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(28)オレは捜索隊に志願する

 町へ出たオレたちはとりあえず宿泊先を探した。

 

 さほど高級ではないが粗末でもないクラスの宿を幾つかピンピンに見繕ってもらい、何軒か見て廻る。

 

 最初の宿は満室でダメ。

 次の宿は主人の態度が横柄で不愉快だったので却下。

 

 3軒目に訪ねた宿は繁華街のすぐ裏手で近くに小じんまりした森のような公園がありロケーションはGOOD。

 『リュグジョル』という名前も気に入った。

 

 そして主人が昔リー道場でプンクルをやっていたという縁で幾らか安くしてくれるというので即決。

 ピンピンの小さい頃を知っているらしく、大きくなりましたねと懐かしそうにしていた。

 

 尚、ピンピンの方には全く覚えがない模様。

 

 リー道場には常時300人以上の練習生がいて、人の出入りもそれなりに多いそうなのでこればっかりは致し方ない。

 何より当時のピンピンはまだ5歳ぐらいだったらしいから、覚えてないのも道理だ。


 せっかくなので4人一緒に泊まれる広めの部屋をとってもらう。

 

 部屋へ入ってみると、ベッドだけではなくテーブルや椅子などの調度品も一通り揃っていた。

 更に観音開きの窓の外には通りに面したバルコニーもついているなど、ちょっとしたスイートルーム的な部屋だったので大満足。

 

 これで1人1泊250ゼニーなら相当リーズナブルではないか。

 (参考までにウルズスラの宿は170ゼニー)

 

 何泊する事になるかまだわからないのであまり贅沢は出来ないが、毎日の疲れを癒すための場所にはそれなりの対価を払わないとね。



 宿泊場所が決まってひと息ついたオレたちは、身軽になって再度町へ繰り出す。

 

 冒険者組合へ顔を出すためだ。

 

 幸い宿からそう遠くない場所にあるらしいので、これもピンピンに案内してもらう。

 

 やはりペピンでも冒険者組合の建物の入り口はスイングドアだった。

 そういう風にしないといけないルールでもあるのかね。

 

 しかし、中に入ると雰囲気が随分と違っていて驚いた。

 

 1階はぶち抜きのホールになっていて、とにかく広い。

 奥の方に横長のカウンターがあり、中に女性が5人並んでいて各種手続きが出来るようになっている。

 ホールの左右に依頼の掲示板がそれぞれあり、右側がキャリオ領内の依頼で左側がグルド全土の依頼とそれぞれ別々に掲示してある。

 それだけでウルズスラより依頼の量が全然多いのがわかる。

 

 ホール中央には案内窓口があるわ、入り口の両サイドは椅子やテーブルがあって、ちょっとしたカフェテラスのような雰囲気。

 コーナーにはセルフサービスのお茶まで用意してあった。

 

 そして何より冒険者の数が多い。

 ぱっと見で30人以上は軽くいそうだ。

 

 ウルズスラでは滞在している冒険者が常時40人程度という事だったので、ここペピンではこの時間帯に組合に来ている冒険者だけでほぼそれに近い人数に達してしまうという事だ。

 

 総人口ではそこまでの開きはないのにこの差はなんなのだろう。

 

 依頼が多いからなのか、人数が多いから依頼が集まるのか。

 ニワトリと卵どっちが先か問題だな。

 

 入り口付近に突っ立ったまま、ウルズスラとの差に驚いていると次第に注目され出した。


「可愛い子が4人もいるぞ」

「あそこにいるのって、確かリー道場の……」

「リー・ピンピンだ」

「ピンピンがどうしてここに」

「あれがリー・ピンピンか……」


 主に注目を浴び噂の種になっているのはピンピンだった。

 

「有名なんだな」


 ピンピンの方を見ると別に何てことないという顔で堂々としている。


「自分の町ですから」


 それはそうだろうが、それだけじゃないだろう。


「プンクルってどの程度ペピンの人達に認知されているの」

「プンクルを知らない人はペピンにはいません」

「え、そんなに?」

「学校や学舎でも体力作りのためにプンクルを取り入れていますから」


 へぇ、そうなんだ。

 

