(14)オレは魔法を習う
キャンプから15分ほど歩いたところに、少し拓けた場所があった。
ロビーナによると以前森の民がキャンプとして使った場所らしい。
確かにここなら木々が邪魔になることもなく、思う存分魔法の練習が出来そうだ。
まぁ実際オレが魔法を使えるかどうかはまた別の話なのだが。
「それでは始めましょう。最初は火属性の魔法からです」
ええ~~~~~ッ!! いきなりですか?
っていうか、魔法って何のレクチャーもなしでパッと出来るものなの?
ジュリアも戸惑った表情をしている。
「2人とも、それぞれ自由にやってください」
ロビーナは早くやってみせろと言わんばかりに促す。
だーかーらー。
「ロビーナ、私たちに魔法を教えてくれるんじゃないの? せめてなにかコツとかアドバイスみたいなものはないの?」
ジュリア、それだよ!
オレもそれを期待していたんだ。
「ああ、魔鉱石がないのですね。ではこれを」
ロビーナは腰の巾着から指輪を二つ取り出すと、オレとジュリアにひとつずつ手渡してくれた。
ちょっとズレてるなぁ。そういうことではないのだが。
いや、確かにオレは魔鉱石を持ってないけど、ジュリアは持ってるんじゃないかなぁ。あの腕輪みたいなヤツ。
ジュリアもこちらを見て苦笑いをしている。
とりあえず指輪を嵌めるか。
えーと、どの指?
ジュリアが右手の薬指に嵌めようとしていたのでオレも真似をする。
「魔法というのは想像を現実にする力です。火属性では火を想像してください。魔鉱石からマグを抽出して火を作り出すのです」
いや、もう少し具体的なアドバイスがないと漠然とし過ぎててよくわからないよ。
ジュリアはともかく、オレはズブの素人ですよ。初心者なんですよ!
ボッ。
ライターの火が点いたような音がしてジュリアの前方1mほどの地上に一瞬火が見えた気がしたが、本当に一瞬で消えてしまった。
ジュリアか?
「やっぱりダメ。すぐ消えちゃう」
弱弱しい声が自信の無さを表している。
オレはというと、何をどうすれば火を作れるのか全くノーヒントで途方にくれていた。
もちろんイメージはしてる。
火の球がぼわ~んと浮いているイメージだ。
だが、それはあくまでオレの頭の中だけのもので、それをどうやって現実に生み出すのかは見当もつかない。
「アスカ。魔法は頭で考えるのではなく、現実の世界の中に変化を起こすのです」
いつの間にかロビーナがオレのすぐ後ろに立っていた。
「現実に変化を……どうやって?」
「それが想像の力です。どれだけ具体的に想像できるかが重要なのです」
「具体的って言われてもなぁ」
「例えばあそこに落ちている木の枝。見えますか?」
「はい」
「あれが燃えていると想像してみてください。頭の中ではなくあの木の枝が実際に、です」
ふむ、ターゲットを具体的にした上でイメージするのか。
ARっぽく、リアルにエフェクトを重ねる感じでどうだろうか。
あの木の枝に……炎を。
キャンプファイヤーのように炎を上げて勢いよく……燃えるッ!
ボワッ!
「ええッ! どうして!?」
ジュリアの悲鳴。
枝が勢いよく燃えている。
「そうです。よく出来ました」
ロビーナがニコリと微笑む。
こんな……こんなに簡単なものなのか?
魔法だぞ?
「今度はその火を消してください」
ロビーナの指示を聞いた直後に火が消える。
燃やす時に重ねたエフェクトを取り除いて元に戻す感じをイメージしたらあっけなく消えたのだった。
「見事です」
ロビーナに誉められた~。
ついでにオレも自分で自分を誉めてやりたい。ひゃっほー!
「ちょっと! アスカだけずるい!」
いやいや、ずるいって言われても……。
「では次は水属性の魔法です」
「えっ!?」
「待って! まだ私出来てないのに」
ロビーナはジュリアの抗議には目もくれず、さぁどうぞ的な顔でオレを見ている。
水……水ねぇ。
水鉄砲とかがイメージしやすいかなぁ。
水芸でもいいけど、あれはこっちの世界じゃ理解してもらえなさそうだし。
消防活動の放水でもいいけど、あれは水の量が半端なさすぎるから止めておこう。
じゃあ、やっぱりこれで。
右手の人差指と親指で直角を作って残りの指は曲げ、鉄砲の形を作る。
そして、人差し指をジュリアの方に向けて―――
ぴゅっ。
「きゃあッ! ちょっと何するのよアスカ!」
「素晴らしい」
顔を濡らして怒るジュリアと微笑むロビーナ。
「今のが水の魔法? どうやったの? そんなの教本に載ってなかったわよ」
この世界には水鉄砲はないのかな。
あ、鉄砲自体がそもそもないのかもしれない。
なるほど、魔法は想像力=イメージか―――。
そういう事ならオレにはもってこいというか、こっちの世界でオレに勝る者などいないのではないだろうか。
何といっても元の世界で様々なフィクションを映像で見てきた記憶の財産がある。
作り物でもイメージさえ出来ればいいなら引き出しは無限といっていい。
よく考えてみると、アスカのパーフェクト再現力が魔法にも適用されるってことだよな。これはすごい!!
