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(20)オレは有給休暇をとる

 6日目の朝、いつものように西門へ行くと朝の集団は昨日にも増して大人数に膨れ上がっていた。

 作業員と思しき人たちも増えていたが、冒険者の姿も20人近く確認できた。

 

 この町に現在滞在している冒険者の総数が40人ほどらしいので、約半数が集まった事になる。

 120人を超える作業員にも護衛の冒険者にも犠牲を出す事なく、3等級4等級の魔物を複数討伐したというのはそれほどまでにインパクトのある出来事だったらしい。

 そんな腕利きの冒険者がそろってるなら自分たちも討伐報酬のおこぼれに与ろうという魂胆なのかもしれない。

 

 こうした共同依頼の場合は、一緒になる冒険者がどの程度の腕なのかというのは非常に重要なファクターなのだ。

 オレだってジュリアやロビィが一緒じゃなかったら、受けたかどうか怪しい。


 オレたち3人が姿を現すと、昨日参加していた作業員たちから歓声が上がった。

 すぐに、新顔の人たちや冒険者までもが一緒に声を上げたり手を叩いたりして歓声が一層大きくなる。

 

 ジュリアは右手を軽く上げてそれに応え、ロビィはまたもやフードを被り、オレはあまり気にしないように澄ましていた。

 

 別な所でも歓声が上がっていたので何かと思ったらバルサとアンドレだった。

 あの2人も昨日は討伐報酬を獲得していたので、そのせいだろう。

 

 一連の喧騒から離れたところにポツンと立っているのはホークだ。

 この世の全てに喧嘩を吹っ掛けそうな顔をしている。

 うっかり目が合ってしまったが、すぐに逸らしてくれてホッとしたわ。

 

 まだ騒ぎが収まらないでいる所へ、ベガスがやって来た。


 ピピー。

 笛が鳴り、騒ぎが静まる。

 

「みんな、朝早くから集まってくれて感謝する。だが、申し訳ないんだが今日と明日は作業は休みにする」


 ベガスが言うや否やあちこちから疑問や不満、罵声が上がり大騒ぎになった。

 200人近い人数が一斉に騒ぎ出したのだから、それはもう物凄い有り様。

 都議選の街頭演説を親の仇のように妨害する連中の如し。

 

「静かに! ちょっと聞いてくれ!」


 大声でベガスが宥めにかかるが、騒ぎは一向に収まる気配がない。


「おい、ジュリア。ちょっと頼む。お前さんの方から静かにするよう言ってもらえないか」


 とうとうジュリアに助けを求めてきた。

 ジュリアが頷いて、ベガスと一緒にみんなの前の方に移動していく。

 

 するとジュリアの姿を目にした前の方から歓声が上がりだす。

 口笛指笛も飛び交って、さっきまでとは別な意味での騒ぎになった。

 

 ベガスとジュリアが立ち止まり、ジュリアが片手を上げると一段と歓声が大きくなった後で静寂が訪れた。

 噂の美少女冒険者のリーダーが一体何を話すつもりなのか、興味津々といったところか。

 

「みなさん、おはようございます。森のジュリアスのリーダー、ジュリアです」


 おい、ここでお披露目するのかギルド名を!?

 案の定、みんなポカーンだよ、ポカーン。

 

「あ、森のジュリアスというのは私とアスカとロビィの3人で結成したギルド名です。どうか覚えてやってください」


 すると再び大きな歓声が沸き上がる。

 名前を呼ばれたオレたちの方にも視線があちこちから突き刺さる。

 こっち見んな!

 

 っていうかいいのかよ、誰もそのギルド名に疑問はないのか?

