の抉れが3m強ほどになっただけで大勢に変化はない。

 

 このまま続けてピンピントンネルを掘るのか?

 いや、周囲も崩しながら進まないと危険だ。

 

 くそ、オレも何か考えろ!

 もう魔法を出し惜しみしている場合じゃない。

 

 ふと、ここに来る途中の会話を思い出した。

 

「マリュウさんって確か土属性が使えるんだよね」

「はい。ですが得意とまでは言えません」

「何が出来るの」

「大地を揺らす魔法と地面を隆起させる魔法です」

「うーん、そっか……。わかった。ちょっと協力してほしいんだけど」


 マリュウはリズに目で確認を取った上で、オレに返事をする。


「わかりました。私で出来る事でしたら」

「それじゃ、一緒に来て」


 マリュウを連れてピンピンの傍に行く。


「ピンピン、もういいよ。オレたちで試してみたい事があるから」

「えっ、師匠……もしかして魔法ですか」


 そんな露骨に不満そうな顔をしなくてもいいじゃないか。


「なんだよ、また禁止とか言わないだろうな」

「いえ、そういう訳では……」

「じゃ、そこ替わって」


 せっかくピンピンが少しでも壁を薄くしてくれたのだから、そこを使わない手はない。


「マリュウさん、これからオレが合図したらこの壁を塞いでいる岩の周り……そうだなぁ半径5mくらいを目安に揺らしてくれないかな。出来る?」

「はい、おそらく。ですが、それで壁を崩せるのでしょうか」

「まぁやってみないとわからないけどね」


 ピンピンに向き直ってひとつ頼む。


「それとピンピンが崩したこの岩、少し横にどけておいてくれないか」

「わかりました師匠」


 早速ピンピンは岩をポンポン蹴り出してトンネルの壁際に寄せていく。

 さすがに力加減が絶妙だな。

 

 おっと感心している場合じゃなかった。

 こっちはこっちで始めよう。


「ジュリア! みんなを少し後ろへ下げて」

「わかった。でもアスカ、何をするの?」

「まぁ見てのお楽しみ」


 では行くぞ。

 

 ウルトラ水流!

 

 合わせた手の先から高速で水を噴射する。

 水鉄砲が出来るのだからその応用でこれも出来るはずと踏んだのだが、正解だった。

 

 ただ、あまり長時間やっているとまたマグ消費が激しくなってロビィに怒られそうだから、なるべく早目に終わらせたい所だ。


 ピンピンの作った凹みを中心に、その周囲にも水を当てまくる。

 高速で当てているので、岩と岩の隙間の土や小さい岩などはどんどん流されていく。

 こうして壁に隙間を作り、水分を与えて地盤もゆるゆるにしておいて――。


「マリュウさん!」

「わかりました」


 グラグラグラ……。

 

 おお、意外と揺れるな。震度4~5ぐらいはありそう。

 狭い範囲に限定しているからマグニチュードはそれほどでもないはず。

 であればマグの消費も抑えられると思うのだが、さて実際はどうだろうか。


 さすがに一回で壁は崩れなかったか。


「今のはなんなの? アスカ」

「まぁもう少し待ってて」


 ジュリアはせっかちだ。


「今の地震って、魔法だったんですか?」


 シンが間抜けな発言をしているがみんなでスルー。


 再びウルトラ水流!

 

 さっきよりも少し多め長めに噴出。

 だいぶ、地面を流れてくる土砂が増えている。


「マリュウさん!」

「はいッ」


 グラグラグラ……。

 ガラガラガラ、ドシャァァァァァッ!

 

 よっしゃ崩れた!

 そして流れてくるものを避ける。


「きゃっ!」

「うわぁっ!」


 後ろの方で悲鳴が上がったので振り返ると、マリュウさん以外の5人が物凄い顔でこっちを見ている。


「ちょっとアスカ! 先に言ってよ! 危ないでしょ!」

「そうですよ師匠。師匠はいつも説明不足なんです」


 流れていったものをみんなちゃんと避けてくれたが、心中穏やかではないらしい。

 

 リズが無言なのがまた怖い。

 シンは他のみんなより更に後ろに下がってこっちをチラチラ見ている。


「ごめん。まだ続くからよろしく!」


 それだけ伝えて、三度目のウルトラ水流を放つ。


 さっきの崩壊で5mほど先へ進めるようになった。

 あと何mかは知らないが、まさか1kmって事はないだろうから地道に続ければ何とかなるだろう。

 

「マリュウさん!」

「はいッ」


 グラグラグラ……。

 ガラガラガララ、ドガラシャァァァァァッ!


