(21)オレは食事に招待される
ウルズスラの町の北東に大きな公園がある。
こんなところに公園がある事を初めて知ったが、その広さにも驚いた。
まさに、東京ドーム○個分!(何個分かは知らん)
その公園の一角に演武会用の特設ステージが設置されていた。
アリーナ席とスタンド席、そして一番後ろに2階建ての立見席まである。
ずいぶんと金がかかっている感じだ。
今日は6の月で2度目の緑の日なので、午前とは言え人通りもそれなりに多い。
あ、こっちの世界の1週間は7日ではなく6日で、それも月火水木金土日ではなく赤青白黒緑紫となっているのだ。
緑の日は半ドン、紫の日が休みになっている職場が多いらしい。
ただ、公的には何も決まりはないため、その辺はかなりアバウトに運用されているとの事。
まぁ会社勤めという職業が存在しないようなものだからなぁ。
おそらくほとんどの町民は第1次産業か自営、店舗従業員辺りではないだろうか。
ついでに説明しておくと、1ヶ月は30日固定でわかりやすく、1年は12ヶ月なので元の世界と一緒だ。
まだ開演前で、ステージ上や周辺で準備している人たちが慌ただしく動いている。
この演武会という催し自体は無料で開催しているらしく、既に老若男女様々な観客が集まっている。
聞くところによると、毎年時期は違えど定期的に開催しているイベントで、そこそこ人気もあるようだ。
毎年無料でやっているなんて気前のいい話だ。
一体何のメリットがあってやっているのだろうか。
まさか全くのボランティアという事はあるまい。
依頼主の名前は確かリー・ピンピンと言ったか。
半濁点を濁点に変えるとちょっと危ない名前になるな。
などと馬鹿な事を考えているうちに、開演時間が迫ってきていた。
ジャ~~~~~ン。
ジャンジャンジャンジャンジャ~~~~ン。
クソデカい銅鑼の音が鳴り響いて演武会が始まった。
この開始で若干想像してはいたのだが、案の定中華風の音楽と共にステージに人が登場して来た。
「ウルズスラのみなさん、こんにちは~」
チャイナドレス(とは言わないのだろうが)を着た長身の若い女性が大きな声で呼びかける。
観客の反応は……特にない。
特に落ち込んだ様子もなく、女性は続ける。
「私たちはキャリオのペピンからやって来ました、プンクル演武使節団です。今日は是非楽しんで行ってください」
キャリオってのは確かこのゴルテリアの西にある自治区だったか。
遥々やって来たというわけだな。
ジュリアが地名大丈夫かと言わんばかりにこっちを覗き込んでくる。
いや、大丈夫。心配ありがとう。
軽く頷いて伝える。
「私はこの使節団の座長であり、ペピンにあるリー道場の師範代でもあるリー・ピンピンです。どうかよろしくお願いします」
おお、あの人がピンピン!
艶のある黒髪はおそらく相当長いのだろうが、編み込んで頭の両側でクルクル巻きにしてある。
ドレスから垣間見える見事な美脚に、くびれた腰、ツンと上がったお椀型の胸。
そして何より目を見張るほどの美貌。
印象的なのは二重の大きな目と長いまつ毛。
インチキメイク道具なしでそれはホント奇跡だよピンピン。
横でロビィが聞こえるか聞こえないかぐらいの小声で『ピンピン』と呟くのが聞こえた。
その声でその言葉は超ヤバイっすよロビィ。
録音させて! 機材ないけど。
「それは今日の公演の午前の部を始めます。どうかごゆっくりお楽しみください」
と言ってピンピンが舞台袖に掃けると、入れ替わりに男が6名登場。
ピタリそろった掛け声と、美しく見事な型を披露する。
やっぱプンクルってカンフーだろ。間違いない。
うはー、生で見られて幸せ!
