第3話 【切り札】
赤坂にあるグランドパークホテルの48階にあるスカイラウンジは、展望レストランでありながら店の中央部には個室があるという、珍しい構造になっている。
約束通りの時間に店を訪れたタナカ少将は、個室の一つに案内された。
そこには既にアンダーソン中将が待っており、久しぶりに再会した2人は固い握手を交わす。
「タナカ少将、先日はチャーリーを取り戻して頂き、本当にありがとうございました。
あなた方の協力に対して大統領も大変感謝している事をお伝えしたい。
本来であれば関係者全員をホワイトハウスに招き、大統領が直接お礼を申し上げるべきなのですが、極秘作戦であるため、それもかないません。」
「過大なるご評価を頂き、ありがとうございます。
しかしながら、感謝される程の事は何もしていませんよ。
我々はただ、同盟国として義務を果たしただけに過ぎません。」
「あなた方が取り戻してくれたチャーリーは、アメリカにとって本当に重要なものだったのです。
チャーリーの正体は、我が国が最近開発した新型の核兵器です。
現時点で全てを申し上げる事は出来ませんが、魔法技術の応用により、合衆国は核兵器を画期的に小型化する事に成功しました。
我々はこれを核魔法兵器と呼んでいます。
タナカ少将、我々はこの最新兵器を貴国に提供する用意があります。」
アンダーソン中将は、そこまで話すと沈黙を保ち、タナカ少将の返答を待つ。
タナカ少将は、これが日米の非公式交渉である事を瞬時に理解する。
そして彼が何故、非公式交渉の相手として自分を選んだのかについても予想が付いた。
『謀られた!アンダーソン中将はオシリスについて直接交渉する気だ。』
タナカ少将は、何の準備も無く敵地に呼び出されてしまった事を強く後悔する。
だが既に外交戦は始まっている。タナカ少将に後悔している暇など無かった。
実際ここまでは完全にアメリカ側の思い通りの展開なのだ。
タナカ少将は逆転のため、途方もない集中力で状況を分析する
『落ち着け、まず相手の意図を考えるんだ。
彼は核魔法兵器という、通常なら最後まで隠しておくべき切り札をいきなり切ってきた。何故だ?
アメリカは交渉を急いでいるのだろうか・・・いや、違うな。チャーリー事件の時とは異なり、アメリカ側に交渉を急ぐ理由など何も無いはずだ。
それでは交渉に対するアメリカ側の真剣さを示すための証拠として、最初に話したのだろうか・・・?
いや待てよ、証拠・・・?
そうか!アメリカはオシリスの存在について確証が無いのだ。
つまり彼は確証を欲しがっている。
我々にオシリスの存在を頭から否定されては交渉にならないから、確証を得る事で交渉の議題として認めさせる。
それがアンダーソン中将の目的だ。
だから核魔法兵器という特大のエサをちらつかせる事で、こちらを動揺させて失言を引き出そうとしている。
もし私が「その程度でオシリスは渡せない」などと返答すれば、彼の目的は達成される訳だ。
それならば、彼の思い通りに話が進んでいると油断させて、相手の意図を引き出すとしよう。』
30秒足らずで現状分析と対策の立案を終えたタナカ少将は、ゆっくりと口を開く
「大変ありがたいお話ですが、その見返りに何をお望みなのでしょう?」
アンダーソン中将は、待ってましたとばかりに本題を切り出す。
「さすがはタナカ少将、話が早い。
見返りはオシリスです。」




