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魔法潜水艦オシリス  作者: 天空ヒカル
第3部 外交交渉
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第1話 【キャンプ・デービッド】

ワシントンD.C.の北方60マイルに位置するキャンプ・デービッドは、第二次世界大戦以降、歴代のアメリカ合衆国大統領が使用する別荘の通称である。


チャーリーの事件が解決し、続く中間選挙でも勝利を収めたヒューム大統領はキャンプ・デービッドでの短い休暇に入った。


ヒューム政権にとって、国内問題と外交問題で緊急の課題は無く、休暇中の大統領のもとを訪れる人は少ない。


アンダーソン中将は、この休暇こそ大統領とオシリスの問題を話し合う絶好のチャンスと捉えていた。


アンダーソン中将の読み通り、大統領への面会申請は、あっさりと許可された。


休暇中のヒューム大統領は、いつものスーツ姿ではなく、コーデュロイ生地のシャツにジーンズというカジュアルなスタイルである。

一方のアンダーソン中将も、ボタンダウンシャツにジャケットを合わせただけの私服で面会に臨んでいる。


リラックスした雰囲気の中、挨拶を終えた2人の話題は、自然とチャーリーの事件に移っていく。


「中将、核魔法兵器の開発はどうなっている?」


「まだ再開には至っていません。

今回のような事件が2度と起こらないように、全ての管理プロセスの見直しと、開発担当者の身上調査が必要です。

特に民間人スタッフについては、国防情報局(D I A)が過去の経歴を徹底的に洗い直しているため、全員の調査が終了するまで、あと数ヶ月はかかると思われます。」


「そうか・・・今までがあまりにも順調だったからな、仕方あるまい。

急ぐ必要はないから、安全第一で進めてくれ。」


「承知しました。

ところで大統領、実は今回の事件をきっかけに、別の問題が明らかになった事を報告しなければなりません。」


「別の問題?」


「はい、先日の報告通り、チャーリーを運搬した敵艦を発見・拿捕したのは、我が軍ではなく、日本海軍の潜水艦です。」


「覚えているとも。しかし同盟国の助力を私に進言したのは君自身ではないか。何か問題があるのかね?」


「確かに同盟国の海軍が事件を解決したところまでは、我々としても想定内の事態です。

問題は事件の解決の仕方にあります。

彼らは潜水艦を拿捕したのです。」


「なぜ、それが問題になるんだ?」


「以前にチャーリーの強制爆発を進言した際に、その理由として潜水艦の臨検が非常に困難な事を申し上げました。

ではどうして潜水艦の臨検が困難なのか?それは潜水艦を臨検する前提として、潜水艦の拿捕が必要であり、この前提を満たす事が不可能に近いのです。

それにもかかわらず、日本海軍は潜水艦をあっさりと拿捕してしまいました。

つまり彼らは、我々が不可能として選択肢から外した方法で事件を解決した事になります。

それならば彼らはどうやって潜水艦を拿捕したのでしょうか?今の我々には推測すら出来ません。

日本海軍は我々が理想とする、これ以上は無い位の方法で事件を解決してくれました。

しかしこれは理想的過ぎるのです。我々にとって不自然なほど都合が良すぎるのです。」


「・・・・・・」


「大統領、オシリスという名前をご存知でしょうか?」


「いや、聞いた事が無いな」


「我が軍は以前より日本がオシリスと呼ばれる画期的新兵器を開発したという断片的な情報をキャッチしていました。

これに対して国防情報局(D I A)も調査に乗り出していましたが、今まで確証を得る事は出来ませんでした。

我々は、今回の事件の解決にオシリスが深く関与していると判断しています。

もっとはっきりと申し上げれば、敵艦を拿捕したのはオシリスです。

画期的新兵器の開発と、不可能に近い作戦の成功、この両者こそ我々にオシリスの実在を確信させるには十分な状況証拠です。」


「続けてくれ。」


「オシリスの問題は合衆国の国防政策の根幹を揺るがす可能性を秘めています。

場合によっては、核魔法兵器以上に重要になるかもしれません。

少なくとも、このまま放置して良い問題ではありません。」


「アンダーソン中将、君の事だ。既に対策も用意しているんだろう?何がしたい?」


「まずオシリスについて、国家レベルでの本格的な情報収集が必要です。

国防情報局(D I A)のみではなく、中央情報局(C I A)も含めた本格的な情報収集のために、正規の予算を配分すべきです。

その上で日本と取引し、オシリスの秘密を手に入れます。」


「そうは言っても、オシリスが君の言うような画期的な新兵器だとすれば、日本だって簡単には取引には応じないだろう。」


「もちろんそうです。しかしこちらが十分な『見返り』を用意すれば、話は別です。」


「十分な見返り・・・!まさか核魔法兵器を取引材料に使おうと言うのか!?」


「その価値はあると思います。

先般のチャーリー奪還作戦の成功が、オシリスの実戦能力を証明しています。

疑う余地はありません。

都合の良い事に、交渉の相手となる人物は良く知っています。

大統領、交渉の許可をいただけませんでしょうか。」


「アンダーソン中将、君はいつも私に難題を持ち込んで来る。おかげで休暇気分が吹き飛んだぞ。

だが良く知らせてくれた。確かにこれは我が国の安全保障にとって重要な問題になるかもしれない。

私はアメリカ合衆国大統領として、この問題に取り組む義務がある。

本格的な情報収集に必要な予算は確保しよう。」


「ご理解頂き、感謝申し上げます。」


「君がホワイトハウスではなく、わざわざキャンプ・デービッドまで私を訪ねて来たのは、基本的な交渉方針について私と君の2人で話を進めたい、そういう事だな?」


「もちろん一定の方向性が見えてきたところで、スコウクロフト補佐官を始めとした政権メンバーにも参加して頂きます。」


「分かった、日本側との交渉を許可する。

ただし、あくまでも非公式交渉だ。

当然の事だが、最後は政府間交渉になる。」


「承知しました。」


「アンダーソン中将、そろそろ昼食にしないか。

食事が済んだら、我々が何を護り、どこまでなら譲歩出来るのか、具体的な条件を決めてしまおう。」


この日、オシリスの問題は国防情報局(D I A)の調査対象の一つから、アメリカ合衆国の国家的関心事に一気に格上げされた。


日本政府がこの動きに気が付くのは、もう少し先の話である。

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