 森のくまさんだぞ、森のくまさん。あ、違うか。

 

 再び片手を上げて制するジュリア。


「どうかベガス親方の話を聞いてください。決して悪い話ではないと思います。お願いします」


 やや抑えたざわめきが広がる。

 悪い話ではない、の意味についてのあれやこれやだろう。

 

 そしてここで満を持してのベガス再登場。

 

「さっきも言った通り、2日間作業は休みにするが手当を払う。ちょっとした有給休暇だと思ってくれ。もちろん額面は多くはないが、今日初めて来た者にも支払う。だから2日間充分休養して明明後日からまたバリバリ働いてくれ」


 なんと! 有給休暇だと!?

 サラリーマン時代のオレが自由に取れなかったものをこんなところでもらえるのか?

 仕事がないのに休みも取れない、そんな日々を思い出して一瞬鬱になりかける。

 

「その手当ってヤツは幾らもらるんだ?」


 誰かがベガスに聞いた。

 

「200ゼニーでどうだ?」


 ベガスが答えると、再びざわざわざわ。

 

「1日につき200か?」


 またさっきの声が聞く。

 ん? なんか聞き覚えのある声だなこれ。

 

「いや、そうしたいのはやまやまなんだが、2日で200で勘弁してくれ」


 ざわざわざわ。

 さっきよりも少し不満の色が濃くなっていく。

 

「手当は冒険者にも出るのか?」


 またこの声。

 一体誰なんだと声の主を探すと―――ホーク貴様だったのか!!

 

 やっぱ金に汚い男決定。

 普段でもロクでもないヤツだが、金の事になると卑しさMAX。

 ほんとムリだわ。ないわー、ないわー。

 

「安心してくれ。作業員も冒険者も一律で200出す」


 ベガスも一生懸命宥めようとするも、ざわざわざわ。

 とはいえ、さすがに仕方ないなーの空気の方が徐々に強くなってきたようだ。

 

「すまんがどうかわかってくれ。3日後またここに集合だ。手当は今から順に支給するから、受け取った者から解散してくれ」


 どうにか無事に終わりそうな気配でベガスの演説も終了。

 それ以上は騒ぎにならず、皆比較的おとなしく手当を受け取る列に並んでいった。

 

 ジュリアがこちらに戻って来るとオレとロビィにウキウキで報告。


「ねぇどうだった? せっかくのチャンスだから発表しちゃったんだけど」

「まぁしちゃったものはしょうがないね」

「なによその言い方。もうちょっと一緒に喜んでくれてもいいんじゃない?」

「私は嬉しかったです、ジュリア」

「ありがとロビィ。ロビィ大好き」


 ロビィに抱きつくジュリア。だがその視線はこっちを向いている。

 なんだよこれ見よがしに。

 そういうのはあんまり外でやらない方がいいと思うよ。

 別に嫉妬とかそういうんじゃなくて。

 

「おはよう若い娘さんがた。昨夜はゆっくり眠れたかい」


 バルサがオレに声をかけてきた。

 

「おかげさまで。バルサの方こそ大丈夫?」

「人を年寄り扱いするんじゃないよ全く。腕はよくても礼義の方がなってないねあんたは」


 拗ねた三十路すぎも悪くない。

 なにせオレはバルサより一回り年上なのだから。

 全然若いよ、オレよりも。

 まぁそう言ってあげられないのは残念なのだが。

 

「ところであんたたちも今日一緒に行くんだろ?」

「え!? 今日って、今日は休みなんだろ?」

「なんてこったい! ベガスのヤツ、若い子を甘やかしやがって」


 なんでそこでベガスに悪態をつくのかわからんが、バルサと話が噛み合わない。

 今さっき今日と明日は休みだってベガスが言ったばかりじゃないか。


「さてはあんたたち、しばらく組合に行ってないね?」

「うん、まぁ特に用事もないし」

「バカだねぇ。冒険者たるもの、日に1度は組合に行って情報を確認するもんだよ」

「え、何か情報あったの? 組合に?」

「今日と明日、魔物討伐の依頼が出てるんだよ。昨日と同じ場所で」

「ええええええッ!!!!」


 さすがに大声を上げてしまった。

 驚いたジュリアとロビィもこちらに来て、バルサの話を聞く。

 

