(30)オレは亜人と戦う-前編-
ドルクはピンピン達のいる隊列前方へ出現した。
ちょうど隊列が縦長になっていた所を突かれた形になってしまったのは不覚としか言い様がない。
しかもよりによってプンクルチームの方へ出るとは……。
ワンウーチャンの3人は冒険者歴が長いらしいからプンクルに拘らず普通に剣で戦ってくれる事を祈る。
「ピンピン様ッ!」
「いけません! ピンピン様!」
敵遭遇の声のすぐ後に再びオッサンズが叫ぶ。
くそっ、案の定ピンピンが単独で突っ込んでいったらしい。
オレが追いついた時にはピンピンの姿はなく、ワンウーチャンがドルク3体とほぼタイマン状態で対峙していた。
ピンピンはおそらく更に前方。
敵の数は不明。
こちらへ移動する途中に後方でも戦闘突入の気配があったので、エリザベスとマリュウのいる方へも敵が出たと見ていい。
完全に挟撃された形だ。
まさか待ち伏せされたのか!?
とにかく状況がよくわからない。
ジュリアとロビィには悪いが一足先に弟子の元へ行かせてもらう。
超足!!
「悪いが先に行く」
声を掛け通り過ぎるついでにワンとチャンの相手をしているドルク2体を斬り付ける。
これで2人は多少楽になったはず。
「ピンピン様をお願いしますッ!」
「我々の事は気になさらず」
律儀なオッサンたちだ。
言われなくてもハナからそのつもりだけどな。
死ぬなよ!
ワンウーチャンから50mほども離れた辺りにピンピンがいた。
対するドルクは――6体か。
石斧を持っているのが2体、棍棒が2体、残り2体は三日月刀。
同じ数で構成されているのは偶然なのか、あるいはそういうチーム編成になっているのか。
挟撃された事実と合わせると後者だな。
って事は誰かがこいつらを指揮統制しているという事になる。
――厄介だな。
「ピンピン!」
「はい師匠!」
よし、反応出来た。
まだ冷静だし状況も見えてるな。
もしかして突っ込んだのはワンウーチャンからこいつらを引き離すためだったのか?
確かにあの様子だと3人には荷が重いだろう。
せめて青札のワンがもう少し頼りになれば……。
ピンピンは6体を相手にしながらも、同時に相対する数が最小限になるよう位置取りを考え、ドルクのパワーをうまく利用しながら見た目には楽々と戦っているように見えた。
が、やはり生身の攻撃では決定力不足なのだ。
その証拠にまだ1体も倒せていない。
半亜人はあの不思議な肉体特性が厄介だったが、本家亜人の方はどうなんだ?
ケンと同程度でも相当ヤバイのに、あれ以上だとするとちょっとピンピンの手に負える相手ではなくなるぞ。
さっき斬り付けた感触だと、剣の攻撃は普通に効きそうだったのでここは剣主体で攻めよう。
まずは一番オレの近く、ピンピンの後方に回り込もうとしていた1体を上から真っ二つに両断。
ブヒッと音がしたが、断末魔の悲鳴だったのかもしれない。
よし、倒せる。
ひと安心した所へ、一体のドルクがピンピンに蹴り飛ばされて来たのでそのまま胴体を上から斬る。
スパムッと音がした(若干ウソ)。
頭の中のイメージはハムをスライスする感じだ。
ドルクを焼いて食ったら美味いのかな。
「ありがとうございます師匠」
気付いたピンピンが声を掛けてくる。
「どういたしまして」
という返事の『て』と同時に3体目のドルクに斬りつける。
胴体を斜めに斬ってショックのパー状態。
あ、若い人は知らないか。
それにしても思ったより手応えがないな。
こっちも殺す気満々の全力モードなので当然なのかもしれないが、歯応えが無さ過ぎてつまらん!
ピンピンには悪いが、全部オレがいただいちゃおうかな。
そんな心の声が聞こえたわけではないだろうが、ピンピンの様子が変わった。
「ハアァァァァァァッ!!!」
獣のような声で咆哮したかと思うと、プンクルの型なのか呼吸法のような動作を素早く行うピンピン。
すると、ピンピンの周囲の空気がゆらりと揺れた。
――まさか、竜人拳か!?
