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(17)オレは初仕事に出る

 翌朝早くに、息苦しくて目が覚めるとジュリアの両腕が首に巻きついていた。

 

 静かにそれを外してもうひと眠りしようかと思った時、ベッドの反対側でロビィが目覚めたのでオレも起きる事にする。

 

「おはようロビィ」

「おはようございますアスカ」


 小声で挨拶を交わすと、2人ともベッドから少し離れて椅子に掛ける。

 一応この部屋には木組みの椅子も2脚あるのだ。

 

「昨夜は大丈夫だった?」

「大丈夫とは?」

「ジュリアだよ。あの後寝るまで大変だったんじゃないの」

「いえ、アスカが寝たすぐ後にはジュリアも眠ってました」

「そうなんだ。じゃあロビィもゆっくり休めたんだね」

「はい。充分な休息がとれました」


 その時、んーっとジュリアが伸びをする声。

 見ると、ジュリアがベッドに上半身を起こして両手を上げていた。


「おはようジュリア」

「おはようござますジュリア」

「あ、おはよ。2人とも早いね」

「オレはジュリアのせいで早起きだったんだけどね」

「なに、どういうこと?」

「いや別に。なんでもない」

「ヘンなアスカ」


 寝相のことを糾弾しても仕方あるまい。

 本人は覚えていないのだ。

 

 だが、今晩以降の寝る位置についてはよくよく考えておく必要がありそうだ。

 

「さぁ! 今日は私たちの記念すべき初仕事よ。2人とも、頼むわね」


 一番最後に起きたジュリアが一番元気があるなぁ。

 やっぱ睡眠時間の1分1秒の差は馬鹿にできないね。



 こうして早起き3人娘は宿の1階で軽く食事をとって西門へ向かった。



*****



 朝8時半集合のところ、8時にはもう到着していたため30分も待つ羽目になった。

 いや、実際は30分以上待たされたのだが。

 

 最初にやってきたのは比較的若い男2人組だった。

 

 2人はオレたちに気付いたはずだが、傍には近寄らず少し離れたところで待機。

 そこへすぐに作業服を着た男たちが1人また1人とやってきて、5分も経たないうちに男8人ほどが集まった。

 

 誰もオレたちに近寄らずましてや話しかける者などいないが、興味は充分あるようで遠巻きにチラチラ見ては何か話している様子だ。

 

「どうするジュリア?」

「こっちから聞くしかないみたいね」

「ジュリアに任せます。リーダーですから」


 ロビィ、昨日はジュリアが適任って言ってたけど、もしかして自分がリーダーやりたかったのかな?

 実は遥かに最年長だし、森の民ってことでいろいろ知ってるし……。


 ジュリアが動き出す前に、もうひとり男がやって来た。

 

 男が近づくと、集まっていた男たちが挨拶をした。


「おはようございます」

「おはようございます親方」

「ざいまーす」

「ざっす」

「ういっーす」


 どこの世界も挨拶の短縮系は同じなんだな。

 ちょっとほっこりするわ。

 

 で、この人が親方ってことは今回の作業を仕切る人なんだろうか。


「よーし、今日もこれだけか。そんじゃいつも通りに行くぞー」


 親方と言われた男、アラフォーぐらい(それでもオレより若い)の陽に焼けた筋肉質のオッサンが声をかける。

 この人だけは黄色いヘルメットを被っているので、よく目立つ。

 

 他の男たちは作業服にノーヘル。

 ああ、そういえば最初に来た男2人だけは普通の恰好だ。

 そしてよく見ると剣を所持している。

 もしかして、あれってオレたちの同業者なのか?


「すみません、冒険者組合の依頼の件はこちらでいいんですか?」


 ジュリアが痺れを切らして親方に直接声をかける。

 

「ん? なんだあんたら? 工事の警護ならここにいる2人が担当のはずだが」


 やはりそうだったのか。

 しかしマズイ。このままではオレたちはお払い箱になっちまう。

 

「でも昨日、冒険者組合で手続きしたので。私たちも参加します」


 いいぞジュリア、粘るんだ。交渉だ。ネゴシエーションだ。

 

「そう言われてもなぁ。今日はこんだけの人数しかいないから、あんたらまで雇う余裕はないんだよ」

「そんな! それじゃ話が違います」

「まぁまぁジュリア、ちょっと落ち着いて」


 沸騰しかけたジュリアを宥めて、オレが間に入る(しかないよね)。

 

