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19/58

(19)オレはギルドを結成する

 街道工事の護衛任務 5日目―――。

 

 本日の稼働人員

  作業員:127人

  冒険者:13人

  

 とうとう140人規模になった。

 

 作業員の方は昨日魔物が出たという話は聞いているだろうに、よくもまぁモノ好きの多いこと。

 ホークの噂も耳にしていると思うのだが、そんなにも美少女がいいのか?

 あるいは腐っても3級紫札がいるってことで、ホークの存在も安心材料のひとつになっているのだろうか。

 

 一方の冒険者の方だが、こっちはようやく魔物が出たかということで増えたのだと思われる。

 基本報酬が300、魔物出現手当が200で合計500ゼニーならもはや普通の仕事と同等。

 その上、魔物を倒せば更に手当がつくのだから、現在特に依頼のない暇な冒険者にはうってつけだ。

 4等級を倒して銀貨1枚のボーナスだと思えば、何人かでシェアしたとしてもそれなりのモチベーションアップ効果になろう。

 

 しかし、逆に腕に自信のない冒険者にとってはリスクが一層大きくなったという事になる。

 それなのにサムとジャンのコンビは今日も来ていた。昨日怪我をした黄札2人の顔もある。

 君たちのその能天気さと根性は誉めてあげたいが、それを勇気とは言えない。

 だから、もし戦闘になった時は頼むからすぐ逃げてくれ。

 庇うのも助けるのも結構面倒なんだから。


 ちなみに今日集まった冒険者たちの階位は以下の通り。

 3級:1人 (ホーク)

 4級:1人

 5級:4人

 甲級:2人

 乙級:2人 (サム&ジャン)

 丙級:3人 (オレたち)


 ふむ、昨日と比較すると4級1人と5級1人が追加になったようだ。

 上位の層が厚くなったのは喜ばしいことだ、うん。

 

 

 民族大移動で現場へ向かう道すがら、今日初めての2人がオレたちのところへ挨拶にやってきた。


「噂の美人3人組ってのはあんたたちの事だね」


 おそらく30過ぎの女性冒険者だ。

 後ろにアラサー付近と思われる男性冒険者を従えている。


 女性の方は4級冒険者の青札。

 パッと見、茶髪のハマーン似の美形なのだが如何せん体がマッチョ。

 所持している武器は身長より長いのではないかと思われる棒だった。

 両端付近が太くなっているのが特徴的な武器だ。そこで殴ったら破壊力高そう。

 

 男の方は赤札なので5級。

 どっしりした巨体で寡黙な様子がどことなくサッカリアのボスを彷彿とさせる。

 武器は通常よりも大型で幅広の剣でまず大剣の部類だと思われる。相当扱うのに力が要りそうな感じだ。

 

「アタシはバルサ。こっちはアンドレだよ。あんたたちのリーダーは誰なんだい?」


 ズケズケ言うタイプらしいが、不快な感じはしない。

 サバサバ系といったところか。

 

「はじめまして。リーダーのジュリアです。こっちがアスカで、向こうがロビィです」


 ジュリアがまとめて紹介してくれたので助かる。

 

「噂以上の美人揃いだね。黒札って事は冒険者なり立てかい? それでこの仕事じゃ大変だろう。何かあったらこのバルさ姉さんを頼るんだよ。いいかい?」

「あ、はい……。どうもありがとうございます」


 ジュリアが気圧されている。

 後から参加してきてベテラン風を吹かすのは普通なら煙たがられるのだが、このバルサには有無を言わせない迫力のようなものがあった。

 なんだろう、このとにかく自分のペースに周囲を巻き込んでしまう存在感。

 頼もしくもあり、やや居心地悪くもあり。

 

 オレが社会人1年目の時に指導役についた先輩がこんな感じだったなぁ。

 あの先輩は今どうしてるのだろう。

 すみません先輩、オレ結局会社では干されちゃいましたけど、こっちでは頑張りますから!

 

 とりあえずお互い挨拶が済んだので、また各々分かれて進んだ。

 

 ふと後ろの方を見ると、サムとジャンが昨日の黄札2人と仲良さそうに話していた。

 うん、まぁそうやっていつもまとまって行動してくれるとありがたい。

 

 

*****



 初日の現場から更に1kmちょっと進んだ場所が今日の作業場所になった。

 

 4日で1kmが早いのか遅いのかはよくわからないが、ベガスが終始ご機嫌なので少なくとも遅くはないのだろう。

 

 笛の合図で作業が開始された。

 

 今日のフォーメーションは前方がホーク、バルサ、アンドレの3人。

 右翼が赤札3人、左翼はオレたち3人、後衛がサムたち4人。

 

 階位が一番上のホークがこの割振りを決めたのだが、意外とちゃんと状況が見えているんだなと感心した。

 ただ、本来ならオレたちが右翼になるべきところをわざわざ左にもってきて、赤札を右翼にしたのは意地が悪い。

 右手にミクモ山があるということは、魔物はそっちから出てくる可能性が高いのだ。

 それとも、オレたちに討伐報酬を与えないための嫌がらせなのか。

 

 

 予想に反して昼休憩までは何事もなく工事は順調に進んでいた。

 

 休憩中も警護は続ける必要があるので、各班内でそれぞれ時間をズラして休憩することになっている。

 一緒に休憩できないのは残念だが、防犯上止むを得ないのだ。

 

 左翼班の中でオレが先に休憩となり、カラテ食堂から朝ディアナが届けてくれた弁当を広げていると右翼で騒ぎが起こった。

 

「行ったぞー、気をつけろ!」

「全部で4頭いるぞ!」


 赤札の連中の声がする。

 魔物が4頭出たのか!?