オレが密かに興奮しているのを余所に、ロビーナが解説を始める。
「水属性の魔法では水をどのように使うのか、という想像力が試されます。おそらく人間の間では、まず水を作り出す魔法、それを球状にする魔法、水柱にする魔法などが一般的なのだと思います。違いますか、ジュリア」
「そうです。教本に書いてあったのがその3つでした」
「水はそれ自体を攻撃手段にするという点までなかなか考えが及びません。火を消すという役割から火属性への防衛手段と考える傾向が強いのです」
なるほどなるほど。
一応確認しとくか。
「ロビーナ、氷属性というのは存在しないのですか?」
「はい。氷は水属性になります。なぜなら水を凍らせたものが氷だからです」
「でも学舎では氷の魔法は教えてないわよ。どうして?」
ジュリアも質問タイムに突入したようだ。
「氷に対する想像力は水に対する想像力と比較して一般的とは言えません。この地域では氷を目にするのはどういう時ですか?」
「え~っと、暑い時期に氷屋さんが来た時くらいかな?」
「なるほど。もっと北の方に行くと寒い季節に木々や地面が凍ったり霜が下りたり雪が降ったりしますから、そういう所に住んでいる人は氷の魔法を得意とする人も多いです」
そう言えばサッカールはトット村よりかなり北にあるんだったな。
クェスは氷についてよく知っていたのだろうか。
一応念のため確認しておこう。
「ロビーナ、それは自分がよく知らないものについての想像力が足りない、という意味ですか?」
「その通りです。頭の中で考えただけの不確かなものでは現実に変化を起こす事が出来ません」
やはりそういうことか。
「そんなの学舎で聞いたことない。どうしてそんな大事なことが省かれてるのかしら」
ジュリアがぶつぶつ言っている。
学舎の教育方針に対して相当不満があるようだ。
「魔法とはこういうものだ、と考え方を固定してしまうのが一番良くありません。もちろん、習得の難易度を下げるために一般化するのは悪いことではありませんが、それはあくまで指導の初期段階に留めるべきでしょう」
ふむふむ、より汎用的に普及させるために学舎とやらでは今の指導方針になったのかもな。
対象を限定して、具体的な指導内容をテンプレート化して教えることで実用性を高めたと。
でもオレだってまだ初期段階だよね?
初期も初期、今日がまさに初日なんですけど。
あ、それよりさっきのイメージの件でちょっと聞きたいことが。
「ロビーナ、さっきオレがやったのは誰でも出来るものなんですか?」
「そうですね……」
ロビーナはオレと同じように右手で銃を作り、人差し指から水を出してみせた。
「あっ!?」
「この程度の魔法なら、一度見てしまえば模倣することができます」
「そうなんですか……」
ガックリ。
やっぱそんなもんだよな。
となるとオリジナル魔法なんていっても、独自性を維持するのは難しいんじゃないだろうか。
使ったのを見られたら真似られる可能性があるんだから。
いや、ロビーナが特別優秀だからという可能性もなくはない。
その証拠にたぶんジュリアには出来ないんじゃないだろうか。
「今の、ジュリアも出来る?」
既に一生懸命再現しようと努力の真っ最中でした(笑)。
右手で銃を構え、一生懸命唸っている。
顔を赤くして……。
「んんんんッ! んんッ! えいッ!」
ごめんジュリア。言わずもがなだった。
「では次に雷属性です。ジュリア」
ロビーナが初めてジュリアに直接指示を出した。
「わ、私? しかも雷属性って……もう!」
ジュリアは一度深呼吸をしてから、腰を少し落とす。
右手を開いてまっすぐ前に出し、右手首を掴むように左手を添える。
「ハッ!」
パチッ。
右手の少し前の方で一瞬火花が散ったように見える。
西の森での二回目よりも威力が弱いように思えた。
「ふふふふ」
ロビーナが笑った!
いや、ジュリアが笑われた!?