いやいや、あれは確か男限定の技って話だったじゃないか。
第一構えが違う。
纏っている雰囲気もセイランの時ほど禍々しくはないようだ。
だが、思っていた以上に変化は劇的だった。
ドスッ!
ピンピンが正面のドルクに右の突きを打つと、心臓のあると思しき場所へ拳が手首までめり込む。
なにッ!?
グボァッと右腕を抜くと今度は左の回し蹴りを首筋に叩き込む。
バシュッ!
ドルクの首から上が消えた。
マジか!?
そのまま右方向へ移動して別のドルクに背中を向けた形で懐に入ると右肘を喰らわせる。
肘が半分以上埋まっているようだ。
更にドルクがうずくまった所を右掌底で下顎から打ち上げると、頭がそのまま孤を描いて遥か上空へ飛んで行った。
なにがどうなってる?
どうして急にこんな破壊力が?
再びセイランの竜人拳が頭を過り、ピンピンも何か代償を払ったのではないかと考えゾッとする。
もしそうならすぐに止めなければ!
「大丈夫です、師匠!」
オレの心配を察したピンピンが先に声を発する。
「本当に大丈夫なのか」
隣まで移動して声をかけると、ピンピンは余裕のある笑顔で答える。
「あと1体です。師匠は見ていてください」
「お、おお……」
こっちが気圧されてしまったわ。
最後に残った棍棒のドルクは攻撃を躊躇っていたがそこは所詮豚。
半分やけくそ気味でピンピンに襲いかかる。
ピンピンは棍棒を交わしながら右側面へ移動し、振り下ろしたドルクの右肘を逆方向から掌で押してへし折る。
バキッとイヤな音がして、ドルクの右腕が有り得ない方向に曲がる。
その手にもはや棍棒は握られていない。
ヒィィィィンと甲高い悲鳴を発するドルク。
その開いた口めがけて拾った棍棒で横殴りに叩き込むピンピン。
グボッという音と共にもんどりうって倒れるドルク。
あ……。
次の光景をスローモーションのように見ながら、おいおい嘘だろと若干引くオレ。
ピンピンが一旦数歩下がると、サッカーのPKよろしく走り込んで来てドルクの頭をシュート。
ボシュッ!
頭はカカ山の谷底へ消えていった。
ナイスシュートピンピン。
にしても、3体とも頭と胴体をサヨナラさせるなんてえげつない殺し方だ。
我が弟子ながらさすがにちょっと怖いぞ。
まさかピンピンって実はドSだったりするのかな。
「ふぅ」
深呼吸をひとつして、首を回し肩をコキコキ鳴らすピンピン。
「お疲れ、ピンピン」
「師匠もお疲れ様でした」
「今のなに?」
「あ、今のはちょっと行儀が悪かったですか? どこまで飛ぶかなぁと思って」
「いや、そうじゃなくて。急に人が変わったみたいになってたけど」
「やっぱりそう見えるんですね。ダメだな私……」
困ったようでいてどこか恥ずかしそうな顔のピンピン。
「大丈夫? アスカ、ピンピン」
そこへジュリアとロビィが追い付いた。
「うん、こっちは片付いた」
「あの、後ろのみんなは……」
ピンピンはワンウーチャンたちが心配らしいが、言い終る前に当の本人たちが姿を見せた。
「ピンピン様、ご無事でしたか」
「良かったぁ~」
「さすがピンピン様!」
「みんなッ!」
3人の所へ駆け寄るピンピン。
麗しき師弟愛……ってあれ? こっちの師弟愛はどうなった!?