 さっきより大量の岩と土砂が流れ落ちてきて危うくオレが流されそうになった。

 危ねぇ!

 

 マリュウは大丈夫かと思って確認すると、全然平気そうに立っている。

 さすがだ。

 で、後ろのみんなは?

 

 あれ?

 みんな武器を抜いて構えている。

 もしかしてそれで岩を砕いたり弾いたりしたのかな。


 なんだかみんなの怒気が上がっている気がするが、落ち付け! 落ち着くんだみんな!


「マリュウさん、申し訳ないんだけどみんなのために高台みたいなのって作れる?」

「……ああ、そういう事ならお安い御用です」


 マリュウが土魔法で地面を隆起させ、岩と水流をやり過ごせる場所を作ってくれた。


「最初からこれ作ってよ、もう!」


 ジュリアがぶつぶつ言いながら高台に飛び乗る。

 すぐにこちらの意図が伝わったようで何より。


「マリュウ! 大丈夫なの?」

「問題ありません、リズ様」


 リズはマリュウのマグ残量を気にしているらしい。

 一応オレもそれは気にして、あくまで限定的な範囲に絞って発動してもらってるから大丈夫なんで。


「あ、マリュウさんもあそこに移動する?」

「いえ、離れてしまうと範囲を正確に制御できなくなるかもしれませんので」

「そっか。でも気を付けてね」

「大丈夫です。ありがとうございます」


 何となくだが、あと数回もやれば出口が見える気がして来た。

 

 善は急げ、四度目のウルトラ水流発射!

 

 放水した直後、後ろからジュリアの声がかかった。


「大変! 死骨が後ろから来てるわ。アスカ! 早く!」

「師匠! すごい大軍です!」


 うわ、もう追い付かれたのか。

 チラッと振り向くと、見える見える。

 スケルトン軍団が大挙して押し寄せてくるのが。

 

 ふふん。そういう事ならこれは丁度いい状況じゃないか。


 水流パワーアップ!

 ドドドドドドド……!!

 

 瞬間的に放水量を増やす。

 このまま普通に後ろに流れていく水の量だけでもうちょっとした川だ。


 うん、そろそろかな。


「マリュウさん! ちょい長めで!」

「わかりました、いきます!」


 グラグラグラグラグラ……。

 ガラガラガラガラ、ドグガラシャァァドォォォォォッ!


 濛々と土煙りを上げて岩が崩れ、土砂が滑り落ちて来た。

 

 超足!

 

 傍らのマリュウを抱え、一気に高台へ飛び乗る。

 

 ドォォォォォッ!

 

 まだ流れは止まらない。

 

 岩と土砂がそのまま死骨軍団を巻き込んで押し流していく。


「ああっ! 死骨も流されて行きますッ!」


 轟音の中、シンの歓喜の声が聞こえた。

 

 みんなが顔を見合わせて安心した表情を見せている。


「出口です」


 ロビィが冷静に告げる。

 

 さっきまで岩に閉ざされていた場所を見ると、ぽっかりと外の景色が見えていた。


「やった! 出口です!」


 シン、何故お前が口火を切るかな……。


「やったね、アスカ」

「師匠、お疲れ様でした!」

「いや、マリュウさんのおかげだよ」

「それは当然です。よくやりましたマリュウ」

「ありがとうございます、リズ様」


 仕事を偏見なく平等に評価してくれる上司ってなかなかいないよね、うん。

 

「急ぎましょう」


 そしてロビィはいつでも鳥瞰(ちょうかん)型。

 もう少し人間の高さまで下りてきてもいいと思うんだが。


 だが、今は異論はない。


「行こう、みんな!」


 各自いい返事をしてすぐに高台を飛び降り、出口へ急ぐ。


 まだ何か仕掛けてあるのか、シャイア教徒ども。

 そろそろ年貢の納め時が近付いてるぞ。

 

 首を洗って待っていろ!

読んでいただきどうもありがとうございます。

やはり三分割になってしまいました。

次回で終わるかな……どうかな……たぶんもう少し続きます。

引き続き応援よろしくお願いします。

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