(29)オレは警告される
ペピン冒険者組合の前に朝5時集合。
まだ空が白み始めて間もないので、当然人通りも全くない。
早い、早すぎるよ。
誰だよ時間決めたヤツ出て来い!
予め用意しておいたパンを口に突っ込みながら集合場所を目指す。
昨夜は早くに寝ようとしたのに、ピンピンとジュリアの世界冒険旅行夢物語が始まってしまって結局夜更かしだよ。
唯一ロビィだけは速効寝息を立てていたので目覚めもスッキリだった模様。
森の民のいつでも安眠術を今度是非ご教示願いたい。
「あッ、ピンピン様! おはようございます!」
「本当にピンピン様だッ!」
「ピンピン様~~ッ!」
ワンさんと、ウーさんチャンさんと思われる男性2名が先に集合場所で待っていた。
子供みたいに一生懸命手を振るウーさんチャンさんかわいい。
その2人が付けているのは赤札なので5級――オレたちと同じ階位の冒険者だ。
うん、まぁ腕の方はそこそこって事で安心した。
と、男3人の後方からエリザベスとマリュウが歩いてくるのが見えた。
ほぼ同じ時間に到着か。
向こうも2人で夜更かししてたんだろうか。
いや、それは絶対ないな。
理由はないが断言できる。
ピンピンと元道場仲間たちの熱烈な再会感動劇をよそに、森のジュリアスとエリザベス&マリュウチームは普通のテンションで挨拶を交わす。
で、この後どうすんだ?
「みなさん、おはようございます。早朝にお集まりいただき恐縮です。今回の依頼の遂行に当たって組合の方から先導を任されましたワンです。どうかよろしくお願いします」
なるほど、ワンさんが引率役になるわけか。
階位も一番上だし、年齢的にも上っぽいので妥当な采配だ。
ただ、組合の誰がどういう権限でそれを決めたのかは気になる。
そもそもまだ依頼の実務経験が少ないので、これが普通なのかどうかもわからない。
他の誰も異を唱えないのはそういう事なのかもしれないな。
「先導というのは私達全員の指揮官という意味かしら」
エリザベスがワンに質問する。
あ、なんか疑問ある人が他にもいてくれて安心するわ。
だが何故口調が上から目線?
「いえいえ決してそのような意味ではありません。指揮官という事なら私などよりピンピン様の方がよほど適任です」
「ダメよ、ワンさん。師匠を差し置いてそんなの無理に決まってるじゃない」
え!?
そこでオレを引き合いに出すのはやめてくれ。
いやそれよりも今の発言でマリュウの眉間に皺が寄ったぞ。
明らかに不快な表情だった。
こ、こわいよう……。
「別にワンさんでいいんじゃない? 唯一の青札なんだし」
「私も異論ありません」
ジュリアの正論と、ロビィの即アシスト出ました!
「同感」
オレも続いてサポート。
ピンピンも同意するだろうからこれにて多数決終了。
「そう。それならそれで結構よ」
「ですがリズ様……」
「マリュウ、いいの」
「……そうですか。リズ様がそう仰るのなら」
2人のやりとりは聞けば聞くほど御主人様と従者の会話に他ならない。
これはなかなか興味深いぞ。
「私は最初からワンさんで賛成よ」
「ワシもだ」
「オレも賛成」
ピンピンとウーさんチャンさんも同意って事で満場一致だな。
それにしてもウーさん、まだアラフォーだろうに一人称が『ワシ』ってのはどうなんだ?