子供の頃の興奮が蘇るぜ。
その時、男たちがそれぞれ左右から交互に側転からのバック転を決めていった。
「あっ!!」
大きな声を出したのはジュリアだ。
オレと顔を見合わせる。
オレも動きの流れ的にたぶんやるだろうなぁと思ってたので、とりあえず大きく頷いておく。
ジュリアも頷いて、再びステージに目が釘付け。
6人が捌けていくと、お次は屈強そうな男と普通の男2人が登場。
屈強な男が拳や蹴りで板を割ったり、角材を体に打ちつけて折ったり、ブリッジした腹の上に2人が乗ったりと、まぁどこかで見た事のあるような見せ芸を披露。
わかってはいても、目の前で実際それが行われると迫力があって興奮する。
続いて、女性ばかりが8人ほど登場し、サーベルのような剣を使った舞踏のような型を見せる。
体術も見事ながら、剣を回転させつつジャグリングのように放り投げてキャッチするところなど、8人で入れ替わり立ち替わり行うものだからまぁ忙しい忙しい。見た目以上に緻密なコントロールが要求されるよく訓練された演技だった。
「すごい……」
ジュリアが感嘆の吐息と共に漏らす。
「私も少しやってみたいです」
ロビィもプンクルに多少なりとも心動かされた様子。
森の民にはこうした曲芸のような技はないんだろうか、と思ったが聞くのはやめておこう。
そうこうしているうちに再びピンピンが登場した。
「みなさん、楽しんでいただけてますか。次は試合形式になります。対戦者はこの町の冒険者組合で募集した方々です。それでは、どうぞ拍手でお迎えください」
これか!?
これがケガしても銀貨1枚の依頼……もとい1試合350ゼニーの依頼ッ!
拍手と歓声と共に、3人の男女がステージに登場してきた。
力自慢ぽいムキムキ男、身軽そうな女、細身の男の順に並んだ。
この順で試合をするらしい。
おそらくは冒険者であろうこの3人がどんな戦いをするのか、ちょっと楽しみだ。
だが、最初のムキムキ男の時点で期待は失望に変わった。
オレもこれまでの経験でわかっていたのだが、この世界では体術があまり重要視されておらず、ほとんどの冒険者がひたすら力押しかスピード自慢の2種類のタイプに分かれているのだった。
ホークが見切りで一定の評価を得ているのはその辺が理由なのかもしれない。
今日のこのムキムキは前者で、おそらく力は相当あるのだろうが、当たらなければ何の意味もない。
逆に予測のつかないプンクルの動きに翻弄されて見るも無残な出来で試合を終えた。
プンクル使いの男はまるで力を入れずに、軽くポンポンと叩く程度の攻撃だったのだが、これがもし本気だったら瞬殺されていたに違いない。
続く女性の冒険者。
こちらは後者のスピード自慢タイプだったが、狭いステージ上では動きに制限があるため、スピードを活かすにもやはり体術が必要になってくる。
そのため直線的な動きに終始してしまい、簡単に相手に先を読まれて結局いい所なし。
3人目は一番特徴無さそうな細身の男だったので、結局冒険者の3連敗かと半ば興味を失っていたのだが、あにはからんやこれが結構善戦した。
細身の男に目立つ技術や派手な技はないものの、相手の攻撃をよく見て捌く事が出来ている。
ムーディ勝山ばりの受け流し術。
いたずらに攻めないところも好感が持てる。
相手を捌いて、隙が出たところにちょっとだけ手を出す。
これが見世物である事を理解した上で、相互の動きの流れが途切れないパフォーマンス重視の試合になった。
やるなぁ、あの子。
まだ若いのにしっかり基本が出来てる感じだ。
よく見るとルックスもそこそこ。
あ、でもオレは男なんで、別にそういう興味はないですよ、本当ですよ。
こうして何とか最後は恰好をつけて、試合タイムが終了した。
プンクルを見に来ている人たちからすると、プンクルが冒険者を手玉にとって最後の1人だけは善戦したみたいな風に見えただろうから、興業としては大成功と言える。
オレたちも、プンクルという初めて見る武術に素直に感動した部分がある。
いや、オレの場合正確には見覚えのあるアクションに生で出会えた感動というべきか。
「プンクルって初めてみたけど、すごかったね」
「はい。人間にこんな芸当が出来るとは、私も驚きました」
「アスカ。私たちもプンクルと戦ってみたくない?」
「そうだね、面白そうだと思う」
「私もやります。弓は使えませんが、問題ありません」
2人とも興奮冷めやらぬ感じで余韻に浸っているかと思いきや、既にやる気マンマンである。
ふとステージの横に目をやると、さきほど公演終了の挨拶をしたばかりのピンピンがこちらを見ていた。
正確にはロビィをじっと見つめていた、というべきか。
ん?