 ちなみに学校は元の世界の小学校に相当するもので、6歳から5年間の義務教育。

 学舎は4年間で中学と高校に相当するものだが、そこに進学するのは全体の30%程度らしい。

 一応その上に学庁というのが最高学府としてあるが、よほどの秀才か金持ちしか進学できないのだそうだ。

 

「で、ピンピンの知名度は」

「それは……自分ではよくわかりません」

「ここの感じだと随分高いようだけど」


 オレにそう言われると少しだけ困ったような表情をするピンピン。

 

 プンクル道場の師範代というだけじゃなく、その美貌による所も大なのだろう。

 

「アスカ、ピンピン、こっちに来て。面白そうな依頼があるの」


 ジュリアが右の方、キャリオ領内の依頼がある掲示板の前で手招きをしている。

 ロビィは反対側の掲示板を眺めているようだ。

 

 2人共いつの間に――。


 とりあえずジュリアの言ってる面白そうな依頼とやらを見てみる。


――――――――――――――――――

依頼番号:GRD148306305

依頼内容:カカ山安否不明冒険者の捜索

依頼主:ペピン冒険者組合

特定対象:なし

募集人数:8人以上

募集条件:階位5級以上

期日:出発日より最大3日間

支払い:帰還後一括払い

報酬:1人当たり銀貨20枚

手当:

  要救助者1人救出につき/銀貨10枚

  魔物討伐時/魔物等級に応ずる

   ※但し5等級は対象外

――――――――――――――――――


 銀貨20枚確定の依頼か……確かに面白そうだ。

 しかも拘束されるのは長くて3日間。

 

 随分と気前がいいなと思ったが、依頼内容の安否不明冒険者の捜索ってのがやはり引っかかる。

 手当に5等級魔物討伐が含まれないのも地味にケチ臭い。

 

 よほどの危険を伴うもの、と考えるのが妥当だろう。

 そしてジュリアが言うのはその危険も考慮した上での『面白そう』だというのに気が付いてやや呆れる。


 なんでわかるのかって?

 あのワクワクが止まらない的な顔をひと目見ればわかるっつーの。

 

「どう? 4人でやったら3日で銀貨80枚よ!」

「そうだね、何もなければだけど」

「何言ってるのよアスカ。何かあったらもっと報酬が増えるんだから大歓迎じゃない!」


 あーはいはいそうですね。


「ピンピンはどう思う?」


 諦めないジュリア、今度はピンピンへ意見を求める。

 

「そうね……カカ山の辺りは危険な魔物も多い地域だから、8人集まるかどうか……」


 8人? そうか募集人数か。

 そっちは盲点だったな。

 8人集まらないとやらないってことなの?

 オレたち4人の他にもモノ好きを更に4人ってそれは結構ハードル高いなぁ。

 

「そっか、この依頼って最低人数決まってるのか……う~ん残念」


 ジュリアも少しは現実が見えてきたようで嬉しい。

 

 参考までにと他の依頼も幾つか見てみたが、これが冒険者のやる事かと驚くようなしょーもない依頼から、こんなん無理に決まってるやんという無茶苦茶な内容まで様々。

 ここまで繁盛していると依頼内容も様々なんだなと納得。

 

 だが、オレ達がやるという視点で見るとさっきの捜索の依頼以上にピンと来るものは見当たらなかった。

 

 唯一興味深かったのがこれ。


――――――――――――――――――

依頼番号:GRD148304192

依頼内容:ゴルテリア領境の山賊討伐

 必須条項

  ①山賊頭目の殺害又は捕縛

  ②山賊集団の解散又は離散

依頼主:ペピン商工会

募集人数:制限なし

募集条件:制限なし

期日:随時

支払い:達成後一括払い

報酬:銀貨10枚

手当:なし

――――――――――――――――――

 

 うっは! これ絶対あいつらの事だろ。

 討伐依頼が出てるなんて、よほど悪事を重ねてたんだな。

 

 依頼主がペピン商工会って、共同依頼なのか?

