第2話 【解放】
「お前たちの娘は軍が預かる。これは国家の命令であり、逆らう事は許されない。」
突然の訪問者は、私の両親にそう言い放った。
町の外れにある古びたアパート、そこが私と両親が住む家だ。
軍の関係者を名乗る男たちが、予告なく家を訪ねてきたのは、つい先程の事である。
男たちは高圧的な態度で話を続ける。
「お前たちの娘は名誉ある一級国家魔法士の候補に選ばれた。国家への貢献に対して正当な報酬が支払われる事になる。」
心当たりはあった。
二ヶ月前、14歳になったばかりの私は、町の体育館で年に一度開かれる魔力値測定に、他の子供たちより二年遅れて参加していた。
本来ならば、この国の子供は12歳になると全員が魔力値測定を受ける義務があるのだが、魔力値測定にかかる僅かな費用を惜しんだ両親が、町から届いた魔力値測定の通知を無視し続けたのだ。
その後、子供に魔力値測定を受けさせない保護者は罰金を払わされると町の役人から通告された両親は、渋々私が魔力値測定を受ける事に同意した。
普通なら、それで終わる話だ。
ところが私の場合、それでは終わらなかった。
魔力値測定から二ヶ月も過ぎた今頃になって、私は軍の研究所に入る事を命じられた。
貴重な働き手を奪われる事になる両親は、最初こそ私が研究所に行く事を渋っていたが、軍から大金が支払われると分かった途端、手の平を返す様に態度が豹変した。
相手の気が変わる事を恐れたのだろう。
両親は一刻も早く私を引き取って欲しいと懇願を始める有様だ。
両親が男たちに何度も確かめたのは、カネがいつ支払われるかという一点であり、軍に引き取られた後の私がどうなるのかについては、全く興味を示そうとはしなかった。
そして当事者である私は、まるで重荷を下ろしたような気持ちだった。
自分が稼いだカネは全て両親に取り上げられ、自由の全く無い生活。
家出しようにも、家出するカネすら無かった。
刑務所に入った事は無いが、刑務所の方が余程快適に違いない。
両親が死ぬまで永遠に続くかと思われた生活は、彼らの来訪によって唐突に終わりを迎える事になった。
これでもう飢える事も、稼ぎが悪いと言って、両親から殴られる事からも解放される。
軍の研究所がどんな所か知らないが、今より悪くなる事はないだろう。
少なくとも、まともな食事位は出してくれるはずだ。
一週間後、私はカネと引き換えに軍に引き取られた。
別れの時も、両親が私に惜別の言葉をかける事はついに無かった。
両親は私を捨て、私もまた両親を捨てたのだ。
私が「家族」に会ったのは、その日が最後となった。
次回は5月1日(金)20時に公開予定です。