 つまりこういう事だった。

 

 オレたちが昨日魔物を討伐した付近、つまりミクモ山一帯にはまだまだ魔物がいる事が予想される。

 このまま工事を続けても魔物が出る度に作業が中断して効率が悪いため、工事は一旦休みにして先に魔物をある程度減らしてしまおうという事らしい。

 そのための冒険者を急遽募集する依頼が昨日の夕方に貼り出されたのだ。

 で、早速バルサとアンドレは申し込みを済ませて今日やってきたと。

 

 そんなの全然知らなかった……。

 知ってたら絶対オレたちも参加したかったのに。

 

「だから、ベガスはあんたたちに休んでもらってまた工事が再開してからの護衛に専念して欲しかったんだろうね」


 バルサが言うのもわからないではないが、オレたち抜きで大丈夫なのか?

 またグリードみたいな3等級が出てきたらどうするつもりなんだ?

 

「あんた、考えてることが顔に出てるよ。大丈夫、アタシたちだって馬鹿じゃないんだ。手に負えない相手だったらすぐ撤収するよ。今度の依頼は警護対象がいるわけじゃないんだ。逃げるのも自分たちだけでいいんだからね」


 読まれていた。

 ただの筋肉オバサンかと思いきや、伊達に人生経験豊富じゃないんだな。

 いやまぁそれを言うとオレはどうなんだって話になるが。

 やめてお願い。ただただ無為に過ごした歳月を思い出しちゃうから。

 

「それにしてもなんだい、あのへんてこなギルド名は? 一体誰が考えたんだい?」


 おお! それだよそれ。その突っ込みを待っていた。

 やっぱバルサは頼りになるなぁ。


「私たち3人で考えたんだけど、どうして?」


 ジュリア、ウソをついてはいけないよ。

 ほぼキミが考えたよね。

 

「いや、どうしてって言われるとアレなんだけど……。もう少しシャキっとした名前があったろうに」


 あれれ、バルサどうしてそこで弱気になるかな。


「森のジュリアスは素晴らしい名前です。へんてこではありません」


 ロビィ、お願いだから黙ってて。

 

「あの、ボクはいいと思いました。森のジュリアス」


 アンドレ、お前ちゃんとしゃべれるじゃないか!

 っていうかいつからそこにいた?

 今朝はおねしょしなかったのか。

 

 あとロビィ、その笑い方気持ち悪いからやめて。

 毎度そう言いたいけど怖いから言えないんです、ええ。

 

 その時、ベガスの笛が鳴った。


「今日の依頼の冒険者は集まってくれ」

「おっとお呼びがかかったみたいだね。行くよアンドレ。それじゃあんたたち、またね」

「2人とも気をつけて」


 オレたちには無事を祈ることくらいしか出来ない。

 あとどうか3等級は出ませんように。

 

 よく見ると、今日の依頼とやらにはホークも参加しないらしい。

 さてはあいつも組合に行くのをサボってたくちだな。

 何かベガスに喰ってかかっているのは、おそらくオレも行かせろとかいう感じなのだろう。

 アッサリ断られたみたいだ。ざまぁみろ!



「急に休みになっちゃったね。これからどうする?」


 ベガスから手当を受け取った後、西門から移動しながらジュリアが聞いて来る。


「さっきバルサにも言われたから、とりあえず組合に顔出すってのはどう?」

「それもそうね。ロビィもそれでいい?」

「はい。適切な判断です」


 冒険者組合の建物に入ると、またしても中がざわつく。

 

「あいつらだ」

「例の工事の依頼の」

「確かグリードを倒したっていう」

「森のなんとかって名前のギルドの……」


 西門で解散した後すぐにこっちに向かった連中も混じっているらしい。

 さっそく噂になっているが、森のなんとかでは困る。

 むしろ『森の』の方を忘れてもらいたい。

 

「森のジュリアスのみなさんですね。いらっしゃいませ。どうぞこちらへ」


 あの時の案内嬢がやってきて、またもや奥の部屋へ通してくれるらしい。

 いや、それよりもどんだけ地獄耳なんだよ。

 もうその名前知ってるの?