 にしては報酬がしょぼい、しょぼすぎる。

 おそらくそのせいで未だ受け手が現れずこの状態なのだろうが。

 

 ケンみたいな手練れがいるのに銀貨10枚とか、命を捨てに行くようなものだろ。

 銀貨100枚でも全然足りんぞ。

 

 どのみちヤツを知ってる者なら100%スルー案件だな。

 

 募集条件がないってのも違和感ありまくりだ。

 この手の依頼なら確実に仕留めてもらうために、ある程度階位が上の者を指定するはず。

 もしや、あまりに受け手が出てこないからって条件を無くしたんじゃ……。


 しかも支払いが達成後一括だもんなぁ。

 高リスク案件なら2~3割は前金で貰わないとやってられないだろ。

 その辺も依頼側のケチ臭さというか、そもそも冒険者をあまり信頼してないのが透けて見えて気分が良くない。

 

 もしこれが金貨10枚ならオレが引き受けて即終わらせてやるところなんだが、残念だ。



「ロビィ、そっちは何か良さそうなのあった?」


 気を取り直して反対側の掲示板前にいるロビィに尋ねるジュリア。


「良いかどうかはわかりませんが、高額報酬の依頼があります」

「ええ~~~ッ! なになにどれどれどれ?」


 大きな声を上げながらロビィの方へ走って行くジュリア。

 オレ達も後を追いかける。


――――――――――――――――――

依頼番号:GRD148303022

依頼内容:地下迷宮の位置特定

依頼主:ヘルマン・シュルツ

募集人数:上限なし

募集条件:なし

期日:完了次第締切

支払い:任務完了後一括払い

報酬:金貨50枚

手当:なし

補足事項:既知の迷宮は対象から除外する

――――――――――――――――――


 こ、これは――――。

 

 確かにロビィの言う通り高額報酬の依頼には違いない。

 しかし無期限で成功報酬型、しかもそれぞれ先着1組様限り的なヤツじゃないですか。

 

 それにこれ結局はラインガルド全土を探して回らないといけないんじゃないの?

 グルドではジン砂漠にあるって言われてるけど、正確な場所ってわかってるんだっけ?

 だとしたらそれは除外になっちゃうわけだし。

 

 あまりに範囲が広すぎて、何か手掛かりやヒントでもない限り完全に無理ゲーだろ。

 

「幾ら金貨50枚でも、これはちょっと……」


 さすがのジュリアでも二の足を踏むらしい。


「私達の情報網を使って調査すればひとつくらいなら見つけられる可能性はあります」


 ちょっとロビィ、それは森の民を動員するってこと?

 いいのかそんなことして。

 

「でもそれだと報酬は森の民で山分けだよね」

「……そうですね、そうなります」


 ロビィの残念そうな顔。

 だが、ここで自分ひとりの手柄にして報酬を独占するという悪知恵が働かない所がロビィらしい。


「でもこの期日の完了次第締切って、7つの迷宮全部の場所がわかったらって事でしょ。それなら結構時間がかかりそうだし、受けるだけ受けておいて何か情報が掴めたら具体的に検討するっていうのもアリじゃない?」


 おっと、ジュリアの方はまだ諦める気はなかったらしい。

 だが言ってる事はもっともで充分検討の余地はある。


「確かに、それはアリだな」

「でしょ! ほらアスカも賛成だって。ロビィとピンピンは?」

「そういう事なら私も賛成します」

「この依頼を受けるって事は、もしかしたら他の国へも行けるって事なの?」

「もちろんよ、ピンピン。そうなったらラインガルド中を旅して周るわよ!」

「ラインガルド中を……。それなら私も賛成!」


 4人が同意したので、ジュリアが代表して依頼の受注手続きをしに行く。


「世界中を周れるなんて夢みたい」


 ピンピンは早速夢見る乙女モードになってしまっている。

 おいまだ早いぞ、現実に戻れ。


「まぁ何か情報が掴めたらって条件付きだけどね」

「やはり仲間にも少し聞いてみた方がいいでしょうか?」

「お願いします、ロビーナさん!」


 だからピンピンを焚き付けるような事を言うなよロビィ。


「連絡を取る機会があったら聞いてみます」

「やった! ありがとうございます!」


 あーあ、すっかりその気にさせちゃったよ。

 