「相方が失礼しました。アスカといいます。あなたが工事の責任者の方ですか」

「ああ、まぁそうだ。あんたらは冒険者なのか?」

「はい。実は昨日登録したばかりの新人なのです」

「へぇそうかい。女だてらに冒険者なんてずいぶんと酔狂だな」

「まぁ我々にも色々と事情がありまして」

「すまねぇが、今日は見ての通り、護衛は2人で充分間に合ってるんだ。悪いがまた明日来てくれ」


 いやいや、ここでノコノコ引き下がっては明日以降だって仕事にありつけるかわかったもんじゃない。


「そう言われても、一応こちらも組合の方で契約してるので」

「あの!」


 頑として譲る気配のなかった親方だが、そこへ冒険者と思われる男の1人が割り込んできた。

 

「なんだサム。どうかしたのか?」


 親方が男に声をかける。

 その話しぶりから、そこそこ親しい関係が見てとれた。

 サムと言われた男とその相棒は、この仕事の経験者なのかもしれない。


「ひとつ提案ですけど、今日はオレたち護衛じゃなくて作業の方に回ってもいいですよ」

「えっ!?」


 なんという妙案。その手があったか!

 しかもオレたちからは提案し辛いそれを、よくぞ自分の方から言ってくれた。

 ありがとうサム。

 

「いいのか、サム」

「ええ。ジャンも納得してます」

「そうか、すまねぇな2人とも」


 親方はそう言うとジャンと思われるもう1人の方へ行って何か話すと肩をポンポンと叩き、他の作業員のところへ戻る。


「今日はサムとジャンも作業に入るぞ。護衛はあの姉ちゃんたちだ」


 歓迎の声と不安の声とがあがった。

 歓迎はサムとジャンを作業員に迎え入れること。人数が増えたのが嬉しいだけじゃなく、あの2人がここの作業員たちともうまくやってきた証なのだろう。

 

 そして不安はもちろんオレたちについてだ。

 若い女3人で護衛が務まるのかどうか、といったところだろうがそれだけでもなさそうだ。

 もしかするとオレたちのせいで作業に支障が出ないか案じているのかもしれない。

 それはねぇよ、お前らがオレたちに見惚れてサボったりしない限りは。

 

「そういう事だから姉ちゃんたち、ちょっと来てくれ」


 親方がこちらを手招きしながら声を掛けてくる。


 3人で親方の傍に行くと、作業員たちの前で軽く自己紹介を促された。

 

「ジュリアです。今日からよろしくお願いします」

「アスカです。よろしくお願いします」

「ロビーナです。よろしくお願いします」


 というクソ面白くもない形式的な自己紹介を済ませ、お義理程度の拍手で迎えられた。

 

 拍手は義理だった割に、眼差しは随分と熱が籠っている様子だったが……。

 

「オレはここの作業長のベガスだ。まぁよろしく頼む」


 最後に親方が名乗る。

 ベガスか……カジノとか好きそうだな。

 あと惜しい。ベがペならテックセッターして中から出て来れるのに(ねーよ)。

 

「よーし、それじゃ行くぞー。とっとと歩け。遅れるなよー!」


 ベガスが出発の合図を送ると、みんなが移動を始めた。



***** 

 

 

 西門から歩いて1時間半ほど経ったところが今日の作業場だった。

 男のペースで1時間半なのでだいたい8~9kmってところか。

 

 ここまでの道も整備されているわけではなく、障害物を取り除いて一通り均してある程度だった。

 最終的にはもう少し手を加えるのかもしれないが、一旦こんな感じでまずは道を通す工程になっているのだろう。

 

「よぉーし、それじゃ始めてくれ」


 言うなりピィーっと笛を鳴らした。作業開始の合図らしい。

 ホイッスルみたいな音だが、中で回転するコロコロは入っていないようだ。

 ちなみに見た目は犬笛のような作りだ。

 

「私たちはどうすればいいですか」


 ジュリアがベガスに確認する。


「まぁ好きにやってくれ。護衛なんだから何かあった時にはしっかり働いてくれよ」

「わかりました」


 ジュリアは納得しかねるという表情で戻って来たので、とりあえず作業の方を見学してどういうものなのか知っておこうとオレから提案しておいた。

  

 作業員たちは道の先にある草木や岩などを手際よく除けていく。

 障害物のなくなったところを別な作業員が土を掘り返しながら進み、最後に掘り返した部分を踏み固める。

 

 だいたいそんな流れで作業は進められているようだった。

 

「道ってこんな風に作られるんだな。ジュリア知ってた?」

「ううん、初めてみた。結構大変なんだね」

「人間は道がないと移動出来ないのですね。不便です」


 暇そうに無駄話しているように見えるかもしれないが、実際暇なのだ。

 暇で暇でしょうがないとまで言える。

 

 護衛と言っても、何もなければする事はない。

 ただ単に日がな一日ぼーっと突っ立ってるだけになるのだ。 

 そりゃ作業員の人数次第で調整しなきゃやってられないのもわかる。

 

 でもそういうのは条件にちゃんと記載しといてくれないと。

 明日以降どうなるのかこっちは気が気じゃないよ。



 昼休憩になった時、問題が発覚した。

 この依頼、弁当持参だったらしい。

 おい、冒険者組合! ちゃんと仕事しろよ!