いや、元の世界のリアルなオレの大学の先輩にも最初からワシって言ってる人いたけどね。
よく物真似して怒られたっけ。
「畏れ入ります。それでは不肖私めが皆様の指揮の任を務めさせていただきます」
パチパチパチと拍手。
一応エリザベスとマリュウもちゃんとしてた。
別に性格悪いとか根性曲がってるとかいう系統じゃなさそうで良かった。
「出発の前に今回の依頼についてもう少し詳しく説明しておきます」
そう言ってワンさんがそもそもの事の発端というか、依頼に至る顛末を教えてくれた。
以前から亜人が出るという事であまり人が寄り付かなかったカカ山だが、上等な魔鉱石が採れるという噂が広まったためにここ2~3カ月で採掘のために山に入ろうとする人が俄かに増えてきたのだそうだ。
そしてそのほとんどが消息不明のまま。
中には魔物に襲われて命からがら逃げ戻った人も稀にいるらしいが、実際は亡くなった人の方が多いと推測される。
そこで魔鉱石採掘を目論むある金持ちが、魔鉱石の採掘場所を探す依頼を出した。
志願した4人の冒険者が探索に出かけたのだが、期限の3日を過ぎても誰ひとり戻らない。
依頼者からのクレームが組合の方に来たのと、このまま手をこまねいていても一般人の犠牲者が増える一方なので組合主導で捜索の依頼を出す事にしたというのがあらましだった。
生存者がいればその救出、いなくても魔鉱石採掘に関する情報や手掛かりがあればそれを持ち帰るというのが任務らしい。
だが、今日までに既に8日が経過しており、生存者の発見は厳しいのではないかというのが組合の見解。
「その内容で3日で銀貨20枚?」
エリザベスがワンに問いただす。
まだ何か隠している事があるんじゃないかとでも言いたそうな様子。
「報酬額については私の方では何とも。ですが依頼の詳細は今お話した通りです」
「先に出かけて行った冒険者がみんな死んじゃってた場合、私達は何をすればいいの? 死体を持ち帰る必要はないんでしょ」
ジュリア、おおジュリアよ。
みんなそう思っているけどそんなにはっきり言っちゃダメ。
「はい、それは必要ないそうです。ただ、遺品と階位札の方は持ち帰るように言われています」
階位札ってこの冒険者の木札か。
まぁ詐称防止のためなんだろうが、組合もセコイなぁ。
あと遺品っつっても色々あるからどこまでを指すのかわからんなぁ。
まさか着てるものまで剥ぎ取って来いという事はあるまいが。
「8人必要とされた理由は何かあるのかしら」
またもや鋭いエリザベスの質問。
そうだな、今の話だけでは8人必要とされていた理由はよくわからない。
「さぁ、そこまでは私には判りかねます」
「具体的な亜人の情報を掴んでいるのではないですか?」
突っ込んだのはロビィだった。
「それホントなの!? ワンさん!!」
「違いますピンピン様! ただ場所が場所だけにシェンヤオ様を襲った亜人が出る可能性は捨てきれません。ですから私の方から組合に条件を出させていただいたのです」
「さっきは判りかねますという返答だったのに、話が違うわね」
確かにエリザベスの言う通りだ。
ワンさん、いい人そうに見えて実はそれなりに悪い大人の可能性が出てきちゃったか。
ピンピンには申し訳ないけど信頼するのは保留としよう。
だが昨日この依頼はやめとけってあんなに言ってたのはそれが原因だったんだろうな。
ピンピンに言われてすぐに白状してしまった正直さ加減もあって、個人的には憎めないが……。
後の2人がずっとだんまりってのも少し気になる。
「あのさ、ワンさん達が前に遭遇した亜人ってどんなヤツなの」
先に聞いておいた方がいいかと思って質問してみた。
「……はい。3年前に亜人の調査の依頼で遭遇したのは巨大なドルガでした」
「ドルガ!? この近くにそんな亜人が出るの?」
ドルガと聞いてエリザベスの顔色が変わった。
マリュウも同じぐらい怖い顔になっている。
ちょっと恥ずかしいのでジュリアにだけこっそり聞こう。
「ジュリア、ドルガってなに?」
「魔物換算で4等級扱いの亜人よ。頭に角が生えていて性格は凶暴且つ残忍。物凄い怪力で人間を殺して食べるとも言われてるわ」
なるほど話を聞く限りでは鬼みたいなものかな。
西洋ファンタジーで言うところのオウガってヤツか。
「それだけではありません。ドルガは個体差の激しい種族としても有名でその強さはピンキリ。中には魔法を使うものもいるそうです」
ロビィが補足。
魔法が使える亜人……マジか。
「巨大なドルガって言ってたけど、どれくらいの大きさだったの」
エリザベスはまだワンさんに質問中。
「軽く私の倍くらいの身長がありました。それに全身が赤味がかった色をしていて、巨大な角が頭の上から2本左右に大きく張り出していました」
「それはおそらくラドルガです」
「なんですって!!」
ロビィのラドルガという言葉でエリザベスが大きな声を出した。
あの落ち着いてみえるエリザベスがここまで興奮するなんて。
「ジュリア、ラドルガってなに?」
「ごめん、私も初めて聞くわ」
「ラドルガはドルガの上位種で、複数のドルガを配下に持つ支配階級とされています。角の大きさは力の象徴なので、その個体は相当な力を持っていると思われます。また、体が赤いのは火属性の獲得によるもので、おそらく魔法も使えるはずです」
ロビィの亜人講座ラドルガ編終了。
さすがに亜人関係はかなり詳しいようだ。
「なんてこと……まさかラドルガがいるだなんて」
「リズ様、今の我々の装備ではラドルガは……」
「マリュウ、あなた確か水属性の魔法は」
「申し訳ございません、水は不得手です」
あ、マリュウでも苦手なものあるんだ。ちょっと親近感。
でもこの2人、ドルガだけじゃなくラドルガも知ってるのか。
なんか、冒険者としての経験の差を感じるなぁ。
「水属性ならアスカが得意よね。もし出たらその時は大活躍よろしく!」
「え!? いや、それはどうだろう」
勝手に得意認定されてるし。
しかもわざわざみんなの前で言わなくてもいいだろう。
アテにされても困るんだが。
「そう、それは心強いわ」
ほら、早速エリザベスが信じちゃった。
「アスカさんが使える水属性の一番強力な魔法は何ですか?」
ええええええッ!!??