 あの3人じゃ荷が重い、すぐ救援に行かなくては!!

 

 広げた弁当をそのままに、ジュリアやロビィと合図して右翼方向へ移動し始めた時、右の林からそいつらが飛び出してきた。

 

 ―――シルカじゃねぇか。

 

 大きなシルカ2頭と小さいのが2頭。

 おそらく家族なのだろう。

 一生懸命にオレたちの前を走りぬけて左の林の方へ向かう。

 

 ん?

 待てよ……。

 

 赤札3人がいやぁまいったよ的な顔をして林から出てくる。

 休憩中の作業員も皆、手を叩いて笑っていた。

 

「ジュリア! アスカ!」

 

 ロビィが緊張した声で名前を呼び、赤札たちの方へ走りだした。

 

 まさか!

 

 オレとジュリアもすぐに後を追う。

 

「後ろ! 魔物が来ます!」


 ロビィが赤札たちに叫ぶとほぼ同時に、林の奥からゴリラがやってくるのが見えた。

 え、ゴリラ?

 2頭、3頭……いや、4頭だ!

 

 赤札も振り返って気が付き、慌てて戦闘態勢に入る。

 

「アスカ、あれがコンガよ。気をつけて」


 並走しながらジュリアが魔物の名前を教えてくれた。


 サムとジャンが出会ったことがあると言ってたのがあれか。

 確かガームより強いんだったな。

 赤札で大丈夫なのか?

 

 ピシュッ。

 

 ロビィが牽制の矢を放つ。

 赤札に近づくコンガの前にシュタタタと矢が突き立ち、一瞬コンガたちの注意が逸れた。

 

「あんたたちは下がって作業員を守って! 私たちが相手をするッ!」


 ジュリアが赤札に声をかけるが、赤札はどうすべきか迷っている。

 馬鹿が! そこで迷うようなのが冒険者なんかやるな。

 

 我流神足!

  

 一気に赤札の前を素通りしてコンガの前に立ち、通せんぼ。

 

「お前らの相手はオレだ」


 コンガたちが警戒している間に、ジュリアとロビィも追いつく。

 

 赤札たちはようやく作業員の方へ移動中。

 ベガスが既に作業員を左手奥の方へ誘導してくれているようだ。

 さすが親方!

 

 後衛は黙ってそのまま待機か、作業員警護へ回ってくれよ。

 間違ってもこっちへ来るんじゃないぞ。

 

 そう祈りながら、ジュリアとロビィに目配せをする。

 行くぞ!

 

 まずは1番先頭にいるヤツをジュリアと2人で狙う。

 その間、ロビィが残り3頭を牽制してくれるはずだ。

 

 ザシュッ!

 

 左右からの同時攻撃でコンガを斬る。

 タイミングもバッチリのはずだったが、浅手だったのかコンガはピンピンしている。

 くそっ! 肉が分厚いんだ。

 

「待て待て待て! そいつらに手を出すな! オレに任せろ!」


 なんだこんな時にふざけんな。

 声からしてホークの野郎だ。

 

 騒ぎにようやく気が付いてこっちにやって来たのだろう。

 バルサとアンドレは置いてきぼりか?

 

 ロビィが牽制していた3頭のど真ん中にホークが躍り出る。

 

「馬鹿野郎! なにやってんだ!」


 思わず叫んでしまったが、別にあいつがどうなろうと知った事ではない。

 

「お前たちの方こそわかってんのか? コンガは3頭以上いれば3等級に匹敵すると言われてるんだぞ」


 ホークが呆れたように言う。

 3等級? なにそれおいしいの?

 

「そんなの初耳。本当なのロビィ?」


 ジュリアがロビィに確認を求めると、ロビィは静かに頷く。

 

 最初にオレたちが傷付けたヤツがまたこちらに向かってきた。

 どれ、それじゃコイツだけでも頂くとするか。

 

「じゃあ任せる」


 ホークにそれだけ言うと、ロビィから借りた魔鉱石の指輪を嵌める。

 そして風属性の魔法を込めて剣を振る。

 

 シャッ!