 

 手ぶらで途方に暮れるオレたちに、サムとジャンが食べ物を分けてくれた。

 

「オレたちも初日はそれで何も食えなかったんだ。あれは参ったよ」


 サムの時もそうだったらしい。ますます仕事しろ冒険者組合!


「オレはジャン、サムとはこの仕事をもうかれこれひと月ほどやってる」

「ひと月も、ですか?」


 思わず驚いて聞いてしまった。

 こんな金にならない仕事を一カ月もやるお人好しがいるなんて!

 

 というか、良く見るとこの2人は白札を着けている。

 オレたちよりひとつ上の位階だ。

 

 それなら尚更こんな仕事以外にも何かありそうなものなのに。

 

「やっぱおかしいかな。こんな安い仕事をひと月もやってるなんて」

「まぁ普通はそう思うよな。実際、オレとジャン以外でこの仕事に参加した冒険者を見るのはあんたたちが初めてなんだから」

「えっ!?」


 マ、マジか……。

 これを受けると言った時の他の冒険者たちの嘲笑を思い出す。

 なるほど、納得。

 

「お2人はどうしてこの仕事を続けてるんですか?」


 ジュリアが尋ねる。本当に知りたいのか、話題に事欠いて仕方なくの社交辞令なのかはわからない。


 するとサムが苦笑いをしながら答える。

 

「オレたち、自慢じゃないけど戦いの方はあんまり得意じゃないんだ。だからこういう形式的な護衛任務ぐらいじゃないと出来ないっていうか」

「いやいや、それだけじゃないだろ。オレたちの町に新しい道を通すっていう大事な仕事に協力したいんだよ」


 ジャンが熱く語る。

 2人ともウルズスラ出身なのだろう。

 故郷に貢献したいという気持ちはわからなくはない。


「あの、今朝はありがとうございました。もっと早くお礼を言うべきだったのに、すみません」


 思い出したようにジュリアが2人に頭を下げる。

 オレとロビィも続いて頭を下げる。

 

「いやいや、気にしないでくれよ。実は作業員の仕事の方が給料がいいんだ」


 いたずらが見つかった子供のような顔でサムが言う。

 え、そうなの?


「そうそう、だから逆に助かったのはこっちの方ってね」


 ジャンも屈託なく笑ってそう言う。

 気持ちのいい2人だな。

 

「でも、もし魔物が出たらオレたちも協力するから。心配しないでくれよ」

「オレとサムで相手に出来る魔物だったら、の話だけどね」


 はははは、と笑う2人。

 うーん、そこだけはちょっと心配だなこの2人。

  

「ひとつ聞いていいですか」


 珍しくロビィが口を開く。


「ああ。ロビーナさん、だっけ? 遠慮せずなんでも聞いてくれ」


 どこまでも気のいいサム。


「この仕事で今までどんな魔物が出ましたか?」


 ああ、そうだな。それは確かに気になる。

 一カ月もいたなら何度かは魔物に出会ってるはずだ。

 

「ああ魔物ね。それならチュータスとコンガに会ったよ」


 サムが答える。チュータス? コンガ?

 

「コンガはお2人で倒したのですか?」


 ロビィはコンガを知っているらしい。まぁ当然か。

 チュータスを無視する所を見ると大した魔物ではないらしい。

 

「いやぁまさか! ジャンが遠くにいるのを見つけたんで急いで親方に報告して作業を中断してもらったんだ」

「そうそう、あれはびっくりしたよ。こんな町の近くにコンガがいるなんて思わなかったからなぁ。オレたちじゃどう逆立ちしたって勝てっこない相手だし」

「だよな。あれは本当に危なかった」


 うん、サムとジャンが戦闘で頼りにならなさそうなのは本当によくわかったよ。

 