 でもロビィはどうやって森の民と連絡を取るつもりなんだろう。

 それはちょっと興味ある。

 

 今までも途中で何度か連絡取ってたりするのかな。

 全然気付かなかったけど……。

 あの言い方だと連絡手段は何かしらありそうな感じだったし、気になるなぁ。

 

 そこへジュリアが戻って来た。


「登録出来たよ。全国依頼だからグルド国内ならどこでも手続き出来るみたい」

「グルド国内だけなの?」


 迷宮は他の国にもあるんだから他の国でも手続き出来ないと面倒になる。


「それがよくわからないらしいわ。他の国の組合で確認してみてくれだって」


 お役所仕事乙、だな。

 仮にも国際組織を謳ってるのに情報共有の仕組みはどうなってるんだ?


「ふ~ん。で、それはいいとして当面の仕事はどうする」

「さっきジュリアが見ていた依頼はどうなのですか」


 そうか、ロビィはずっとこっち側にいたからあの依頼内容はまだ見てないのか。


「あ、うん。ロビィも一応見て意見ちょうだい」


 ジュリアに促されてロビィも連れて再び先程の捜索依頼の前に移動する。


「これなんだけど」

「なるほど。カカ山に行くことになるのですか……」

「ロビーナさんはカカ山の事、知ってるんですか」

「ええ、少しは。以前に一度山の中へ入った事があります。強力な魔物や亜人がいる場所です」


 亜人の言葉にピンピンの顔が引きつるのが見えた。


「そうなんです。それに高い山々が連なっている山脈の最高峰ですから、普通に移動するだけでも大変な場所です」


 そこまでは知らなかった。

 ペピンへ来る時に通った山道よりももっと険しい感じなのかな。


「でも別にそれくらい大した事ないでしょ。問題なのはこの8人っていう人数よ」


 ジュリアが残念そうに言う。

 まだ諦めきれないのか。


「8人となると、私たちだけでは半分にしかなりませんね」

「いいえ、あと2人よ」


 ロビィの言葉のすぐ後に見知らぬ声が続く。

 

 思わず声のした方を向くと、ウェーブのかかった派手な金髪ロングの女性と青味がかった黒髪パッツンストレート女性の長身2人組だった。


 なんだこのひと際目立つウルトラスーパー美女コンビはッ!?

 

 金髪の方はピンクと金色のドレス風衣装で、黒髪の方は黒と白のメイド服っぽい衣装。

 

 ただ、どちらもちょっと裾が短いのが個性的――いや、よく見ると細かいパーツで構成された甲冑じゃないかこれ!

 ゴツゴツした感じが全くなくて、動きやすそう。

 デザインセンスもさる事ながら、これを作った職人の圧倒的な技術に驚かされる代物だ。

 

 思わず目を奪われてしまって見逃していたが、腰の辺りに赤札が見える。

 どちらもオレたちと同じ5級冒険者らしい。

 

 それにしても見れば見るほど、どこぞのお嬢様とそのメイドという組み合わせだ。

 云うなればゴージャス&シック!