ロビィを見ると、当人もピンピンの視線に気付いたようだ。
微笑んで(気持ち悪くない方)軽く会釈をするロビィ。
すると、ピンピンがこちらに向かって歩いて来る。
何事かと思って見ていると、そのままロビィの前まで来て立ち止まり、爽やかな営業スマイルでこう言った。
「失礼を承知でお尋ねしますが、あなたはもしかして森の民ではありませんか?」
「そうかもしれませんし、そうでないかもしれません」
ロビィの禅問答のような答えにも、ピンピンは怯まない。
「森の民の方々が人間と接触するのをあまり好まれないのは知ってます。ただ、なかなか直接お会いする機会がこれまでなかったので……よろしければこの後一緒に食事でもいかがですか?」
なんという見事なコミュニケーション能力。
元の世界であれば部下にひとり欲しいくらいだ。
ロビィはすぐには答えず、オレとジュリアの方に目をやる。
「これは失礼しました。お連れの方々もご一緒に招待させてください」
様子に気付いたピンピンが頭を下げて申し添える。
満足そうにロビィが再度こちらに目を向ける。
ジュリアが軽く頷いたので、オレも同じく。
「大変光栄な申し出、ありがとうございます。是非ご一緒させてください」
ロビィもちゃんと弁えた話し方が出来るのだった。
なんか最近はすっかりヘンな子扱いしちゃってたよ、ごめんなさい。
「いえ、こちらこそ。それでは早速支度をさせますので、どうぞこちらへ」
*****
「すげぇ……」
思わず言葉が出てしまうほど豪華な宿だった。
ピンピンの泊まっているウルズスラで一番高い宿。
一泊2500ゼニーの高級宿だ。
凝った模様の内装、真っ赤なふかふかカーペット、ド派手なシャンデリア。
オレたちの泊まっているアルマンゾとはまるで比較にならない贅沢さ。
5階建て最上階の広間に案内されると、広い部屋の真ん中に円卓がひとつ。
ますますもって中華風じゃないか。
出てくるのも中華料理なのだろうか。
なんだか、久しぶりにめっちゃ食べたくなってきたんだけど。
「どうぞ、自由におかけになってください」
ピンピンが笑顔で円卓の方へ手を向ける。
初めての高級宿でおどおどしながら互いの顔を伺うオレとジュリア。
ロビィは気にせずまっすぐ円卓の一番奥の席に座る。
ザ・上座!
さすが主賓は場の空気を完璧に読んでいらっしゃる。
ロビィがこんなに頼もしいとは知らなかった!