 

 え!? 外した? やっべ。

 

 突進してきたコンガの左下からのパンチ(間柴かッ?)をかわして左側面から攻撃しようとしたら、コンガの野郎右の裏拳を叩きこんできやがった。

 意表をつかれて両腕でガードしたが、物凄いパワーで吹き飛ばされる。

 くそ、なんて力だ。ガードじゃなくて回避するんだった。

 

 転がりながら周囲の状況を確認すると、ジュリアがコンガに斬りつけていた。


「アスカ、大丈夫!?」

「たぶん」


 ジュリアに返事した時、左腕が痺れて動かない事に気がついた。

 様子を察したロビィがすぐに来て治癒してくれる。

 

「ありがとう、ロビィ」

「アスカ、もっと集中してください。動きが鈍いです」

「えっ……」


 ロビィにはっきり言われた以上、もう自分を誤魔化すわけにはいかない。

 確かに少し体が重いというか、考えた分のタイムラグが如実に表れている気がする。

 西の森の時はもっと感覚だけで動けてたのに。


 意識がオレになってから時間が経ったせいか?

 それとも日頃の鍛錬が全然足りてなくて劣化した?

 稽古の時はそんな風には感じなかったのに、実戦だとダメなのか?

 

 くそ、今こんな事考えてるようじゃダメだ!

 

「ハッ!!」


 シュッ! シュッ!

 

 ジュリア得意の風魔法が飛んでコンガの両腕を斬り落とす。

 

「やった! ジュリア!」


 思わず叫んだ直後にロビィの矢がほとんど同時に3本、コンガの顔面にヒット。

 両目と口を貫いていた。

 あの様子では脳まで達しているだろう。

 

 コンガは事切れて地面に倒れる。

 

 ジュリアとロビィがサムズアップしているのを見ながら、ひとりだけ疎外感。 

 何やってんだオレは!

 

 一方、3頭を相手にしているホークはというと、なんと踊っていた。

 

 正確には踊るような動きでコンガたちと戦っていた。

 両手に持ったナイフでコンガたちの攻撃を牽制し、予測のできない体裁きで3頭から同時に狙われないよう巧みな位置取り。

 

 やはりこの男、タダ者ではない。

 

 ホークの動きをよく見る。

 ヤツが何を見て、どう判断して、そしてどう動くのか。

 

 ホークは楽しんでいるようだった。

 ただ、あの武器でコンガに致命傷を与えるには何かしらの工夫が必要な気がする。

 オレやジュリアの剣でさえ肉の奥に届かなかったのだ。

 

 長い間見ていたような気がするが実際にはほんの数十秒の出来事だった。

 集中力で時間の感覚は変化する。

 

 ある瞬間を境にコンガの動きに変化が出た。

 ホークの死角死角へと入れ替わり立ち替わり位置取りを変えるようになったのだ。

 もちろんホークはそれを嫌い、ポジションを動かすのだが、その受け身になったところにコンガの攻撃がやってくる。

 今のところはそれもなんとか避けているが、最初の余裕はもはや感じられない。

 

「何やってんだホーク! 早く片付けろ」


 オレの声が聞こえてるのか聞こえてないのか。

 

 その時、コンガの振り下ろした拳がホークの右肩の後ろを掠めた。

 確かに掠めただけのはずなのだが、ホークは叩きつけられたようにうつ伏せに倒れ込む。


「あの馬鹿……」


 考える余裕もなく、ホークの前に飛びだしコンガどもの攻撃を防ぐ。

 剣を使っての防御。

 相手の力を真正面から受け止めず、わずかに角度をズラして力を逃がしながら尚且つ逆方向へ自ら動いてクッションにする。

 集中して防御だけに専念すればそれくらいオレだって、いやアスカなら出来るはずだ。

 

 後ろに回り込んでホークを攻撃しようとしたコンガをジュリアが剣で追い払う。

 ん? 魔法はどうした? まさか魔鉱石の残量不足か?

 

 そしてなんと、ロビィがホークの治療をしているではないか!

 ああロビィ、やる時はやる子! エライぞ!

 

 当のホークも決まりの悪い顔をしつつ、礼を言っている様子。

 ま、こんな時くらいいがみ合うのはお預けでいい。

 

 その時、突然コンガが動きを止めて右後方へ走りだした。


 100mほど先、バルサとアンドレが走ってこちらに向かっている。

 

 マズイ、こっちに来るんじゃない!

 

「バルサ、コンガがそっちへ行く! 3頭だ! 気をつけろ!」


 果たして聞こえているかどうか……。

 くそ、行った方が早い!

 

 我流神足!

 

 後ろからコンガに斬りかかる。

 1頭の背中を確かに斜めに斬ったはずだが、即座に振り向いて反撃してきた。

 

 なんなんだコイツら。痛覚ないのか?

 

 その間にも残り2頭がバルサたちに向かう。

 もうすぐ目の前に迫っている。

 

 くそったれ! 炎の壁(ファイヤーウォール)!!