マリュウよ、あんたもしかして屈折した心境でそれ質問してないか?
なんか視線が鋭すぎるんですけど。
「え、いや、まぁ水っていうか氷を使ったヤツとか、かな」
うっわ、なんか思いっきりキョドっちまったんですけど。
正直この世界で魔法を習ったのはロビィからだけで、真っ当な教育受けてないんで種類とかよくわからん。
そもそもオレのはほとんど自己流でオリジナルみたいなもんだし、真顔で言うのはやや恥ずかしい名前とか付けちゃってるんでホント勘弁してくださいお願いします。
「氷魔法まで使えるのなら相当得意にしておられるのですね。なるほど理解しました」
あれ? マリュウが納得してしまった。
あんなんで良かったの?
ま、いいならいいけど。
「ワンさん、そのラドルガって亜人がシェンヤオ兄さんの仇なのね!」
「はい。ですがピンピン様、くれぐれも無茶はなさらないでください。お願いします」
亜人の話が出て以降妙に静かだったピンピン。
そうか、兄弟子の仇討ちの事を考えていたのか。
ずっと心に抱いていた復讐心に火がついてしまったのだろう。
気持ちはわからないではないが、ワンさんの言う通り無茶はしないでくれ。
いざという時はオレが守るつもりだけど、こっちの手が塞がっていない保証はないからな。
「わかってる。安心してワンさん」
いや、その顔は全然わかってないよね。
そんでもってワンさんもそれをわかってるけどこれ以上言わないスタンス。
ワンさんがウーさんチャンさんの方を向いて神妙な顔で頷く。
すぐに2人も頷き返す。
なんなん?
ピンピンはオレたちが守る、的な無言の意思統一ですか。
それはありがたいので、是非頼みます。
彼らとて、同行した師範代を続けて失う事は絶対に避けたいのだろう。
「他に知っておくべき情報はないのかしら」
エリザベスがワンさんに尋ねる。
もうほとんど尋問のような雰囲気だが。
「私の方からは特にございません。そろそろ時間ですし出発としましょう」
先生、ワンさんが大人の知恵でスルーしようとしてまーす。
が、エリザベスも大人の対応でそれ以上は追及しない事にしたらしい。
あ、そうなんですね。なるほどなるほど。
では出発するか、という段になって通りを挟んだ向こう側のやや先にある建物からゾロゾロと人が出て来た。
「なにあれ?」
ほとんど独り言のつもりだったが、ピンピンが答えてくれた。
「シャイア教徒ですね。朝の礼拝が終わったのだと思います」
「シャイア教ってなに?」
「師匠、まさかそんな事も知らないんですか?」
「悪かったな、無知で」
「ごめんね~ピンピン。うちのアスカってば、本当に天然だから」
「なんだよジュリア、人を勝手に天然扱いすんな」
「あら、お馬鹿って言われるよりマシでしょ」
十数人ほど人が出て来た後、全身ローブみたいな恰好をした人が3人出てきて見送りをしている様子。
「あれがシャイア教団の人達です」
ピンピンが説明してくれたのでせっかくだからもっと聞く。
「なんであんな恰好してるの」
「さぁ、教団の人の公式な衣装なんじゃないでしょうか」
「あの紫の全身ローブが?」
「ローブって何ですか師匠?」
「あ、ごめん忘れて。なんていうんだ、ああいう衣装のこと」
「頭巾外套ですか」
「ああ、それそれ頭巾外套」
なんだそりゃ、面倒くせぇな。
「で、シャイア教って結局なんなの?」
「えーっと、ちょっと説明が長くなるので移動しながらでいいですか」
「まぁいいけど」
若干面倒がられているような気配を感じつつも承諾。
「なにあれ!?」
今度はジュリアが反対側、オレたちがこれから行こうとしている方向から走って来る人影を指して叫ぶ。
教団の連中と同じローブ……頭巾外套を被っている。
1人でどれだけ走ってきたのか相当お疲れの様子だが走るのを止める気配はなく、フラフラしながらも目の前を通り過ぎて先程の3人の処まで駆けていった。
無事合流した途端、俄かに3人の様子が慌ただしくなり、走ってきた1人を3人で抱えるように建物の中へ連れていってしまった。
