第7話 【政変Ⅱ】
突然の政変から2日後
党の機関紙および国営放送は、陽主席の「病死」と、林副主席の主席就任を一斉に報道した。
陽主席の死因は心臓発作と発表された。
人民統一党の規約では、党の主席が後継者を指名せずに死亡した場合、臨時の人民幹部総会が開かれ、副主席の中から選挙で主席を選出する事になっている。
ただし例外として副主席が一人しか存在しない場合、副主席が自動的に主席に就任するため、人民幹部総会が開かれる事は無い。
今回は正にその「例外」に当たるため、公式発表が真実であれば、党の規約に則った正規の手続きにより、林主席は誕生した事になる。
こうして事件の真相は隠蔽され、闇に葬られた。
実際、陽主席には油断があったとしか言いようがない。
彼は3週間前に党のナンバー2である王副主席を解任した時点で、直ちに臨時の人民幹部総会を開き、新任の副主席を複数選任しておくべきだったのだ。
党の筆頭書記や北京市長などを歴任し、日の当たるエリートコースを一直線に進んできた陽主席と異なり、林副主席はキャリアの殆ど全てを軍事・情報畑で過ごした人物である。
陽主席にしてみれば、常識的には副主席止まりのキャリアしか持たない林副主席の事を、自分の立場を脅かすライバルとは思いもしなかったのかもしれない。
典型的な党エリートである陽主席は、自分の権力を保障する基盤が華やかな経歴などではなく、兵権の掌握であり、王副主席解任後の状況が自らにとってどんなに危険であるかを理解していなかった。
一方、林副主席にしてみれば、陽主席にいくら忠誠を尽くしたところで、彼が自分に権力を禅譲するつもりが無い事は明らかだった。
林副主席の選択は二つあった。
一つは現在の地位に満足する事。
もう一つは主席の地位を簒奪する事。
才能があり優秀で、しかもそれを隠そうとしない王副主席に比べて、林副主席は、言われた事はそつなくこなすものの、才気が先走る事も無く、どちらかと言えば目立たない存在であった。
より正確に言えば、陽主席からそのように見える様に自己を演出していたという事だ。
実際、王副主席のギラギラした自己主張の強さを陽主席は嫌っていた。
林副主席は、その事を十分に理解しており、彼自身は陽主席に対して絶対服従のポーズを示す事で、陽主席の警戒心を買わないように細心の注意を払いつつ、その裏で人事を駆使する事により、軍と情報機関を完全に掌握していた。
そこに最大の障害であった王副主席の失脚による、権力継承の例外状態が生まれたのだ。
林副主席はこのチャンスを待っていた。
今までひた隠しにしていた牙をむき出した彼は、一切の躊躇なく陽主席を排除し、一気に権力の頂点へと上り詰めた。
黄河帝国は、わずか3週間で党の序列ナンバー1とナンバー2が相次いで権力の座から滑り落ちるという激震に見舞われた。
その結果、帝国には力による世界制覇を目指す、極めて危険な指導者が誕生した。
やがて世界は、混沌と戦争の時を迎える事になる。
第6部・了
オシリスのラストは既に決まっています。
ただ、そのゴールに至るまでの道のりをどうするかという問題があり、今も試行錯誤中です。
不定期更新の本作ですが、これからもよろしくお願いいたします。