それじゃあと言いながらジュリアがその隣に座り、オレもそのまた隣に腰を下ろす。
椅子は全部で5つ用意されていたが、余った1つを付き添いの人に持っていかせた後、ピンピンが残る1つにかける。
今まで気付かなかったが広間の入り口の横に3人が整列している。
プンクル演武団の人なのか、宿の従業員なのかは不明。
ピンピンが座ったのを見て1人がさっとドアから出て行った。
料理を出してください、とでも厨房へ報告に行ったのかもしれない。
ピンピンが主にロビィの方を見詰めながら話を始めた。
「もうみなさま御存知とは思いますが、私はこのプンクル演武使節団の座長をしているリー・ピンピンです。みなさまのお名前を伺ってもよろしいですか」
会場での話し方よりもややくだけた感じになってきたピンピン。
「私はロビーナ・パルティナムです。御推察の通り森の民です。今は訳あってこの2人と行動を共にしています」
ロビィ、お前もすげぇよ。
この場の主であるピンピンよりも高いところから話している雰囲気。
なんか森の民のプライドのようなものを感じる。
「ジュリアです。私たち3人で結成したギルド『森のジュリアス』のリーダーをしています」
お、ジュリアはフルネームで名乗らなかった。
セレナの時のような反応はもう御免だという事なのだろうか。
ピンピンは何か言いたそうな顔をしたが、頷くだけですぐに私の方へ視線を移した。
「アスカです。冒険者をやっています」
シンプルイズザベスト!
というか、自己紹介で何を話すべきかよくわからんのでこれで精一杯。
「ありがとうございます。森のジュリアスのみなさんをこうしてお迎えできた事を光栄に思います。どうかゆっくりと食事を楽しんでいってください」
その言葉を待っていたかのように料理が運ばれてくる。
1人、2人、3人、4人……おいおいおい、何人で運んでくる気だよ。
それぞれ大皿を1枚、両手で抱えて静かに且つ迅速に円卓へやってきては、手早く置いてまた帰って行く。
ピンピンはひと皿ひと皿を注意深く見詰めながら、都度軽く頷いていた。
客人へ出すものがちゃんとした品質かどうか確認しているようだ。
最終的に12種類もの料理が並んだ。
どれも山盛りで絶対に食べきれないと思われる量だが、確か中国では全部食べきるのは失礼にあたるため必ず残すのが礼義だったんじゃなかったっけと思いだして、なるほどやはり中華風なんだなとひとり納得した。
「どうぞ、お好きなだけ召し上がってください。足りなければどんどん持って来させますので遠慮なく言ってくださいね」
ピンピンはそういうとまず自分で料理を取り分け始めた。
円卓の中央部分が一段高くなっていてそこに大皿が並べられている。
手前の低くなっているところには取り皿やスプーン(例のフォークスプーン)が並べられていた。
さすがに箸はないんだな。こっちの世界へ来てからまだ見た事ないし。
よし、とオレも意を決して取り分け始める。
ロビィもすぐに続く。
ジュリアは作法がよくわからないのか周りの様子を見ながら恐る恐るといった感じで手を伸ばす。
皮までこんがり焼けた肉を取ろうとしたら、ロビィが卓を回転させたので肉が遠のく。
そうなんだよな、これがあるから円卓ってちょい苦手なんだよ。
そう思いつつ、目の前に来た麻婆豆腐のような料理に手を伸ばすと、またロビィが回転させる。
さすがにイラッと来たので睨みつけると、ロビィもこっちを見てあのヘンな笑いをしていた。
わざとか!!