 隣のジュリアに小声で聞いてみる。


「ねぇ、コンガってそんなに強いの?」

「うん。この辺に出る魔物の中ではかなり強い方よ。ガームと同じかそれより少し強いくらい」

「なるほど、よくわかった」


 ガームと同等か少し上なら、確かにこの2人は手に負えまい。

 いや、よほど上の位階の冒険者でもない限り苦戦するのではないだろうか。

 まぁ頭数の差でもだいぶ違うだろうが。


「もうひとついい?」


 続けてジュリアに聞く。


「なに?」

「チュータスっていうのは?」

「ああ、あれは全然弱いわ。ドゥーの相手にもならないレベルよ」

「あ、そう」


 急速に興味が薄れた。

 ロビィもすっかり2人に興味を失った様子だ。

 

 一方、サムとジャンはまだ話を続けている。

 

「でもチューターは倒したぜ。それこそ20~30頭ぐらいは」

「おれだってそれくらい倒したよ。あんなザコでも1頭辺り50ゼニーのボーナスだからなぁ」

「ボーナス!? そうそれ! ボーナスってどうなってるの?」


 突然ジュリアが大声を出したのでオレたちもサムたちもびっくりした。

 ああ、確かに依頼の中に手当とか何とか書いてたっけ。


「そっか。組合の募集のところには詳しく書いてなかったもんなぁ。あれ、でもどうなってたっけ。ジャン覚えてるか?」

「もちろん。

 5等級の魔物だと500ゼニー

 4等級で銀貨1枚

 3等級で銀貨100枚

 2等級で金貨1枚

 1等級で金貨100枚、だったかな」

「あれ、でもさっきチュータスで50ゼニーって言いませんでしたか?」


 ジュリアがジャンに突っ込む。


「そうなんだ。チュータスは5等級の魔物の中でもかなり弱い方だから値切られちゃって。あんなので毎回500ゼニーも出してたら破産しちまうって親方が」


 ああ……。

 なんかどっちの心情もよくわかるだけにコメントし辛い。

 

 が、オレには魔物の等級というのが初耳だった。

 

「ジュリア、魔物に等級があるの?」

「あれ、まだ話してなかったっけ?」

「なんだアスカさん、魔物の等級も知らなかったのか」

 

 横からジャンが割り込んでくる。

 しまった、聞かれてしまった。


「そうなんです。まだ勉強不足で」

「いやいや、誰でも最初はそんなものだよ。オレたちでわかる事なら何でも聞いてくれ」

「そうそう、どっちかっつーとジャンよりオレの方が詳しいと思うから、よろしく」

「おいサム、なんだよそれ! お前はさっきはボーナスの事も説明できなかったじゃないか」

「いやあれはお前に花を持たせてやろうとしてだな……」


 そこからサムとジャンのしょーもない言い争いになったので、オレたちは3人でそっと離れる。

 


 こうして昼休憩が終わり、笛の合図と共に午後の作業が再開された。

 



 ―――暇だ。暇すぎる。

 どうにかならんのか、この時間。

 

 何も仕事を与えられずに就業時間を無為に過ごしていた元の世界での暮らしが蘇えり、心が闇に覆われそうになる。

 

 作業中はいくら暇とは言え、おしゃべりをするのは申し訳ないと黙っていたのもあって本当に何もする事がない。

 

 ジュリアもオレと同じように暇を持て余しているようだ。

 

 ロビィは……目を閉じて静かに瞑想をしているらしい。

 長寿の森の民にとってはこの程度の時間は長くない、ということなのだろうか。

 羨ましいぜ。

 

 もうそろそろ限界に達しようとしていた頃、ベガスがやって来て言った。


「どうだ、暇だろう。まぁ護衛なんて仕事は大なり小なりそんなもんだ」

「そういうものなんですか」


 ジュリアが素直に応対している。

 

「そういうもんだ。で、ちょっとアドバイスなんだがいいか?」

「はい。なんでしょうか」

「姉ちゃんたちは今日が初仕事だっていう事だから無理もねぇが、一応護衛っていう仕事上、一箇所に固まっていられると作業してる連中からもサボってるように見えちまうんだ」

「あ……」


 ジュリアが間抜けな声を出す。

 オレも危うく声を出しそうになってしまった。

 自分たちの馬鹿さ加減に嫌気がさす。


「だから申し訳ねぇけど、出来るだけ散らばって周囲の監視をしてくれねぇか」

「……はい! すみませんでした!」


 ジュリアが気合いを入れ直して返事をする。


「それじゃ頼むよ」


 そう言ってベガスは作業をしている方へ戻っていった。


「私は向こうの方へ行くから、アスカは右の方、ロビィは左をお願い」

「了解」

「わかりました」


 ロビィにも話が聞こえていたようで説明は不要だった。

 

 オレたちは町の方を除く3方向へ、それぞれ散っていった。

 作業をしている人たちからだいたい50mほど離れて周囲を警戒する。

 