「ちょっとロビーナ! 人が真面目にやってるのに笑うってどういうこと!?」
「ジュリアは雷が怖いのですか?」
「な、なによ。それがどうかしたの?」
「やはりそうなのですね。怖れる気持ちがあるうちは魔法として使うことは出来ません」
「そうなの!?」
ジュリアが驚きながらも、妙に納得したような顔をしている。
「ちなみになんで雷が怖いの?」
聞いてみる。
「昔、父さんと森に出かけた時に急に嵐になって、すぐ傍の木に雷が落ちたのよ。物凄い音と光で木が真っ二つに割れて倒れたの。すっごく怖くて……未だに時々夢に見るくらい」
「なるほど。軽くトラウマなんだね」
「え、なに? トラ……?」
「いや、なんでもない」
事情はよくわかった。
「そういう事ならジュリアは雷属性は諦めましょう」
ロビーナがあっさり軽く宣告する。
「ええっ! そんなッ!」
ジュリアの抗議も空しく、ロビーナが続ける。
「では次に風属性です。2人とも風の魔法をやってみせてください」
「待って! 風なんてまだ教わってないわ。 学舎では火水雷の基本3属性しか教えてないもの!」
ジュリアの猛抗議。
気持ちはわかるけど、オレは何一つ教わってませんでしたよ。
条件的にはようやく同じじゃないですかジュリアさん。
「アスカは学舎とやらで魔法を学んでいませんよ」
そうですそうです。さすがはロビーナ先生。
ジュリアはまだ文句がありそうにぶつぶつ何か言っているが、とりあえずもう放置しよう。
風、風か……。
風と言えばかまいたち! 真空の刃!
でも待てよ、今までのと違って目に見えるものではないからイメージしにくいなぁ。
結果の映像だけは簡単に想像できるけど、プロセスが……。
これもエフェクトのイメージでいいのかな。
ダ、ダメだ……。
やはり具現化するための情報量が何か足ない気がする。
その時―――
ヒュッ!
鋭い風切り音の後、前方の木が根元から1mほどの所で水平に切られて倒れるのが見えた。
「お見事ですジュリア」
オレの時と同様、ロビーナの称賛。
え、なになにマジ? 今のジュリアがやったの?
「うそ? ホントに今の私がやったの?」
どうやら当の本人も信じられない様子。
ちょっと見てみよう。
ジュリアは剣を抜いていた。
もう一度確かめるように右手に持った剣を左の鞘の上に構えると、鋭く水平に薙ぐ。
ヒュッ!
今度は少し斜めに入ったのか、ずり落ちるように木が倒れる。
「おおっ、やるじゃんジュリア」
「えへへ」
照れてるジュリア可愛い。
「魔法を剣の攻撃に乗せるという発想が素晴らしいです、ジュリア」
「う~ん、これが一番想像しやすかったのよね。キュベラスと戦った時のアスカの魔法の剣の切れ味を思い出して、あれが私にも出来たらなぁって思ったら……」
ええっ、そんな事で?
ちょっとオレもやってみよう。
空振り……空振り……空振り…………ハイ無理ゲー。
いや、ちょっと待て。
ジュリアのを真似するイメージじゃダメだ。
かまいたちだ、かまいたち。
剣でかまいたちを発生させるイメージで……エフェクトだ、エフェクト!
ヒュッ!
「おッ!?」
木には当たらず外れてしまったが、確かに今出来た……はず。
「では次は土の魔法です。はじめてください」
ちょいちょいちょーい!