 

 轟と音を立てて2頭のコンガの目の前に炎の壁が立ち塞がる。

 その高さ5m以上、幅は30mにも及ぶ。

 ちょっと予定よりも規模が大きかったか。まだ加減が難しいな。

 

 とりあえず獣系の魔物なら火は苦手だろう(当て推量)から、これでビビってくれれば万々歳。

 

 案の定、突然目の前に現れた炎に驚き、戸惑うコンガ2頭。

 炎の向こう側でバルサとアンドレも同じぐらいびびって止まってくれればラッキー。

 

 おっと、目の前のお前の事も忘れてないぜ。

 剣は鞘に納めてコンガの腹を思い切り蹴飛ばす!

 

 そして2頭の方に向き直ると、これでも喰らえ、炎の波(ファイヤーウェイブ)!!

 

 壁になっていた炎がそのまま上から大波のようにコンガたちに襲いかかる。

 炎に包まれ絶叫するコンガ。

 

 我流神足で炎の向こうに周り込み、バルサたちと合流。


「この火はあんたがやったのかい?」


 バルサが驚愕した顔で尋ねる。


「まぁそんなとこです。それよりコンガが3頭います。気をつけてください」


 あれ、つい敬語になっちゃったよ。


「気をつけてって言われても、あの様子じゃねぇ」


 相変わらず火ダルマで暴れる2頭。

 転げ回ってればそのうち火は消えるかもな。たぶん。

 

 もう1頭、オレが蹴飛ばしたヤツは後からやって来たジュリア、ロビィ、ホークが相手をしている。

 ああ、もう終わったなアイツ。

 頼むからホークに手柄は取られるなよ。

 

「それじゃ、手当は半々ってことでいいね。もらっとくよ」


 言い捨てるやバルサが火ダルマ2頭に突進し、長い棒を構える。

 

 シャキン!

 

 は? なにその仕掛けかっけぇ!

 バルサの棒の先から太く鋭い針状の金属が出現した。

 なるほど、あれはただの棒じゃなくて槍にもなる棒だったのか。

 

「アラララララララ」


 アパッチの雄叫びのような甲高い声を上げながらバルサが火ダルマコンガに向かって連続で突きを繰り出す。

 物凄い連打だが、スピードよりもその攻撃の重さが伝わって来るのが恐ろしい。

 

 ドスドスドスドスッと一撃毎に肉を貫く音が響く。

 

 ああもう1頭は完全に蜂の巣状態だよ。

 顔面も穴だらけだからお陀仏確定。

 

 仏さんが倒れる前にもう1頭の方へアララララララ! すげぇなバルサ(笑)

 

 その様子をアンドレがじっと見ている。

 何を考え何を思っているのか全く読み取れない。

 こいつも別な意味ですげぇわ。

 

「うわッ!?」

「ジュリア危ないッ」


 ホークとロビィの声がした。

 なんだ、まだあいつに手こずってんのかと思って見ると、そこには別な魔物がいた。

 

 ジュリアの後ろから襲いかかってきたが、ロビィたちの声のおかげでギリギリかわせたようだ。

 

 あれは―――熊!!??

 

 デカいぞ、なんだあれ。3m以上……いやもっとある?

 

 赤カブトじゃあるまいしあんな熊ありえねー!

 色からするとハイイログマみたいな感じだ。

 しかも体の表面がなんかテカテカ光ってる。

 

「あれはグリードだね。3等級の強敵だよ」


 バルサが声をあげる。

 あ、もう1頭のコンガも片付いたってわけっすね。いやはや。

 

 つか3等級だと確かオルトと同じ―――超やべぇヤツじゃん!

 

「アンドレ! あんたも仕事しなさい!」


 バルサの声にアンドレが動きだす。

 思いのほか、素早い動きにびっくり。

 

 グリードの前に仁王立ちになると、大きな剣を地面に突き立てるアンドレ。

 

 え? なにしてんの?

 

 グリードが水平に腕を振ってくる。

 その爪が異常な長さに伸びている。

 

 ガシィッ!!

 

 アンドレの剣の身幅が倍になって、グリードの攻撃を完全に止めたのだ。

 

 まさかあれも仕込み系の武器なのか?

 さっきと身幅が全然違う。

 

 地面に突き立てたのは攻撃の圧を受けて後ろに下がらないためか。

 その一点から後ろへは絶対に下がらない、というアンドレの気迫が感じられた。

 

 その隙にジュリアとロビィが左右から間接攻撃をかける。

 

 しかし、グリードにはまるで効果がない。

 ジュリアの風魔法も、ロビィの矢も弾かれてしまっているようだ。

 

 あの体毛、もしかして物凄く硬いんじゃないか?

