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魔法潜水艦オシリス  作者: 天空ヒカル
第6部 危機の予兆
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第5話 【月光】

「シオリ、もういいよ・・・もう十分だ。」


「ダメ、良くない。このままでは、みんなが死ぬ。」


そこはオシリスの艦内なのだろうか。

シオリはユウキと会話する自分の姿を第三者のように上から(なが)めていた。


「他に方法は無い。ユウキ、あなたなら分かるはず。」


「だけど・・・だけど・・・」


「もうこれを止められるのは私しかいない・・・いつかこんな日が来るんじゃないかと思っていた。さようなら、ユウキ。私はみんなを護りたい。」


「シオリ・・・」


「ユウキ、泣かないで。ユウキはずっと私を守ってくれた。」


シオリは無理やり笑顔を作る。


反対にユウキの顔が悲しみに歪み、イメージはそこで唐突に途切れる。


これでもう何度目だろうか、シオリはこのイメージが何を意味するのか分からないでいた。


それは遥か先の事のようにも思えるし、すぐ近くの事のようにも思えた。


時間の感覚は曖昧(あいまい)であるにもかかわらず、イメージそのものには現実感があり、シオリはそれを単なる妄想の産物と片付ける事が出来なかった。


そしていつもならそこで終わるはずのイメージが、その日は違っていた。


次に現れたのは自分と姿形がそっくりの少女である。


「あなたは誰?」


シオリの問いかけに少女は答える。


「私はあなた。あなたの運命を告げる者。」


「さっきの夢を見せたのは、あなたなの?」


「あれは夢じゃない、『交流』という名前の魔法。『交流』こそがあなたの本当の能力。あなたが潜水艦と『交流』すれば『魔力航行』になり、時間と『交流』すれば過去や未来を見る事さえ可能になる。」


「あれが私の未来・・・?」


「あれも一つの未来。このままであれば、こうなるという未来。見せられたのではない。あなたが自分の能力を使って見ただけ。あなたは本当の力に目覚めようとしている。そう、あなたはまだ、自分の能力のほんの一部しか使っていない。」


「こうして話をする事も『交流』なの?」


「そう。『交流』は魔法の根源に最も近い能力。『魔力航行』は『交流』の一つの(あらわ)れでしかない。それなのにあなたの周りの人は、『(あらわ)れ』を本物だと勘違いしている。あなたの本当の能力について、彼らはまるで理解していない。」


「・・・・・・」


「今日、私はあなたに知らせに来た。この幸せは(つか)の間に過ぎない。」


(つか)の間・・・」


「あなたはこれからもユウキと一緒に戦いたいと願っている。でも、あなたの願いは結局かなわない。」


「どうして?」


「もうすぐ分かる。あなたはどちらかを選択する事になる。自分の幸せか世界の運命かを。」


「ユウキは約束してくれた。いつも一緒だと。」


「その約束は守られない。既に『もう一人』は目覚めてしまった。時は止められないし、起こるべきものは起こる。今の日常はあなたにとって、一時(ひととき)の夢、一時(ひととき)の幸せ。」


そう言うと少女は姿を消した。


イメージは今度こそ終わり、現実の世界へと戻っていく。


シオリが時計を見ると、時刻は午前3時を指していた。


部屋は静まり返り、物音一つしない。


大きく深呼吸したシオリは寝る事を(あきら)め、ゆっくりとベッドから起き上がる。


そして彼女はカーテンを開けると、窓から空を見上げる。


夜空には雲一つなく、満月が輝いていた。


月明かりに照らされたベッドルームで、シオリは(みずか)らの運命を想う。


自分の本当の能力に、さほどの興味は無い。


ただ、ユウキと一緒にいられれば幸せだった。


『この幸せは(つか)の間に過ぎない。』


運命を告げに来た少女の言葉がよみがえり、シオリの心に影を落とす。


それがいつかは分からない。


ただ、今の幸せを終わらせる何かが始まろうとしている。


ユウキとの別れは避けられない運命なのだろうか?


その時私は、何を選ぶのか?


(よる)はもうすぐ明けようとしていた。

今回のサブタイトルはベートーヴェンのピアノソナタ第14番から頂いています。

ベートーヴェンのピアノソナタの中で、最も有名な曲と言ってもいいかもしれません。

シオリが現実の世界に戻ったシーンから、この曲が流れているイメージで書き進めました。


次回は舞台が一転、帝国の首都・北京になります。

帝国内部の権力図が書き換わります。

お楽しみに。

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