「なに、いまの?」
「オレに聞かれても……。ピンピン、あそこって教団の施設?」
「はい、シャイア教ペピン支部の建物で礼拝などもあそこで行っているようです」
「だってさ、ジュリア」
結局何が聞きたいのかよくわからない。
そこへ、ワンさんがアシスト。
「最近、ペピンでもシャイア教の連中をよく見かけるようになりました。元々キャリオ全体でもそれほど信者はいなかったはずですが、それで布教活動に力を入れ始めたのかもしれませんね」
なるほど、そういう事か。
でも、今のダッシュ男の事情はそれとは関係なさそうだなぁ。
今起きた出来事も少し気にはなるものの、まずは依頼が優先。
早朝からだいぶバタバタしたが、ようやくオレたち捜索隊はペピンを出発した。
*****
さてさて、道中で入手した情報も合わせて少し状況を整理しておこう。
――――――――――――――――――
◆地理情報
カカ山
・キャリオ領内を縦断するキャリオ山脈の最高峰
・標高5283m
・キャリオでは神の山とされる
・亜人の目撃情報あり
・元は鉱山だった(鉄、魔鉱石)
⇒最近、上等な魔鉱石が採れるという噂
ミト村
・カカ山中腹にある小さな山村
・山神様信仰
・人口100人未満
ラシーク
・カカ山麓の町
・人口約5千人
リビコン川
・カカ山を源泉とする川
・ミト村付近を通ってラシーク中心を流れバルザム同盟を経て海へ注ぐ
・50年前支流としてイガール川をペピンへ通す
――――――――――――――――――
◆依頼による不明冒険者捜索隊のメンバー
ワン・ルイ (青札)
ウー・リュウホ (赤札)
チャン・ズーハン (赤札)
エリザベス (赤札)
マリュウ (赤札)
ジュリア・ザナック (赤札)
ロビーナ・パルティナム (赤札)
リー・ピンピン (黒札)
――そしてオレの全9名。
――――――――――――――――――
◆捜索対象者
クロウ・チョリス 男 (赤札)
シン・ミツルギ 男 (赤札)
ニール・フォックス 男 (黄札)
フェリス・ウォーロック 女 (白札)
――――――――――――――――――
◆出現が想定される敵
魔物
・顔面岩 5等級/まんまや
・ジャフ 5等級/例の巨大ヘビ
・ガーム 4等級/犬もどきの強い方
・ウルズ 4等級/狼もどき
・コンガ 4等級/例のゴリラもどき
・ボルドー 4等級/食人植物らしい
亜人
・ドルク 亜人5等級/豚、オーク
・ドルガ 亜人4等級/オウガ
・ラドルガ 亜人3等級/シェンヤオの仇
――――――――――――――――――
ざっとこんな所だが、オッサンズの情報をもう少し補足しておこう。
――――――――――――――――――
ワンさん
・プンクルを習い始めてから青札昇格
・ウーさんチャンさんとは学校学舎通して同級生
・ギルド『ワンウーチャン』のギルマス
・ワンウーチャンは今年で結成20年
・3年前からペピン冒険者組合付きのギルドになる
・シェンヤオを年の離れた弟のように思いつつ、師範代として尊敬していた
・シェンヤオを置いて先に逃げた事を後悔し続けている
・その罪悪感でプンクル道場も辞めた
・組合付き冒険者をしているのも罪滅ぼしのため
・体力は多少落ちたが腕はまだまだ現役と自負している
・3人の中で一番頭が良い⇒知略のワン
ウーさん
・ワシは昔からの口癖でいつから使い始めたか記憶にない
・プンクルを習い始めてから剣を短兵に変えた
・ピンピンを娘のように思っている
・シェンヤオの件は悔いが残っているが仕方なかったという思いもある
・3人の中で一番力が強い⇒力のウー
チャンさん
・3人の中では一番やんちゃ
・あまり過去の事には囚われない
・無鉄砲でいつもワンさんウーさんに窘められる
・3人の中で一番素早い⇒速さのチャン
――――――――――――――――――
ずっとピンピンの周囲にいてしゃべり続けているので、いやでも聞こえてくるんだよなぁ。