 実質鋼の鎧を着ているのと同じ、みたいな。

 

「グリードの体毛は剣の攻撃も弾くと言われてるのさ。だからちょっとやそっとじゃダメージを与えられないよ」


 バルサが解説してくれた。ありがとう、よくわかった。

 

「バルサの槍でもダメなのか?」

「やってみないとわからないね。でも刺し込めたとしても抜けるかどうかが問題さ。その隙にやられたら元も子もないし」


 なるほど。確かにあり得る。

 

「それよりアンタの魔法の方が効果がありそうだよ。さっきの派手なヤツ、あれは一体何て言う魔法だい? あんなのこの年になって初めてお目にかかったよ」


 ははは、そう言ってもらえるのは光栄だけど交戦中は危なくて使えないんだな。

 まだそんなに精度高く使いこなせてないもんで。


 それに実は魔鉱石がもう黄色くなっちゃってるんだよね。

 さっきの2発だけで。

 

 ロビィに魔法の制御が課題って言われてたのになぁ。

 やっちまったよ。

 

「さてと、それじゃアンドレの援軍にでも行こうかね」


 バルサがグリードの方へ移動を始める。

 

 ところで残ってたはずのコンガはどうなったんだ、と思って周囲を探すと林の陰に隠れてましたよ。

 なぜ逃げてしまわないのかは謎だが、グリードの事は恐ろしいらしい。

 

 なら先にコンガの方を片づけておくか。

 

「ジュリア!」


 声をかけてサインでコンガの方を指す。

 了解のサインが返ってきたので移動開始。

 ロビィはグリードの方を頼む。

 

 なッ!

 

「ホーク! 邪魔するな!」


 なんとホークもこちらへジュリアの後を追って来ていた。

 

 シ・カ・ト、ですか!?

 あんのヤロー。

 

 自分に向かって来る敵を察知したコンガが逃げ出した。

 何から何まで腹が立つわ~。

 

 今はコンガよりホークの方がムカつくので、立ち止まってジュリアとホークと合流。

 

「どういうつもりだホーク!」

「どうもこうも、このままじゃオレの取り分がゼロなんでね」

「金? 金の問題なのか。やっぱ最低だなお前」

「ほんと最低」


 ジュリアも同意してくれた。

 ホークは全く意に介さない様子でナイフを撫でている。

 

「やるならグリードをやれ。そっちの方が報酬いいんだろ」

「あれはダメ。オレとは相性最悪だから。あのデッカイのとオバサンに任せるよ」


 ホントこいつは……。

 

 だが、確かにこいつのナイフではあの熊相手にどうしようもないだろうとは思う。

 他に何か隠している力があるなら別だが、どうせ教えてはくれまい。

 

「あ~あ、遊んでないでとっととコンガ3頭やっちまうんだったなぁ」


 そのコンガに叩きのめされたヤツがよく言うよ。

 

「アスカ、戻ろう」

「そうだな」


 ジュリアに促されてグリードと戦っているアンドレやバルサたちの方へ戻る。

 

 すると、さっきバルサが倒したコンガ2頭が見えてきた。

 

 ん? なんかヘンだな。

 

「ジュリア、あれなんだ?」

「なにどこ?」

「あのコンガの死体のところ」

「あれは……リンクス!?」

「リンクスだと!?」


 またホークが割り込んできた。もういい加減にしてくれ。

 

 距離が近づいたので姿をちゃんと確認出来た。

 鳥っぽい姿だが、サイズがふたまわりほど大きい。

 まぁ人間サイズってことだ。

 

 今は翼をたたんでコンガの死体をつついている。

 この世界でのハゲタカみたいな存在なのだろうか?

 

「くっそ、今日はとことんついてねぇ。あいつもオレの対象外だぜ。なんなんだ一体」


 それはこっちのセリフだ阿呆。

 

 ギャアッ!

 

 その時、リンクスが大きく一声鳴いて空へ舞い上がった。

 

 どうやら腹立ち紛れにホークのヤツがリンクスに向かってナイフを投げたらしい。

 当然外れたわけだが。

 

 すると上空で一瞬止まったように見えたリンクスが丸い点になった。

 いや、あれは急降下してきてるんだ。

 

 目標は―――ホークか!

 

「くそッ!」


 悪態をついて体を捻り、攻撃をかわすホーク。

 紙一重のタイミングだ。

 あれが見切りのホークと言われる所以なのか?

 

 ものすごい角度で突っ込んできながら、地面スレスレで方向を変えて水平飛行から再び上昇するリンクス。

 

 まさか、また来る気か?

 

 ホークが急降下してくるリンクスに集中していたその時、ホークの後ろにコンガの姿が……。

 

 ホークにとっては完全な死角。

 リンクスに集中しているので意識も向けていない。

 マズイぞ。

 

 我流神足!

 

 ホークの背後に回り込みコンガの正面から縦一文字に斬り伏せる。

 

 ザシュッ!

 

 確かに手応えはあったが、まだコンガは動けている。

 その顔は真ん中で斬られていて血も噴き出しているのだが、体の方のダメージはそうでもないのか?

 

 一瞬ホークがこっちを見たような気がするが、すぐにリンクスに視線を戻して攻撃を回避。

 立て直したリンクスが今度はこっちに向かってきたので、オレも横っ跳びに回避。

 

「ハッ!」


 ジュリアの声とほぼ同時にリンクスがボタリと落下。

 翼が片方きれいに失くなっていた。

 風魔法万歳。

 

 ジュリアがバタバタしているリンクスの頭に止めを刺す。

 

 その間にオレはコンガの胸に渾身の突きを喰らわせる。

 神足のスピードを乗せた突きなので威力は保証付きだ。

 

 倒れたコンガの胸から剣を抜くと、ちょうど正面のジュリアと目が合ったのでサムズアップ!