 

 ちゃんと他人から呼んでもらったのは初めてだが、自分たちで名乗る時ほどは恥ずかしくなかった。

 少し安心した。

 


 部屋に入ってみんな座ったところで案内嬢が口を開く。

 

「改めまして、私はウルズスラ冒険者組合のセレナ・ウインストンと申します。以後よろしくお願い申し上げます」


 初めて名前知った。セレナっていうのか。

 なかなかいい名前だ。

 彼女の見た目の知的でクールな感じによく似合っている。

 

 でも急に改まってなんなんだろう?

 

「まずは大変失礼かとは存じますが、確認させてください。みなさんが昨日、セザール・フランクリン様の依頼において3等級及び4等級の魔物を討伐したというのは本当でしょうか」


 セザール?? ああ、ベガスの仕事の事か。

 依頼主ってベガスじゃなかったんだっけ。すっかり勘違いしてた。

 となると諸々お金の出所もベガスじゃなくてそのセザールなんとかって人なのかな。

 オレたちの飲食代をカラテ食堂に支払ってくれてるのも?

 会った事もない依頼主だけど、いつも本当にありがとうございます。

 

 だがしかし、魔物の討伐がどうかしたのだろうか。

 何か問題があったりとか?


「はい。ただ正確には他の冒険者の方と協力して、になるけど」


 ジュリアが生真面目に訂正しつつ、答える。


「はい。その点につきましては昨日のうちにバルサさん、アンドレさんの聴取が済んでおりますので問題ございません」

 

 あ、そうなの?

 さっき会ったのにバルサ全然そんな話してなかったけど。

 アンドレは……まぁ別にいっか。

 

「あの、ホークは?」


 思わず口にしてからしまった、と思ったがもう遅い。

 

「ああ、ホーク・バンデラスさんですね。彼も協力者だとは聞いておりますが……」


 何やら言いにくそうに口ごもるセレナ嬢。

 

「あの男は協力者というよりは非協力者または邪魔者と言った方が適切です」

「ちょっとロビィ、何てこというのよ。気持ちはわかるけど」


 辛辣なロビィにジュリアが慌てる。

 セレナも思わず苦笑いだ。

 

「ホークさんについては本人にお話を聞いてみないと何とも言えないかと」


 まぁそうですよね。

 で、結局何がどうしたっていうのさ。


「それで何が問題なんでしょうか」

「あ、いえ問題というわけではないのですアスカさん。実は階位の討伐認定を申請されるかどうかをお伺いしようと思いまして」

「討伐認定?」


 思わずオウム返ししてしまった。

 階位って冒険者のカーストみたいなアレでしょ。

 認定試験に合格したら昇格するんじゃなかったっけ?


「ご存じなかったのですね。説明不足で申し訳ございません。冒険者の階位は原則的には年2回の階位認定試験で昇級判定を行うのですが、それとは別に随時昇級判定を行う制度があるのです」

「ジュリア知ってた?」

「ううん、初めて聞いたわ。セレナさん、詳しく教えてください」


 セレナは姿勢を正して座りなおし、説明を続けた。

 

「ひとつは依頼の達成時に規定の階位を付与する付帯条件がある場合です。階位確定依頼と言います」

「それってつまり、依頼を達成したら無条件で指定された階位に昇級できるってこと?」

「はい、そうです」


 ジュリアの質問にセレナが即答する。

 そんな便利な依頼があるだなんて。

 それを受けて達成すれば、あっという間に昇級出来るじゃないか!

 

「ですが、昔と違って今はそれほど階位確定依頼の数は多くありません。むしろ滅多に出てこないと言ってよい状態です」

「それは何故ですか?」


 この際、聞けるものはどんどん聞いておこう。


「階位確定依頼の性質上、それほど多くの冒険者が参加できる案件にはなりえません。1人や2人、多くても3人程度の少数精鋭に対して非常に困難な仕事を依頼する場合にのみ適用される制度なのです」

「非常に困難な仕事というのは何ですか」


 何故かロビィが突っ込む。まさか階位確定依頼を受けたいとか?