ピンピンはうんうんと嬉しそうに聞いているが、聞かされるオレとしては『だから何?』な感じ。
まぁ、ギルド名聞いた時はまんまじゃん!と笑ったけど。
あ、うちもあまりその点については人の事笑えないんだけどね。
ほぼ同じ発想だけに。
ピンピンの方は、ウルズスラでの演武会から始まるオレたちとの出会いのあれこれを話して聞かせていた。
道場を破門された件では、3人ともびっくり仰天といった様子であれやこれやと改心を進めていたが、ピンピンの決意は変わるはずもなく、最後には諦めて応援するスタンスに変わっていた。
なんだよ、4人でいい雰囲気じゃないか。
こちとら久しぶりに森のジュリアス3人ぼっちな気分だよ。
ジュリアが時々話しかけてる割にエリザベスもマリュウも口数少ないし、盛り上がりに欠ける。
いや待て、オレたちは任務中だ。
行方不明となった冒険者たちを捜索する、それが最優先じゃないか。
ノーモア無駄話。
任務集中!
ちなみに只今絶賛山道をひらすら登っているところ。
ワンさんを先頭にオッサンズ&ピンピンが前方。
続いて森のジュリアス。
最後尾がエリザベス&マリュウといった隊列。
「ここで休憩にしましょう」
突然ロビィが声をかけたので、ワンさんも立ち止まり休憩を提案する。
それぞれ思い思いに休んでいる時、ロビィがすっと茂みの奥へ入っていくのが見えた。
まさかと思って尾行開始。
だが、いざ茂みの中に入ると前だけじゃなく全方位に渡って著しく視界が悪く、あっという間に見失ってしまった。
諦めてみんなのところへ戻り、木の根に腰掛けて休む。
1~2分するといつの間にかロビィが戻ってきていた。
いつ、どこから戻ってきたのか全く不明。
目が合うと涼しい顔でオレに微笑みかけてくる。
まさかトイレじゃないだろうな。
もしそうだったら尾行なんかしようとしてごめん。
最低だオレ。
いやいや今の微笑みに騙されちゃいけない。
自分を信じろ。
トラストミー、いや違うそれじゃルーピーだ。
トラストマイセルフ。
休憩が終わり、再び移動を開始する。
そこで敢えて隣に並んでロビィにだけ聞こえるように話しかけてみた。
「何してたの」
「何の事ですか」
「さっき一瞬どこかに行ってたろ」
「散歩をしていました」
「へぇ、何か面白いものでもあった」
「いえ、何もありませんでした」
「本当は何してたの」
「…………散歩です」
「森の民はあれを散歩って言うんだ」
案の定ガードが固いので試しにちょっとカマをかけてみた。
「!?……見ていたのですか」
「って事はロビィにはバレてなかったんだ」
「こっそり尾行とは趣味が悪いですね、アスカ」
「ごめん。でもあれって何だったの」
「見なかった事にしてください」
「するする。するから教えて」
「…………森の民の間の連絡手段です。あの目印のある木には穴があって、そこに文を入れておくのです」
なるほど、そういう事だったのか。
口から出まかせのハッタリだったけど、連絡手段がわかったぞ。
リアルタイムではなく結構な時間差があるが、一方的な報告などでは問題なく機能しそうだ。
逆に双方向にやりとりをする場合にはなかなか厄介だな。
「そっか、そういう事だったんだ。教えてくれてありがとう」
「誰にも言わないでください。私とアスカ、2人だけの秘密です」
「うん、わかった。2人だけの秘密だね」
それはそれでなんだか緊張感と親密感、そして背徳感があっていい。
だが、次の瞬間冷や水を浴びせられた。
「秘密ついでにアスカに話があります」
「え、なに」
「このままでは死にます」
「へ? 誰が」
「アスカが」
「オレッ!!??」
思わず大声を出してしまったので、みんなの視線が集中する。
ロビィはすっと離れて知らん顔。
おいおいおい……。
「どうしたの、アスカ」
「ううん、なんでもない」
「師匠、何かあったのですか」
「ううん、なんでもない」
オレは通りがかりのなんでもない星人だ。