 

「なんなんだよ! 結局オレはおけらじゃねぇか。くそっ今日は厄日だ。もうヤメだヤメ!」


 ブツブツ言いながら作業員たちの方へ戻って行くホーク。

 おいおい、まだ仲間がグリードと戦ってるんだけど。

 

 なんか金が絡むと態度が急に変わるんだな、アイツ。

 助けてやって損したわ。ホント、なんで助けたんだっけ?

 

 にしてもあのコンガ、なんだって戻ってきたんだろう。

 あのまま逃げてれば生き延びられたものを。

 仲間の仇討ちでもするつもりだったのかな。

  

「アスカ、行くよ」


 ジュリアが声をかけてくれて我に返った。

 そうだ、グリード。

 

 バルサ、アンドレ、ロビィの3人がかりでもグリードを足止めするのが精一杯の様子だった。

 いや、グリードがオルトと同じ3等級だとするとたった3人でよくやっているというのが本当のところなのだろう。

 

 にしてもこのグリードってヤツはこの人数を前にしても逃げるどころか、ますます攻撃的になってきてないか?

 よほど暴力的な行動が好きなのだろう。

 人間を弱い生き物と決めつけているようなところがあるのかもしれない。

 

 魔鉱石を確認する。やはり黄色だ。

 うまくすれば後2発、もしかすると1発で弾切れになる可能性もあるな。

 グリードにどんな魔法が効くのかもわかってない以上、無駄弾は撃てない。


「ロビィ、どんな感じだ」

「グリードは守りが硬い上に凶暴です。少し厄介な相手です」


 そう言いつつも、切羽詰まった感は全くなくて余裕すら感じられるんだよなぁ。

 オレ思うんだけど、ロビィってこの仕事始まってからずっと本気で戦ってないんじゃないか?

 今日みたいな時くらい実力を見せて欲しいんだが……。

 

「頼むよロビィ。一発でいいから本気でやってくれ。タイミングは任せるから」


 耳元で強めに言ってみる。

 ロビィはこちらを見て一瞬だけ何か考える表情をした後、やや仏頂面で小さく頷いた。

 

 さてと、後はオレたちの頑張り次第だな。

 

 棒を見事に操ってグリードの攻撃をいなしているバルサに聞いてみる。

 

「バルサ、やっぱりダメか?」

「槍は通らないね。叩いても効いてるんだかいないんだか」


 まぁたぶん効いてないんだろうな。

 バルサの槍も棒も効果なしとなると、いよいよ魔法しか手がないって事か。

 だが、あの毛が魔法も跳ね返してしまったらどうなる?


「アンドレ、あんたも一度ぐらい攻撃してみせな!」


 バルサが防戦一方のアンドレに発破をかける。

 

 すると突き刺した剣を地面から抜いて、身幅を元に戻すと大きく上段に振りかぶる。

 おいおい、完全に無防備じゃないか! なんてヤツだ。

 

 バルサとジュリアが何とかグリードを抑え込んでアンドレに攻撃させないようにしている。

 だが、アンドレからグリードまでの間合いが遠すぎる。

 あれじゃ、攻撃しても当たりっこないぞ。

 

 オレも加勢して、少しづつアンドレの近くにグリードを誘導する。

 しかしホントに硬いな、コイツ。

 こっちの剣が刃こぼれしないか心配になってくる。

 

 と、グリードが両手で抱きつくようにクロスさせて爪を薙いでくる。

 咄嗟にバック転で回避、すると更に突進して体当たりをしてきた。

 着地直後のオレに激突!

 

 ぐあッ!

 

 更に後方に飛ばされるが、自分から飛んだ分もあるので衝撃自体はかなり抑える事が出来た。

 対空時間の長い吹き飛ばしの間にも、グリードが執拗に狙って来ている。

 

 なんなんだ急に。オレの事をそんなに警戒してるっていうのか。

 野生の勘ってヤツならまずロビィを警戒すべきだったな、このウスノロ。

 

 ロビィが弓を引絞っているのが見えた。

 これまでとは全く違うオーラのようなものが感じられる。

 微かに弓が光っているようにも見える。

 

 空中で姿勢を変え、突進してくるグリードの頭を踏み台にして更に高くジャンプする。

 目標を見失ったグリードが上空を見上げるように棒立ちになったその時―――

 

 キュイン

 

 今まで聞いた事もない矢の音がしてグリードの後頭部に突き刺さる。

 そう、突き刺さったのだ。

 あの剛毛を難なく貫通して。

 矢羽の近くまで深く食い込んだ矢の先端はグリードの脳を貫通しているのは間違いない。

 