「1等級の魔物の討伐や、魔物の巣や地下迷宮などを攻略する仕事などです」

「地下迷宮なんてあるんですか?」


 また大声を出してしまった。すんません。

 

「はい。このラインガルド大陸には全部で7つの地下迷宮があると言われています。今現在その場所を知られているのはこのグルド共和国連邦に1つと、もう1つはロクサード神聖帝国にあるそうです」


 ロクサード神聖帝国とはラインガルド大陸の南東に位置する国だ。

 一応オレも国の名前ぐらいは何とか覚えたのだ。

 さすがに都市や町村になるとサッパリだが。

 

 大陸の北と南にひとつずつ、か。

 他の5つはどこにあるのだろう?

 いつかオレたちも地下迷宮に入ることがあるのだろうか?

 

「グルドの地下迷宮ってジン砂漠にあるんじゃなかった?」

「はい。ジュリアさんは知っていらしたのですね」

「ううん、昔父さんに聞いた事があったような気がして……何となく覚えてるだけ」

「失礼ですが、ジュリアさんのお父様というのは?」

「ガラド・ザナック」


 セレナの質問に対し食い気味に答えたのはロビィだった。

 

「まさか……雷神ガラド・ザナックですか!?」


 セレナの顔が驚きに包まれる。

 目が少女漫画の瞳のようにキラキラし出した。

 

 あれ? なんかヘンなスイッチ入っちゃってないかこれ。


「またその呼び方……」


 一方のジュリアは恥ずかしさと誇らしさで何とも言えない表情になっている。

 なんかエロいぞ。

 

「セレナさんはガラドを知ってるんですか?」


 とりあえずもう少し詳しく聞いてみよう。

 

「知っているも何も、冒険者組合で働く者でその名前を知らない人はいないと思いますよ。採用試験に必ず出てくる名前ですから」

「採用試験? 冒険者組合の?」


 いやいやいやいや、それはもう国家的英雄レベルでしょ。

 トット村じゃ全然そんな扱いじゃなかったぞ。

 村の人たちがアレなのか、組合の方がアレなのかは知らんけど。


「どう出てくるの? 父さんが何をしたの?」


 ジュリアが興奮するのも仕方ないところだ。


「17年前、第三次世界大戦の危機とも言われたアスリーデ戦役を終わらせた英雄です」

「そんな……アスリーデ戦役に父さんが関わっていたなんて」


 ジュリアは知っているようだが、オレにはチンプンカンプン。

 ロビィも静かに頷いているので当然知っているのだろう。

 これ、もしかしてロビィに全部聞いた方が早くね?

 

「あの、アスリーデ戦役ってなに?」


 聞くは一時の恥、聞かぬは一生の恥だ!

 

「えっと……あの、詳しいことはセレナさんに聞いて……」


 ジュリア、さては歴史系も苦手だな。

 近現代史はちゃんと勉強しないと、マッチポンプで簡単に洗脳されちまうぞ。

 

「17年前、アスリーデ王国の国王が突然病死して国政が不安定になったのです。そこに付け込んだサバス帝国とウォルテリア王国、そしてサンブルク統一政府の3国が内政干渉や領土侵攻をしてくるようになり、ラインガルド全体を巻き込んだ紛争となったのです」

「そうそう、そんな感じ」


 ジュリアはその知ったかぶりをすぐ止めるべき。

 こっちが恥ずかしくなってくるぞ。

 

