第4話 【ローズガーデン】
僅か10分足らずで国家安全保障会議を終えたヒューム大統領は、ホワイトハウス西棟にある会議室から東棟地下の大統領危機管理センターに移動するため渡り廊下を歩いていた。
外はうららかな晴天である。
ヒューム大統領は不意に足を止め、窓越しにローズガーデンの様子を伺う。
ローズガーデンは渡り廊下の向かい側にある、彼の妻が愛してやまない小さな庭園である。
大統領夫人が自ら手入れをし、色とりどりの花が咲き誇るローズガーデンは、小鳥たちの楽園となっている。
今、起こりつつあることが現実とは思えないような、のどかで平和な光景を見ながら、ヒューム大統領はしみじみとつぶやく。
「穏やかだな・・・」
帝国の核ミサイルの標的にホワイトハウスが含まれている事は、あまりにも明白だった。
もしもワシントンD.C.のミサイル防衛網が破られる事があれば、ここは間もなく地獄絵図と化す事になる。
ヒューム大統領がローズガーデンを見るのは、これが最後になるかもしれなかった。
「これは世界の終わりを意味するのでしょうか、大統領?」
バーネット首席補佐官の率直な問いかけに対し、ヒューム大統領は少し沈黙した後に口を開く。
「分からん・・・しかしこれで古代エジプトから始まった1万年にも及ぶ文明は一旦終焉する事になるだろう。」
「では我が国も・・・」
「存続出来なくても不思議ではない。ここから先は人類が誰も経験した事の無い領域だ。断言は出来ない。ただ少なくとも現在の世界秩序が崩壊するのは間違いないと言える。人類が滅亡を免れたとしても、戦後の世界は無秩序が支配するようになるはずだ。」
帝国による先制核攻撃への報復としてアメリカ合衆国が発射した核ミサイルはICBMとSLBMを合わせて1125発。
その標的は帝国の主要都市の全てと軍事施設のほぼ全てが対象になっている。
死と破壊が世界を覆い尽くそうとしていた。