 しかし、まだグリードは生きていたのだった。

 ほとんど本能だけで動いているような、出鱈目な動きではあったが、それでも目標を感知して仕掛けてくる。

 恐ろしい魔物だ。

 

 グリードが今度はアンドレ目がけて走る。

 さすがに動きはやや鈍っているものの、肉体へのダメージはないので未だ迫力満点だ。

 

「おおおおおおおおおおおおッ!」


 その時、ずっと上段に構えて力を溜めていた様子のアンドレが吼えた。

 アンドレの声、初めて聞いたぞ。

 予想に反してやや甲高い声だった。もしかして見た目よりだいぶ若いとか。

 

 ブォンッと大きな風切り音と共に大剣が振り下ろされ、そのままの勢いで地面を抉る。

 

 ブシャァァッ!

 ゴアアアアアアアッ!!

 

 血飛沫が飛び散る音と、グリードの叫び声が同時に響く。

 左腕が切断され、地面に落ちていた。

 マジ!? すげぇぞアンドレ!

 

「よっしゃ、そこだッ!!」

 

 すかさず左側に回り込んで切断面に向かって魔法を放つ。

 

 雷竜(ライトニングドラゴン)!!

 

 バリバリバリバリバリ……

 

 前に伸ばした右掌から稲妻が何本も走るとすぐ先で融合し、まるで竜のようにのたうちながらグリードの左腕切断面から体内に侵入する。

 

 グリードの全身が激しく痙攣すると、全ての体毛が逆立つ。

 目と口と耳から煙を出しながらグリードは声もなく感電死した。

 

 指輪の魔鉱石は真っ白になっていた。

 危ない危ない、これでダメならお手上げだった。

 

 地響きと共に倒れたグリードからは肉や内臓が焦げた臭いが立ち上る。

 

 バルサは口をポカンと開けて棒立ち。

 ジュリアは驚愕の表情で臨戦態勢のまま硬直。

 アンドレは剣は地面にめり込ませたまま、恐怖の表情を浮かべて失禁。

 

 ロビィは心底驚いたという表情をしていたが、オレと目が合うとニッコリと笑ってみせた。

 但し、その瞳の奥に冷静な光が宿っていたのをオレは見逃したりはしない。


「これ、オレの手柄って事でいいのかな?」


 オレが聞くとようやくみんな我に返った様子で動きだした(ロビィを除く)。

 

「ホントに恐ろしい子だね、あんたは全く」


 バルサが背中を思い切り叩いてきた。

 痛いってば。

 

 そしてそのままアンドレの所へ行き、着替えを手伝ってやる。

 まさかあのアンドレが失禁するとは思わなかった。

 アンドレ自身はもう身も蓋もないという感じでただただ恥ずかしがっていた。

 やっぱかなり若いと見た。

 後で確認しよう。

 

「アスカ、いつの間にあんな魔法が使えるようになったの?」


 非難がましい口調でジュリアが近寄ってきた。


「まぁロビィとかに色々聞いたり、自分でこっそり練習したり」

「じゃあロビィも知ってたんだ。 ふ~ん、私だけ除け者ってわけ?」

「なんでそんな怒ってんのジュリア」

「怒ってません」

「怒ってるじゃん」

「怒ってない」


 はいはい、もう面倒臭いなぁ。

 

「だから後で私にも教えて」


 そう言うとコロッと態度を変えて、肩に手を回して顔を寄せてくる。

 もういつものジュリアだ。

 

「いいけど、ジュリアに出来るかな。雷属性だけど」

「いいの! なんでもいいからとにかく教えて」


 まぁ絶対無理だと思うけど。

 でも、いいよ。ジュリアの頼みなら幾らでも付き合うよ。

 口には出さないけど紛れもない本心だ。

 

 

 ベガスや作業員たち、他の冒険者たちが待っている場所へ戻ると拍手喝采で迎えられた。


「話は聞いたぞ、ジュリア君たち。3等級と4等級の魔物を合計6頭も倒したそうじゃないか。いやぁお見事お見事。さすがオレが見込んだ冒険者だ。帰ったらちゃんと手当を支払うからな。期待しててくれよ」


 ベガスの饒舌さがその喜びを如実に示していた。

 

 帰路ベガスに尋ねたところによると、4等級が複数出た時点で普通であれば即時撤収なのだそうだ。

 それに加えて今回は3等級。

 手練れの冒険者が複数人いて初めて撤退の可能性が見える状況であり、そうでなければ全滅も覚悟しなければいけなかったと。

 そのための切り札としてホークを解雇せずにおいたのだが、途中で戻ってきたのには心底呆れたらしい。

 

 しかも今回、あれだけの敵に遭遇しながら犠牲者がひとりも出なかったのがまさに奇跡的だと興奮していた。

 この話を聞けば、これからもっと多くの作業員が調達できるだろうし、工事もより早く完工に近づくだろうと。

 