おーい、ピンピン。
「さすがにドルク程度が相手じゃ問題にならなかったようね」
エリザベスの声。
当然マリュウも付き従っている。
一応状況だけ確認しておきたいので聞こう。
「そっちは何体だった?」
「6体よ、そちらは?」
「ピンピンのところも6体、あと間に3体……だよね?」
一応ジュリアに確認しておく。
「ええ。ワンさん達もしっかり倒してくれたわよ」
「いえ、とんでもない。ジュリアさんとロビーナさんに助けていただかなかったら、こちらも無傷では済みませんでした。ありがとうございます」
律儀なワンさん。
でもジュリアとロビィが加勢してくれたのであればこの短時間で決着が付いたのも納得だ。
「合わせて15体……どう思う?」
さすがはエリザベス。
オレと同じ事に思い至ったのだろう。
「マズイ状況だな。この先は危険だ」
「この先? それは違うわ。ここももう安全じゃない」
「……だな」
そうだ、敵は後ろからも来ていたのだ。
もうこちらの居場所は割れているし、包囲網も完成しているのかもしれない。
「ロビィ、何かアドバイスある?」
「すぐに撤収すべきです」
毎度の事ながら身も蓋もないなぁ。
「そ、それは困ります。捜索の任務を果たさないと戻れません」
ほら、ワンさんが情けない声を出してるじゃないか。
「私は続けるわよ」
そう言うピンピンの眼差しは真剣そのもの。
オレが命令しても従いそうにない雰囲気だ。
「リズ様!」
マリュウが鋭く、しかし小さな声でエリザベスに告げる。
ほぼ同時にロビィも目配せをしてくる。
ジュリアとピンピンにも即座に伝わったようだ。
「新手が来るわよッ!」
ジュリアが叫んで道の先の方へ構えると、慌ててワンウーチャンもその後ろで構える。
いや、それじゃジュリアを盾にしちゃってるよ。
ダメじゃん、おっさん達。
「ダメです! 数が多すぎます!」
「一旦退却よ!」
マリュウとエリザベスが続けて叫ぶ。
「ジュリア!」
「わかった。みんな!」
ジュリアの合図でワンウーチャンほか、オレたち森のジュリアスも来た道を引き返し始める。
マリュウとエリザベスは一足早く、10数m先を駆け下りている。
さすがにピンピンも状況の不利を悟ったのか、指示に従ってくれたようだ。
いつの間にか背後から無数の足音と、草木を掻き分けるような音が迫って来ていた。
10や20ではないというのは想像がつくが、一体どれくらいの数だというのだ?
「ロビィ! 敵の数ってわかる?」
走りながらすぐ前にいるロビィに尋ねてみる。
何となくマリュウには聞き辛いし、何より遠い。
いや、向こうは遠くても聞こえるんだろうけどオレが聞こえないと思われ。
「およそ50ほどです」
なんと!?
50体もの大群とは……。
「ご、ごじゅうだって!?」
「ひえ~っ! もうダメだ~ッ!!」
「バカもん! 黙って走れ!」
「で、でもウー。ドルクが50だなんて絶対無理だ。この世の終わりだ!」
「うるさい! たった50でこの世が終わるわけなかろう」
「でもよぉ……」
「それ以上何か言ったらお前をこかして、ここに置いていくぞ」
「やめろ人でなし! ドルクどもの餌になるなんて真っ平御免だ」
ロビィの声が聞こえたらしく、すぐ後ろでウーとチャンが興奮した様子で捲し立てる。
「大丈夫、みんなを置いてなんかいかないから」
ウーの後ろにいたらしいピンピンの声が聞こえた。
「ピンピン様~」
「いけませんピンピン様、私たちの事など放っておいてください」
「そうです。ピンピン様の足手まといにだけはなりたくありません!」
「それはオレだってそうだけどよぉ……」
「心配しないで、ウーさん」
「ありがとう、ピンピン様~」
「まったく、ピンピン様はお優しすぎます」
「ウーなんかを甘やかしてもロクな事になりませんよ」
「お前らそろいもそろってひでぇぞ! オレだって少しは役に立つんだからな」
「なら早く役に立って見せろ」
「今すぐドルクの餌になって足止めしろ」
「ふざけんなコラァァァァッ!!」
「あはははは」
ピンピン、この状況でよく普通に笑ってられるなぁ。
確かにワンウーチャンの3人も、ウーをネタにいじって気分を紛らわせているのかも。
冒険者とはいえ、この状況なら最悪の事態を考えて怖気づくのは仕方ない事だろう。
それを思えば、この軽口は逆に頼もしいと言えなくもない。
ふと隣のジュリアと視線が合った。
「ふふっ、なんだか楽しい」
お、お前もかジュリア!!