「そんな大きな紛争に、ガラドがどう関係したんですか?」

「はい。戦役の山場となった戦場で活躍したのが、グルド共和国連邦で当時最強と謳われたガラド・ザナック率いるトットナムでした」


 トットナム? なんだそりゃ。

 トット村と関係ありそうだけど、ダッサいネーミングセンスだな。

 ま、うちも人の事は言えないんだけどね、全然全く。


「雷神ガラド・ザナック、鋼のオット、神足のアキラ、魔女ソフィア、大神官ベロニカ。この5人で構成される当時最強のギルドがトットナムでした」

「ちょっと待って! トットナムってトット村と何か関係あるの?」


 ジュリアも知らなかったのか。

 それはびっくり。


「もちろんです。トット村の3人の男というのがトットナムの語源ですから。ソフィアとベロニカは後からギルドに加わったメンバーだと聞いています」

「ジュリア、オットってまさかあのオット?」

「たぶん。それ以外考えられない」

「まさかあのオットが冒険者、しかもそんな有名人だったなんて……」

「私も父さんとオットは幼馴染で親友とは聞いてたけど、同じギルドの冒険者仲間とは知らなかったわ」

「じゃあ神足のアキラって人は?」

「知らない。アキラなんて名前、村にはいなかったと思うけど」


 そこにセレナが助け舟を出す。


「神足のアキラは、アキラ・ウルフォードという名前です」

「うそッ!?」


 ジュリア、今日は驚きまくりだなオイ。

 もう目玉が何回飛び出てるかわかんないぞ。


「なに、どうしたジュリア!?」

「ウルフォードって、サウラおばさんの姓よ」

「なんだって!?」


 今度はオレが目玉ポーンの出番だった。

 確かサウラの旦那さんって、徴兵に取られて戦争で亡くなったんだよな?

 

「じゃああの、戦争で亡くなったっていう旦那さんがアキラ・ウルフォードなの?」

「なんですって!?」


 今度はセレナが大声を上げて立ち上がる番だった。


「ちょっとどうしたんですか、セレナさん」


 冷静なセレナさんらしからぬ言動だ。

 

「アキラ・ウルフォードが戦争で亡くなったですって? そんな話は聞いた事がありません。本当なのですか?」

「いや、本当かって言われても……ジュリア、どうなの?」

「本当よ。私も葬儀に出た記憶がうっすらあるもの。サウラの悲しそうな顔、覚えてるわ」

「それはいつの事ですか? どの戦争で亡くなったと?」


 セレナはまだ取り乱している。

 そりゃそうか。

 試験に毎回出てくるような偉人(?)が知らないうちに死んでたなんて言われたら。

 いや、逆にどうして死んだのを今まで知らなかったかって事の方が気になるな。


「よく覚えてないけど、たぶん私が学校に上がる前だから12、3年前ぐらい……かな」

「なんという事でしょう! すぐに組合の方でも裏付け調査をしなければ」


 そのまま部屋を出ていこうとするセレナ。


「あの、セレナさん! ちょっと待ってください! まだ話の途中なんですけど」


 ピタリと立ち止まって、ゆっくり振り向いたセレナは既に冷静さを取り戻していた。

 

「そうでしたね。私とした事が大変失礼いたしました。お話の続きをしましょう」


 そう言うとテーブルに戻ると静かに椅子に掛けた。

 

「だいぶ脱線してしまいましたが、階位の認定の話に戻します。階位確定依頼の他に、今回のように討伐実績による自動認定があるのです」

「自動……認定?」


 うわ、またオウム返ししてしまった……。


「これは4等級以上の魔物を討伐した事が確定した時にのみ適用されるルールで、討伐時の戦闘貢献度に応じて階位を適正値まで繰り上げるという措置になります」

「つまり、昨日の一件で私たちがそれに該当するって事?」


 ジュリアが尋ねると、ニコリと微笑んでセレナが肯定した。


「私どもの調べによりますと、ジュリアさんがコンガ1頭とリンクス1頭、アスカさんがコンガ3頭とグリード1頭、ロビーナさんがコンガ1頭とグリード1頭の討伐に対してそれぞれ戦闘貢献度が規定値を満たしております。こちらで間違いはございませんか?」