「ていう事はあなたたちもこの依頼に参加するの?」


 ジュリアが喜色満面で尋ねる。


「ええ、先程手続きを済ませた所よ。私はエリザベス」

「マリュウと言います。よろしくお願いします」


 金髪がエリザベスで青黒髪がマリュウね。

 ふむふむなるほど。


「私はジュリア。こっちはロビーナでその隣がアスカ。3人で森のジュリアスっていうギルドなの」

「……3人? 4人ではなくて?」


 金髪のエリザベスが疑問に思うのはもっともだ。

 察したピンピンがすぐ自己紹介をする。


「私は師匠の弟子のピンピンです」

「師匠……弟子……どういうこと?」


 いかん、ますます混乱させてしまったようだ。


「ねぇもうそろそろいいんじゃない? ピンピンも私たちのギルドに入りなさいよ」


 便乗してジュリアの勧誘が始まってしまった。

 今それを言わなくてもいいだろうに、全くもう。


「ジュリアの事は好きだしロビーナさんも尊敬しているけど、私は師匠についていくって決めたの。だからごめんなさい」

「どうせアスカも私たちと一緒なんだからいいじゃない別に」

「そういう問題じゃないの」

「じゃあどういう問題なの」

「さっき言ったでしょ」

「もう……アスカもこの頑固者に何か言ってやってよ」

「いや、決めるのはピンピンだから」

「さすが師匠!」

「ちょっとアスカ!」


 というやりとりをただただ困惑の表情で眺めているエリザベス。


「いつもこうなんです。面白いでしょう」


 おおっとこれは意外。

 まさかロビィが取り成すような発言をするなんて。

 だが、面白呼ばわりはどうかと思う。


「よくわからないけれど、楽しそうでいいわね」


 半ば呆れたような口調だったが、どこか羨むような響きも感じられるエリザベスの言葉。

 そっちは2人ペア? 楽しくないの?



「ピンピン様ではありませんか! どうしてこんなところへ」


 またも突然割り込んでくる声。

 今度はそこそこ年齢のいった男の声だ。


「ワンさん!? 久しぶりじゃない、元気だった?」


 見た感じ30代後半から40代前半と思われる男性。

 どうやらピンピンの知り合いらしい。

 口ぶりからするとしばらく会ってなかった様子だ。


 と、ピンピンがワンさんに近づいてハグをした。

 ワンさんの方も結構な力を込めて抱きしめている。

 

 え!?

 

 そんなに親しい感じ?

 軽くジェラったのは内緒だ。

 

 そして今気付いたのだがこのワンさん、なんと青札ですよ!!

 マジか、こんなオッサンが4級冒険者とか。

 


「おかげ様でこの通り、なんとかやっています。ピンピン様は演武会帰りですか」

「ええ、そんなところ。でも本当に久しぶりね。最後に立ち合ったのは3年前だったかしら」

「ピンピン様が座長になられる前ですから、それくらいになるでしょうか。シェンヤオ様のことは本当に残念でしたね」

「…………ええ、本当に。ところでワンさん、今日はどうしたの」


 シェンヤオとかいう名前が出た途端、ピンピンの表情が沈痛なものに変わった。

 すぐに無理矢理笑顔を作ってたようだが、まだ表情が硬いよピンピン。

 

 流れから察するにあれか、例の亜人にやられた兄弟子の師範代の名がシェンヤオってところか。

 気になるけど、こういうのはデリケートなものだから今はそっとしておこう。


「実は今、このペピンの冒険者組合付きの冒険者として働かせてもらっているんです。そうしたらピンピン様の姿をお見かけしたのでつい……」

「冒険者組合付きってどういうこと?」

「はい。組合に寄せられる様々な依頼の中で、長期間申し込みのない依頼や人数制限で執行されない依頼などのお手伝いをさせていただいています」


 なんだって?

 それってもしかして――。


「もしかしてこの依頼の手伝いをしてくれるの?」


 ってジュリア、話に割り込んでくるんじゃない!