だがしかし、背後の音がもう相当近くまで迫っているのを感じる。
このままではいずれ追い付かれてしまうぞ。
その時、目の前にいたロビィが急に振り返ると、向け後ろ向きに走りながら弓に矢を番えて背後のドルクへ二度三度と射る。
矢はオレとジュリアの間を抜け、後ろのワンウーチャンとピンピンをもすり抜けて後方から迫るドルクへ命中したらしい。
ドドドッと数体が倒れる音とそれに巻き込まれて更に倒れるような音が重なり合う。
ほんの数秒だが背後の音が乱れ、遠のく。
「ロビィ、助かる」
ロビィは軽く瞬きだけで返事をして向き直り、そのまま前を駆け下りる。
「なんだ今の?」
「オレたちの間を通っていったぞ」
「なんちゅう腕だ」
「ロビーナさんは弓の名手よ。あれくらい当然」
以上ワンウーチャンへのピンピンの解説でした。
オレも魔法のひとつでも放って足止めしたい所だったが、ロビィに制御云々釘を刺されたので自重しているのだ。
そのオレが痺れを切らしてしまいそうな所へちょうどロビィの援護が入るなんて出来過ぎだ。
ピンピンに負けず劣らず、うちのロビィも本当は優しい子なんですよ、ええ。
「うわッ! どうしたんだよロビィ」
前にいたロビィが急に立ち止まったので、危うくぶつかりそうになった。
よく見ると、ロビィの前にはマリュウが立ち塞がっている。
ちょうど三叉路になっている場所だった。
こちらを向いたマリュウが顔色ひとつ変えずイヤな事を言った。
「罠です」
「え!? どういう事?」
すぐ後ろにいたワンウーチャンとピンピンも追い付いく。
「師匠! どうしたんですか?」
「こんなところで立ち止まってる場合じゃ……」
「前方へ伏兵がいるのです。これは罠です」
チャンの苦情を断ち切るようにロビィが状況を端的に報告する。
クソッ! 最悪だ!
「こっちへ!」
エリザベスが来た道とは別の道、左のやや荒れた道の少し先で手を挙げて呼んでいる。
そちらにも罠がないか確認していたものと思われる。
いちいち行動に隙がない。
もうエリザベスがこの隊のリーダーでもいいんじゃないだろうか。
「エリザベスのいる道へ行くわよ! 急いで!」
ジュリアが全員に号令をかける。
指揮官であるワンさんの存在感はどこへ……。
ロビィとジュリアがすぐに駆けだす。
さっきロビィが稼いだアドバンテージはもう完全に無くなってしまった様なので一同言葉も発せずに続く。
マリュウは後詰をするつもりのようだ。
こういう所もエリザベスと連携して動いているのがわかる。
相当な信頼関係らしい。
先頭を走るのは相変わらずエリザベス。
来た道とは違うルートなので駆け抜けながらも様々な情報を収集して判断をする必要がある。
当然、こっちの道へ入る事すら罠の一環である可能性も考慮済みだろう。
だがこの後、彼女に何か策はあるのだろうか。
もしオレだったらどう立ちまわるだろうか。
「ロビィ! 下の方のドルクはどれくらいいたの?」
「そちらはまだ距離があったので正確にはわかりません」
ロビィでも把握できないのに、マリュウは把握できたのだろうか。
するとちょうど後ろから追い付いてきたマリュウが横に並んだ。
「数は同じくらいです。ただ、ドルク以外の気配がありました」
「ドルク以外だって?」
「まさかラドルガじゃないわよね?」
すぐ後ろにいたらしいピンピンがオレたちの話に食らいついて来た。
「いえ、そこまで強大な気配ではありません」
「そう……」
どうしてそこで残念そうにするんだピンピン!
安心するところだろ!
この状態でラドルガまで出てきたら泣きっ面に蜂なんだぞ。
わかってるのか!?
マリュウがハッとした表情になり、更に加速して先頭のエリザベスを追う。
見ると、ロビィも加速してエリザベスに近づこうとしている。
今度は何だ? また何かあるのか?