招待された席で大声を出すのは失礼なのでグッと堪えつつ頭を左右に振って手を下ろす。
先にロビィに好きなだけ取らせて、オレはそれからでいいや。
ジュリアはそんなオレとロビィの駆け引きなどどこ吹く風で、目の前の料理と格闘していた。
「みなさん、プンクルをご覧になったのは初めてですか」
ピンピンが話しかけてきた。
主にロビィの方を見ながら。
「はい! すごく感動しました! どんな稽古をしたらあんな事が出来るようになるんですか?」
ジュリアが思い出したように興奮して答える。
「私たちの道場で一緒に稽古を積めば誰でも出来るようになります。ジュリアさんも是非どうですか?」
「私でも出来るようになるんですかッ!?」
「もちろんです。冒険者をやっている方なら習得も速いと思いますよ」
「アスカッ! どう思う?」
いきなりこっちに話を振ってくるなよ。全く予想してなかったから蒸せそうになったわ。
「いや、どうって何が?」
「だからプンクルの稽古をする事よ」
「なに? したいの?」
うんうんと素早く2回頷くジュリア。
目がキラキラしてる。マンガの瞳だな、ありゃ。
「別に今すぐじゃなくてもいいでしょ。それより先にやる事があるだろ?」
少し当初の目的を思い出させてやった方がいいかと思い、水を向ける。
が、当のジュリアはポカーン。
「何か予定でもありましたか」
今のやりとりを勘違いしてピンピンが尋ねてくる。
「私たちは冒険者組合で依頼を見てきました。プンクルの対戦相手の募集です」
ロビィが核心を突く。
若干ドヤ顔なのはまぁ大目に見よう。
そう、そうだよ。そのためにまずは下見に来たんじゃないか。
しっかりしてくれよ、ジュリア。
「そうだったんですか。それは大変嬉しいです」
ピンピンが御満悦といった表情で手を合わせる。
「さっきの午前の部の試合を見てもらった通り、なかなか冒険者の方との試合で見せ場を作るのが難しくて、こちらとしても頭を悩ませていた所だったんです」
ん? 今の言い方はなんだか軽く冒険者をディスった雰囲気があったな。
オレたちもその冒険者なんだが。
「昨日の試合はどうだったのですか」
ロビィが尋ねる。
オレもそれは気になる。
「ええ、確かに昨日も3回の公演をやりましたが、冒険者の方からの応募が4件しかなかったので、後は身内同士の試合で何とか形にしました」
「その4人はどうだったんですか? やっぱりさっきみたいな感じに?」
ピンピンにジュリアが食い付くが、ピンピンは少し悲しそうな表情で目を閉じ頷いただけ。
やっぱりプンクル側の圧勝だったのか。
そんなに冒険者って弱いの?
いや、もう少しマシな冒険者はいないのか!
ちょっと腹立ってきた。
「大丈夫です。私たちが来たからにはもう心配は無用です」
ロビィが自信満々にピンピンに告げる。
「心配無用とは?」
さすがのピンピンも想定外の言葉にオウム返しせざるを得ない。
「私たちは強いです。プンクルには負けません」
ロビィ、はっきり言い過ぎ!
もう少し遠慮がちにというか、オブラートに包んでというか、柔らかい表現あるでしょもう!
「それは楽しみですね……」
言葉とは裏腹にピンピンの目に鋭い光が宿る。
プライドを傷付けちゃったかもしれないなぁ。
こっちも相当な負けず嫌いと見た。
ロビィったら、言わんこっちゃない……。
「楽しむ時間もないかもしれません」
煽るな!
「ロビィ! 失礼でしょ。すみません、ピンピンさん」
さすがにジュリアもこのマズイ状況を理解したか。
ちゃんと釘を刺してくれた。
「いえ、どうかお気になさらず、ジュリアさん」
ピンピン、まだ目が笑ってない。
「そう言えば昨日の夜、町で耳にしたのですが、美しい3人組の少女が3等級の魔物を倒したという話を知っていますか?」
うぉっと、ここでそのネタをぶっこんでくるか。
もう完全に知ってて聞いてるよな絶対。
「ええ、そう言えば……」
「それは私たちです」
ジュリアがお茶を濁そうとした所へ、ロビィがあっさり真実の告白。
「やっぱり! そうだと思った。私の勘が正しかったわね」
え!?
ピンピンが立ち上がり、態度まで急変したので驚く。
「ごめんなさい。ちょっと試したの。絶対あなたたちだって思ってたから」
どういう事?
