第4話 【アメリカの要求】
「見返りはオシリスです。」
その返答は、タナカ少将にとって半ば予想されたものであった。
そして彼もまた、相手が予想しているだろう答えを、あえて口にする。
「・・・何の事でしょう?」
「ご存知でしょう?チャーリー奪還作戦で敵艦を拿捕した、あなた方の潜水艦です。
我々は敵艦が引き渡された日にオシリスを目撃した我が軍の将兵全員に対して、詳細なヒアリングを行いました。
将兵の大部分は、オシリスの大きさには驚いたものの、それ以外は通常の潜水艦だったという話をしてくれました。
ところが将兵の一部に、おかしな事を言う者がいたのです。」
「おかしな事?」
「彼らは口をそろえて、こう言うのです。『日本海軍の潜水艦にはスクリューの航跡が無かった』と」
「・・・何かの見間違えではありませんか?」
「我々も最初はそう思いました。しかしアメリカ海軍の複数の将兵が同じ証言しているのです。間違いとは思えません。
となれば答えは2つ。スクリューの航跡を魔法で消しているか、あるいはスクリューそのものを装備していないかのいずれかです。
しかしスクリューの航跡をわざわざ魔法で消す理由が存在しない。全く無意味です。
そうなるとオシリスはスクリューそのものを装備していないと判断せざるを得ない。
仮にオシリスがスクリューを装備していないのだとすれば、オシリスはスクリュー以外の方法で航行している事になる。
実に、実に興味深い。」
「・・・・・・」
「タナカ少将、コア技術はブラックボックスのままでも構いません。
我々にオシリス級潜水艦を提供してもらえませんか?
我々が見返りとして提供する核魔法兵器は、将来のアメリカ合衆国の核戦略において中心となる技術です。
あなた方にとっても、決して悪い取引ではないはずです。」
「アンダーソン中将、ご存知とは思いますが、私は海軍の一将官に過ぎません。失礼ですが、話す相手をお間違えではありませんか?」
「ハハハ、ご冗談を、表向きの肩書がどうあれ、あなたはオシリスについて、鍵を握る人物です。
それが分からないほど、アメリカの情報機関は無能ではありませんよ。
そう、この件の交渉相手として、あなた以上の適任者は存在しない。」
アンダーソン中将の言葉は自身に満ちていた。
「もちろんこの場で返事を頂きたい訳ではありません。
アメリカ政府はオシリスについて交渉の意思がある。
タナカ少将、それをあなたに知って頂く事が今日の目的です。」
「いくら非公式とは言え、外交ルートを通して交渉を申し込む事も出来たのではありませんか?」
「ご不快な思いをさせてしまい、申し訳ありません。
正規の外交ルートを通じて交渉を持ち掛けた場合、交渉相手としてあなたが出てこない恐れがあります。
それゆえ、このような回りくどい方法を取らせて頂きました。」
「お話は承りましたが、ご存知の通り、今回のお話に返答する権限は私にはありません。
今、私がお約束できるのは、あなたのお話を日本政府に伝える事、それだけです。」
「十分です。私はしばらく東京に滞在する予定ですので、良いお返事をお待ちしておりますよ。」
アンダーソン中将はそう言うと、まるで交渉終了を知らせるように手元のベルをチリンチリンと鳴らす。
それを合図にして入室したソムリエが食前酒をテーブルにセットする。
スカイラウンジでは、まるで何事もなかったかのようにディナーが始まるのであった。