エリザベスの左にロビィ、右にマリュウが並んで何か話している。
エリザベスが頷くと、すぐにロビィが速度を落としてこちらに戻って来る。
「ロビィ、どうしたの?」
ロビィが横に並ぶ前に待ち切れなくなったジュリアが聞く。
「どうやらこの先にも敵がいます。やはりこれも罠だったようです」
やはりそうか……覚悟はしていたが。
「それで、どうするの?」
「どうもしません。このまま進みます」
「でもそれじゃ、敵の思う壺じゃ……」
「ここで立ち止まって挟み討ちになるよりはマシです」
「それはそうだけど……」
納得いかなそうな口調とは裏腹に目がランランと輝いてきてるよジュリア。
やぁってやるぜ! な心境ですねわかります。
「アスカ、どうする?」
「わざわざ聞くなよ」
「えへへ、一応ね」
「やるんだろ」
「だって、ロビィとエリザベスがそう決めちゃったみたいだし」
「ジュリアの決断じゃないって事は認めるよ」
「そういう事!」
これで森のジュリアスの総意は確認済みっと。
「ピンピン、話は聞こえてたろ」
「はい、師匠」
「じゃ、後ろの3人にも伝えてくれ」
「わかりました!」
ピンピンが少し速度を落として離れ、最後方にいたワンウーチャンと合流。
「ええ~~ッ!」
「そんなぁ……」
「もうイヤだぁ~~ッ!!」
三者三様のリアクションが背後から届く。
みんな、頑張れよ(やや他人事)。
「ロビィ、少しだけ魔法使ってもいいかな」
「別に私は禁止しているわけではありません。アスカの判断で使ってください」
「了解。じゃジュリア、ちょっとオレ後ろ行って来る」
「気をつけて」
2人とも詳しい事は聞かずに送り出してくれた。
速度を落としてピンピンとワンウーチャンたちに追いつかせる。
「ピンピン、先に行ってて」
「師匠はどうするんですか? ドルクと戦うなら私も……」
「いいから任せて。少し足止めするだけだから」
「……わかりました。どうかお気をつけて」
我がギルドの仲間と比べると、まだピンピンの方は言葉で説明が必要なのだ。
でもそういう所も可愛いよピンピン。
立ち止まり、ピンピンとワンウーチャンが前へ駆けていくのを見届ける。
さてと――――。
敵の罠にかかったのは仕方ない。
こちらの準備不足、情報不足だったのだから。
だが、状況を把握した上で尚敵の思惑通り進ませるのは些か不愉快だ。
少しぐらいは計画を狂わせてやらないと気が済まない。
というわけで、せめてこの後ろからやってくる一群は暫くの間足止めさせてもらう。
この先にいる敵と交戦する時間ぐらいは稼がせてもらわないとな。
元々追いかけてきてた分と下の方で待ち伏せしていた分とが合流したなら、相当な数になっているはずだ。
少々の魔法では足止めにならないだろうから、いっちょ派手にやるぞぉッ!!
ロビィごめん。
でも一応許可はもらったからな。
地砕き!!
ゴゴゴゴという地鳴りに続きバリバリという轟音。
目の前に巨大な地割れが現れ、暗黒の底を覗かせる。
地割れは山の傾斜に対して縦方向、つまり道を横断する形でざっと150mほど。
地割れの幅は10mほどもあるので飛び越えるのは困難。
また、この辺りは傾斜のきつい岩場なので道以外を通り抜けるのは無理だとは思うが一応念のためだ。
そして更にもう一手。
炎の壁!
地割れの部分から炎が噴き上がる。
これまた縦方向に150m。
無駄に広範囲だが、見た目の恐ろしさでドルクを怯ませる事も必要なのだ。
定点魔法をかけてその場を離れた経験はないが、まさか消えたりしないよな?
オレが死んだりマグが尽きたりしない限りは消えないと思うんだが……。
あんまり遠くに離れるとさすがにマズイのかもしれない。
とにかく、このおかげでオレはもう魔法はほぼ封印しないといけなくなった。
あっという間に魔鉱石が白くなってしまうからな。
申し訳ないが、エリザベスやマリュウが魔法にも長けているのを期待するぞ。
炎の様子を確認していると、向こう側からドルク達の気配がしてきた。
おお、確かにすごい数だ。
え、いやちょっと待て?