 最後に、だから今後もよろしく頼むよ、とガッシリと肩を掴まれた。

 もちろん、カラテ食堂はいつでも自由に使ってくれていい。

 何なら友人を呼んで飲み食いした分もこちらで持とう、とまで言ってくれた。


「あの、もうひとつ頼みたい事があるんですが」

「おう、言ってみな。出来るだけの事はしてやるからよ」

「今、泊まっている宿がベッドが2つしかないんですよ。だから狭くて。出来れば3人それぞれ別のベッドで寝たいんですけど」

「なんだ、そんな事か。任せてくれ、話はつけておく。宿はどこなんだ?」

「アルマンゾです」

「ああ、あそこの主人なら顔見知りだ。大丈夫。今夜はゆっくり眠れるぞ。保証する」

「ありがとうございます」


 そんなわけで、その夜からオレたちは1人1台のベッドで眠れるようになったのだった。 

 ジュリアとロビィからはいたく感謝された(特にロビィ)。

 

 そうそう、それからアンドレの年齢だが、なんと21歳だった!

 どんだけオッサン顔なんだよ、わかんねぇよ絶対。



 本日の収入

  基本報酬:400ゼニー

  魔物出現手当:200ゼニー

 ×3人=1800ゼニー

 

 更に魔物討伐手当:

  コンガ(4等級)銀貨1枚×2頭

  コンガ(4等級)銀貨1枚×0.5×2頭 (バルサとシェア)

  リンクス(4等級)銀貨1枚×1頭

  グリード(3等級)銀貨100枚×0.5×1頭 (アンドレとシェア)

  =銀貨54枚(54000ゼニー)


 合計55800ゼニー

 

 すげー! 一気に金持ちだ! なんだこれ一攫千金最高!

 即日ロビィに借りたお金を返済し、残りを3人でシェアする。

 

 ジュリアはコンガ1頭分の他はオレの報酬なんだから取っておきなと言ってたが、決してオレひとりで倒した手柄ではないのでチームで分けるのは当然の事だ。

 

 ロビィは目を輝かせて受け取っていた。

 こいつ、実はお金大好きっ子なんじゃなかろうか。

 

「じゃあさ、私たちのチーム名を決めよう!」

「え、なにチーム名って?」

「サッカリアみたいなギルドを名乗るのよ。私たち3人で」


 ジュリアが突然言い出した。


「ジュリア、私はいつまで一緒にいられるかわかりません。それでもいいのですか?」


 ロビィが一応言っておくけども、という感じで伝える。

 

「いいに決まってるわ。だってもうロビィも仲間じゃない」

「ありがとう、ジュリア」


 ロビィのその言葉に嘘はなさそうだ。


「でもどうするの、名前」


 ジュリアに具体的なアイディアでもあるのだろうか?

 

「実は帰りにちょっと考えてみたんだけど……」


 ここで溜めるジュリア。


「ジュリアスっていうのはどうかしら」

「ジュリアス?」

「ジュリアスとはどういう意味ですか?」


 確かにロビィの言う通り、由来が気になる。

 

「そんなの簡単。ジュリアとアスカでジュリアスよ」

「えっ!?」

「……………………」


 オレも驚いたが、ロビィもちょっと驚いたのか急に黙り込んだ。

 顔を除くと、なにやら妙な表情を浮かべている。

 

「あのさジュリア、一応今ここに3人いるんだけど」


 さすがにロビィが気を悪くするのも当たり前というか、ジュリアもう少し配慮の出来る子だと思っていたのに一体どうしてしまったんだレベルの大失態だろこれ。

 

「いえ、何も問題ありません。私は単なる同行者なのですから」


 そういうロビィも声が震えちゃってるし。

 

「やっぱダメかぁ。じゃあさ、こういうのはどう?」


 と言ってまたもや溜めを作るジュリア。

 今度は頼むよマジで。


「森のジュリアス!」


 ……はい?

 口には出さなかったけれど右京さん状態ですよ。

 森のくまさんじゃないんだから、ちょっとそれはいかがなものか。

 

「いいですね! 森の民の要素が一番最初にあります。私は賛成です」


 賛成なのかよ、ロビィ!

 森の、でそこまで満足していただけてオレも嬉しいよ、って違うか。

 

 ジュリア、危うく命拾いしたな。 

 でも、たぶんロビィが万が一抜けちゃった時はそのままジュリアスに戻す気だろ。オレにはわかるぞ。

 

「アスカは? どう? いいと思う?」

「うん、いいんじゃないかな」


 ここでオレがイヤという訳にはいかないだろ常考。

 

「じゃあ決まりね! 私たち、今から森のジュリアスよ!」



 こうしてオレたちはギルド『森のジュリアス』を結成した。

読んでいただきありがとうございます。

今回、今までの回で一番の長さになってしまいました。

そのせいでこんな時間の更新です、すみません。

分割にしてもよかったのですが、流れが途切れちゃうのがイヤで結局まとめてしまいました。

くそダサい名前のギルド名が決まりましたが、3人の新たな門出になるのでしょうか。

引き続き応援よろしくお願いします。

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