第9話 【孤独な決断】
『彼ならどう考えるだろうか?』
スピーチを終えて舞台裏に戻ったヒューム大統領は、もしジョージ・ワシントンが自分と同じ立場に立たされたらどうなるだろうかと想像する。
独立戦争を勝利に導いたアメリカ建国の父であれば、このような時に何を考え、どう行動するだろうか?
全面核攻撃という帝国の行為に対して、報復攻撃以外の選択肢が存在しない事は明白だ。
ヒューム大統領は自らの決断に疑いを持っている訳ではない。
それでも彼は、それ以外の方法が本当に無かったのだろうかと考えずにはいられなかった。
あるいは南北戦争に勝利し、アメリカ合衆国分裂の危機を見事に回避したエイブラハム・リンカーンであったなら、自分よりもっと正しい決断が出来たのではないか・・・
『それは今考えるべき事ではない。』
唐突に心の声を聞いたヒューム大統領はハッとする。
『もう止めよう。確かに彼らならもっと上手くやれていたのかもしれない。しかし彼らは既にこの世の人ではなく、今、合衆国の最高責任者は私なのだ。それがたとえ不完全なものであったとしても、私には決断する責任がある。』
ヒューム大統領は、自分が危うく思考の海に陥ろうとしていた事を自覚する。
最高責任者は側近たちと相談する事は出来ても、彼らにその責任を押し付ける事は許されない。
最後はトップが一人で決断するしかない。
そしてその決断には数億の人命がかかっているのだ。
ダグラス・ヒュームの人生において、今ほど孤独感を覚える事は無かった。
「これが合衆国大統領というものか・・・きっとそれは彼らも同じだったに違いない。」
低くつぶやいたヒューム大統領は立ち上がり、現実へと戻って行った。