 オレも全く今同じ事を思ったけれども。


 しかし、ワンさんはオレやジュリアには目もくれず、ピンピンだけをじっと見つめてマジ顔で話を続けた。

 

「ピンピン様、この依頼を受けるのはどうかお止め下さい。他に適当なものが幾らでもあるはずです」

「どうして? なにか問題でもあるの」

「それは……私の口からは申し上げられません。ですが、どうかお願いします。これだけは止めてください!」


 あまりにも真剣且つ熱心に制止されると逆に気になってしまうじゃないか。

 ピンピンも引っかかっているような微妙な表情をしている。


「リズ様、如何致しましょう?」

「そう言われても、もう手続きは済ませた後なのよ。今更どうしようもないわ」


 マリュウとエリザベスの会話が耳に入ってきたが、エリザベスの返答は落ち着いていた。

 

 リズ様というマリュウの呼び方が気になったが、今聞くのもKYすぎるのでスルー。


「それじゃ、私たちもいいわよね?」


 ジュリアがオレとロビィとピンピンに確認を求めてくる。


 今のワンさんの話、聞こえてたよな?

 にも関わらずそう来るわけね。

 いやはやさすがジュリア。


「私は構いません」

「まぁ別にいいけど」

「師匠が行くなら当然私もお供します」

「ピンピン様ッ! どうして!?」


 ワンさんの悲痛な叫びも空しく響くのみ。


「決まりね。すぐ手続きしてくるわ」


 そう言って踵を返すとジュリアはとっとと窓口の方へ行ってしまった。


「ごめんね、ワンさん。でもこれで一緒に参加できるのよね」

「気付いておられたのですね、ピンピン様。……その通りです」

「それで、あと1人は?」

「1人ではありません。私の他にウーとチャンも参加致します」

「まぁッ!! 懐かしいわ!」


 え、後の2人も知り合いなの?

 てか総勢9人で行く事になるのか。

 それなら、全然余裕じゃないか。


「2人ともピンピン様と一緒だと知ったら驚きますよ」

「2人は今日ここに来ていないの?」

「ええ、私が代表で手続きに来ただけです。出発の時にはお会いできますよ」

「それは楽しみだわ。2人によろしく伝えておいて」

「もちろんです。それでは私はこれで失礼します」


 ワンさんが組合の建物を出ていった後でピンピンが説明してくれた。

 

 ワンさん、ウーさん、チャンさんというのは30代男性トリオで3年前までリー道場に通っていた冒険者だったらしい。 

 体力的なピークを過ぎたところでプンクルを学んで衰えをカバーしようと考えたのだそうだ。

 

 現役冒険者だった3人は充分な実戦経験のためか上達も早く、短い期間でかなりの腕前になったのだが、そんな時例の亜人の件が発生した。

 当時の師範代と一緒に依頼に参加した3人はその後なんとなく道場から足が遠のいてしまい、なし崩し的に道場を辞めてしまったのだそうだ。

 

 こんな形で再会出来て、しかも同じ依頼に参加する事になるなんて奇遇としか言い様がないとピンピンも興奮していた。

 

 オレは話を聞いて少しだけ不安になったが、ピンピンの実力を知っているし、あのワンさんという人も青札だったので大丈夫だろうと自分を納得させて特に何も言わなかった。



 ピンピンの話が終わるのとほぼ同時にジュリアが戻って来た。

 

「手続き終わったわよ。人数も集まったから早速明日出発だって」


 あ、そうなんだ。

 まぁ暇してるよりは全然いいけど、ペピン観光もしたかったなぁ。


「エリザベスとマリュウにも伝えるようにって言われたけど、大丈夫?」

「ええ、問題ないわ」


 サラッともう名前呼び捨てに出来るジュリアかっこいい。

 そして2人ともそれを当然のように受け入れている……この落ち着きは見習いたい。


「明日朝一番にここに集合して、それから出発だそうよ。楽しみね」

「ええ、そうね」


 エリザベスの落ち着いた態度と、やや低域だが凛とした張りのある声。

 いいな、なんかこっちまで落ち着く。

 しかもどこか妙に懐かしい気もする。

 誰か知ってる人に似ているのかな……思い出せない。


「みんなも明日出発よ、いい?」

「もちろんです」

「大丈夫」

「あ、私、ワンさんに伝えてくる」


 そう言うとピンピンはワンさんの後を追うように組合のスライドドアから出て行った。


「さっきの男性、青札だったわね。私たちより強い仲間がいてくれて安心だわ」


 エリザベスの言葉は社交辞令のようにも受け取れる。

 本人が自信満々過ぎて、真実味が薄れているのかもしれない。

 

