第6話 【政変Ⅰ】
黄河帝国の首都・北京
北京市内を見下ろす小高い丘の上に、人民統一党の主席官邸はある。
黄河帝国は党が政府を指導する体制であるため、党のトップである主席が国家のトップを意味している。
午前10時、官邸の一階にある陽主席の執務室のドアがノックされた。
「入れ」
執務室に姿を現したのは、3週間前に党の序列ナンバー2になったばかりの人物である。
「林副主席、君を呼んだ覚えは無いぞ。何か急用か?」
陽主席は、相手の顔をちらりと見ただけで、直ぐに机上の書類に目を落とす。
「ええ、大切な用で参りました。」
「手短に済ませてくれ。私は今、忙しい。」
「それでは手短に申し上げます。陽主席、あなたには党の執行部から引退して頂きたい。」
陽主席はキョトンとした表情で顔を上げる。
「引退だと・・・?何の冗談だ?」
「冗談でも芝居でもありませんよ。あなたが大人しく引退するなら、身の安全は保障します。私は争いが嫌いでね。出来れば穏便に済ませたいのです。」
「・・・・・・」
林副主席の態度から、彼の発言が本気である事を理解した陽主席は、無言で執務机の下に隠されている非常通報装置のボタンを押す。
このボタンを押せば、主席の警備担当者が直ちに執務室に駆けつける事になっている。
だが林副主席にとって、それは予想通りの行動であった。
「ボタンを押しても誰も来ませんよ、回路は切断させて頂きました。」
陽主席の表情が見る見る青ざめる。
「貴様・・・どういうつもりだ!私の代わりに主席になり、中国を統一しようというのか?馬鹿を言うな!」
「中国統一など小さな事、私は世界を手に入れる。」
「アメリカと全面核戦争でもするつもりか?」
「そうですね、間もなくアメリカは世界地図から消える事になります。」
「馬鹿な!無謀だ。そんな事をしてアメリカが反撃しないと思っているのか?我が国もただでは済まんぞ。」
「無論アメリカは反撃してくるでしょうな。だが我々は壊滅などしない。」
「・・・林副主席、本日をもって貴様を副主席から解任する。」
「解任?ハハハハハ、あなたはまだ自分のお立場が分かっておられないようだ。」
「・・・何が可笑しい?」
「分かりませんか?こういう事ですよ。」
林副主席が小さく右手を上げると同時に、完全武装した十名近くの兵士が室内になだれ込む。
「逮捕しろ。」
命令を受けた数名の兵士が陽主席の腕を掴み、拘束する。
「何をする!正気か?」
「正気ですとも。陽主席、あなたは兵権を手放すべきではなかった。兵権を手放したのが、あなたの運の尽きでした。」
「もう一度言う。林副主席、お前のやり方は無謀だ。いずれ身の破滅を招くぞ。」
「ご忠告感謝します。しかしもうお会いする事も無いでしょう。さようなら、陽主席。」
次回は5月22日(金)20時に公開予定です。




