第5話 【流れ星】
黄河帝国・遼寧省
その日、朝鮮国境に近い小さな村に住む少女は、いつものように星空を見上げていた。
星の観察は彼女の日課であり、彼女は飽きる事なく、観察を続けている。
そして彼女は夜空に普通の星とは異なる、見慣れない「光るもの」がある事に気付いた。
「あれ何だろう? きれいだなぁ・・・」
少女は自分が発見した「光るもの」を一刻も早く母親に教えたかった。
「媽媽、媽媽!」
「どうしたの、明明」
夕食の準備を終えようとしていた母親に対し、少女は空の一点を指差す。
「見て、流れ星・・・」
母親は流れ星を確かめるべく、娘の指差す方向を見上げる。
その「光るもの」は、流れ星とは比較にならない程ゆっくりと上昇し、やがて見えなくなった。
それを見届けた母親は、何とも言えない薄気味悪いものを感じて、体をぞくりと震わせる。
一方の少女は嬉しそうに母親に報告する。
「私、お星さまにお願いしたよ、媽媽」
「・・・何をお願いしたの?」
「あのねぇ、みんなが元気で暮らせますようにって。」
満面の笑みを浮かべる娘の顔を見た母親の目に涙が浮かんだ。
『あれ・・・何で?』
彼女自身、なぜ涙が出るのか理解できない。
「そう、明明は本当にいい子だね。」
震える声でそう言うと、母親は明明を強く抱きしめる。
「媽媽、どうしたの?」
「大丈夫、大丈夫だからね・・・」
彼女はまるで自らに言い聞かせるように、同じ言葉を繰り返すのだった。
何も知らない母子にとって、村の外れに核ミサイル基地があるという事実は、全く想像の範囲外である。
それは帝国の最高機密であり、真実を知っているのは、ほんの一握りの関係者に過ぎない。
ましてや、アメリカ陸軍のICBMがミサイル基地を標的にしている事など知る由もなかった。
既に報復攻撃は始まっており、何も知らされていない大多数の帝国人民は、世界を襲った巨大な災厄に対して全く無力であった。