 淡々と述べるセレナだが、その戦闘貢献度やら規定値やらが一体どんなものなのかをまずオレたちは知らない。


「間違い、ない……の?」

「ないんじゃない?」

「私は全然構いません」


 オレとジュリアはおっかなびっくりだったが、ロビィだけは自信満々に言い放った。


「それではご本人様の確認も取れましたので、後はこちらで手続きを進めておきます。組合の方で承認が下りましたら必要書類にご署名いただいて階位の認定となります。少しお時間をいただきますが、また後ほど組合の方へいらしてください。それでは私はこれから手続きに行って参りますので、失礼させていただきます」


 流れるように説明を終えるとスタスタとセレナが部屋を出て行った。


「なんかよくわかんないけど、階位が上がるの? 私たち」

「そうみたいだね」

「何級になるのか早く知りたいです」


 相変わらずロビィだけテンションが違ってて草。

 

 そこで思い出したようにジュリアが蒸し返す。

 

「でもさっきの話も気にならない?」

「うん、気になる。ロビィは何か知ってるんじゃないの?」

「何の事についてですか?」

「アスリーデ戦役とか、トットナムとか、アキラ・ウルフォードの事について」

「どれも人間の世界の話です。森の民はあまり詳しくありません」

「でも父さんの事は知ってたじゃない!」

「ガラドの事は兄から聞きました。兄なら何か知っているかもしれません」

「そっか……。それじゃ今は聞けないよね」


 ガッカリするジュリア。

 オレにはなんだか上手くスルーされたようにも思えたが。

 

「とりあえず、ここ出よっか」

 

 気を取り直してジュリアが声をかける。

 

「あ、その前に依頼の掲示板のぞいていこう。また見落としたりしてるともったいないから」


 バルサに叱られたばかりだから、ちゃんと教えは守ろう。

 

 奥の部屋を出てロビーに戻り、掲示板の前へ集まる。

 何故かオレたちが行ったら、人込みがすっと左右に割れた。

 モーゼか!?

 

 いや、全く気持ち良くないかと言われるとまぁ少しは気持ち良かったけれども。

 

 掲示板には10数件の依頼が貼り出されていた。

 例によって黒札が参加できるものは少ない。

 早く階位が上がればこのジレンマから解放されるのに……。

 

 そんな中、オレたちはひとつの依頼を見つけた。


――――――――――――――――――

依頼番号:GRD148306216

依頼内容:プンクル演武会の対戦相手募集

依頼主:リー・ピンピン

対象位階:不問

募集人数:1日3公演/各回3名まで

期日:6の月6日~8日

支払い:日払い

報酬:1人当たり350ゼニー/回

手当:

  負傷時/銀貨1枚

  優秀者/銀貨3枚以上(最低保証)

――――――――――――――――――


「ジュリア、プンクルって何?」

「知らない、初めて聞く。ロビィは知ってる?」

「私も知りません」


 それ以外にも色々疑問が沢山。

 演武会って何だ?

 6日~8日と言うことは昨日からやっていたのか。

 全然知らなかった。

 

 対戦相手って事は誰かと戦うの?

 報酬もらって?

 しかも、怪我してもお金もらえるなんて。

 銀貨1枚!?

 

 見れば見るほどおいしい依頼じゃないか。

 

「どうする?」


 ジュリアに聞いてみる。


「どうする?」


 ジュリアはロビィに聞く。

 

「まずは見てみましょう。それから考えます」


 ナイス・ロビィ。その通りだ。

 

 こうしてオレたちは冒険者組合を出て、プンクル演武会とやらを見に行く事になった―――。

読んでいただきありがとうございます。

前回の更新で力尽きてしまい暫く休養していました、すみません。

なんだか今回も説明回のようになってしまいましたが、色々と新たなキーワードも出てきてますので今後の展開にご注目ください。

そして次回、プンクルとは何か? 依頼主のリー・ピンピンとは何者か?

引き続き応援よろしくお願いします。

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