 といっても、四六時中警戒していては集中力が持たないので、時々警戒あとは休憩、みたいな感じだ。

 それでも、何もせず突っ立ってた時と比べると目的を持って動けるだけマシだった。

 少し離れて現在位置の周辺状況を確認したり、動植物にどんなものがあるかを見て知っておく事も何かの役に立つかも知れない。

 

 ジュリアとは時々、例のサインでコミュニケーションを取ったりした。

 ロビィがそれを見ているのがわかったので、あとで教えないとな。

 ロビィにも覚えてもらった方が、この状態でも3人である程度までは連携が取れると思うし。

 

 

 こうして初日の工事作業が終了し、また1時間半近くかけて町へ戻った。

 

 

 西門で解散の指示を出した後、ちょっと話があるとベガスに言われたので3人で残っていた。

 

「いやぁ今日は御苦労だったな。これが日当だ。物足りない金額なのはまぁ我慢してくれ」

 

 そう言って今日一日の報酬200ゼニーをオレたち3人にそれぞれ手渡してくれた。

 まぁ少ないのは最初からわかってたことだから別に不満はない。

 

 何といってもオレたちにとって冒険者としての初報酬なのだ。


「それでなんだが、明日はどうするつもりなんだ?」

「はい。出来れば明日もこちらにお世話になりたいと思ってます」


 ジュリアが即答する。まぁ異論はない。


「おお、そうか。うんうん。そりゃあオレの方でも大歓迎だ。なんせ今日は姉ちゃんたちがいたおかげで作業が捗ったからなぁ」

「そうなんですか? 私たち特に何もしていないと思うんですけど」

「姉ちゃんたちはいるだけでいいんだ。そうすりゃ野郎どものヤル気が俄然出るって寸法よ」

「ヤル気、ですか?」

「なんだ気付かなかったのか? うちのモンが姉ちゃんたちの方をチラチラ見てたのを」

「それは少しは感じてましたけど」

「ならわかるだろ。姉ちゃんたちみてぇな若い女がいるってだけで、こっちは張り合いが出るんだよ。それが男ってもんだ!」

「そ、そうなんですか。あははは」


 ジュリアはわかったようなわからないような苦笑いを浮かべている。

 

 そうか、ジュリアにはわからないか。

 オレにはわかるぞ。よくわかる!

 ベガスのオッサンの言う事が痛いほど身に染みてわかるぞ!!

 

 会社の新入社員は若くて可愛い子に限る。いるかいないかで全然やる気が違う。

 は!? なんですか、セクハラ?

 知った事か。

 誰が何を訴えたところで事実は変わらない。

 真実はいつもひとつ!

 

 オレがうんうんと頷いているのを不思議そうに眺めるジュリア。


「と、とにかく明日もよろしくお願いします」

「おう。こっちこそよろしく頼むよ」


 こうしてオレたちの最初の依頼、その初日が無事終わった。

 収入は3人合わせて600ゼニー。

 

 今日の晩飯は少し出費を抑えないと、明日の朝と合わせて赤字になりかねない。

 そんな気持ち程度の収入だが、素直に嬉しかった。

 

 とりあえず今後は自分たちの収入で出費を賄うことにして、ロビィへの返済はもう少しまとまったお金が出来てからとしよう。

 

 その日、公衆浴場にあの少女たちの姿はなかった。

 もう次の町へ向けて旅立ったのだろう。

 浴槽の中で道中の無事を3人で祈った。

 

 晩飯はもちろんカラテ食堂。

 

 昨日と違って今日はちょうど晩飯時だったため、店は結構な混雑だったが、また同じ席に通してもらえた。

 ものすごい幸運だったか、あるいは誰かが気を回してくれてたのかは知らない。

 

 オレたちはお酒を我慢し、3人で大皿の料理をシェアしてお金を節約。

 まぁこれはこれで楽しいからいい。

 何より初報酬での食事だ。それだけでもテンション上がるってもんだ。

 

 そう言えば客の中に昼間の作業員らしき顔もあったような気がするが、申し訳ないがちゃんと覚えていなかったので自信はない。

 そのうち顔見知りになったら、ここでの食事ももっと楽しくなるのかもしれない。

 

 客が大勢いたせいか店内は終始賑やかだった。

 時々こちらを伺う連中もいたが、ちょっかいを出してくる事まではなく安心した。


 だが、現実は常にオレたちの予想とは違った方向へ進んでいくのだった―――。

読んでいただきありがとうございます。

3人の初仕事は何事もなく終わりました。

翌日以降どうなるかは、次回をお楽しみに。

それでは引き続き応援よろしくお願いします。

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