 むしろそんなエリザベスが一緒な事がオレは安心だよ、うん。


「ピンピンの知り合いみたいだったしね」


 ああ、ジュリアは手続きに行っててピンピンの話全然聞けてないから後で教えてやらないと。


「それでは私たちもこれで。また明日」

「失礼致します」


 エリザベスとマリュウも連れだって行ってしまった。

 

 2人が背を向けた時、腰の後ろにある武器がはっきりと見えた。

 エリザベスは身長の半分以上ありそうな長剣。

 マリュウのはドーナツ形の円盤のようなものが2つ。

 あれは確か円月輪(チャクラム)ってヤツじゃなかったか。

 

 おおっ! 2人の戦う姿を想像したら、おらぁなんだかゾクゾクしてきたぞ。


「私たちも……ってピンピンが戻るまでここにいなきゃダメか」

「だな」


 ジュリアが不満そうに口を尖らせている。

 ワンさん、そんなに先まで行っちゃってるのかな。

 

 それはそうとさっきからロビィがほとんどしゃべってないのが気になる。


「ロビィ、どうかしたの」

「あの2人には見覚えがあります」

「え!? そうなの? どこで」

「あれは確かアスリーデ王国だったように思います……」

「アスリーデ!? そんな遠くからわざわざここまで来てるっていうの?」


 おいおい、オレはジュリアの大声でびっくりしたよ。

 

 アスリーデ王国はグルドの南方にある国だが、間にサバス帝国やウォルテリア王国があって国同士が接しているわけではない。

 確かに遠いと言えば遠い。


「でも向こうはロビィの事、知ってる様子には見えなかったけど」

「でしょうね。別に知り合いではありませんから」

「でもロビィは知ってたんでしょ」

「向こうが有名人だったのだと思います。詳しい部分までは思い出せませんが」


 珍しくロビィの発言がふわふわして的を射てない。

 いつもはクリアすぎる物言いなのに、なんだからしくない気がする。


 ま、詳しい話は明日本人たちに直接聞けばいっか。

 但しいきなりアスリーデの人なんですか、とか聞いたら不審がられるだろうから言葉は選ばないとな。


 そうこうしているうちにピンピンが戻って来た。

 

「ごめんなさい、遅くなりました。ワンさん、思ったより健脚で……」


 おいピンピン、健脚って言い方がそもそも失礼だぞ。

 相手は現役の青札冒険者なんだから。

 あのインチキ青札のグルックなんかと一緒にしちゃいけない。


「それじゃ、私たちも行きましょ!」

「風呂へ」


 ジュリアへオレが付け足すとみんなが笑ってくれた。

 我ながらナイス。

 


 その後オレたち4人はペピンで一番大きな公衆浴場へ行ってゆっくりのんびり入浴タイムを楽しんだ。


 ただ、途中で何度もロビィと目が合ったのに、特に何も声を掛けられなかったのが気になると言えば気になった。

 話があるというわけじゃなさそうだったが、ならどうしてあんなにじっと見られてたんだろう?

 

 主に後ろから見られていたように感じたが、オレの尻でも狙ってるのか。

 ウソですごめんなさい。

 オレの気のせいだったのか。

 


 ――――こうして捜索へ出発する朝を迎えた。

読んでいただきありがとうございます。

今回は定点での出会いメインになりましたが、この出会いがアスカたちの運命に大きく関わっていきます。

捜索依頼の内容にもまだ不明な点もありますし、新たな女性キャラ2人の素性と合わせ次回以降で明らかになっていく予定です。

引き続き応援よろしくお願いします。

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