ジュリアの気持ちが少しわかった。
こっちの気持ちはお構いなしにあくまでロビーナのペースでどんどん先へ先へと進められるのは確かにストレス溜まるわ~。
なので提案する。
「あの、すみません。ちょっと休憩にしませんか?」
「私も。ちょっと疲れちゃった」
「わかりました。では少し休憩します」
*****
木陰に移動して腰を下ろす。
ロビーナは少し離れているので、自然とジュリアと話す形に。
「ジュリアも魔法出来たじゃん。良かったね」
「うん……。でもなんだか納得いかないわ」
「なにが?」
「学舎で一生懸命やった基本3属性が全然ダメで、よりによって風属性だなんて」
「いいじゃん別に。基本じゃないなら使える人もそんなに多くないんじゃないの?」
「それはよくわからないけど。3属性が出来ないままなのがちょっと……」
「風属性に慣れてきたら他のも出来るようになるかもよ」
「そうかな」
「そうだよ、たぶん」
「今適当に言ってるでしょ?」
「え、あ、うん」
「もう!!」
出ましたジュリアの得意技、ヘッドロック。
痛気持ちいい。
しかすすぐに力が弱まる。
「でもロビーナってどうしてあんなに色々知ってるのかしら」
「森の民だから、じゃないの?」
「そんなのずるいわ。人間にももっと正しい知識を広めるべきよ」
「それはどうでしょう」
ビクッとなってジュリアのヘッドロックが解けた。
ロビーナがいつのまにかすぐ近くに座っている。
「今日私が話したことは元々人間たちも知っていた知識にすぎません。しかし人間は禁忌を冒してしまいました。そのため自ら魔法の知識を封印したのです。再び人間たちが魔法が使い始めたのはここ200年ほどの間の話と聞いています」
「それじゃ200年以上前は魔法が禁じられていたんですか?」
「そうです」
「その前に禁忌ってなに?」
ジュリアの質問でロビーナが沈黙してしまった。
「オレも知りたいけど……」
「それは森の民である私からはお話出来ません。あなたたちがこのキャンプで聞いた話も出来れば全て他言無用でお願いします」
勝手にしゃべっておいて秘密にしろは少し虫が良すぎる気はするが、こちらは命を救ってもらった身なので文句は言えない。
ジュリアの方もその点は恩義に感じている様子なので、少なくともここで異論を唱える気はないらしい。
「キュベラスを倒したというあなたたちであればこそお話したのです。あなたたちを信じた私たちの気持ちをどうか尊重して欲しいと思います」
それは尊重しますよ。するけれども、なんかちょっと恩着せがましい。
森の民ならではの選民意識的な部分が感じられてちょっと……。
でもロビーナのことは好きだけどね、うん。
「わかった。でもその代わりもう少し教えて。魔法って7属性あると思うんだけど、それで全部なの?」
ジュリアはもう気持ちに折り合いがついたらしい。
でも魔法が7属性とは初耳だ。
借りてた教本には基本3属性しか書いてなかったからなぁ。
「7属性というのは火、水、雷、風、土、光、闇の7つの事ですね。それなら他にもまだあります」
「えっ! 他にも魔法があるの!? 何? どんな魔法?」
「元々魔法の分類にあまり意味などないのです。7属性はあくまでその時認知されていた魔法をそうした区分で分類したもので、まぁ説明する上で有用だったために普及したに過ぎません。ですから当然そこから溢れた、あまり知られていない魔法というものも存在します」
「例えば召喚魔法、とかですか?」
昨夜のキュベラスの話を思い出したので聞いてみた。
「そうです。術式魔法と言って、定められた手順に従った儀式を必要とする魔法です。それにはマグだけでなく供物として様々な物質が必要になる場合もあります」
「う~、なんかそれってあんまり聞いちゃいけない話のような気がする……」
「森の民はそうした術式魔法にも詳しいんですか?」
「そうですね。人間よりは……たぶん」
「昨日リグナスさんが調べると言ってたのはその辺の事なんでしょうか?」
「そうですね。まぁだいたいそんな感じです。アスカはよくそこまで気が付きましたね」
「術式魔法の他にはどんな魔法があるんですか?」
その様子だとまだまだあるに違いない。
「マグを使用するものは全て魔法と定義するのであれば、もちろん他にもあります。ですが、種族固有のものだったり、現存しないものだったりと様々なので全てここで説明するのは困難です」
「魔法ってそんなにたくさんあったんだ……」
驚きや感心よりも畏れに近い表情のジュリア。
「もちろん私たちの知らない魔法もあるに違いありません」
「森の民すら知らない魔法……か」
魔法がイメージの産物だというなら確かにそうなのだろう。
ところで、オレはこの一連の話の中でひとつ決意した。
オレの、オレだけの魔法を編み出す!!