ふと後列の2人の方を見ると、マリュウがエリザベスの耳元でこれ見よがしにひそひそ話をしている。
まさか今のロビィとの会話を聞かれたわけではあるまい。
そんなデビルイヤーの持ち主だったら困る。
しばらく離れて歩いていたが、ほとぼりが醒めた頃にまたロビィが近づいてきた。
ロビィはいつもいい匂いがするんだよなぁ。
「さきほどの続きですが」
「どういう事だよ、人聞きの悪い」
「魔法力の制御にはくれぐれも注意してください」
「それはロビィに何度も言われてるからわかってるけど」
「この先も、です」
「今回の任務でって事?」
「それも含めて」
「うん、わかった」
どうして魔法力の制御にそんなに拘るのかは教えてもらえないが、おそらく森の民の知識に抵触する内容だから詳しくは言えないのだろうとオレは勝手に想像してみる。
だから今ロビィに出来る範囲で真剣に忠告してくれているのだと。
まぁそれにしても言い方ってものがあるとは思うが。
「もうひとつ」
「まだあるの?」
「万が一のために言っておきます」
「なに」
「プンクルの竜人拳の事は忘れなさい」
「へ!?」
いきなり何を言われるのかと思えば竜人拳――あのセイランが最後に見せた技の事か。
「なんで」
「いいから忘れるのです」
「そう言われてもなぁ」
「私が言いたいのはそれだけです」
「あ、ちょっとロビィ!」
いい匂いがまた離れていってしまった。
今の一連の話がオレが死ぬ事と何か関係あるっていうのか?
全く意味不明なのだが……。
ふいに気配を感じたのでロビィのいる方とは逆の方向を見るとジュリアがいた。
「なになに、何の話をしてたの」
「いや、別になんでもないよ」
「またなんでもないって、アスカさっきからそればっかり」
「ごめん」
「仲間同士で隠し事は極力禁止ね」
「うん、わかった」
「じゃあアスカは私とロビィとピンピンの誰が一番好き?」
「……はい?」
久々に右京さん出ました。
なんなんだよジュリアってばよぉ。
幼稚園児みたいな質問しながら抱き付いてくるんだもんなぁ。
本当にコイツは……可愛いじゃないか。
「一番とかないから。みんな好きだし」
「なにその優等生的な答え。つまんない」
「つまんなくて結構」
「それもつまんない」
「はいはい」
「ちょっと! 人の話聞き流さないでよ」
「流してないよ、ちゃんと聞いてる」
「ウソばっかり」
「ウソはついてない」
「じゃあ答えて。誰が一番好きか」
この流れでジュリアっていう答え意外が許されるとは思えない。
だが、そのまま答えてしまうのもなんか癪だ。
「マリュウさんなんか結構いいと思うけど」
ここで敢えて選択肢外を答えるという高等テクニックを披露してみる。
「え!?」
「えっ!?」
耳元のジュリアと後方のマリュウがハモった!
は!? ウソでしょ?
マリュウに聞こえてるじゃん!
マジでデビルイヤー?
思わず振り返ってマリュウをガン見する。
ちょっとバツの悪そうな表情をしながらも、無関心を装って歩くマリュウ。
だが、決して視線を合わせようとしないのでバレバレだぞ。
この女、一体どんな耳してるんだ?
どれくらいの距離、どれくらいの音量まで聞き分けられる?
とにかくマリュウに聞かれたら確実にエリザベスにも知られるのだろう。
なんという情報強者コンビ!
とりあえずジュリアとロビィを集めてマリュウのデビルイヤー能力を共有しておく。
たぶんそれすら聞かれてしまっているだろうが知ったことか。
ピンピンにも後で教えてあげないと……。
そう思っている所へ緊張した声が響く。
「亜人だッ!」
「ドルクが出たぞッ!」
ワンウーチャンの誰かの声だったが、それを聞き分けるよりも体が動くのが先だった。
読んでいただきありがとうございます。
次回9人の捜索隊による戦闘シーンとなります。
先に言っておくと、戦闘シーン長くなります。
もしかしたら分割になるかもしれません。
それでは引き続き応援よろしくお願いします。