幾らなんでも多すぎないか?
先頭の一団は既に地割れの端まで到着したらしく、何やらブヒブヒ喚いている。
よぉし、もっとブヒれ豚ども。
なけなしの勇気を振り絞って炎に飛びこんでもいいが、焼き豚になって底に落ちるだけだぞ。
せいぜいそうして悔しがっているがいい。
思った以上に数はいるようだが、別に問題ないだろう。
炎で直接対岸の様子はわからないが、ブヒブヒ云う声がだんだんと大きく喧しくなってくるので順調に足止め完了と判断。
さて、戻るぞ。
超足!
だいぶ置いていかれたと思っていたが、あっという間に追いついた。
最後方のピンピン&ワンウーチャンに。
「お帰りなさい師匠! ご無事で何よりです」
「まぁね。暫く追手は警戒しなくていいと思う」
「アスカさんは何をなさっていたんですか?」
「まぁちょっとね」
ワンさんが何か聞きたそうにしていたが、今はスルーしておく。
お互い生きて帰れたらまた話す機会もあるだろうし。
「じゃ、お先に」
再び超足……は使わなくてもちょっとピッチあげればいっか。
すぐにジュリアとロビィに追いつく。
「アスカ、もう少し抑えた方がいいのではないですか」
ロビィが目ざとく察して苦言を呈してくる。
「ええ~っ! オレの判断に任せるって言ったじゃん」
「そうは言いましたが、それにしてもやりすぎです」
「そうなのロビィ? アスカったらもう」
「ジュリアはわかんないだろ! 憶測だけで決めつけんなよ」
「はいはい」
軽くあしらわれて落第生認定された。
なんか納得いかないぞ。
「ちょっと前にも報告してくる」
逃げるわけではないが、一応報告した方がいいだろうと。
「エリザベス! マリュウさん! ちょっといいか」
「どうかしましたか?」
エリザベスに直接話しかけるなどおこがましいとでも言うようにマリュウが答える。
「後ろはもう暫く気にしないでいい。足止めしといたから」
「一体どうやって?」
「いや、ちょっと魔法で……」
「……大丈夫なのですか?」
「え? ああ、さっきのロビィの話か。別にいいんだ。気にしないでくれ」
「前方に敵!」
エリザベスが叫ぶのと同時に立ち止まり、マリュウも横に並ぶ。
オレだけタイミングが合わずにとととっと前に出てしまって恰好悪い事この上ない。
奇しくもオレが前衛、みたいなポジショニングになってしまったじゃないか。
岩場も抜けて、再び周囲を背の高い木々に囲まれた場所に入っていた。
但し、現在いる一帯だけは拓けていて障害物になるようなものがない。
この場所を選んだのはもちろん敵側。
気配だけははっきりと示していたその敵が、岩陰からゆっくりと姿を現した。
「ラドルガ!」
エリザベスの緊張した声。
マリュウがエリザベスの一歩前へ出る。
だが、一番前に出ているのは相変わらずオレだ……。
「アスカ、何やってるの」
「前衛だよ」
合流するなりジュリアがいじってくる。
心配すんな。
別においしいとこを抜け駆けしようってわけじゃないから。
「あ、あれは……」
「まさか……」
「ヤバイ! ヤバイって!」
ワンウーチャンも合流したらしい。
3年前の記憶が蘇って足が竦んでいるといった所か。
「ハアァァァァァァッ!!!」
どこかで聞いた咆哮と気配……ピンピン、頼むから自重して。
背後のピンピンに意識が集中したその時、耳を疑う事態が起きた。
「今日の獲物は9匹か……悪くないぞ。特に美味そうな女が6匹もいるからな」
――――しゃべった!?
しゃべりやがった。
亜人が。
人間の言葉を。
アンビリーバボウッ!!
読んでいただきありがとうございます。
長らくお待たせしてしまいました。
そしてやっぱり戦闘シーン長くなったので分割です。
次回後編になりますので、引き続き応援よろしくお願いします。