例え見られたとしても簡単には真似が出来ないほど強力なアスカオリジナルマジック。
英語で言えばいいってものでもないが、まぁそういうことだ。
「ちょっと話を戻すけど、7属性に得意不得意ってやっぱりあるんでしょ?」
ジュリアが現実的な質問に切り替えてロビーナに問う。
「7属性については難易度というものは存在しません。ですがジュリアのように個人の適性がある属性に傾くのは普通にあります。むしろ適正が均一な人の方が珍しいと言えます」
「じゃあ私は風属性が得意で、雷属性が苦手ってことでいいの?」
「ジュリアは風属性について適正が高いというのは確かです。苦手についてはまだ何とも言えません」
「それじゃ、もしかすると他の属性にもまだ可能性はあるってことか……」
やはりそこは気になるよね、うん。
「あの、じゃあオレは?」
オレも気になる。
「アスカは元々の魔法力が並外れているので、属性を気にするよりも魔法の制御の方に不安があります」
「え!? どういうことですか?」
「魔法の威力の制御が難しいのではないか、ということです」
「そ、そうなんですか? さっきはどれも問題なかったような気がするけど」
「あの程度であれば、です。実戦で使うようなレベルになるとどうでしょうか」
「いやぁ、やってみないと何とも。今はわからないですね」
「そうですね。いずれその機会があることでしょう。その時は身をもって知ることになると思います」
「なんか怖いこと言わないでくださいよ」
「魔鉱石に注意してください。一度に使い過ぎるとすぐに枯れてしまいますから」
「枯れる?」
「魔鉱石に蓄積されたマグがなくなってしまうことよ。魔鉱石が白くなったらもう魔法が使えなくなるの」
ジュリアが説明してくれた。
魔鉱石はマグの含有量で色が変化する性質がある。
マグが充分に含まれている時は赤。
半分前後になると橙色。
マグ含有量が少なくなってくると黄色となって、最後に白くなるとスッカラカンということらしい。
また、魔鉱石自体にも優劣があって赤色が深い色のものほど良質とされる。
やや薄い赤(朱色?)のものは低品質とみなされる。
なるほど、魔鉱石にも色々あるのね。
石自体のサイズにはそれほど意味はないというのも意外だった。
大きいサイズのものほど容量が大きいのかと思ってた。
ちなみに、魔鉱石はマグを周囲から少しづつ集めて蓄積量を回復するため、時間が経てばまた一杯になる。
ただ、回復速度については魔鉱石の品質に依存するし、周囲のマグの量も影響するらしく、様々な要因によって変化するために、正確な回復速度はなかなかわからないのだそうだ。
そうジュリアが説明したところで、ロビーナから魔法力も回復速度に影響しますと突っ込みが入った。
なるほど、人間社会では魔法力までは考慮に入れてないから確かに不確実になるわな。ふむふむ。
だいぶ話し込んでしまったためそろそろ休憩も終わりかなと思った時、ロビーナがすっと立ち上がって空を見上げた。
―――鳥?
20~30mほど上空で鳥のようなものがクルリと旋回し、またどこかへ飛び去っていった。
「今日のところはこれくらいにして、キャンプに戻りましょう」
突然ロビーナはそう宣言すると、先にスタスタ歩き出してしまった。
「えッ!?」
「ちょっとロビーナ!」
こちらも慌てて後を追う。
まだ風属性までしかやってないっすよ!
他のも教えてよ~!
もちろん心の叫びは胸に仕舞い込んでおきましたとも。
*****
キャンプに戻ると様子が一変していた。
もうテントや小屋は畳まれ、さっきまでいた場所に近い様相。
30人ほどの森の民の集団が旅支度をしている。
もしかして移動するのか?
「みなさん、私たちはそろそろ次の森へ移動します。みなさんはどうしますか?」
ロビーナがそう尋ねてくる。やはりか。
「ジュリア、どうする?」
「私は……ロビーナにもう少し魔法を教えて欲しいけど、でもずっと森の民のお世話になるのもなんか……」
「だよね。オレもそう思う」
残念だけど、もうお別れかな。
そう告げようとロビーナの方に向き直った時、相手の方が先に口を開いた。
「私もみなさんと一緒に行きます」
「えっ!?」
「えっ!?」
ハイ見事なシンクロ率。
だが、驚いた。どういうことだ?
「私たちも現在の人間社会の様子をもっと知った方がいいと考えました。ですから少しの間でいいので同行させてください」
「ホントに!? ロビーナも一緒に来てくれるの?」
「はいジュリア、よろしくお願いします」
「とても嬉しいです。これからもよろしくロビーナ」
「はいアスカ。こちらこそ」
こうしてオレたちは3人で旅を再開することになった。
森の民と離れる時、ロビーナがリグナスと何か話していた。
今後の相談などしていたのだろう。
兄妹が離れるんだから、他にもいろいろ心配事とか頼み事とかあったのかもしれない。
兄と離れてまで一緒に来てくれるロビーナには本当に感謝しかない。
ただ、出来れば他の、オレたちが知らない、オレたちに話せないような理由がないことを祈るだけだ。
だってオレは中年のオッサン。
そこまで世間知らずの能天気甘ちゃんではないのだ。
世の中裏がある、それが常識じゃないですか。
でもそんなことはおくびにも出さずに表面上は極々普通にやっていくよ、もちろん。
そして願ってもいる。
どうかオッサンの取り越し苦労でありますように―――と。
読んでいただきありがとうございます。
やっぱり説明多めになってしまい申し訳ありません。
次回からは3人での冒険が始まりますので、説明少なめでいきたいと思います。
引き続き応援よろしくお願いします。




