番外編 Part3 カナエの回想Ⅲ
そこは広く、清潔でありながら、どこか殺風景な部屋でした。
目の前に座っている少女は、どう見ても12~3歳にしか見えません。
『どうして彼女はこんな所に1人でいるのだろう?』
真っ先に浮かんだのは、そんな単純な疑問です。
1ヶ月程すると、私は彼女の過酷な状況を次第に理解するようになりました。
このセーフハウスにいるゲストは彼女だけであり、彼女を保護する事がセーフハウスの唯一の目的だったのです。
そして「ゲスト」や「保護」と言いながら、実際のところ彼女はセーフハウスに閉じ込められていました。
彼女はセーフハウスの中であれば自由に行動出来ますが、所在は常に監視されていました。
今の彼女にとって、セーフハウスが世界の全てだったのです。
彼女はとても無口で、感情を表に表さない少女でした。
質問をすれば答えてくれますが、自分から話しかける事は殆どありません。
そして両親が訪れる日以外、彼女がいつも一人ぼっちで食事している事を私は知りました。
それを知った私は、もはや黙っている事は出来ませんでした。
私には彼女の運命を変える力なんてありません。
それならば、せめて私は単なる話し相手ではなく、彼女に寄り添う事を決意しました。
『彼女の助けになりたい。』
私の勤務時間は午前9時から午後5時まででしたが、タナカ所長にお願いし、彼女の隣の部屋に引っ越しました。
私にとって、もうこれは単なる仕事ではありませんでした。
こうして私の、24時間彼女に寄り添う生活が始まったのです。
=============================================================
「シオリちゃん、ご飯を一緒に食べよう。
一人きりより、二人で食べた方がきっとおいしいよ。」
元々受け身の性格である彼女に近付くには、自分から積極的に行動するしかありません。
私は半ば強引に、彼女と三食を共にする様にしました。
家族の話をしても、彼女が嫌がらない事を知った私は積極的に自分の家族の話をする事にしました。
私は自分の家族の写真を彼女に見せます。
「ウチは弟妹が多くて・・・あっ、これが私ね」
セーフハウスには、外に出れない彼女のために、健康を維持するための様々な運動施設が用意されていました。
トレーニングジムを始め、屋内テニスコートに屋内プールと至れり尽くせりです。
高校時代は水泳部で、泳ぐのが好きだった私は、週に2~3回は彼女を屋内プールに連れ出しました。
彼女自身は泳ぐのが大好きな様には見えませんでしたが、とにかく私としては彼女に近付くために必死です。
そんな私の努力が実り、彼女は少しずつ自分の事を話してくれるようなりました。
そんなある日、私は彼女の小さな願いを知る事になります。
「ミカミユウキ?」
「うん・・・」
「その子はシオリちゃんの友達なの?」
「ユウキは私の幼なじみ。小さい頃からいつも一緒だった。」
「シオリちゃんはユウキ君に会いたいんだね。」
「・・・・・・」
「シオリちゃんはユウキ君に会いたいんでしょ?それなら会えばいいじゃない!」
「でも、ユウキは会いたくないかもしれない。黙っていなくなった私の事をきっと怒ってる。」
「そんな事絶対に無いよ!ユウキ君はシオリちゃんの事をきっと心配していると思う。」
「本当に会っていいのかな?ユウキに・・・」
「いいに決まっているよ!私も協力するからタナカ所長に頼んでみようよ。」
「・・・分かった。」
結局これがきっかけとなり、2人は再会を果たしました。
彼女の小さな願いは、その後の私の運命を大きく変える事になります。
2人の再会が無ければ、私がオシリスクルーになる事も無かったでしょう。
これが私たちオシリスクルーの始まりの物語です。
そして私たちの旅路は今も続いています。