「あの、ピンピンさん。どういう事ですか?」
全く同じ質問をジュリアが代弁してくれた。
「セザール・フランクリンとかいう人の依頼で道路工事作業の護衛任務をしてたんでしょ。それで昨日、3等級4等級の複数の魔物に出会って全滅させた。120人以上いる作業員にも、同じ護衛の冒険者にも、1人の犠牲者も出さずに。」
ピンピンが興奮して捲し立てる。
あれれ? なんか思ってたのとキャラが違うんですけど。
「噂話だから多少尾ひれがついてるのは仕方ないとして、でも本当にあなたたちがやったんでしょ」
「尾ひれは別についていません。事実です」
「ロビィ、ちょっと違うだろ。あれはバルサやアンドレがいたから出来た事で……」
「では5人です。私たちと他に2人。合わせて5人でやりました」
ロビィが訂正するけど、そういう事じゃないんだけどなぁ。
っていうかホークの立場は一体……。
「どっちでもいいわ。とにかくその3人がそろって試合に出てくれるんなら、こんなにおいしい話はないわ!」
「それじゃ、私たち出てもいいんですね?」
ピンピンにジュリアが確認を取る。
いや、そこじゃない! おいしい話の所に突っ込まないとダメでしょ、今のは。
「ええ、こっちからお願いしたいくらいよ。報酬も2倍、いや3倍出すわ!」
「やった!」
ジュリアが小さくガッツポーズ。
それは出られる事に対してなのか、報酬3倍についてなのか、どっちだ?
「優秀者の手当も3倍になりますか?」
ロビィが更に突っ込みを入れる。
優秀者って銀貨3枚以上ってなってたアレか?
「もちろんよ! 是非うちの門下生相手に勝ってほしいわね」
「門下生が相手でいいのですか? あなたではなく?」
ロビィ、なんて事を!
お願いだからもう止めて……。
その瞬間、ピンピンの目に凶暴な色がギラリと映り、口元が挑戦的に歪んだ。
「そうね、是非そういう展開になってほしいわ」
バチバチバチと火花が散るようなピンピンとロビィのガンの飛ばし合い。
ピンピンってこんなに気性の激しい人だったのか。
会場で見てた時、いやこの広間に通された最初の辺りまでは年上のお姉さんって感じだったのに、今や完全にライバル心剥き出しの同年代って雰囲気ですよ。
実際よく見ると年もかなり近いんじゃないだろうか。
「ちょっとみんな一旦落ち着こうか。ピンピンさん、オレたちが試合に出るって事で本当にいいんですね」
「ええ。午後の開催は2回あるから、どちらでもお好きな方へどうぞ」
「では両方出ます」
ちょっとロビィ!?
「午後の1回目は門下生でいいです。軽く倒します。2回目はピンピンが相手をしてください」
もうどうでもいいや、好きにして。
「いいわ、そうしましょう! 楽しくなってきたわ」
ピンピンもノリノリである。
「そうと決まれば、試合に備えてしっかり食べておかなくちゃ!」
言うなりバクバクと食べだすジュリア。
え~、なんでそうポジティブなの。
オレはちょっと胃が痛くなりそうな気配なのに……。
ピンピンも再び座って食べ始める。
ロビィも円卓の皿に手を伸ばす。
う~ん、この…………ま、いっか。
報酬が3倍ってことは1回試合に出て1050ゼニー。
2回出るってことは最低でも2100ゼニーは確定って事だな、うん。
で、相手を倒せば優秀者手当で銀貨も9枚以上手に入るっと。
ほんでそれが3人分って事は―――6300ゼニー+銀貨27枚以上。
なんだよ、昨日の報酬の半分以上になるじゃねぇか。
確かにおいしい仕事だ。
よし、頑張るぞ!
そのためにもまずは腹ごしらえだ!
食うぞ食うぞ食うぞ~。
こうして、オレたち3人は演武会の試合に出る事になった。
ほとんど金に目が眩んだ状態で―――。
読んでいただきありがとうございます。
新たな美少女ピンピンの登場です。
そして次回早速そのピンピンとアスカたち3人のアクションになります。
引き続き応援よろしくお願いします。




